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第二話 「召喚戦闘」

 《紅竜王フィアンマ》レベル4/AP7000/HP10000。

 スターターデッキ第一弾の、表紙を飾る代表格のカード。


 スターターに二枚も封入されているにも関わらず、ブースターパック第一弾のSRに匹敵する強さを誇る。

 実際、スターター二個に能力無効化(ディスペル)守護天使(トゥテラリィ)を四枚ずつ入れただけのお手軽デッキが第一回全国大会上位に入賞した。


「に、逃げなくちゃ」

「安心しな、兄ちゃん。

 召喚戦闘は周りに被害は及ばない」

「え? そうなんですか?」

「それに雑魚は全員倒した。

 俺と一緒に見学しようじゃないか」

「は……はぁ」


 立体映像のようなものだろうか?

 何にせよ、周りに影響が無いのなら、俺のやる事は決まっている。

 目の前で行われている戦闘が【フェアトラーク】と同じものか否か、それをこの目で確かめよう。



「先行はわしが貰う!」


 小太りの男が宣言し、山札から一枚のカードが足元へ移動した。


「先行はドローフェイズをスキップ。

 続いてチャージフェイズ。

 山札の一番上のカードを裏向きでマナエリアにチャージ」

「兄ちゃん、何ブツブツ言ってんだ?」

「俺のよく知っているゲームに似てるんですよ」


 これが【フェアトラーク】ならば、先行一ターン目も一回だけ攻撃が可能だ。

 フィアンマのAPはポチのHPを上回っている。

 マナコストを①支払い、レベル1のユニットをサポートエリアに召喚(コール)すれば、戦闘でマリアに一点のダメージを与えられる。


「運が良かったのう、小娘。

 ターンエンドだ」


 しかし、小太りの男は何もせずに終了宣言をした。


「私のターン! ドロー&マナチャージ!

 救助犬ジローをサポートエリアに召喚(コール)!」


 マナエリアのカードが活動状態(スタンド)から休息状態(レスト)になり、ポチの後ろに小さな柴犬が現れた。

 先程、ちびドラゴンを倒した仔犬だ。


「コストの支払いは自動的にやってくれるのか、便利だな」

「兄ちゃん、人間の言葉で話してくれねえか?」


 ラルフが日本語でおkと訴えてくる。

 TCGの専門用語が身に染み付いてる俺が、何も知らない人に教えるのは難しい。



「雑魚が増えた所で、わしの紅竜王にキズをつける事などできぬ」

「分かってるわよ。ターンエンド」


 【フェアトラーク】は一体のリーダーと、最大三体のサポーターを召喚(コール)して戦うTCGだ。

 サポーターを休息状態に(レスト)する事で、リーダーが相手プレイヤーのリーダーに攻撃(アタック)できるのだが、ポチのAPでフィアンマを倒すには三回の攻撃(アタック)が必要。

 このターンは何もせずに終了するしかない。


「わしのターン! ドロー&マナチャージ!」


 小太りの男の手札とマナエリアのカードが補充される。

 このターンでポチがやられるのは、ほぼ確実。

 返しのターンで、何としてもフィアンマを葬り去らなければ不利になる。


「手札を一枚捨てて、ターンエンドじゃ」


 しかし、二ターン目も、小太りの男は何も召喚(コール)せずにターンを終了した。

 しかも、手札が上限枚数の五枚を超えていた為、レベル3のカードが一枚、墓地(ドロップエリア)へと送られる。


「おかしい。

 二ターン連続で何もしないなんて……もしかして手札事故か?」


 一般的な割合で構築されたデッキの場合、二ターン目までに一体も召喚(コール)出来ない確率は約一%未満。

 運が悪ければ有り得ない事は無いが、低過ぎる確率だ。


「私のターン!」


 スタンドフェイズ。

 マリアのフィールドのカードが休息状態(レスト)から活動状態(スタンド)になる。


「ドロー&マナチャージ!

 狂犬タローと探索犬バーローを召喚(コール)!」


 マリアはレベル1のユニットを二体、サポートエリアに召喚(コール)する。

 現れたのはチワワとハスキー犬。

 ハスキー犬の方は何故か丸眼鏡をかけている。


「ポチ。殺っちゃいなさい」


「ワン!」

「キャン!」

「クゥーン」


 アタックフェイズ。

 サポーターの柴犬から、リーダーのポチへと流れる淡い光が見える。

 光を纏った毛玉が跳ねる!

 目標は自身の二十倍もの巨体をしたドラゴン(紅竜王フィアンマ)

 光の弾となった毛玉がフィアンマの腹部に命中!

 そして゛ポヨン゛と小気味良い効果音と共に弾かれた。


「そのような小動物の分際で、わしの紅竜王に楯突くとは嘲笑わせる」

「まだよ!」


 リーダーはサポーターの数だけ攻撃(アタック)が出来る。

 マリアのターンはまだ終わらない。

 チワワから光を受け、毛玉が跳躍!

 フィアンマの胸部に当たって跳ね返る。


「無駄だと言っておろう」


 小太りの男がその様子を見て鼻で嘲笑う。

 確かに通常の戦闘なら、仔犬がドラゴンの王に勝つ事は不可能だろう。

 しかし、これがカードゲームなら話は別だ。

 そして三回目の攻撃(アタック)が俺の予想を確信へと変える。


「次がトドメよ」


 続いてハスキー犬から光を受け取り、毛玉が三度フィアンマへと向かって行く。

 体当たりは頭部へ命中!

 毛玉は自らの弾力で跳ね返り、元の位置に着地する。

 その瞬間、フィアンマの巨体は火の粉となって消滅。

 紅き竜の王は、一度も攻撃する事なく、サンドバッグとなって命を散らした。


「バ、バカな!

 わしの最強の紅竜王が、こんな小動物に!?」


「紅竜王フィアンマのHPは10000。

 AP4000のポチの攻撃(アタック)を三回受ければ、累計ダメージは12000。

 数値だけ見れば、何も不思議じゃない」

「なあ兄ちゃん。

 HPとかAPって何だ?」


 ラルフが俺の独り言に疑問を投げつける。

 俺が知っているのはあくまでカードに関する知識であって、目の前の仔犬達を見ても数値は分からない。

 返答に困る。


 カードへと姿を変えたフィアンマが、プレイヤー左側のダメージエリアへと移動する。

 先にダメージエリアのカードが、八枚になったプレイヤーの負けだ。


「そして、リーダーエリアに空席が出来た時、山札の一番上から新しいリーダーが選出される」


 新しいリーダーは《竜騎士サビーノ》レベル3/AP6000/HP8000。

 全身を真っ赤なを鎧に包んだ騎士だ。

 龍をデザインした兜がカッコ良く、敵ながら惚れ惚れする。

 ここでAP5000以下のユニットがリーダーになれば、次のターンもノーダメージで凌げたのだが仕方がない。


「ターンエンドよ」

「わしのターン。ドロー&マナチャージ。

 竜騎士サビーノをサポートエリアに召喚(コール)


 リーダーと全く同じ姿をした、赤い鎧の騎士が現れる。

 何だろう……TCGだと気にならないのに、現実に目の前に同一人物が二人並んでいると違和感が半端ない。


「サビーノでリーダーに攻撃(アタック)じゃ!」


 リーダーのサビーノが腰を落とし槍を構える。

 サポーターのサビーノから流れ出た光が、リーダーの槍へと集約されていく。


「神竜滅殺波!」


 槍から赤色の光線が発射され毛玉を貫いた!


「キャワン!」


 ポチがダメージエリアへと移動し、山札から《土佐犬リョーマ》がリーダーとして登場する。


「あの技、俺にも使えるかな?」

「……無理だと思います。

 てか、騎士なのに攻撃方法が光線かよ!」


 他にも竜騎士なのに竜を殺しそうな技名とか、突っ込みどころが満載だった。



 ◆◆◆◆



 その後も、お互い一ターンに一体ずつリーダーを撃破し、ダメージは五点同士となっていた。

 八ターン目後攻。

 マリアのターン。


 マリア側のリーダーは《ドッグブリーダー アレフ》レベル3/AP4000/HP5000。

 リーダー時の永続能力としてサポーターの《犬》の数x2000のHP上昇ボーナスを持つ。

 サポーターの種族は全て《犬》、よってアレフのHPはレベル4ユニットに匹敵する11000となる。


「リーダーを集中攻撃よ!」

「ワン!」


 サポーターの仔犬からアレフに力が注がれる。

 エプロンを着けた、ペットショップの店員さんにしか見えないアレフのパンチが、三連続で繰り出され、体格の良いドラゴンが塵と化した。

 ドッグブリーダーなのに犬に扱き使われているように見えて、何だか複雑な気分にさせる。


 六点目のダメージを与え、勝利まで残り二体と言う所で、運が小太りの男に味方した。


「わしの勝ちだな。

 小娘にしては良くやったと褒めてやろう」


 新たに現れた七体目のリーダー、それは対戦開始前に仔犬に倒された二頭身のドラゴン。


「まずい! マリア、能力無効化(ディスペル)を!」

「そんなの、持ってたら使ってるわよ!」

「バーストトリガー発動。

 わしのかわいいドラゴンちゃん、特殊登場時能力(エントリースペル)で小娘の小動物を一掃せよ!」


 《フレイムドラゴンキッド》レベル1/AP3000/HP4000。


 ◆◆

 【リーダー/特殊登場時能力(エントリースペル)

 このカードが山札からリーダーエリアに登場した時、あなたのダメージエリアに表向きの赤のカードが3枚以上あるなら、相手のサポーターを全て墓地へ送る。

 ◆◆


 このノーコストでサポーターを全滅させる能力は、バーストトリガーと呼ばれるカードの一種だ。

 バーストトリガーは別名のカードであっても、デッキに合計四枚までしか入れられないルール上の制限がある。

 発動は運次第だが、制限が掛かると言うのは、それだけ強力なカードである事を表している。


「キュアアアアン!」


 ちびドラゴンが雄叫びをあげると、辺りが炎に包まれ、三匹の仔犬達が消滅した。

 サポーターが居なくなった事により、アレフのHPも5000に減少。


「最悪ね。ターンエンド」

「わしのターン、ドロー!」


 マナエリアのカードが上限の八枚に達している為、エナジーフェイズはスキップされる。


「わしの最強の手駒で貴様を葬ってやろう。

 手札から紅竜王フィアンマをリーダーエリアに召喚(コール)!」


 ちびドラゴンが墓地(ドロップエリア)へと送られ、巨大なドラゴンの王が再び顕現する。


 バーストトリガーは強力だが、その分ステータスが低い。

 よって、登場した後は手札の強力なカードを、リーダーエリアに召喚(コール)するのが定石である。


「地獄を見せてやろう。

 フィアンマの起動能力発動!」


 男が宣言すると、ダメージエリアのカードが四枚、表から裏向きに変わり、フィアンマを包む炎が勢いを増す。

 初期に多くのプレイヤーを葬ったスキルが、俺の目の前で発動した。

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