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第二十話 「霊騎士ガイスト」

 リーダーエリアに召喚(コール)された《霊騎士ガイスト》の姿を確認した俺は、マリアに勝利宣言をする。


「負けそうになって気でも狂ったのかしら?」

「いや、俺は冷静だ」

「どうだか?

 ジロー、アレフ、連携攻撃コンビネーションアタックよ!」


 マリアの号令により、柴犬がガイストの鎧に噛み付き、そこにアレフの剣が追撃する。

 アレフのAP7000にジローのAP3000が加わった連携攻撃がガイストを襲った。


「はい。これであと一点」

「フィールドをよく見ろよ」

「え? 嘘でしょ!?

 どうして倒せないのよ!」


 合計10000のダメージを受けたはずのガイストは、登場時と変わらぬ構えでアレフを睨みつけている。


「よく見てみろよ。ガイストのステータスを」

「ステータス?

 えっと、レベル4、AP7000、HP……11000ですって!?

 何よこれ? ステータス上昇系の永続能力?」

「いや、それがガイストの素の数値だ」

「はぁ!?」


 ガイストのHPは11000。

 先程の連携攻撃を喰らっても、HPは1000残っている。

 マリアの驚く様子を見る限り、HPが10000を超えるユニットは初めてのようだな。


「インフレってやつだよ。

 気になるなら勝負が終わったら説明するぞ」

「さっきから分からない事だらけよっ!」

「ちなみに序盤にポチを狙った最大の理由はガイストを守る為だ。

 ポチと獣騎士アレフの連携攻撃はAP11000になるからな」


 尤も、山札が残り三十枚未満になってもガイストが現れないから、少々焦ってはいた。

 ギリギリだが、理想に近いタイミングで現れてくれた。


「ポチが嫌いな訳じゃなかったのね」

「そんな理由で攻撃(アタック)する訳ないだろ」

「そう、それならいいのよ。ターンエンド」


 五ターン目、後攻。


「俺のターン。ドロー&マナチャージ。

 マナコストを②支払い、七不思議(セブンワンダーズ) 図書室の魔導書(ネクロノミコン)召喚(コール)!」


 ドローフェイズに引いたカードをサポートエリアに召喚する。

 七不思議(セブンワンダーズ)シリーズは学園の七不思議をテーマにしたカードだ。

 このカードは小学校の図書室に本物の魔導書があると言う噂が元ネタだろう。

 ちなみに相棒はキンジローだ。

 薪を運びながら魔術の勉強をしたと言う……ちょっと違う気がする。


「それじゃあ、逆転勝利を決めさせてもらうか」

「ちょっとHPが多いだけじゃない。

 そんなユニットでどうするのかしら?」


 マリアのダメージは四点。

 俺のダメージは六点。

 このターン中に四点与えなければ、次のターンで俺の負けはほぼ確定。

 だが、俺は自分の勝利を確信している。

 ガイストがリーダーになった時の為に、一ターン目から準備をしてきたのだ。

 キーカードもずっと手札に温存してある。


「ハナコのサポート、ガイストで獣騎士アレフに連携攻撃!」


 意外な組み合わせだが、ハナコの相棒はガイストとなっている。。

 相棒をサポートした時、連携攻撃が発動する。

 まずはハナコが獣騎士アレフに攻撃……せずにガイストの近くに歩いていった。


「おじちゃん……お友達になって」

「……友か。悪くない響きだ。

 良かろう。少女の願い聞き受けた!

 うおおおぉっ!」


 ハナコの頭を撫でると、ガイストは背中の大剣を引き抜き、獣騎士アレフの元へ駆け出した。

 合計AP11000となった攻撃を喰らい、獣騎士アレフがダメージエリアへと送られる。


「その黒いのもロリコンなの?」

「違う! ……と思いたい」


 マリアの次のリーダーは《ドッグブリーダー アレフ》。

 永続能力でHPは11000となる。

 フィールドに現れた時点でHPは最大値まで回復する為、ガイストの一回の攻撃(アタック)では倒せない。


「固いのばっかり出てくるな。

 アルツのサポートでリーダーに攻撃(アタック)

 続いて、魔導書(ネクロノミコン)のサポートでリーダーに攻撃(アタック)!」


 二回の攻撃(アタック)がヒットし、アレフがダメージエリアへ。

 お互いのダメージが六点で並んだ。

 マリアの山札から七体目のリーダーが召喚(コール)される。


「何が俺の勝ちよ。普通のレベル4ユニットじゃない。

 私のリーダーは獣騎士アレフ。

 次のターンで終わりね」

「次のターンがあれば……だけどな。

 攻撃(アタック)の終了時に、霊騎士ガイストの必殺技能力(フェイバリットスペル)発動!」

「何よ、必殺技能力(フェイバリットスペル)って?」

「見れば分かるさ。

 俺は、RC(リバースコスト)を②支払い、手札から《霊騎士ガイスト》を一枚、墓地へ送る」


 ダメージエリアのカードが二枚裏向きになり、手札から公開したガイストのカードが墓地へと移動。

 そしてミスティを除く墓地のカードが俺の目の前に展開される。


「続いて、墓地から種族が《霊》のカードを3枚まで選び、サポートエリアに活動状態(スタンド)召喚(コール)する。

 ハナコを二体と、ガイストを一体選択し、サポートエリアに召喚(コール)!」

「戦場に散った我が同胞たちよ! 我が魂を喰らい、現世に蘇れ!」


 リーダーの霊騎士ガイストが宣言すると、俺の目の前に展開されたカードから三枚がサポートエリアに移動し、残りが墓地へと戻って行く。

 俺のサポートエリアに二人のハナコとガイストが現れ、元々居たサポーター達は墓地へ送られる。

 これで俺は、このターン中にあと三回の攻撃が可能となった。


「嘘……? こんな能力見た事ない!」

「俺がこちらに来る直前に買った、最新のカードだからな。

 いくぜ、このターンで四回目の攻撃(アタック)、ハナコのサポートでリーダーに連携攻撃だ!」


「おじちゃん……頑張って」

「少女よ。汝の願いが我の力となる。

 はあああぁっ!」


 ハナコの応援を受けたガイストが一撃で獣騎士アレフを粉砕する。

 女子小学生の応援で攻撃力が上がる漆黒の騎士……なんかイメージと違う。

 マリアのダメージが七点となり、リーダーエリアに山札からポメラニアンが召喚(コール)される。

 《探犬ポメランド》レベル3/AP6000/HP8000。

 マリアのデッキでは初めて見るユニットだな。


「あと一点だな。

 もう一体のハナコのサポートでリーダーに連携攻撃!」


 ハナコの声援でテンションを上げるガイストが、正直ちょっとキモかったので戦闘描写は割愛させていただく。

 ポメラニアンがダメージエリアに送られ、マリアのダメージが八枚となった。

 ここでヒールトリガーが出なければゲームセットだ。

 最後にマリアのリーダーエリアに召喚(コール)されたのは見覚えのある毛玉だった。


「嘘……私、負けたの?」

「対戦ありがとうございました」


 俺は軽く頭を下げて対戦してくれた事に対して礼を言う。

 一方のマリアは自分の敗北が信じられない様子だ。


「も、もう一回よ!

 もう一回勝負しましょう!」


 悔しかったのか、マリアが再戦を申し込んできた。

 正直、先程の対戦は結構ギリギリだった。

 前のターンにガイストが現れなかったらそのまま負けていた。

 他にもガイストの連携攻撃を守護召喚(ガーディアンコール)で防がれたり、ヒールトリガーを連発されて、五ターン目に決められなかったら、次のターンに負けていただろう。


「いいぜ、受けて立つ」

「覚悟しなさいよ。次は私が勝つんだから」


 圧倒的有利な状況からの逆転負けは、マリアの心に火を灯した。

 こうして何度も対戦をする内に、人はカードゲームの楽しさに気付くのだ。



 ◆◆◆◆



 それからしばらく、俺たちは模擬戦闘による対戦を続けた。

 試合数にして五戦、時間は一時間以上。

 そして結果は……。


「どうして、一回も勝てないのよー!」

「どうして、と言われてもな」


 全ての対戦において、ガイストの必殺技能力(フェイバリットスペル)が発動。

 俺の全勝である。


「今まで私は召喚戦闘では無敗だったのよ。

 それが、こんなロリコンの変態なんかに……」

「おい、さり気なく悪口を混ぜるなよ」

「あの黒い騎士の事よ」

「あー……ロリコンの変態だな」


 今朝までは名前とイラストからダークヒーロー的なユニットだと思っていたのだが、この模擬戦闘でガイストのイメージはロリコンの変態に格下げされた。

 相棒に設定されているとは言え、赤いランドセルを背負った少女との連携攻撃は、彼をロリコンと決めつけるのに申し分ない。

 しかし、それと同時にガイストの強さも実感していた。


「マリアが俺に勝てない理由だけどな、大きく分けて三つある」

「な、何よ」

「まずは情報アド。

 要するに情報量の差だな。

 俺は約二千種に及ぶ【フェアトラーク】のカードをほぼ全て暗記している」

「嘘よ。そんな記憶力を持った人間なんて居ないわ」

「そうか? それなりに居ると思うぞ」


 約二千種と言っても、ヒールトリガーなどは属性や種族が異なるだけで、名称は違うのに能力は同じカードが多数存在する。

 これらのカードは初期に出たカードの名前を借りて、○○互換と呼ばれる事が多い。

 元となるカードの能力さえ覚えておけば融通が効くので、正確に暗記する必要のあるカードは約千種。

 現代人なら努力次第で誰でも暗記可能な量だ……と思う。


「俺は数日前の召喚戦闘でマリアのデッキの内容をほぼ把握していた。

 獣騎士アレフを軸とした、通称ワンワンハーレムデッキ」

「ワンワンハーレムデッキ……いい名前ね」


 俺にはフザケた名前にしか思えないのだが、マリアはお気に入りのようだ。


「二つ目はプレイング、カードゲーマーとしての経験の差だ。

 俺はマリアのデッキ内容をほぼ把握した上で、獣騎士アレフへの対策を取っていた」

「それってポチをいじめた事かしら?」

「それも正解だ。いじめた訳じゃないけどな。

 俺は三年間に渡り、ほぼ毎日【フェアトラーク】で対戦してきた。

 数えた訳じゃないが、対戦回数は一万回は超えるだろう」

「い、一万回!?」

「他のカードゲームと比べて比較的短時間で終わるからな。

 たったの一日十回だよ」

「確か、符術士が数千万人も居るのよね」


 何か誤解されているが面倒なのでスルーしよう。

 ウェブカメラを使用したインターネット対戦とか、理解出来ないだろうしな。


「そして最後は……」

「最後は?」

「単純なカードパワーの差だ」

作中のカードゲームのルールをまとめた『【フェアトラーク】のあそびかた』(http://ncode.syosetu.com/n7693cd/)を公開しました。

読まなくても支障はありませんが、興味のある方はご覧ください。

物語本編のネタバレを含みますので、最新話まで読み終わってからの閲覧をオススメします。

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