第十九話 「スペリオルバースト」
「ますたー、まったねー」
「お友達……」
「チュー」
俺が発動を宣言すると、サポートエリアのミスティ、ハナコ、マウスが消滅し墓地へと移動した。
何気にハナコが別の台詞を喋ったな。
しかも中々に嫌な断末魔の叫びだ。
いや、叫びと言うより囁きかな?
「な、何それ? 自滅!?」
「まだ、終わってないさ」
《七不思議音楽家の肖像画》の特殊登場時能力は自滅ではない。
当然だが、俺が自分のサポーターを全滅させたのには理由がある。
「この能力にはまだ続きがある。
このカードの能力で黒属性のサポーターを三枚、墓地に送った時、相手のリーダーをダメージエリアに送る!」
「……なっ!?」
獣騎士アレフの身体が足元から闇に包まれてゆく。
やがて闇が彼の全身を包み込み、ダメージエリアへと送られた。
「何よ、それえぇっ!?」
「スペリオルバースト。
特殊性を高めた新しいバーストトリガーだ」
「滑り落ちバースト?」
この国に高校や大学があるのかは知らないが、受験生には聞かせたくないボケだな。
音楽家の肖像画の特殊登場時能力は選択式となっている。
もう一つは相手のサポーターを一体選び墓地に送る能力。
こちらはコストにするサポーターが足りない時に発動する。
サポーターを減らしたくない時や、次のターンで相手リーダーを戦闘破壊した方が良い状況ではコストを支払わない事も可能。
至れり尽くせりなカードだ。
マリア側にリーダーが居なくなった事により、新しいリーダーが山札から自動的に召喚される。
現れたのは、やはり見覚えのあるチワワ。
転移初日に見た犬の中の一匹、《狂犬タロー》だ。
「あっ、私もバーストトリガー発動よ!
あなたのサポーターを全滅させ……」
「どうぞどうぞ」
「って、あなたのサポーター、一人も居ないじゃない!
大体、そのユニットは何なのよ!
バーストトリガーって相手のサポーターを全滅させるモノでしょ!」
「元々はその認識で合ってたんだけどな」
【フェアトラーク】が世に出てから二年近くの間、バーストトリガーの能力は相手のサポーターを全滅させるモノと決まっていた。
時が経つに連れ、属性と種族が違うだけで同じ能力のカードが量産される状況に、飽きを訴えるプレイヤーが増えてくる。
そこでセカンドシーズンの後期から作られたのが、個別に異なる能力を持つバーストトリガー、スペリオルバーストだ。
属性毎に大体の傾向はあるが、スペリオルバーストに全く同じ能力の別名カードは存在しない。
色々な能力を試してみたくなるが、バーストトリガーの制限は適用される為、合計で四枚までしかデッキに投入出来ない。
それ故にデッキ構築の幅が広まり、同時に戦略性も高まった。
ちなみに俺は普通のバーストを一枚、スペリオルバーストを三枚採用している。
「攻撃しても倒せるユニットは居ないわね……ターンエンドよ」
四ターン目、後攻。
「俺のターン。ドロー&マナチャージ」
このターンで引いたカードは……またハナコかよ。
これでヒールトリガーは四枚全て山札から無くなった。
俺の手札は五枚。
使用可能なマナコストは四枚。
合計レベルが四以下になるように場を整えなければならない。
「バーストのアド損が響いてるな……。
サポーターとリーダー全て揃えるのは無理か」
「アド損?」
「アドバンテージの損失。
さっき一体倒すのに三体犠牲にしたからな」
「もっと分かる言葉で話しなさいよ」
「気をつけるよ」
思わずTCG専門用語が出てしまう。
ほとんどは一般人には通じないから気をつけないとな。
「俺はマナコストを①支払い、サポートエリアにハナコを召喚!」
マリアのリーダーのHPは3000。
こちらのリーダーのAPは4000。
リーダーを変えなくても倒せる。
もう一体サポーターを召喚しておけば、運が良ければ次のリーダーも倒して同点に持ち込めるかも知れない。
手札にある召喚可能なカードは《堕天使シルト》が一枚と《霊医アルツ》が二枚。
シルトは黒属性のリーダーへの攻撃を無効化できる守護天使。
ダメージで負けている今は手札に温存しておきたい。
アルツも出来れば手札に持っておきたいカード、能力無効化だが悩んだ末に召喚する事にした。
このゲームはサポーターの数がそのまま攻撃回数になり、アドバンテージとなる。
リーダーを倒せなければ、サポーターのジローを殴ればいい。
「続いて、マナコストを②支払い、サポートエリアに《霊医アルツ》を召喚!」
可能なら、もう一体召喚したい所だが、残りのマナコストで召喚できるカードはレベル1のみ。
残念だが手札に該当するカードはない。
「アタックフェイズ。
ハナコのサポートでリーダーに攻撃!」
肖像画が宙を舞い、タローに体当たりする。
額縁の角の部分がタローの眉間にヒットした。
これは痛そうだ。
「キャンッ!」
タローがダメージエリアに移動、次のリーダーは丸眼鏡をかけたハスキー犬《探索犬バーロー》。
これも初日に見たユニットだな。
「特殊登場時能力で山札から一枚引くわ」
マリアの山札の一番上のカードが手札に移動する。
山札からリーダーエリアに登場した時、山札から一枚引ける特殊登場時能力。
通称ドロートリガー。
ヒールやバーストと異なり、カード名さえ異なればデッキに五枚以上の投入が可能となっている。
大抵のデッキで採用される基本パーツだ。
「ドロートリガーか。ラッキーだな」
「そう? 確かに手札が増えるのは嬉しいけど」
「そういう意味じゃない。
ラッキーなのは俺の方さ。
アルツのサポートでリーダーに攻撃!」
バーローのHPは4000。
これでお互いのダメージは四点。
俺がラッキーと言ったのは、このターンで同点に持ち込める事だ。
「私の医学を持ってすれば、死人をも動かす事が可能!」
アルツから黒いオーラが肖像画へと流れこむ。
肖像画から音楽家の頭部が飛び出し、足元からピアノが迫り上がってくる。
やがて額縁から上半身だけ身を乗り出した音楽家がピアノを弾き始めた。
子供の頃から何度も聞いた事のあるクラシックだ。
曲名は覚えていないが落ち着く曲だな。
ただし、弾いているのは下半身のない肖像画の幽霊だが……。
「気味悪いけど、結構いい曲じゃない」
「どの辺が攻撃なのか謎だけどな」
「キャウーン」
どうやってダメージを与えたのか謎だが、音楽家の攻撃によりバーローがダメージへと送られる。
次に現れたリーダーは《犬好きの少年アレフ》。
これでお互いに四点。
序盤の圧倒的点差から、何とか同点に持ち込めた。
「ターンエンドだ」
五ターン目、先行、マリアのターン。
スタンドフェイズ。
マリアのサポーターが休息状態から活動状態へと戻る。
「私のターン。ドロー&マナチャージ。
獣騎士アレフをリーダーエリアに召喚!」
「もう一枚持ってたのか!」
「さっきのドロートリガーで引いたのよ。
RCを③支払い、獣騎士アレフの自動能力発動をするわ!」
マリアのダメージエリアのカードが三枚、表向きから裏向きになる。
これで山札の一番上のカードの種族が《犬》ならば、マナコストの消費なしにサポートエリアに召喚される。
「狂犬タローを山札から召喚!」
「っ!? お前、ホント引き強いな」
タローの相棒は《獣騎士アレフ》
既にサポートエリアに居るジローと合わせて、二回の連携攻撃が可能だ。
「次のターンで終わりね」
「適度にサポーターを除去したんだけどな」
獣騎士アレフを相棒に持つユニットは五十枚中、十二枚。
およそ四分の一の確率はかなり高い。
この状況もなるべくしてなったのだろう。
「それじゃあ、いくわよ。
リョーマのサポートでリーダーに攻撃!」
HP3000の肖像画を倒すのに連携攻撃は必要ない。
マリアは三体のサポーターの中から、通常攻撃となるリョーマを最初に休息状態にした。
プレイングの基本となる攻撃の順番は問題ないな。
アレフの攻撃で肖像画がダメージエリアへと送られ、山札の上から次のリーダーが召喚される。
《七不思議キンジロー》レベル3/AP6000/HP8000。
背中に薪を背負い、左手に本を持っている。
多くの学校に置かれている有名な石像に似たユニットだ。
◆◆
【リーダー/自動能力】このユニットが《霊》にサポートされた時、その攻撃の終了時まで、このユニットのAP+1000。
◆◆
自分のターンまで残ってくれれば、優秀なユニットなのだが、登場したタイミングが悪かった。
「タロー、連携攻撃!」
チワワとアレフの連携攻撃により、キンジローは召喚直後にダメージエリアへと葬られた。
これで俺のダメージは六点。
敗北まで残り二点。
山札の中にヒールトリガーは残っていない。
「次も連携攻撃か……大ピンチだな」
「降参してもいいわよ」
「まさか? 最後まで諦めるかよ」
俺の山札から新たなリーダーが召喚される。
しかし、マリアの次の攻撃はAP10000の連携攻撃。
手札には守護天使が一枚あるが、残念ながら召喚コストが足りない。
次のリーダーも登場した直後にダメージエリアに送られるだろう。
直前まで、そう思っていたのだが……。
「そうか、ここでお前が来るのか。
俺の運命力も捨てたもんじゃないな」
全身を包む漆黒の鎧。
その背中には、刃から闇のオーラを放つ、大きな暗黒の剣。
俺のリーダーエリアに召喚された九体目のリーダー。
彼の名は《霊騎士ガイスト》。
一枚三千円で三枚購入した、俺のデッキの最強ユニットだ。
「悪いな、マリア。
この勝負、俺の勝ちだ!」