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第十七話 「模擬戦闘」

「マジかよ……よりによって、重要なカードが足りない」

「分かったの?」

「あぁ……闇の魔女ミスティが三枚しかない」

「ますたー、呼んだー?」


 俺が畑でのカード探索を覚悟した時、背後から声がかかる。

 声の主はアリスと遊んでいたミスティだ。


「あーっ! あった! 四枚目!」

「ますたー、どうしたの?

 そんなに大声出して」

「どうしたの? じゃねーよ。

 こっちは軽く絶望しかけたんだぞ。

 ミスティ、模擬戦闘をするからカードに戻ってくれ」

「分かったー。おば……お姉ちゃん、また遊んでね」

「はい。また遊びましょうね」


 ミスティは姿を消し、俺の右手に一枚のカードが現れる。

 これで俺のデッキのカード五十枚全てが揃った。


「そう言う事ね。盲点だったわ」

「待たせたな」

「私はお買い物に行って来ますね。

 マリアちゃん。イズミさん。お留守番よろしくね」

「分かったわ」

「行ってらっしゃい」


 アリスが外出するのを見送って、俺とマリアはテーブルを挟んで対峙する。

 俺にとっては数日ぶり、こちらの世界に来てからは初のカードバトルが始まる。


「それじゃあ、始めるわよ。

 白の契約者マリア・ヴィーゼの名の元に、あなたに模擬戦闘を申し込むわ」

「受けて立つぜ!」


 俺の承諾を合図に、お互いのデッキが宙に浮き、シャッフルされる。

 山札の上から五枚が手札として配られ、六枚目のカードが裏向きのまま、リーダーエリアにセットされる。

 俺にとって二回目の体験だが、何度見ても便利だと思う。


「よし、先行後攻を決めようぜ。最初はグー」

「何それ?」

「何ってジャンケンだよ。

 勝った方が先行ってルールだろ」

「先行後攻はランダムで決まるわ。

 先行プレイヤーに先にマナがチャージされるのよ」

「……便利だな」


 まさか、先行後攻まで自動で決めてくれるとはな。

 先行決めジャンケンから勝負が始まると言う人も居るから賛否両論だろう。

 ちなみに俺は肯定派だ。

 ジャンケンの必要が無いと聞いて俺は手札を確認する。

 うん、悪くない。

 マリガン、いわゆる初期手札の交換システムが存在しないこのゲームでは引きの良さは重要だ。


「じゃあ、行くわよ。英霊解放(リベレーション)!」

「よろしくお願いします」


 マリアの掛け声と共に裏向きのカードが解放され、リーダーエリアにユニットが現れる。

 ……ハズだったのだが、何も起こらない。


「始まらないぞ?」

「ちょっと、あなたも英霊解放(リベレーション)って言いなさいよ」

「え? それ言わないとダメなのか?」


 思えば公式ルールでもゲーム開始時にはお互いに『英霊解放(リベレーション)!』と叫ぶ決まりだったような気がする。

 他のTCGにも『スタンドアップ!』とか『ゲートオープン!』とか『リングイン!』など、似たような掛け声で開始するゲームはいくつかあるが、俺はその手の台詞は言わない派だった。

 だが、言わないと始まらないのなら仕方がない。


「リ、英霊解放(リベレーション)


 俺が宣言すると、お互いのリーダーユニットが解放され、マリアの山札から一枚のカードがマナエリアにチャージされる。

 先行はマリア。

 ファーストリーダーはマリア側は《ドッグブリーダー アレフ》レベル3/AP4000/HP5000。

 一方、俺のリーダーは《ファントム オブ マウス》レベル1/AP3000/HP4000。

 通常のTCGと異なり、実体化したユニットの頭上に、ユニット名、レベル、AP、現在HP、最大HPが表示されている。

 これは外野から召喚戦闘を見ていた時には見えなかった要素だ。

 おそらく対戦している符術士同士にしか見えないのだろう。

 ただし、相棒や種族、能力テキストは表示されないので、事前に暗記しておく必要がある。

 これは対戦中でも相手の許可さえ得れれば、テキストを確認できる普通のTCGに劣る点だ。


「先行は私ね。

 マナコストを①支払い、ポチをサポートエリアに召喚(コール)!」


 サポートエリアに《犬》が召喚(コール)された事により、アレフの永続能力が発動。

 アレフの最大HPが7000まで上昇する。


「ポチのサポートでそこのネズミに攻撃(アタック)!」


 AP4000のアレフの攻撃を喰らい、俺のリーダーはダメージエリアへと移動する。

 続いて山札の一番上のカードがリーダーエリアに召喚(コール)される。

 現れたのは《堕天使シルト》レベル2/AP3000/HP3000。


「最初のはドロートリガーで、次は守護天使(トゥテラリィ)かよ」


 《ファントム オブ マウス》は特殊登場時能力(エントリースペル)で山札からカードを一枚引ける、通称ドロートリガーと呼ばれるカード。

 《堕天使シルト》は黒属性の全てのリーダーの相棒として守護召喚(ガーディアンコール)できる守護天使(トゥテラリィ)と呼ばれるカード。

 どちらも特殊な能力を持っている代わりにステータスは低い。

 一方、マリアのリーダーはレベル3。

 序盤にダメージ差が広がるのは避けられない。


「ターンエンド。

 これで次のターンに私の二点先行は確定ね」


 各ターンのエンドフェイズに全てのユニットのHPが最大値まで回復する。

 アレフは永続能力で最大HPが増加している為、HPが7000まで回復した。 


「俺のターン。スタンドフェイズはスキップ。ドロー&マナチャージ」


 俺の山札から一枚が手札に、続いて一枚がマナエリアにチャージされる。


「マナコストを①支払い、サポートエリアに《ファントム オブ マウス》を召喚(コール)

 ターンエンド」


 俺はレベル1のユニットを召喚してターンを終了する。

 召喚に必要なマナコストの少ない序盤、且つ攻撃しても倒せる相手がいない状況では仕方がない。


「私のターンね」


 マリアのターン。

 スタンドフェイズ。

 サポートエリアのポチが休息状態(レスト)から活動状態(スタンド)になる。


「ドロー&マナチャージ。

 ジローと二体目のポチを召喚(コール)!」


 マリアはレベル1のユニットを二体、サポートエリアに召喚(コール)した。

 アレフの最大HPが11000まで上昇する。

 現在、俺の手札にはレベル1のカードは無い。

 ターン終了時にAP6000以上のリーダーが出なかったら、次のターンもアレフを倒せない事になる。

 しかも、ジローもポチも相棒が獣騎士アレフ。

 犬デッキの主力である三連続連携攻撃の準備は整っている。

 状況はかなり不利だ。


「リーダーに攻撃(アタック)!」


 アレフの攻撃により堕天使シルトがダメージエリアへ送られる。

 続いて現れたリーダーはレベル3だったが、AP5000の攻撃を二回連続で受けて敗退した。

 マリアのサポーターが二体だったら、耐えて次のターンに反撃出来たのだが……。


「これで三点ね」

「ブン回ってるな」


 続いて現れた俺の三体目のリーダーは《霊槍の使い手ランツェ》レベル3/AP3000/HP7000。

 リーダー時の永続能力としてサポーターの《霊》の数x2000のAP上昇ボーナスを持つ。


「俺のターン。ドロー&マナチャージ」


 引いてきた手札を確認する。

 種族が《霊》のカードを召喚(コール)すれば、AP7000の攻撃を二回行い、アレフを倒す事が出来る。

 だが、現在のマナコストで召喚出来るカードに《霊》は一枚もなかった。


「闇の魔女ミスティを召喚(コール)!」


 手札にあるレベル2以下のカードから、ミスティを選び召喚(コール)する。

 サポートエリアに小人となったミスティが現れる。

 大体ねん○ろいどぷち程度の大きさで可愛らしい。


「じゃじゃーん。ミスティちゃん登場!

 ますたー、お久しぶり」

「数分しか経ってないけどな。

 ミスティ、左側のポチに攻撃(アタック)だ!」

「うん! 分かったー。

 ワンちゃんゴメンね!」


 ミスティがステッキを振ると、毛玉が宙に浮いて爆発した。

 迷犬ポチは墓地(ドロップエリア)へと送られる。


「何でポチを狙うのよ」

「これにも意味があるんだよ。ターンエンドだ」


 ミスティの種族は《魔女》。

 ランツェのパンプ条件を満たさない為、このターンで相手リーダーに与えられるダメージは10000。

 HP11000のアレフは倒せない。

 なのでAP5000のミスティでHP5000のポチを狙った。

 リーダーでサポーターを攻撃する事は出来ないが、サポーターで相手のサポーターを攻撃するのはルールで認められている。


「私のターン」


 三ターン目、先行、マリアのターン。

 マリアは《土佐犬リョーマ》を召喚(コール)

 二回の攻撃でランツェを倒し、早くも四点目のダメージを与える。

 続いて俺のリーダーエリアに赤いランドセルを背負った少女《七不思議(セブンワンダーズ) ハナコ》が現れる。


「……ロリコン」

「そういう趣味で入れてるんじゃねーよ!

 これはヒールトリガーだ!」

「ますたー、浮気するの?」

「ミスティも黙ってろ」


 ハナコの特殊登場時能力(エントリースペル)により、ダメージエリアのカードが一枚墓地へと送られる。


「アレフ、攻撃(アタック)!」

「あっ」


 しかし、ダメージが三点に回復した直後、ハナコがダメージエリアに送られて、俺のダメージは再び四点になる。

 次のリーダーは《霊槍の使い手ランツェ》。

 二回目の登場だ。


「ターンエンド。

 これで四対零よ。そろそろ降参したら?」

「面白い冗談だな。俺のターン。ドロー&マナチャージ」


 【フェアトラーク】は序盤の運ゲーっぷりが顕著で、今回のように一方的にやられるケースは少なくない。

 だが、ゲームが動き出すのはマナコストに余裕の出来る四ターン目からだ。

 三ターン目後攻。

 このターン中に逆転の準備を整える。


「マナコストを②支払い、闇の魔女ミスティを、ミスティの居るサポートエリアに上書き召喚(コール)する!」


 俺の手札から二人目のミスティが召喚され、元いた一人目のミスティが墓地へと送られる。


「ますたー、またね!」

「ただいまーっ、ミスティちゃん復活!」

「ミスティ、ややこしいから喋るな」

「何よそれ?

 手札とマナコストの無駄使いじゃない」

「無駄使いじゃないんだな。

 見せてやるよ。ミスティの能力を!」

 二千文字も引っ張っておいて、こんなオチですみません。

 今回から、しばらく模擬戦闘が続きます。

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