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第十六話 「一枚足りない」

「彼女の正体はこれだ」

「あらまあ、その子にそっくりね」

「ねぇ、それってまさか……」

「闇の魔女ミスティ。

 彼女は俺が召喚(コール)した相棒だ」


 俺が紹介すると、ミスティは右手でスカートの裾を軽く上げながらペコリとお辞儀をする。


「そう。あなたも符術士になったのね」

「意外と驚かないんだな」

「私は驚きましたよ。今夜はお祝いですね」


 選ばれた者しか符術士になれないと聞いていたのだが、意外と反応は薄い。

 アリスも口では驚いたわと言っているが、至って冷静な様子だ。


「あなたが魔符(カード)を持っているのを知った時から、こうなる気はしてたわ。

 思ったより早かったけど、符術士になる事自体は想定内ね」

「マジかよ、つまんね」

「でも、その子……ミスティだっけ?

 彼女は予想外ね。

 人と同じようにコミュニケーションがとれる英霊なんて初めて会ったわ」

「どう言う意味だ?

 先日のカードバトル……召喚戦闘だっけ?

 それで召喚(コール)された竜騎士サビーノとか喋ってたぞ」

「あいつは何度か見た事あるけど、神竜滅殺波! 以外の台詞を聞いた事がないわ」


 同じ台詞しか言えないのかよ。

 まるで容量の都合でボイスの収録数が少ないゲームみたいだ。


「しんるーめったつはー!」

「あーれー。お姉さんやられちゃいました」


 声に釣られて横を見ると、ミスティとアリスが遊んでいた。

 ぬいぐるみを武器に見立ててポーズを取るミスティと、やられ役を演じるアリス。

 その様子は母親と娘のように見えなくもない。

 仲良くなるのは良い事だが、今ので話の腰を折られた。


「ミスティ、ちょっと静かにしといてくれないか

 アリスさんも悪ノリしないで下さいよ」

「「はーい」」


 二人が大人しくなった所で、マリアへと視線を戻す。


「ご覧の通り、彼女は普通の女の子と変わらない。

 夜には寝るし、俺と一緒に食事もした。

 それって珍しい事なのか?」

「かなりレアね。少なくとも私は初めてよ。

 闇の魔女って言うくらいなら、魔術も使えるのかしら?」

「ミスティ、魔法使えるよー」


 マリアの疑問に答えるべく、ミスティがこちらへ戻ってくる。

 彼女は何処からかステッキを取り出し、得意気にクルクルと回す。


「こう見えてもミスティは相当の使い手なんだぜ。

 彼女が居なかったら、俺は死んでたかも知れない」

「そう……ねぇ、ミスティ」

「なぁに?」


 昨日の苦労話でもしてやろうかと思ったがスルーされた。


「人を消滅させる魔術って使える?」


 続いてマリアの口から出た疑問は、やけにピンポイントなものだった。

 人を消滅させる魔術……物騒だな。


「ミスティ、分かんない!」

「そう……ならいいわ」

「俺が知る限り、ミスティの魔術は治癒魔術に似たものと、おそらく重力を操る魔術だな」

「重力?」

「地面が物体を引き付ける力の事だ。万有引力とも言う」

「そのくらい知ってるわよ! バカにしてるの?

 私が驚いたのは、それを操る魔術についてよ」

「それは、すみません」

「私もそんな魔術は聞いた事がありませんねぇ」


 思えばハンスも奇妙な魔術と言っていた。

 重力の操作は俺の世界の科学力でも実現出来ていない。

 こちらの世界でも基本的には実現不可能なのは変わらないと言う事か。


「ねぇ、ますたー。じゅーりょくってなぁに?」

「さっきマリアに説明しただろ」

「むずかしくて、分かんないよー」

「昨日、ブタさんを浮かせたり、ペシャンコにしたりしたろ。

 あの魔術の事だよ」

「ミスティのは魔術じゃなくて魔法だよ」


 そう言ってミスティはテーブルの端に向かってステッキを一振りした。

 その先に置かれていたジャムや調味料の瓶が宙に浮き、しばらくクルクルと舞い、やがて元の位置に戻る。

 まるでテレビのオカルト番組で観たポルターガイストのようだ。


「まぁ! ミスティちゃんは本当に魔法が使えるのね!」

「確かに重力を操っているように見えるわね」

「魔術と魔法って違うのか?」


 俺の感覚だと、どちらも謎のチート能力と言うイメージで、さほど違いがないのだが。

 重力操作は魔術だと無理だけど、魔法なら可能って事か?


「魔術は誰でも使えるけど、魔法は物語に出てくる架空のもの、って所かしら」

「なるほど」


 魔術が誰でも使えるって所に違和感があるが、実際俺も使えるようになったから、この世界では常識なのだろう。


「それじゃあ、時間を巻き戻したりとかも……」

「そんな事も出来るの!?」

「あら、だったら少し若返らせて貰おうかしら?」


 おばちゃんと言われた事を気にしているのだろうか?

 アリスがババ臭い台詞を吐いた。

 いやいや、若さを求める女性に下限はないはずだ。


「アリスさんは今のままで十分、魅力的ですよ」

「ありがとうございます。

 でも、その台詞は私じゃなくてマリアちゃんに言いましょうね」

「はぁ? 何で私なのよ」


 全くだ。

 このツルペタの何処が魅力的だと言うのか。

 と思ったが口には出さない。

 俺も成長したな。


「さっき言った時間を巻き戻すと言うのは忘れてくれ。

 ミスティの治癒魔術……治癒魔法が余りにも凄かったから、そんな気がしただけだ」


 実際に時間を巻き戻せるのなら、更地になった畑も元に戻せるはずだ。

 しかし、ミスティは無理だと言った。

 俺には分からない理屈や条件があるのだろう。


「とりあえず、その子が凄いのは分かったわ」

「うん! ミスティすごいの! えっへん!」


 ミスティは自慢げに胸を反らした。

 しかし、左腕でぬいぐるみを抱いたままなので全然偉そうには見えない。


「ミスティちゃんすごい!

 ねぇ、お姉さんにもう一回見せてくれる?」

「うん! いいよ」


 食堂の一角で何やらマジックショーが始まった。

 楽しそうだし、迷惑も掛かってない様子だから放っておくか。


「よし、ミスティの紹介も終わった事だし……マリア、時間あるか?」

「あるけど?」


 マリアの返事を聞くと、俺はホルダーからデッキを取り出し、テーブルの上に置いた。


「じゃあ、俺とカードバトルしようぜ!」


 俺が帰宅してから真っ先にマリアを探した一番の目的が、TCG【フェアトラーク】での対戦だ。

 元の世界では放課後にカードショップで対戦するのが日課だった。

 雨の日は自宅でPCとウェブカメラを使って、インターネット経由で同志と対戦するくらいハマっていた。

 自分で言うのも何だが、一種の中毒に近い。

 俺にとってのTCGは、大人にとってのお酒やタバコのようなものなのだ。


 こちらの世界に来てから対戦する機会に恵まれなかったが、符術士となった今なら、憧れ続けていたユニットを実際に召喚してのカードバトルも出来るに違いない。


「カードバトルって召喚戦闘の事?

 あなた、そんなに私にボコられたいの?」

「それそれ。ってか、すごい自信だな。

 あ……でも負けたら意識を失うヤツは嫌だな」

「じゃあ、模擬戦闘にしましょ」

「模擬?」

「見せた方が早いわね。召喚(コール)!」


 マリアは一枚のカードをテーブルの上に置き、ユニットを召喚した。

 テーブル上に全長数センチメートル程の犬が現れる。

 キャラメルのオマケ程の大きさだ。


「ほぉー」

「これならテーブルの上で出来るし、負けてもペナルティはないわ」


 テーブル上で小さなユニットが戦闘するのか。

 召喚戦闘のような迫力は無いが、普通にカードバトルするよりは楽しそうだ。


「オッケー。それでいこう。

 っと、スリーブを外さないと召喚出来ないんだった。 

 少し待ってくれ」


 一枚ずつ丁寧にスリーブを外していく。

 正直、SR(スーパーレア)を剥き出しで使用するのには抵抗が有るが仕方がない。

 今後、符術士としてマリア以外の相手と召喚戦闘をする機会が有るかも知れない。

 その時の為に今から慣れておいた方が良いだろう。


 スリーブを外しながら、カードを五つの山札に分けて一枚ずつ順番に裏向きに積む。

 これはファイブカットと言って、シャッフルと同時にカードの枚数を確認できる利点がある。

 呼び方は分ける山札の数によって変わり、例えば七つに分ける場合はセブンカットと言う。


「あれ?」


 俺が異変に気付いたのは作業が終わる直前の出来事だった。


「どうかしたの?」

「四十九枚しかない」


 【フェアトラーク】のデッキは一組五十枚のカードで構築される。

 それより一枚でも多かったり少なかったりすればルール違反となる。


 俺は目の前の五つの山札を手に取り、枚数を再確認する。


「十枚、十枚、十枚、十枚……九枚。

 やっぱり一枚足りない!」

「符術士の癖に魔符(カード)を無くしたの!?

 あなたバカなの?」


 思い当たるのは昨夜ウリブーに突き飛ばされた時か。

 あの時は枚数を確認する余裕がなかったからな。

 俺とした事が迂闊だった。


「何が足りないのか確認したい。

 悪いけど、もうちょっと待ってくれ」


 カードを表向きにして左上に表記されているユニットのレベル毎に分配する。

 不足しているカードのレアリティが低ければ、部屋にあるカードで代用出来るかもしれない。

 必須級のカードだったら畑まで探しに行くしかないだろう。

 採用枚数の少ないレベル4のカードから順に確認する。


「レベル4とレベル3は全てある。

 続いてレベル2。

 守護天使(トゥテラリィ)能力無効化(ディスペル)は全てあるな」


 デッキの半数以上のカードの無事を確認した所で、不足しているカードが判明する。

 レアリティは最上位のSR(スーパーレア)

 俺の構築では四枚投入必須のカードだった。

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