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第十話 「魔法道具」

 目を覚ましたハンスと和解し、三人揃って食堂へ行く。

 先に着いていたマリアが、頬杖をつきながら待っていた。


「「いただきます」」


 全員揃った所で楽しい朝食の時間が始まる。

 南カトリアの主食であるパンと紅茶に、昨夜はなかった目玉焼きがメニューに加わる。

 何の玉子かは知らないが、味は鶏の玉子にそっくりだった。

 醤油が欲しくなる。

 この世界にも醤油はあるのだろうか?


「ボク、昨日おトイレに行った後、お部屋を間違えちゃったみたい」

「ニコ、食事中だぞ」

「そのまま俺のベッドで寝ちゃった訳か」

「ごめんなさーい」

「イズミも寝る時は鍵くらい掛けろ」

「どうやって掛けるんだ?」


 ドアから離れるとオートロックが掛かるのは分かったが、部屋の中から手動で鍵を掛ける方法は知らない。

 そもそも鍵穴やレバーが見当たらなかった。


「鍵に少し魔力を注ぐんだよ」

「ほう」


 一応頷いてみるが、魔力を注ぐ方法が分からない。

 後で試行錯誤してみるか。


「ねぇ、あなたこれから予定ある?」


 食事をあらかた平らげた頃、マリアが声をかけてきた。


「午後からギルドカードを受け取りに行く予定だけど」

「って事は午前中は暇なのよね。

 冒険者の必需品の買い出しとか、付き合ってあげてもいいわよ。

 お店の場所、知らないでしょ

 それに、昨日ちょっと言い過ぎちゃったし……」

「それは助かるけど……」


 どう言う風の吹き回しだ?

 昨夜、二時間以上も愚痴ってた人の台詞とは思えない。


「お買い物? ボクも一緒に行く!」

「俺達はギルドで仕事探しだ」

「えー」

「それじゃあ、九時半に玄関で待ち合わせでいいかしら?」

「あ、ああ。よろしくお願いします」


 新生活を送るに至って、色々と必要な物を揃えなければならない。

 正直、この申し出は有り難かった。 


「あらあらデートかしら?

 若いって良いわね」

「そ、そんなんじゃないわよ」

「違います」


 マリアは親切心で案内役を名乗り出ただけだ。

 これをデートとは言わないだろう。


「じゃあ、ボクはお兄ちゃんとデートだね」

「そうだな。ごちそうさまでした」

「ごちそうさまーっ」


 一足先に食事を終えたティールス兄弟が去ってゆく。

 紅茶を飲み干し、俺もその後に続いた。



 ◆◆◆◆



 部屋に戻る前に、昨夜うやむやになった件を確認しなければならない。

 この時間帯には誰も居ないと思うが、反省を踏まえて、ノックをしてからバスルームのドアを開ける。

 壁に小さな鏡が掛けられているのを見つけて駆け寄った。


「マジかよ……」


 そこに映っていたのは見覚えのある俺の顔。

 ただし、髪の色は金髪になっていた。

 よく見ると眉や、薄っすらと生えてきた髭までもが金色だ。

 顔付きは日本人そのものなので違和感が半端ない。

 異世界転移の影響だろうか?

 ヘンな病気でないことを祈ろう。



 その後、部屋に戻り、ドアの鍵を掛ける方法を模索してみる。

 数十分に渡り試行錯誤したが、結果は得られなかった。

 約束の時間が近づいてきたので諦める。

 全財産である紙幣と昨日構築したデッキをポケットに入れて部屋を出た。



 ◆◆◆◆



 玄関にたどり着くとマリアが先に来て待っていた。


「遅い! いつまで待たせるのよ」

「え? 時間ピッタリのはずだけど」

「待ち合わせの時は男の人が十分前に来るのが常識でしょ」

「いや、そんな常識知らねーし」


 とは言ったものの、そう言う話は俺の世界でも聞いた事がある。

 常識かどうかは置いといて、次からはなるべく早めに行動するように心掛けるか。


「ところでさ、俺の髪の色って何色に見える?」

「はぁ? 何よいきなり」


 気になっている髪の色について訊いてみる。

 昨日は気が動転していた。

 真っ先に他の人に訊けばよかったのだ。


「いや、特に意味は無いんだけどさ。教えてくれよ」

「汚らしい金髪よ」

「汚らしいって……やっぱり金髪か」

「それがどうかしたの?」


 一言余計だが、マリアから見ても俺の髪は金髪らしい。

 この辺りで金髪は珍しくないし、気にはなるが特に意味はないと思いたい。


「まぁいいわ。商店街まで案内するから付いて来なさい」

「商店街があるのか」


 衣類、清掃用品、歯ブラシ、髭剃り、石鹸、シャンプー、etc……。

 生活するに当たって買わなければならない品は多い。

 商店街があるのは移動の手間が省けて有り難い。


 寮を出てギルドとは反対方向に歩く事およそ十分。

 看板を掲げた建物が多く並んだ区域に着いた。


「閉まってる店が多くないか?」

「店主の気分で開店日と休店日が決まるから、いつもこんなものよ」

「なるほど」


 働きたい時に働き、休みたい時に休むのがこの世界の基本か。

 年中無休が基本の日本と比べると不便に感じるが致し方ない。


「まずはここね」


 マリアが一件の店の前で立ち止まる。

 看板には『武器と防具の店 オスバルト』と書かれている。

 だが、その入り口には『本日休業』と書かれた札が掛けられていた。


「休みみたいだぞ」

「裏口から入るわよ」

「え? おい」

「そんなナイフじゃ仕事にならないでしょ」


 マリアはつかつかと建物の裏手へと歩いてゆく。

 俺の所有する武器は盗賊のアジトから拝借したナイフだけだ。

 これで野生動物(モンスター)から身を守れるかと訊かれたら自信はない。

 しかし、休業中の店に押し込んで大丈夫なのだろうか?

 俺はおそるおそるマリアの後に付いて行った。


「入るわよ」


 一言そう言って、マリアは裏口のドアを開ける。


「お、おじゃましまー……」

「何だあ? 今日は休みって書いてるのが見えねえのか!?」


 中から野太い声が響いてくる。

 俺は思わず、その場ですくみ上がる。

 やっぱり、こう言うのは良くないよな。

 ここは謝って出ていこう。


「そんなの分かってるわよ」


 と、思ったらマリアが店主に喧嘩を売るような台詞を吐いた。

 彼女は可愛らしい見た目に反して自信家な性格をしている。

 だが、一緒に居る者の事も少しは考えて欲しい。


 俺がマリアの後ろで困惑していると、中から店主らしき男が姿を現す。


「何だ、マリアか。

 それに昨日の兄ちゃんじゃねーか!」

「え? ラルフ!?」


 武器屋の店主、それはマリアと共に森で俺を助けてくれた剣士、ラルフ・オスバルトだった。


「最初に言ったろ。見た目通りの仕事をしているって」

「確かに言われたけどさ」


 あの見た目で武器屋だと当てられたらエスパーだ。


「適当に武器と防具を見繕ってあげて」

「そいつは構わねえが、こっちも一応商売だからな」

「とりあえず十万ガルドある」

「そいつは大金だな。

 一体どうやって……なるほどマリアか」


 俺をラルフと再会させた少女の腰には、毛玉のような形をしたラバーストラップが垂れ下がっていた。


「それは彼が私物を手放して得た正当な対価よ」

「そう言う事なら遠慮なく、良い物を用意してやるぜ」

「よろしくお願いします」


 高い魔術耐性を持つ魔導イタチの毛皮のローブはそのままに、合わせ着が出来る防具を幾つか見繕ってくれた。

 革の鎧や鎖帷子など、主に胸部を守る防具が用意される。

 しかし、その全てが俺には装備出来なかった。

 どれも重すぎて、装備した状態では身動きが取れなかったのだ。


「しっかし、兄ちゃんは体力ないなあ」

「これでも平均的な日本人のつもりですけどね」

「こりゃ、物理防御は諦めるしかねえな」

「あなたも符術士になれば?

 大抵の物理攻撃は無効化出来るわよ」

「そんな簡単になれたら苦労しないよ」


 符術士になれれば、マリアと同じくチート防御が手に入るのかも知れない。

 だが、シンディから聞いた話では選ばれし勇者的な職業らしい。

 憧れはするが、なれるかどうかは別問題だ。

 昨日の小太りの男も符術士だが、あれはたぶん例外だろう。


「防具は諦めて武器だが、兄ちゃんの力じゃロングソード辺りが無難か?」

「うーん」


 ラルフが刃渡り一メートル程の剣を持ってくる。

 日本人なら当然だが、俺は産まれてから十八年間、剣なんて触った事がない。

 せいぜい子供の頃に木の枝でチャンバラごっこをやった程度だ。

 到底まともに扱えるとは思えない。


「もっと簡単に扱える武器、例えば銃とかはないんですか?」

「銃ってなんだ?」

「私も聞いた事がないわ」

「筒の中で火薬を爆発させて、その圧力で金属の弾を弾き出す武器なんだけど……この世界には無いか」

「軍ならそう言う武器も支給されてるかも知れねえが、俺は見た事も聞いた事もないな」


 この世界の文明なら銃程度はあると思ったのだが、なるほど。

 強力な武器は軍事用で一般には出回っていない可能性は十分考えられる。

 俺も聞いてみただけで、実際に銃を手にしても怖くて使えないだろうから問題はないか。


「そう言えばギルドで魔力を動力源とする魔法道具(マジックアイテム)を勧められたな」

魔法道具(マジックアイテム)か。

 それだとウチじゃなくて骨董品屋の扱いになるな」

「あそこ、ガラクタしか置いてないじゃない」

「たまーに掘り出し物があるんだよ。

 お、そうだ!」


 何かを思い付いたのかラルフが店の奥へと消えて行く。

 骨董品屋か。

 後で覗いてみよう。


「あったぜ。兄ちゃん、こいつなんかどうだい?」


 程なくしてラルフが小さなナイフを持って戻ってきた。

 見た目は盗賊から拝借した物と変わりない。

 普通のナイフに見えた。


「こいつは昨日俺が使ってた大剣と同じ系統の魔法道具(マジックアイテム)でな、使用者の魔力を風の魔術に変換する特性を持ってる」

「おお!」


 盗賊達を一振りで薙ぎ倒した剣と同じ系統。

 しかも小型のナイフだから俺にも扱えそうだ。

 問題は魔力を変換する方法だが……。


「俺にも使えますかね?」

「俺が扱えるんだから問題ねえよ。

 特別に一万ガルドでいいぜ」


 一万ガルドか。

 十万ガルドで半年以上の寮費が賄える事を考えると結構なお値段だが、性能を考えると妥当なのだろう。

 ラルフが俺を相手に吹っ掛けてくるとも思えないので、言い値で購入する事にした。

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