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第百八話 「数千枚のカード」

「俺が倒すって……勝算はあるの?

 相手はマウルの惨劇を引き起こしたバケモノよ」

「勝算か……今の俺のデッキじゃ厳しいだろうな」


 《(ダーク)(ロード)(・オブ)(・ヴァ)(ニタス)》の必殺技能力(フェイバリットスペル)である消去(イレース)は強力だ。

 発動すれば相手リーダーのAPを0にし、全ての能力を無効化する。

 これは俺が新たに手に入れた《死霊将軍ガイスト》の能力をもってしても太刀打ち出来るものではない。


「嫌よっ! ユーヤまで居なくなったら……私っ!」

「実は奴の倒し方について考えていた事がある。

 今のままのデッキだと勝率は低いが……」

「これをお使い下さい」


 俺とマリアの会話にジャスティスが割り込んできた。

 彼の手には大きなアタッシュケースが握られている。

 本来なら、俺が召喚戦闘に勝利すれば貰える約束であった物だ。

 あの中には日本語版の【フェアトラーク】のカードが数千枚は入っている。


「良いのか?」

「アグウェルに現れた亡霊(ゲシュペンスト)

 それが、十年前にマウルを襲った者と同じなら、全人類にとっての脅威となります。

 我々がいがみ合っている場合ではなさそうです」

「ダメよ! ユーヤ!

 さっきまで敵対していたのに、急に態度が変わるなんて怪しいわ」

「不死の静寂……神の依代(アルタール)は再び人類の敵となる。

 私はそう考えておりました。

 ですが、私の予想を裏切り、虚無の魔王は遠く離れた町に出現しました」

「だから、昨日から何度も言ってるじゃない!」

「申し訳ありません。

 どうか、浅慮であった私をお許し頂きたい。

 これは私からのお詫びであり、あなたへの期待の証でもあります」


 謝っては居るが、全く気持ちが篭っていないな。

 要するに、カードをやるから虚無の魔王を倒せって事か。


「ユーヤ、こんな奴に耳を貸す必要はないわ。

 さっさとアグウェルに戻りましょう」

「この魔符(カード)を使い、虚無の魔王の討伐に協力して頂きたい」

「殺す気満々だった癖によく言うよ。

 そんなので俺が今までの事を水に流すと思ったら……大正解だぜ!」

「はぁっ!?」


 ジャスティスからカードを貰おうが貰うまいが、虚無の魔王をぶっ倒すのに変わりはない。

 それに、あの頭が痛くなるアイドルデッキと何度も戦うのも面倒だしな。

 カードも貰えて、ジャスティスとも一時休戦。

 一石二鳥じゃないか。

俺はジャスティスからアタッシュケースを受け取った。

 受け取った瞬間に紙特有の重さが両腕にズシリと伝わってくる。


「このカードは全部俺の物だからな!

 後で返せって言っても無駄だぞ!」

「もうっ! この魔符バカは!」

「白のカードで使えそうなのがあったら、マリアにやるからさ。

 あれ? 開かないぞ。鍵が掛かってる」

「取っ手の近くにある古代数字を0344に合わせて下さい」

「古代数字? あぁ、これか」


 言われたとおりに取っ手の近くを見ると、ダイヤル式のロックが有るのを見つけた。

 ジャスティスは古代数字と言っていたが、俺にとっては見慣れたアラビア数字だ。

 こちらの人たちは地球の文字を古代文字と呼ぶから、地球の数字は古代数字になるのか。

 地球でも紀元前から使われてたらしいから、古代数字には変わりないか。

 ダイヤルを0344に合わせ、慎重に蓋を開ける。

 ケースの中には深夜アニメの絵柄がデザインされたデッキホルダーがひとつ。

 そして、それ以外のスペースには数千枚のカードが隙間なく詰められていた。


「すごい……こんな大量の魔符、初めて見たわ」

「これだけ有れば、どんなデッキも作り放題だ!

 毎日、飽きるまで違うデッキで対戦出来るぜ!

 どうだ? 貰って正解だろ?」

「う……そうね」


 否定的だったマリアも、大量のカードを前にして目の色を変える。

 この世界におけるカードは一枚で軍人の月収を上回る価値があると言われている。

 それが数千枚も手に入ったのだ。

 これだけのお宝を交換条件に出されたら、和解するしかないだろう。


「虚無の魔王討伐の件、よろしくお願い致します」

「分かってるって。

 でも、その前にカードの確認だ。

 さて、どんなカードが有るか……楽しみだぜ」


 俺はケースの中から、数十枚のカードを手に取り、一枚ずつ確認していく。

 まずは読書をしている眼鏡っ娘天使《|智天使《現役国立大学生アイドル》RUBY》か。

 ジャスティスが使っていたドロートリガーだな。

 レアリティは(コモン)だし、アイドルデッキ以外では基本的に使わないカードだ。

 残念だが、こいつはハズレだな。


 一枚目のカードを一番後ろに送り、二枚目のカードを確認する。

 だが、二枚目も《|智天使《現役国立大学生アイドル》RUBY》だった。


「さっきと同じ魔符ね」

「これだけ有れば多少はダブるものさ」


 このくらいは想定内だ。

 気にせず、次のカードをチェックする。

 だが、三枚目も四枚目も同じカードが続く。


「ほ、ほら……デッキには同じカードを四枚まで入れられるからさ。

 わざわざ同じカードを揃えてて几帳面だよな……。

 って五枚目もかよっ!」


 嫌な予感がして、手に持ったカードを扇状に広げてみる。

 視界に数十人の眼鏡っ娘が映り、俺の心の中に不安が渦巻いていく。


「全部……同じ魔符ね」

「まさか……な。

 マリア、ミスティ、ロッテ、ちょっと手伝ってくれ」

「うん。ますたー、なにをすればいいの?」

「俺一人じゃ大変だ。

 手分けしてカードをチェックしよう。

 そうだな……とりあえず、属性別に分けてくれると助かる」

「分かったわ」

「それは、おもしろそうなのじゃ」


 カードに触れても問題のない三人に協力を依頼して、作業を進める事、十数分。

 数千枚のカード全てのチェックが終了する。


「嘘……だろ? ありえねーよ。

 みんな、どうだった?」

「ミスティのは、ぜーんぶメガネのおねえちゃんだったよ」

「わらわもオナジなのじゃ」

「わぁ、ミスティとおそろいだね!」

「うむ。オソロイなのじゃ」

「私のも全部同じよ……」

「マジかよ」


 嫌な予感は的中した。

 アタッシュケースに入っていた数千枚のカード。

 その全てが《|智天使《現役国立大学生アイドル》RUBY》だったのだ。

 まさか、これだけの枚数のカードが全て同じ物だと、誰が想像出来ようか。

 ジャスティスがこれを知ってて取引材料にしたのなら、嫌がらせにも程がある。


「おい! ジャスティス!」

「何ですか?

 私はこの者たちの介抱で忙しいのです」


 彼は兵士と一緒に気を失っている符術士たちを起こそうとしている最中だったが、そんな事は関係ない。

 一言、文句を言わなければ気がすまなかった。


「何ですかって……それはこっちの台詞だ。

 何だよこれ! 全部同じカードじゃねーか!」

「それがどうかしましたか?」

「お前、それを知ってて俺を誘導したな」

「そのケースは私が符術士になるきっかけなんです。

 私が愛用しているデッキも、そこに入っていたんですよ」

「デッキ……そうだ!」


 ケースの中には大量のカードの他にデッキホルダーが入っていた。

 あの中にもカードが入っているかも知れない。

 水着の美少女のイラストが施されたデッキホルダーを手に取った。

 軽い……が、空っぽではない。

 中に何か入っている。

 マジックテープで固定された蓋をゆっくりと開けた。

 その中には小さく折りたたまれた紙が一枚。


「くそっ……カードじゃないのかよ」


 落胆と怒りの混じった複雑な感情を抱きつつ、その紙を取り出した。

 紙はB5サイズで、縦に四つ、横に二つ、丁寧に折りたたまれている。

 期待などしていないが、何が書かれているのか気になったので、紙を広げてみた。


「魔符と同じ古代文字ね」

「日本語だな」


 日本語が書かれた一枚の紙。

 俺と同じく、この紙もカードと共に日本からやって来たという証だ。

 おそらく深夜アニメのデッキホルダーや、アタッシュケースも一緒に転移して来たのだろう。


「なんて書いてあるの?」

「えっと、第一回【フェアトラーク】無限回収コンテスト。

 参加ナンバー17 佐々木正義」


 それは日本における俺の友人の名前であった。

 あの人なら同じカードを数千枚集めていてもおかしくはない。

 このケースも、デッキホルダーも、数千枚の同じカードも……そしてジャスティスのデッキも、元々は彼の持ち物だったって事か。

 悔しいけど納得したぜ。


「懐かしい。そこに保管してありましたか。

 その紙に書かれた古代文字を解読して、そこからジャスティス・ササキの名前を頂いたのです」

「これはな……ジャスティスじゃなくて、マサヨシって読むんだよ!」

「マサヨシ……?

 ですが、他の魔符では正義(ジャスティス)と━━」

「それは英語の直訳!

 日本語だとセイギ、名前の場合はマサヨシになるの!」

「なんと!? 同じ古代文字に三種類もの読み方があるのですか!」


 こいつは……他人に不要品を押し付けておきながら、全く悪びれないな。

 相手にしてるとイライラが募るぜ。


「ますたー、このえっちなハコのなかにカードがのこってるよ」

「ミスティ……えっちな箱って言うのは止めなさい」

「ふぇ? でも、えっちなえがかいてるもん」

「深夜アニメのイラストだから、そこは否定しないけど、女の子がそんな事言っちゃダメだ」

「はーい」


 どうせ同じカードだろうと思いつつも、デッキホルダーを手に取る。

 先程は見落としていたが、その中には一枚だけカードが残っていた。

 見覚えのある馴染み深いロゴが印刷されたカードだ。


「フェアトラークじゃない。

 この裏面はウィザード アンド クリーチャーズか!?」

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