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第百七話 「二人の乱入者」

「二人とも落ち着け。同時に喋るな」

「はっ! これは英雄様! 失礼致しました」

「むぅ……わかったから、ユーシャとショチョーもケンカをやめるのじゃ」


 駆けつけてきた兵士は、俺に向かって敬礼のポーズをとった。

 気になったのは、彼が俺を敵視せず、英雄と呼んだ事だ。

 全ての軍人が俺を危険視している訳じゃないのか。


 兵士と反対方向からやって来たのはロッテ。

 俺とジャスティスが喧嘩をしていると思って止めに来たようだ。

 俺たちが出るまでは眠っていた筈だが……。


「何故、あなたがここに居るのですかっ!?」

「ユーシャがシンパイだから、ミスティについてきたのじゃ」

「自分の意志で来たと言うのですか!?

 王都からここまで三時間もかかるのですよ!

 いや、それよりも国王陛下はこの事をご存知なのですか?」

「もちろん、父上にはナイショなのじゃ!」

「何と言う事でしょう……」


 ロッテの姿を見たジャスティスは声を荒らげ、そして頭を抱える。

 王女が行方不明になれば大騒ぎになりそうなものだが、彼は知らなかったようだ。


「し、仕方がないでしょ。

 王女様だなんて知らなかったんだからっ!」

「おっ、王女様!? 何故こんな危険な場所にっ!?」

「ん? あんた、王都から来たんだろ?

 今頃、大騒ぎになってるんじゃないのか?」

「そのような事を公表出来るとお思いですか?

 あなたも、この事は他言無用ですよ」

「はっ! 心得ております!」


 情報統制と言うやつか。

 真実はただの家出だから、騒ぎになっていないのは幸いだ。


「王様はロッテが誘拐されたと思っているかも知れない。

 ロッテ。俺たちは悪くないって事をちゃんと説明してくれよ」

「シンパイしなくても、わかっておるのじゃ」

「何を言っているのです?

 あなたはここで私に━━」

「ケンカはやめるのじゃ!」

「そうそう。喧嘩はやめようぜ」

「くっ……」


 ジャスティスは俺に勝つまで再戦を挑みたいようだが、わざわざ不利な条件を飲む必要はない。

 ここはロッテに同意して時間を稼ごう。

 ひょっとしたら、考えを改めてくれるかも知れない。


 このタイミングでロッテがやって来たのは有り難いが、一つ疑問がある。

 彼女の近くにはリックと二人のメイドが居た筈だ。

 リックはともかく、メイドたちの隙を見て出てきたとは考え難い。


「ところでさ、リックたちは一緒じゃないのか?」

「ショーイなら、あそこでこっそりヨースをうかがっておるのじゃ」


振り向くと、半壊した建物の陰から様子を伺う三人を発見した。


「げっ! バラされたよっ!?」

「若様。ここは覚悟を決めましょう」

「いざとなったら、わたくしの性戯(テクニック)でピンチを切り抜けてみせますわ」

「ダイジョーブだからこっちへくるのじゃ」


 リックとメイドは何かを諦めた様子でこちらへと歩いて来る。

 まぁ、気持ちは分からなくもない。

 元上司のジャスティスとは顔を合わせ辛いだろう。


「てか、銀髪メイド! 服を脱ぐな!」

「あら? お気に召しませんか?

 先程は楽しそうに、女性の服を切り裂いていらしたじゃないですか?」


 人前にも関わらず、エプロンを脱ぎ始めたメイドを慌てて制止する。

 てか、アイドルの服を斬ってたのはガイストだ。

 俺がやってたみたいに言うんじゃねぇ!


「うん。あのスカートだけを斬る技は凄かったね。

 今度、僕にも教えて欲しいくらいだよ」

「その時は是非、わたくしを実験台にして下さい!」

「あら? 抜け駆けは許しませんわよ」

「お前ら、隠れてた割に結構余裕だな」


 リックが服だけを斬る剣技を会得したら、真っ先にミスティが狙われそうだ。

 いや、ミスティだけじゃなく、全国の幼女が危ない。

 全力で阻止しよう。


「リック・グレーナー元中尉」

「はっ、はいぃっ!」


 ジャスティスの呼びかけに、リックが軍隊式の敬礼で応じた。

 二人のメイドは彼に寄り添い軽く頭を下げる。

 だが、その視線は鋭く、隙がない。

 主人を護る為なら、いつでも戦闘態勢に移行出来るだろう。

 ジャスティスは元部下である俺に刃を向けた相手だ。

 リックにも危害を加えないとも限らない。


 だが、ジャスティスの口から発せられた言葉は意外なモノだった。


「今回の事は不問と致しましょう。

 その代わり、今から王女様を王都まで護送しなさい!

 そこのあなたも同行を命じます!」

「えっ! 私も? ですが……」


 ジャスティスがリックに命じた内容は、ロッテを王都まで送らせる事だった。

 ロリコンのリックが暴走しないよう、今来たばかりの兵士も同行させる。

 一応、筋は通っているが、これは厄介払いだろうな。

 リックたちが居なくなれば、俺との召喚戦闘を再開出来る。

 それも、ジャスティスが敗北しそうになると中断させられるクソゲーが……。

 だが、兵士はその命令に少し不満があるようだ。


「何ですか? 私は忙しいのです」

「私はまだ、大将に話を伝えていません。

 居住区に亡霊(ゲシュペンスト)が……」

「たかが亡霊程度の為にここまで来たのですか?

 三日もあれば対魔導兵器の使用許可が降りるでしょう」

「それでは間に合わないのですよ。

 これをご覧下さい」

「これは?」

「カミル・メスナー中佐から承った書状です。

 現地の素描も同封されています」


 ジャスティスは兵士の差し出した封筒を、渋々と言った表情で受け取った。

 しかし、封筒から手紙を取り出し、それを読む内に、彼の表情は驚きへと変化する。


「バカなっ! これは、まるで不死の静寂のようではありませんか!

 いや、有り得ないっ!」

「どうかしたのか?」

「この素描を見れば分かりますよ」


 突然大声を上げるジャスティス。

 彼のこんなに感情的な姿を見るのは初めてかも知れない。

 疑問を投げかけると、彼は手に持った手紙をこちらに向けた。

 それは文章ではなく、風景が描かれたスケッチだ。

 そして、それを見た全員が、ジャスティスと同じ反応を示す。


「嘘っ! これって……」

「おー、このマチにソックリなのじゃ」

(ダーク)(ロード)(・オブ)(・ヴァ)(ニタス)


 そこに描かれていた風景━━それはまるで巨大なスプーンで抉られたかのように、一部が消滅した建物であった。

 天井がなくなっているもの、右半分がなくなっているものなど、消滅している部分は様々だ。

 その様子は、今俺たちが居るマウルの町と瓜二つ。

 この町を破壊し尽くしたユニットの名前が俺の口を衝いて出た。


「虚無の魔王?

 何かご存知のようですね。

 やはり、あなたの仕業ですか!」

「ユーヤは関係ないでしょ!

 ずっとこの町に居たんだからっ!」

「虚無の魔王ってのはな……十年前に現れて、この町をボロボロにした奴だ。

 お前たちが不死の静寂って呼んでる奴の正体だよ」

「ほう……マウルの惨劇をおこした英霊の名ですか。

 それを知っていると言う事は、やはりあなたが━━」

「違うって言ってるだろ!」


 とことん頭の固い奴だな。

 俺が虚無の魔王を知っているのは一昨日戦ったからだ。

 名前は後からローラント・ハルトマンに教えられたのだが、彼の名は出さない方が良いだろうな。


「待って。ちょっと、おかしくない?

 魔力の強い英霊が勝手に実体化する事ってあるの?」

「あるんじゃないか?

 古代迷宮に居たコンゲラートみたいな感じでさ」

「いえ……魔力の強い土地に現れる亡霊には、実はある程度の法則性があります。

 マウルの惨劇をおこせるクラスの英霊となると、神の依代(アルタール)なしにこちら側へ来ることは不可能でしょう」

「その神の依代ってのは俺の事だろ?

 だったら、ここに現れるのが普通じゃないのか?」

「えぇ……そこが引っ掛かるのです。

 居住区と言ってましたが、これは何処で起こったのですか?」

「はっ! 南部のアグウェルと言う町です」

「なっ!?」


 兵士から伝えられた被害地の名前に、その場に居た誰もが一瞬凍りつく。

 なぜなら、それは俺やマリアにとって第二の故郷とも言える町の名前だったからだ。


「ちょっと、あなた!

 適当な事言うとぶっ倒すわよ!」

「ぐっ……私は中佐から伝えられた内容をそのまま━━」

「マリアおねえちゃん、おちついて」


 認めたくない思いが強いのか、マリアは兵士のむらぐらを掴み問い詰める。

 とても女の子らしい行動とは言えないが、それも致し方ないだろう。


「聞き間違いとかじゃないのか?

 あそこはザル警備なのに普通の野生動物(モンスター)すら滅多に侵入して来ないような平和な町だぞ。

 特殊な土地でしか発生しない筈の、亡霊が現れるなんておかしいだろ」

「被害の状況は?」

「町の機能はほぼ停止。住民の一部は近くの農村に避難しております」


 アリス、シンディ、ラルフ、食堂の店主に骨董品屋の婆さん。

 アグウェルで暮らした半年間の内に知り合った、様々な人物の顔が頭をよぎる。

 どうか、彼らが無事であって欲しい。


「避難民の人数は?」

「およそ三百人。残りは行方不明です」

「一割が生存ですか。

 マウルの惨劇よりはマシですね」

「マシって何よ! 人数の問題じゃないでしょ!」

「マリア、落ち着け。こいつを責めても時間の無駄だ。

 それよりも、すぐにアグウェルに戻るぞ」

「分かりました。

 あなたの件は一旦保留と致しましょう」


 何が保留だ。

 あれは実質俺の勝ちだろうが。

 と思ったが、口には出さない。

 喋ったら、また絡んできそうだしな。


「まずは戻って、この目で状況を確認するのが先決だ。

 そして、虚無の魔王は俺が倒す」

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