第百六話 「ジャスティスの秘策」
《死霊将軍ガイスト》の能力により墓地から蘇生させる対象は最大四枚。
召喚可能なエリアはサポートエリアではなく、自分のフィールド上。
すなわち、三体のサポーターに加えて、リーダーの変更が可能だ。
「俺はRCを②支払い、《霊騎士ガイスト》を墓地へ。
そして、墓地から《七不思議ハナコ》を三体、サポートエリアに召喚!
さらに、墓地から《霊騎士ガイスト》をリーダーエリアに召喚!」
ガイストの鎧の装飾がシンプルな形状へと変化する。
そして彼の背後には三人の女子小学生たち。
彼にとってアイドルよりも輝かしい最高の相棒だ。
「戦闘中に墓地からリーダーを召喚!?」
「知っての通り、これから行う三回の攻撃は全て連携攻撃だ。
しかも、あんたは既に手札を使い切った。
行くぞ……七回目。リーダーに連携攻撃!」
三人のハナコの内、一人が数歩前に出た。
彼女がその小さな身体でガイストを抱きしめると、巨大な鎌が見慣れた大剣へと姿を変える。
半年間、俺のデッキのエースを務めた霊騎士の完全復活だ!
「おじちゃん、おかえりなさい」
「迷惑をかけたな」
「ううん。あんなオケショウのこいおねえちゃん、やっつけちゃって」
「承知した! 参る!」
意味深っぽい会話を交わした後、ガイストは敵の元へと一気に詰め寄る。
彼の剣から立ち昇った暗黒のオーラがMIKA……のスカートを焼き払う。
「きゃっ!」
慌てて両手で股を抑えるMIKA。
しかし、完全には隠しきれていない。
左右から金色の布地がはみ出している。
って、死霊将軍から霊騎士に戻っても、やる事は一緒かよ!
しかも金色のパンツって、アイドルなのに趣味悪いな!
「くっ……MIKAの自動能力を発動!」
ジャスティスの山札の上から一枚のカードがダメージエリアに送られた。
同時にMIKAの下半身にチェック柄のスカートが復元される。
「だから、どうしてスカートを狙うのよ!」
「むーっ。ますたーのえっち!」
「俺じゃないって何度も言ってるだろ!?」
「そんなにパンツが見たいのなら、私のを見せてあげるわよ!」
「あーっ! ずるーい!
ミスティもますたーにパンツ見せるー」
「お前ら、ちょっと落ち着け!
言ってる事が滅茶苦茶だ!」
「はっ! い、今のなし! 忘れなさい!
ミスティもそんな事言っちゃダメよ」
俺は攻撃宣言をしただけで、パンツが見たい訳じゃない。
しかも金色のパンツなんて見えても嬉しくないし……。
「もうスカートは狙わないでくれよ……。
八回目。連携攻撃!」
スカートばかり狙うガイストに釘を刺しつつ、攻撃宣言をした。
先程とは別のハナコがガイストに近づき、両手で赤いスカートをつまみ上げる。
「おじちゃん。わたしのパンツ……みたい?」
って、お前もかよっ!
ここには露出狂の女しか居ないのかっ!?
「むっ! うおおおおぉっ!」
ハナコのパンチラを見たガイストは興奮気味に敵へと向かって行った。
巨大な剣がMIKAの上半身を目掛けて、勢い良く振り下ろされる。
良いぞ! これならスカートは破れない。
「いやーっ!」
ガイストの攻撃を受けたMIKAは、両腕を交差させ、その場にうずくまる。
彼女の両腕の中には金色の布地。
その更に奥には女性を象徴するふくよかな双丘が伺える。
「って、なんでお前は服だけを器用に斬るんだよ!」
「ユーヤのバカっ!
何よ! そんなに大きいのが良いのっ!?」
「だから、俺じゃなくてガイストに言ってくれ」
女性を傷つけたくないのか……それとも、ただのスケベ心か……。
多分、後者だと思うが、どちらにせよ迷惑な騎士だ。
「MIKAの自動能力を発動します」
ジャスティス側のダメージが七点になり、MIKAの衣装が復元された。
それにしても、ジャスティスは冷静だな。
アイドルたちの下着が見えても無反応を貫いている。
これがDTと卒業生の経験の差か。
「随分と落ち着いているけど、次の攻撃で勝負が決まるぜ」
「それがどうかしましたか?」
「どうかしましたか? って、ペナルティが怖くないのかよ」
「問題ありません。さぁ、かかって来なさい」
敗北がほぼ確定していると言うのに、この余裕は何だ?
ヒールトリガーを引き当てる自信があるのか……。
それとも、アイドルデッキの敗北ペナルティは痛くも痒くもないものなのか?
いや、ただのハッタリかも知れない。
考えても答えが分かるものでもない。
ジャスティスが何かを企んでいたとしても、今の俺に出来るのは攻撃宣言をする事のみだ。
「ラスト。九回目。リーダーに連携攻撃!」
まだ行動の終わっていない三人目のハナコがガイストの元へ近づいた。
彼女はスカートのポケットからハンカチを取り出すと、一生懸命背伸びをして、それをガイストの顔へと近づける。
「おじちゃん。はなぢ出てるよ」
「すまない」
なるほど。
ガイストの鼻血を拭き取ってあげたのか。
「うん。きれいになった」
「感謝する」
でも、鼻血の原因ってハナコのパンチラだよな?
……もうやだ。この変態騎士。
「ん。おしごと、がんばってね」
「うむ。待たせたな! 参る!」
ガイストはMIKAの背後に回り、大剣で何度も斬りつける。
一枚、二枚、三枚……一振り毎に背中の翼が剥がれ落ち、墓地へと消えてゆく。
六枚あった翼は一枚になり、最後の一振りが振り下ろされる。
「やめてっ! お願いっ! プロデューサー!
私、まだ頑張れるから……。
だから、AVだけは……AVだけはいやぁーっ!」
ボロボロになった制服から、綺麗な肌を露出させながらMIKAはダメージエリアへと去って行った。
「ねぇ? えーぶいってなぁに?」
「さぁ? 私も初めて聞いたわ。
ユーヤなら知ってるかしら?」
「いや、俺もワカンナイナー。
それより、これで勝敗が決まるぜ」
ジャスティスの山札からリーダーエリアに新たなユニットが召喚される。
これがヒールトリガーならゲームは続行。
だが、ジャスティスの手札はなく、俺のダメージはまだ四点。
ジャスティスがここから逆転するのは不可能だ。
「私のかわいい天使たちに一時の休息を! 英霊封印!」
今まで口数の少なかったジャスティスが、突如、魔術の詠唱のような台詞を発した。
召喚戦闘で負けそうになったら、リアルファイトに切り替えるつもりか?
カードゲーマーの風上にも置けない行動だが、こいつならやりかねない。
いつでも対応できるように身構える……が、何も起こる気配はない。
「いかん! 少女たちよ! 我の後ろに隠れるのだ!」
危険を察したのか、ガイストは三人のハナコを庇うように前に出た。
何が起こると言うんだ?
俺の知らないヤバいユニットでも召喚されたのか?
しかし、ジャスティスのリーダーエリアには一枚のカードが裏向きで置かれているだけだ。
「おかしい……どうしてリーダーが実体化しないんだ?」
「すぐに分かりますよ」
「まさか、さっきの!?」
数瞬の静寂の後、異変は訪れた。
俺のフィールドに居るガイストと三人のハナコ、そしてジャスティスのフィールドに居る三人のサポーター、RIE、KINAKO、SAKI。
それら七人が突如、戦場から姿を消したのだ。
いや、正確には姿を消したのではないな。
何故なら、彼らの居た場所にはカードが残されているのだから……。
「終わったの?」
「ますたーのかちだよね?」
「流石に相棒には通用しませんか」
「一体何をした!?」
「あれですよ。あなたも知っていますよね」
ジャスティスが示した先には銀色の小さな箱が置かれていた。
あの箱の事は忘れもしない。
ロッテとの模擬戦闘を強制中断させた、悪魔のような魔法道具だ。
「あの魔法道具は召喚戦闘には使えないんじゃなかったのかよ」
「技術とは常に進化するものです。
この召喚戦闘は無効となりました」
「なっ……何だよ、それ」
「ちょっと! 卑怯じゃない!
今のはユーヤの勝ちでしょ!」
「いいえ。無効試合です。
その証拠として、この通り。私は無傷です。
さぁ、仕切り直しと行きましょうか。
ただし、もう《死霊将軍ガイスト》は通用しませんよ」
「そう言う事かよ。ふざけんな!」
敗北がほぼ確定しても余裕だったのは、あの魔法道具が有ったからかよ。
何が仕切りなおしだ。
要するに、俺が負けるまで何度でも召喚戦闘を無効にするんだろう。
「ふざけてなどいません。
技術と才能により、確実に勝利を掴む方法を選んだまでです」
屁理屈の尽きない奴だな。
まずはあの銀色の箱を破壊するか?
でも、あれがひとつとは限らないし、鎧と同じ素材なら簡単には壊せなさそうだ。
なら、あの箱を使われないようにマリアに監視を頼むか。
「まつのじゃーっ!」
「こちらにいらしたんですね! 探しましたよ」
「ケンカはやめるのじゃー!」
「カミル・メスナー中佐からジャスティス・ササキ大将に伝令です!」
俺とジャスティスが無言で睨み合っていると、それを打破すべく、第三者が乱入してきた。
北からは金髪の少女。
南からは銀の鎧の兵士。
だが、こいつら……話が全く噛み合っていない。
「ユーシャとショチョーはトモダチであろう?
だったら、なかよくするのじゃ!」
「居住区に無数の亡霊が出現!
至急、応援を寄越して欲しいとの事です」