第百五話 「激突! 天使vs紳士」
山札から飛来したカードはMIKAに吸収され、赤い翼へと姿を変える。
これでMIKAの翼は六枚になり、天使長の名に相応しい神々しい姿になった。
これで服装がチェック柄のアイドル衣装じゃなければ、完璧なラスボスだ。
「これで私の手札にある全ての《アイドル》はレベル0になりました。
さらに相棒に《片翼の天使長MIKA》が追加され、守護召喚が可能です」
「あぁ、知ってるよ」
非常に鬱陶しい能力だが、ジャスティスの手札は三枚しかない。
更にサポーターを召喚すれば残りは一枚だ。
MIKAのAPが12000まで上昇しているのが厄介だが、こちらには《霊騎士ガイスト》がある。
次のターンに三回の通常攻撃と三回の連携攻撃を仕掛ければ俺の勝利だ。
「おや? 随分と落ち着いていますね。
ですが、これならどうでしょう。
私はサポートエリアに《創世の天使KINAKO》と《主天使SAKI》を召喚!
マナコストを②支払い、KINAKOの起動能力を発動!」
「なっ!? そんな使いづらい専用サポートまで入れてるのかよ!」
《創世の天使KINAKO》レベル4/AP5000/HP10000。
リーダーエリアで発動する能力はなし。
一見、ステが低いだけのハズレユニットだが、彼女の能力はサポーターの時に真価を発する。
マナコストの他に、自身を含む二体のサポーターを休息状態にする事により、お互いの手札を強制的に初期化するのだ。
基本的にレベル4ユニットをサポートエリアに召喚する事は無い。
MIKAの能力で減った手札を補充する為にデザインされた、事実上の専用サポートカードと言える。
サポートエリアに召喚された二体の天使が休息状態になり、俺とジャスティス、二人の手札が全て山札の下へと送られた。
続いて、山札の上から五枚ずつが新たに手札として配られる。
これにより手札の枚数は増えたが、最終ターンの為に温存しておいた二枚の《霊騎士ガイスト》が山札の下へ送られてしまった。
これは大きな痛手だ。
「これで私の手札は一枚から五枚に増えました」
しかも、これらは全てノーコストで守護召喚が可能……厄介だな。
新たに配られた五枚の手札の中に、この状況を打開出来るカードはあるか?
ガイスト二枚は無理だろうが、せめて能力無効化が有れば……。
「これは……そうか!」
「手札の確認は済みましたか?
では参りますよ。リーダーに攻撃!」
攻撃宣言を受けたMIKAが六枚の翼で優雅に天へと飛翔し、瞬く間に姿が見えなくなった。。
轟音と共に五色の光の矢が降り注ぎ、ムスターの身体を次々と貫いていく。
怒涛の攻撃に為す術もなく、骨格標本はバラバラ無数の犬のおやつに姿を変えた。
焦土となったリーダーエリアに六翼の天使がゆっくりと降り立つ。
「派手な攻撃だな。盆踊りよりはマシだが」
「えー? ミスティはダンスのほうが好きだよ」
「踊るのはいいけど、あの曲だけはダメだぞ」
ムスターがダメージエリアに送られ、山札から次のリーダーが召喚される。
現れたのは《魔斧使いアクスト》。
だが、何が召喚されてもAP12000となったMIKAの前では、ただの的でしかない。
つまり、このターンにあと二点のダメージは確定している。
「ターンエンドです」
「は? まだ一回しか攻撃して……」
三体のサポーターが居るにも関わらず、ジャスティスは一回の攻撃でターンを終了。
最初は違和感を覚えたが、すぐにその理由に気が付いた。
KINAKOの能力を使用した為、アタックフェイズに突入する前から、二体のサポーターが休息状態になっていたのだ。
「KINAKOの能力を使用した後に、手札から上書きでサポーターを召喚するのを忘れたのか。
これは手痛いプレイングミスだな」
「プレイングミス? これは全て計算の上での行動ですよ」
「へっ、強がりかよ。俺のターン! ドロー&マナチャージ!」
「《霊騎士ガイスト》の弱点。
必殺技能力はダメージが五点以上じゃないと発動出来ない。
能力無効化を温存しておけば対策は可能」
「なっ!」
「どうかしましたか?
これは、あなたが教えてくれた事ですよ」
「こいつ……エボルタとの会話を盗聴してやがったな」
おそらく軍人手帳に盗聴機能が備わっていたのだろう。
ダメージを四点で止めたのは、ガイストを警戒しての行動か。
能力無効化を手札に握った所で攻撃を開始するつもりだな。
MIKAとKINAKOの能力を使えば、それまで全ての攻撃を守護召喚で凌ぐ事も可能。
手札補充を担うサポーターのKINAKOを倒そうにもHPの高さがネックだ。
俺の手札に《霊騎士ガイスト》は一枚ある。
しかし、残り三枚の内、二枚は山札の最下層に眠っている。
更にジャスティスはガイスト対策を徹底するつもりだ。
こいつに頼る事は出来ない。
残りはランツェ、シルト、マウス、魔導書。
そして、ミスティの代わりにデッキに入っていたカード。
昨日、マリアを苦しめたあのカードだ。
こいつの能力は《霊騎士ガイスト》とほぼ同じ……いや、少し違う!?
「俺はマナコストを④支払い、ガイストをリーダーエリアに召喚!」
「血迷いましたか?
今、ガイストを召喚しても、木偶の坊と変わりませんよ」
漆黒の鎧に身を包み、巨大な鎌を持った騎士がリーダーエリアに降臨する。
ジャスティスは気付いていないようだが、死霊将軍は霊騎士とは似て非なる能力を持っている調整版とも言えるユニットだ。
「木偶の坊かどうか、試してやるよ。リーダーに攻撃!」
「忘れたのですか?
MIKAの永続能力により、ノーコストで守護召喚が可能だと言う事を!
私は《純粋なる天使EMA》を守護召喚!」
ガイストは鎌でMIKAに襲い掛かったが、守護召喚されたジュニアアイドルが二人の間に割って入る。
慌てて鎌の軌道を逸らすガイスト。
空を切った鎌はEMAのスカートを少しだけ切り裂き、地面に突き刺さった。
「きゃっ! あの、プロデューサーさん……見ました?」
EMAはスカートを抑えながら墓地へと消え去った。
水色の布地がチラッと見えたけど、あれは見せパンだな。
「あーっ、ますたーのえっちー」
「ちょっと、何処狙ってるのよ! 変態!」
「俺じゃないっ! やったのはガイストだ!」
なんで俺が責められなきゃいけないんだよ。
てか、プロデューサーは反応なしかよ。
「気を取り直して……二回目。リーダーに攻撃!」
「守護召喚!」
「三回目。ハナコのサポートでリーダーに攻撃!」
「守護召喚!」
連続攻撃を繰り出してみたが、三回とも防がれてしまった。
手札はKINAKOの能力を使えば補充出来るから、全力で守護召喚をするのも分かる。
だが、ジャスティスは痛恨のミスをした。
「次は私のターンです」
「待てよ。俺はまだ終了宣言をしてないぜ。
攻撃の終了時にガイストの自動能力を発動!
コストとしてRCを②支払い、手札を二枚墓地へ。
そして墓地から《ファントム オブ キャット》、《ファントム オブ マウス》、《霊槍の使い手ランツェ》をサポートエリアに召喚!」
「おかしいですね?
ダメージが五点以上でなければ、必殺技能力は使えない筈では?」
「《死霊将軍ガイスト》の能力は《霊騎士ガイスト》と似ているが、異なる点が三つ有る。
一つ目は必殺技能力ではない事。
つまり、コストさえ有ればダメージが四点以下でも使える。
そして二つ目は手札コスト。
自身と同じカードを指定する《霊騎士ガイスト》とは異なり、《死霊将軍ガイスト》のコストは種族が《霊》のカードをレベルの合計が4になるように墓地へ送る事」
ちなみにコストとして使用するカードの合計レベルはぴったり4でなければならない。
俺は手札からレベル1のマウスとレベル3のランツェを墓地へ送った。
そして、コストとして使用した二枚と、元々墓地にあった黒猫をサポートエリアに召喚。
これで更に三回の攻撃が可能だ。
「死霊将軍? 《霊騎士ガイスト》では……ない!?
それは私の知らない英霊だと言うのですか!」
「あぁ。だからハナコのサポートでも連携攻撃にはならない。
そうとは気付かず、さっきの攻撃をガードしたのが運の尽きだったな。
四回目。リーダーに攻撃!」
「そういう事でしたか……。
MIKA受けなさい!」
ガイストの鎌がMIKAの持つマイクスタンドを真っ二つに両断する。
本体には当たっていないが、MIKAのHPは4000まで減少した。
ひょっとして、マイクも体の一部なのか?
「五回目。リーダーに攻撃!」
「守護召喚!」
「六回目。リーダーに攻撃!」
「守護召喚!」
残りの攻撃は全て防がれてしまった。
器用な事にガイストは守護召喚されたアイドルの服だけを斬って退却させる。
見た目のかっこよさとは裏腹に、ロリコンから変態に進化してるな。
おかげで、俺はマリアとミスティに何度も罵倒されたが、詳細は割愛させてもらおう。
「《死霊将軍ガイスト》の能力は《霊騎士ガイスト》と異なる点が三つ有るって言ったよな。
今から三つ目を見せてやるよ」
「無意味ですよ。あと三回の攻撃で三点のダメージを与える事は不可能です。
次のターンに私がリーダーへの攻撃を一回で止めれば、その能力は使用できない。
その後は全ての攻撃を防がれ、敗北を待つだけ。
あなたは計算を誤ったのです」
「計算を誤ったのはそっちさ。
ダメージ七点までは手札を温存するべきだったな。
《死霊将軍ガイスト》の自動能力を発動!」