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第百三話 「最強!? アイドルデッキ」

 《AGL48》━━通称アイドルデッキ。

 特定のユーザー層を狙った特殊なテーマのひとつだ。

 全てのカードが天使の姿をした美少女で構成されている。

 見た目は天使だが、種族が《アイドル》となっているのが特徴だ。

 これらのカードはエンジェルブースターと呼ばれる特殊なブースターパックにのみ収録された。

 このブースターには《AGL48》以外のカードは収録されていない。

 これだけでデッキが組めると言うのがウリのひとつだ。

 美少女カードしか入っていないと言う特殊性が話題となり、発売当時の人気は凄まじかった。

 一パックに六枚入りで三百円と言う強気な価格設定にも関わらず、初回八百万パックが数日で市場から姿を消した程だ。


 収録内容は全四十七種類と少なめなのだが、コレクター泣かせなブースターだった。

 一パックに一枚だけイラスト違いのパラレル仕様カードが入っていて、それが通常仕様のカードと同じく全四十七種類もあるのだ。

 中でもSR(スーパーレア)のパラレル仕様は数十パックに一枚しか手に入らない貴重品である。

 シングルカードの初動価格が二万円を超えていたのは、流石の俺でも少し引いたくらいだ。


 《AGL48》と言うユニット名なのに、ブースターの収録枚数は四十七種類。

 一種類足りないのには訳がある。

 ブースターパックと同時期にテーマソングを収録した音楽CDまで発売されたのだ。

 実際に歌っているのは四十八人じゃなくて、二人組なのだが、おそらく予算の都合だろう。

 このCDの初回版には強力なPRカードが付録として封入されている。

 これが四十八枚目のユニットだ。

 当然、全国のプロデューサーさんたちは同じCDを四枚購入したそうだ。

 俺の知り合いの大学生曰く、同じCDを四枚買うだけで揃うのは良心的だとか……。

 まぁ、そいつはパラレル仕様のカードだけでデッキを組んだアホなので、感覚が狂っているとは思うが……。


「プロデューサー? アイドル?

 何よそれ? どういう意味なの?」

相棒(クンペル)が私の事をプロデューサーと呼ぶのですよ。

 残念ながら、言葉の意味は私にも分かりませんがね」

「悪い、マリア。

 俺も上手く説明出来そうにない」


 この国にはテレビが存在しないのだから、アイドルだって存在しない。

 テレビを知らないマリアに、この特殊な職業を説明するのは難しいだろう。


「どうしました? あなたの先行ですよ」

「ん? あぁ、悪い。

 ちょっと、予想外なデッキだったから戸惑っちまった」


 ジャスティスのリーダー《力天使(ごりおしアイドル)AYA》のHPは6000。

 AP4000の《七不思議(セブンワンダーズ)ハナコ》がAYAを倒すには二回の攻撃(アタック)が必要となる。


 運良く先行を取れたとはいえ、このターンに出来る事はほとんどない。


「俺はマナコストを①支払い、《ファントム オブ キャット》を……リーダーエリアに召喚(コール)!」

「ほう……」

「えっ? どうしてリーダーエリアに!?」

「これでいいんだよ。ターンエンドだ」


 リーダーエリアに黒猫が召喚され、ハナコが墓地(ドロップエリア)へと送られた。

 マリアが疑問に思うのも仕方がない。

 一ターン目はサポートエリアにユニットを召喚するのが基本だからな。

 しかし、ここでサポートエリアに召喚した場合、次のターンでハナコがダメージエリアに送られてしまう。

 実質、先行を譲る事になるが、それでもハナコをダメージエリアに送る事だけは避けたかった。

 ハナコはガイストの必殺技能力(フェイバリットスペル)を最大限に活かす為の重要なコンボパーツだからな。


「良い判断ですね。

 ですが、そのような遠回しな戦法が、私に通用すると思ってはいけませんよ」

「通用するさ。少なくともそんなロマンデッキには負けない」

「まるで私のデッキを知っているかのような物言いですね。

 これを知っているのは数名だけの筈なのですが……」


 確かに《AGL48》と言うテーマだけでは、デッキを特定する事は不可能だ。

 《AGL48》には複数のレベル4ユニットが存在し、それを中心としたいくつかの軸がある。

 だが、ここにジャスティスの情報が加わる事で、答えはひとつに絞られる

 彼は全ての属性を扱う南カトリア最強の符術士。

 そして《AGL48》に全ての属性のカードを参照するレベル4のカードは一種類しかない。


「まぁ、いいでしょう。

 私のターン! ドロー&マナチャージ!

 私はマナコストを①支払い、サポートエリアに《癒しの大天使(ナースアイドル)RIE》を召喚!」


 チェック柄の衣装の上に白衣を羽織った天使が召喚された。

 彼女の右手にはマイクではなく、注射器が握られている。

 大天使なのにレベル1である所を無視すれば、かなりベタなキャラだな。


「AYAでリーダーに攻撃!」

「はいっ! プロデューサー!

 私は死ぬまでアイドルであり続けたい!」


 やはり、あのマイクで殴ったりするのだろうか?

 ……と思ったら、AYAはその場でアカペラで歌い始めた。

 なるほど、アイドルらしい攻撃だ。


「何なのよ? この変な歌……」

「《AGL48》テーマソング『天使ちゃんロックンロール』……電波ソングだ」

「でんぱソングって何よ?」

「何よ? と言われても、こう言う意味不明な曲としか……」


 全国のプロデューサーさんがプロモカードの為に、一人四枚購入したCDの収録曲である。

 よく覚えていないが、同じ単語をひたすら繰り返す歌詞だったと思う。

 題名はロックンロールだが、かっこいいギターソロなどは一切ない。

 ちなみにカップリングは『大天使様音頭』となっている。


「フーッ! フギャンッ!」


 電波ソングに何らかの恐怖を感じた黒猫は威嚇をした後、ダメージエリアへと送られた。

 人間以外にもダメージを与えるとは恐ろしい歌だ……。

 そして、空席となったリーダーエリアに《七不思議(セブンワンダーズ)ムスター》が召喚された。


「ターンエンドです」

「俺のターンだな。ドロー&マナチャージ!」


 二ターン目先行。俺のターン。

 ここで数値の高い能力なし(バニラ)ユニットがリーダになるとはツイている。

 このターンで二点のダメージを与えて、一ターン目のロスを取り返す!


「サポートエリアにハナコと肖像画を召喚! リーダに攻撃!」

「きゃーっ、AYAこわーい」


 骨格標本(ムスター)が歩いて近づくと、AYAは棒読みの悲鳴をあげて、ダメージエリアへと消えていった。

 攻撃していないように見えるが、一点には変わりない。

 ジャスティスのリーダーエリアに緑髪の眼鏡っ娘天使が召喚される。


「《|智天使《現役国立大学生アイドル》RUBY》の特殊登場時能力(エントリースペル)で一枚引きます」

「ドロートリガーか。もう一回、リーダに攻撃!」

「きゃっ! 私は本を読んでいただけなのに、どうしていじめるんですか……」


 RUBYもAYAと同じく、泣きながらダメージエリアへと消えて行く。

 手札を増やされたのは少し痛いが、レベル1のユニットなら一回の攻撃で倒せる。

 これでダメージは逆転。理想的な動きと言えるだろう。


 三体目のリーダは《人造天使(メイドロボ)METAKO》か。

 メイドの癖にエプロンの下は共通のチェック柄衣装なのはRIEと同じだな。

 適当なのか拘っているのか……よく分からん。

 METAKOはサポーターの属性によってAPとHPが変動するユニットだ。

 赤・青・緑属性ならAPが、白・黒属性ならHPが、サポーターの数×1000上昇する。

 次のターンで二ダメージはほぼ確定か……痛いな。


「ターンエンドだ」


 二ターン目後攻。ジャスティスのターン。


「私はマナコストを②支払い、サポートエリアに《純粋なる天使(おこさまアイドル)EMA》を召喚!」


 ジャスティスはお人形を持った小さな女の子を召喚。

 サポートエリアに緑属性のユニットが召喚された事により、メイドロボのAPが7000まで上昇する。

 これにより、ムスターが一撃で倒せる事が確定した。

 だが、レベル1のユニットを二体召喚されるよりはマシか。


「EMAの起動能力を発動!

 RC(リバースコスト)を①支払い、EMAを休息状態に(レスト)します。

 そして、手札を一枚墓地へ送り、山札から二枚引きます」

「なっ!? いいのか?」

「問題ありません。これが最善手です」


 ジャスティスの手札は六枚。

 手札の上限の五枚を超えている為、エンドフェイズには手札を一枚選んで捨てなければならない。

 だと言うのに、攻撃回数を減らしてまで手札が増える能力を使用した。

 これではエンドフェイズに捨てる枚数が増えるだけだ。

 そこまでして切り札を引きたいと言う事か。


「では参りますよ。リーダーに攻撃!」


 メイドロボの歌う電波ソングで骨格標本が倒され、黒猫がリーダーエリアに召喚された。

 《ファントム オブ キャット》は山札から《霊》のカードを一枚選び、手札に加える事が出来る特殊登場時能力(エントリースペル)を持っているが、コストが重いと言う欠点がある。

 山札からガイストをサーチしておきたい所だが、今は手札にレベル1ユニットが一枚もない。

 この状況で能力を発動させると、次のターンでサポーターを補充する事が難しいな。


特殊登場時能力(エントリースペル)の発動はなしだ」

「私は手札を二枚捨てて、ターンエンドです」


 お互いにダメージ二点の同点で迎えた、三ターン目先行。俺のターン。

 サポーターを増やして三回の攻撃をしても、AP3000の黒猫ではこのターンに一点しか与えられない。

 俺は《七不思議(セブンワンダーズ)キンジロー》をリーダーエリアに召喚。

 これならAP7000で二回の攻撃が可能だ。


「リーダーに攻撃!」


 キンジローが背中に背負った薪を右手に掴むと、先端から光が伸び、薪はビームサーベルへと進化した。

 ビームサーベルが振り下ろされ、メイドロボは真っ二つになって爆散……っていいのか!?

 一応、設定上はアイドルなのに爆発しちゃったよ!?

 メイドロボの爆死に唖然としている間に、次のリーダーが召喚される。

 翼が一枚しかないのが特徴的な《片翼の天使長(伝説の初代センター)MIKA》。

 これは俺の旧友がよく使っていたユニットでもある。


「ふふふ……これでの勝利が決まりました。

 私はMIKAの自動能力を発動します!」

「来やがったな……電波CDのプロモカード」

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