運命の一撃
俺は限界を超えた速度でアスカの元へ駆けつけ、アスカを抱いたままその場から出来るだけ離れようとしたが、間に合わず爆風に巻き込まれてしまった。俺のHPバーがだいたい1割減少していくのを確認できた。俺に抱かれているアスカのHPバーに変化はない。よかった、アスカは無事だったようだ。
巨大オークとは比べ物にならないほどソイツはでかかった蜘蛛のような外見に、無数の手足が生えており、6つの赤い目で俺たちを見下ろしていた。そして不気味な奇声と共に、白い息を吐き出していた。
すると、その息を浴びたリーダーであるシンラが突然床に倒れた。俺の場面に映っているステータス画面を確認すると、HPバーの横に麻痺を表す稲妻のマークが表示されていた。
「気をつけろ!そいつの息には麻痺効果がある!!」
俺はシンラをボスの攻撃範囲外に非難させると、解毒剤を飲ませた。「ありがとう。」と一言お礼を言った後
「一時撤退だぁー!皆戦闘から離脱!!」
と声を張り上げ撤退命令を出した。俺も命令に従おうとボスの部屋からの離脱の試みようとした。が、出来なかった。いや、しなかったのだ。それは後ろから聞きたくない叫び声が聞こえたからだ。
「おい!そこの奴危ないぞっ!!一人で突っ込むなんて無謀だぞ!!一事撤退するんだ!」
俺は背中に嫌な空気が走った。もしかしたら・・・。と思っても振り返ることが出来なかった。固まった首を無理やり動かした先にあったのは、最悪といってもよい光景だった。
「アスカ!逃げてくれ!!」
ボスに一人で立ち向かっていったアスカに、ボスの攻撃が迫っていた。
アスカは体を捻って攻撃を数ミリ単位でかわすと、ボスの弱点と思われる胴体にある複数の大きな斑点模様の部分に連続攻撃を浴びせた。
さすがに倒せはしなかったが目に見えてボスが弱ったのが確認できた。ボスは体中から煙幕を噴出し辺りを白く包んだ。突然、その中から複数の手が驚異的なスピードでアスカに攻撃を仕掛けてきた。
煙幕を出した瞬間、嫌な予感がしていた俺は、ボスが煙幕に包まれたくらいからアスカの元へと走っていた。その甲斐あって間一髪でボスの攻撃をアスカから防ぐことに成功していた。
だが、すべての攻撃を捕らえきれなかったせいで、腕の数本がアスカのもとへと届きアスカのライフゲージを減らした。減っていく体力。HPバーが3分の2を下回ってもなお体力は減り続けている。
「アスカッー!!!!!」
アスカのHPバーは危険を表す赤色へと変化した。減っていく速度は遅くなっているが、まだ止まる気配はない。怖くなった俺はアスカの体力を見るのをやめ、アスカを抱いてその場から離脱した。
この出来事はわずか数秒のことだったが、何時間にも感じられた。
アスカの体力を見ると、数ミリ単位で残っていた。脱力しそうなったが、気を入れ直し出口のドアまで移動し、ドアを開けようと手を触れた。だが、ドアは堅く閉ざされ開かなかった。
きっと、ボスがこの部屋から出てくるのを恐れ、ドアを内側から開けられないようにしたんだろう。
徐々にボスはこちらに向かってくる。回復アイテムは使用することが出来なくなっている。アスカはボスの攻撃を擦っただけで体力が亡くなってしまうだろう。
俺は覚悟を決めるとアスカを床に下ろし、ボスの前に立ちはだかった。足の震えが止まらない。剣を抜くと両手でそれを持ち、ボスとの距離を一気に縮め、そのままの勢いで強烈な突き攻撃を放った。
ボスも反撃してくるが、攻撃が鈍くなっているおかげで前のような素早さではなかった。
だが、いくら前より遅いといっても、驚異的な速さなのには変わりはなく攻撃が次々に体を掠っていく。その度に少しずつHPバーが減っていくが、無理やり視界から外し、一撃一撃に集中した。
俺の攻撃は次々に当たり、ボスも弱ってきているのが確認できた。ふと視界をHPバーに合わせると体力がレッドゾーンに突入していた。
俺は一旦間合いを取ると、次の一撃で終わらせようと剣を腰の位置に構えた。もしこの一撃で倒せなかったり、途中の反撃が当たってしまったら体力が尽きてゲームオーバーになってしまうだろう。
だが、接近戦に持ちこんでも、勝機はまずないことは言わなくても分かるだろう。倒すためには俺の全力の一撃を弱点と思われる斑点に当てるしかないのだ。
ふー。と深く息を吐く。高鳴る心臓を落ち着かせ、体制を低くして剣を構える。ボスの腕が2本、頭上から迫ってきた。
俺はそれをバックステップでかわすと、一気にボスのもとまで走っていった。途中何本も腕が攻撃してきたが、それが俺に当たることはなかった。
ボスまであと2m、一気に距離を縮めようと飛んだ俺に、最後の腕の攻撃が迫ってきた。空中では身動きがとれずボスの攻撃は俺に当たろうとしていた。が、ボスの腕は俺に当たる前に床に転がった。視界を横に移すと、そこには剣を握ったアスカがいた。
「行っけぇーカイト君!!」「任せろ!おりゃゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺は剣を強く握り、この1撃に全力を注いだ。そんな俺の頭上からの縦切りは、ボスの斑点の部分をとらえていた。辺りに沈黙が走る。ボスは口から緑色の液体を撒き散らすとその場に倒れ、青いポレゴンの破片となって砕け散ったのだった・・・