File3 吹奏楽部 連続殺人事件 【前編】
――二年前
『菜凪!死なないで!』
『いやだ、もう離して……』
『菜凪!!』
『……どうして、この世は絶望に満ちてるんだろう?』
それが、最期に交わした会話だった。
「せーーーんぱーーーい!?」
――現在
楠杏子こと、山澄楠杏子は、後輩の言葉で意識を現在時空へと取り戻した。
「あっ」
「先輩、どうしたんですか?」
「ち、ちょっと……妹のことを考えててな。エウラ、今は何の話なんだ?」
「コンクールです」
蘭花エウラ。彼女はサックス奏者だ。一方の楠杏子はパーカッション。いわば、打楽器だ。
「……であるからにして、今年のコンクールは」
部長の風之舞真夜は、コンクールについて熱弁を振るっていた。
「……それより、妹のこととは?」
「私な、一昨年にひとつ下の妹、亡くしてるんだよ」
「ええぇッッ!?」
つい、エウラは声を上げてしまった。驚きに満ちた声は、真剣に話を聞く人たちを、冒涜するに等しかった。
「ちょと!そこうっさいわよ!」
「あっ、す、すみません」
真夜に厳しく、ふたりは注意されてしまった。
「……さて、では練習!頑張りましょう!」
「「はい!!」」
真夜の言葉が終わると、個人での練習が始まった。
「では、楠杏子先輩!また」
「あ、待って!これ食うか?」
「わぁ!ポッキーの新作!!」
「これ食って、練習頑張れよ」
「はーい」
ふたりは別れ、それぞれの練習場所へと着いた。
一見すれば、平和な音楽室。
しかし、すぐにここは地獄へと豹変してしまうことを、この二人含め、誰も知る由もなかった。
――夢都市
その頃、新聖市の隣にある市。夢都市では、ひとりの少女が駆け回っていた。
「はっ……!はっ……!はっ……!」
(新聖市に、ルシカの目撃証言…!?)
その理由は、『ルシカ』の目撃情報があったからだ。彼女は、駅前で情報通の女の子と落ち合う。
「奏愛ちゃん!本当にルシカいたんですか?」
「あ、マウカちゃん!」
紅逆奏愛。
マウカが魔法少女だと知っている、数少ない人物のひとりだ。彼女は電車の切符を手渡す。
「はやく!新星高校近くだって!」
「……え?隣市!?」
奏愛に連れられ、マウカは新聖市の駅へと急行した。
(……ルシカ!アイツが犯罪者に、怪物の卵を植え付けている……張本人!)
ルシカは正体不明のいわば、謎の怪物だ。人の形をしているかすらも怪しい。
そして、最近はルシカの手下が、事件を起こしている現象が多発。ルシカの追跡をしていた。
だが、向かったその先で、壮絶な事件が起こるとは、この時、知る由もなかった。
――二年前
山澄楠杏子には妹がいた。山澄菜凪。優しい女の子で、頭もよく、音楽が大好きな女の子だった。
『……へへっ、いつかお姉ちゃんを超えてやるんだ』
『頑張れ〜』
菜凪もパーカッション奏者で、ドラムやティンパニのプロを志していた。
将来は音楽家。家族の皆が、そして誰もが思っていた……はずだった。
だが、二年前、菜凪は自ら命を絶った。何が決め手になったかは分からない。
だが、姉妹喧嘩の直後に、菜凪は怒って家を飛び出した。そして、どういう訳か、この新星高校の音楽室で焼かれた遺体が発見されたらしい。
当時、誰もいなかったことから、迷宮入りしたのだが、楠杏子はずっと後悔していた。
……もし、あの時、喧嘩しなかったら、彼女は生きていたのだろうか?
……あの時、力付くで止めていれば、死ぬことはなかったのか。
――現在
ドンドンジャ~ン!パンパンジャ~ン!!
楠杏子は、ドラムセットを演奏していた。その苦しい過去を置き去りにするような、大きな音を打ち鳴らす。
だが、バスドラムの中に仕掛けられた、謎のケースが怪しく光る。踏み鳴らされる度、そのケースは点滅するが、楠杏子が気付くはずもない。
その刹那……
「……?」
楠杏子の足元が紅に光る。
「なに?」
その時、彼女の足元、バスドラムの内部に、怪しげなケースが隠されていたことに気付いた。
……演奏に集中していて、全く気付けなかった。
紅い光が、彼女の中で走馬灯を呼び起こす。
『おねーーーちゃーーーん!!!!』
(……あっ、菜凪。私、死ぬね……)
しかし、その走馬灯は、押し寄せる爆炎に、無慈悲に打ち壊されてしまった。
(寂しくないよ。私も一緒に……逝くからね)
妹の死を受け入れ切られなかった楠杏子。逃げようともしなかった。
(天国でも一緒だからな、菜凪……)
逃れ得ぬ轟炎の死を受け入れた瞬間、灼熱の閃光が身体を焼き尽くす。身体から、あるはずの感覚が消えた。
ドォォオオウーーーン!!!!
刹那、練習室のひとつが爆発した。窓ガラスが粉々に砕け散るほどの威力だった。
「ここは、もう少し強く……」
エウラが、先輩から教えを乞うていたその時、激しい爆音が耳を劈いた。
「……!?」
「えっ?何?何!?」
皆の狼狽する声を背に、エウラだけが教室を飛び出した。それを止める声を無視して、ただ爆発音の元を辿った。
「な……煙!?ゴホッ……ゴホッ……!!」
爆発元は、小さな空き教室だった。確か、中には3年生の楠杏子がいたはずだ。
「な!楠杏子先輩!!」
辺りを黒く染める煙の中で、エウラはただ大きな声で呼びかける。彼女の名前を呼ぶも、返事はない。
もしかしたら偶然、いなかったのかもしれない。
『よっ!エウラ!どうした?』
こう言ってくれることを祈った。祈りつつも、彼女は手に怪しげな光を貯める。
「シェロ・ウェーブ!!」
エウラが詠唱したのは、水魔法の一種。彼女も魔法少女だったのだ。
「……お願い!お願い!」
部屋から爆煙と爆炎が消えていく。消火された部屋は焼けた室内が顕になる。
粉々になった楽器やピアノの破片を見るに、爆弾などの人為的なものなのだろう。
散り散りに砕け散ったドラムの前に、黒い影がぽつりと佇む。それが人体なのだと、エウラは知る由もない。
「……誰も……いない」
エウラは儚き幻想を抱き、部屋の中にある"黒い影"へと歩み寄る。
「!?」
だが、焼けた財布がエウラの目を奪う。
「……え?」
その財布を構わず、エウラはこじ開ける。だが、財布を開けたことを、彼女は永遠に後悔することになる。
「………山澄楠杏子?」
焦げを避けた名前からは、大好きな先輩である彼女の名前が出ていたのだ。
そして吹き飛んだ先には、ポッキーのパッケージが無残に横たわっていた。
(………新作のポッキーの袋!?)
「せん……ぱい……」
となると、この焼けた遺体は、山澄楠杏子ということになる。彼女は焼けた亡骸へ、謎の光を当てる。
「せめて……綺麗に……」
掠れる声で詠唱を唱える。
「シェロ・クリニカル」
すると黒焦げに焼けた遺体が、少しずつ皮膚を取り戻す。しかし死体を生き返らせることはできず、完全に損壊した遺体を直すことはできない。
「楠杏子せんぱぁぁい……!!」
エウカは遺体の損壊を和らげたにも関わらず、楠杏子の亡骸を抱きしめ、大きく泣いた。
「うわぁぁぁああああ……!!」
その慟哭は、どこまでも深く響いた。
その時だった。
「蘭花!いるか!?」
「……エウラちゃん」
カゲラと夕多の声が響く。ふたりも凄惨な現場へと到着した。
「まさか、蘭花も爆発に巻き込まれた!?」
「……ま、まさか」
カゲラと夕多は懸念していた。エウラが見当たらないのだ。
まさか、先ほどの爆発に巻き込まれたのだろうか。
だが、その懸念は杞憂で終わる。
「……蘭花!?」
「うううっ………!!!!」
(……誰の遺体だ!?)
だが、エウラの抱える少女の死体が、次に目に入った。
(この教室に爆発を誘発するものはない。つまり、こんな大爆発は故意で起きたもの……)
「これ、殺人事件だよね」
夕多が問いかけると、カゲラは「ああ」と頷いた。
空き教室で起きた……吹奏楽部員殺人事件。この事件の展開は、避けられぬ悲劇へと進んでいく。
読んでいただきありがとうございました!
魔法と頭脳で解決する探偵の物語を、もっと応援していただければ幸いです。
ぜひ、読者の皆さんも推理して、楽しんでいただければ幸いです。
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