貴人
剣術とは、ただ避けて攻撃するだけのものではなかった。遠くから振り下ろされる剣は誰でも防御できる。しかし、接近戦ではどうか?剣が目の前にあれば、相手の速度が自分より遅くとも、その剣を避けることは非常に難しいだろう。
自分の足りない点を技術で補う。それが剣術だった。力が弱い者が自分より強い相手を制圧する柔術のように。熟練した剣術は当然、防御するのがはるかに難しく、攻撃を効率的に防御して反撃する方法や、相手の力を利用して首を斬る技術など、様々な剣術が存在した。
ベルから教わった技術は、ほとんどがモンスターを相手にする時のもので、人を相手にする剣術はほとんど学んでいなかった。クルーノもまた、それほど剣術に才能がなかったが、ルワンダは違った。
クルーノとの対練を見て、ルワンダは何を思ったのか、僕をレツアの元へ連れて行った。そしてそこでルワンダが見せた実力は、僕の予想をはるかに上回っていた。ルワンダの剣術は、明らかに僕のように我流で学んだものではなかった。まだ気力や速さは僕に及ばないようだが、剣術はそれを十分に補うことができ、おそらく僕と戦っても勝率は五分五分だろう。もちろん魔法を使えば僕が勝つだろうが、これでは面目が立たなかった。
「剣術を少し教えてください。」
「剣術…?」
「トーナメントで恥はかきたくないんです。」
「私が見るに、君は魔法使いの道へ進むべきだ。近衛隊にも興味がないんだろう?いくら努力しても、どうせ1位にはなれないし、2~3位も難しいだろうに…」
「あ、知らないから教えてくれないだけじゃないですか?トーナメントで1位になったっていうのも嘘でしょう?」
「はは…まったく、この子は。出てきなさい。今日、崩れた上下関係を立て直さなければならないな。」
母ロエンは、剣術の修練をする私たちを見て心配した。「農業でも学んでくれたらいいのに…」
ベルはしばらく教えた後、ピルには剣術の才能がないと言った。剣聖ピエールの名にちなんで付けた名前なのに、なぜこうなのか分からないと言い、いくつか使える技を見せて、これだけは完璧に身につけるよう強調した。
一つ目は、バックラーを上げて上半身(特に頭と首)を斜めに隠す防御姿勢。
もし相手が攻撃準備のために剣を上に振り上げたら、バックラーで相手の剣の軌道に割り込んで圧迫し、剣自体を押しやりながら、相手のがら空きの下半身を攻撃する剣術。これがクルーノとの対練で大きな役割を果たしたのだが、バックラーでクルーノの剣を押しやりながら、剣を上から下に太ももを突く方法だった。ベルは、剣先を防いだ時は防御に成功したと油断せず、追撃に注意するよう強調した。
二つ目は、バックラーでの攻撃。
ここからは、モンスターを相手にする時には推奨されない対人技術の始まりだった。相手が剣を伸ばしたり、突き合わせている時に、バックラーで相手の剣を打撃して、握っている手に衝撃を与えたり、剣を落とさせたりする。あるいは、突いてくる剣を打撃して衝撃を与えたり、手首自体を攻撃したりもした。直接経験してみると、剣を攻撃しているにもかかわらず、衝撃量が相当で、手に痺れるような感じがした。この時重要なのは、剣先ではなく剣の中央部分を打つことで、三回ほど許せば、もう耐えられないだろうと思われた。
三つ目は、剣と剣が衝突する瞬間、あるいは突き合わせている状態で、バックラーで相手の剣を押さえつけて制御する方法だった。
互いの刃が接触して止まっており、力が感じられる状態で、バックラーを相手の剣の上に乗せてじっと押さえつける。いくら相手が下段攻撃をしようとしても、結局は僕の足を攻撃するためには剣を持ち上げるか、あるいは足を攻撃しなければならないが、僕の足を攻撃しようとすれば、足を曲げて避け、がら空きになった相手の頭を攻撃すればよかった。
四つ目は、バックラーを上げて剣を遮りながら斬るのだが、単に防いで攻撃するのではなく、相手の攻撃を受け流し、相手の剣が流れていった反対方向に剣を回して攻撃する方法だ。
これはかなり難しかったが、攻撃を受け流すと同時に剣を反対側に回して攻撃することが、水が流れるように自然につながることが核心だった。
最後の五つ目は、相手の攻撃を防御すると同時に攻撃する技術。
ベルはこの技術を剣術の華と表現した。重要なのは、相手が入ってくるのを見てから入っては遅いということだった。相手の筋肉の動きを一つ一つ観察し、また相手の攻撃タイミングを計算して、バックラーを突き出すと同時に攻撃することだった。
「君は魔法も使うから、わざわざこんなことをする必要はないと思うが、万に一つでもこの技を使うことになったら、必ず相手に致命傷を与えられるという確信がある時にだけ使うべきだ。そして、使ったら、防御に失敗した時に腕を差し出してでも致命傷を避ける覚悟が必要だ。」
「使うなということですね。」
「そうだ。この技は本当に動物的な感覚が必要だ。生まれつきの才能が必要だということだ。そして、相手もこの技を使うために君を観察しているという事実も、絶対に忘れるな。」
「どこか痛いのか、ピル?」
「昨日、父さんと剣術の稽古を少し激しくやったから。」
「うん…そうなんだ…。今日、冒険者ギルドに行ってみない?」
ルワンダの父親は、昔モンスターとの戦いで戦死した。
「ギルドはなぜ?」
「え?聞いてない?今の学年から、年に一回依頼を解決しないといけないんだ。難易度は関係ないけど、高いほど評価が上がって、奨学金に影響するんだよ。ピルは何か買いたいものない?」
「うーん…エゴソード?」
「え??」
確かに、まだ残っているイベントがあった。みすぼらしい鍛冶屋に入ると、突然僕に話しかけてくるエゴソードと伝説の鍛冶屋。「ふぅ…。それが残っていたか。」
冒険者ギルドは思ったよりずっと大きかった。人も大勢いて、せいぜい一人か二人が僕たちを見て終わりだった。依頼は巨大な掲示板を埋め尽くすどころか、何枚も上に重ねて貼られており、一番下の依頼は古くなって色あせていた。
「ものすごい数だな…」
エオス城の人口はおよそ4千万人を超えていた。しかし、冒険者ギルドは東、西、南、北にそれぞれ一か所ずつ、そして真ん中の学校の近くに一か所、合計5か所しかないので、人が集まるのは当然だった。
ベニス村近くのゴブリン部落討伐 50ゴールド
バイラン薬草採集 一本あたり2ゴールド
スパラの樹液 1リットルあたり10ゴールド
マルカンの花 35ゴールド
プルターミの根 20ゴールド
タイラン村近くのゴブリン部落討伐 80ゴールド
「ゴブリン、ノール、ゴブリン、またゴブリンか?」
よく見ると、依頼書の下の部分に日付とパーティー名が書かれており、さらにその下に別の日付とパーティー名が書かれていた。2つのパーティーが挑戦して、討伐できなかったということか?なぜだろう?ゴブリンは最も難易度の低いモンスターの一つと言える。森にいる部落は言うまでもなく、洞窟にいたとしても、火をおこして煙でいぶせば、結局は飛び出してくる。ゴブリンさえ討伐できない村が維持されるはずがなかった。
「あそこには突然変異モンスターがいるかもしれない。」
突然変異モンスター、あるいはレアモンスターと呼ばれる。人間の中にも特別に優れて英雄という称号を得た存在がいるように、モンスターの中にもそのような奴らが存在した。本でしか見たことがないが、異名がつくほど強力なゴブリンも存在するそうだ。そんな強力なモンスターに出会った時、モンスターが遅ければ逃げればいいだけだが、モンスターが自分より速ければ、生存確率は幾何級数的に下がる。そのため、命が惜しい人々なら、3人以上で行動することを好んだ。つまり、あのゴブリンの群れは、3人を軽々と片付けられるほどの規模である確率が高いということだ。
「簡単そうには見えないな。ルワンダは去年どうしたんだ?」
「去年は下水道の掃除をしたんだ…。うう、二度とやりたくない。今回はピルもいるから、ゴブリンくらいは討伐できると思うけど、どう??」
「ゴブリンは一人死ぬのにちょうどいいパターンだからな…」
「え??ゴブリンが?」
日が暮れるまで見ていたが、これといったものは見当たらなかった。
「どうやらアカデミーの近くだから、僕たちがやれるようなものは全部取られちゃったみたいだ。南へ行って、もう一度見る方がいいんじゃないか?あちらは最近、人魚の方と貿易もしているらしいから、仕事も多いと思うけど。」
「あ、そうだね!明日はどうせ太陽の日だから、もう少し早く行ってみよう。」
「うん。」
依頼を見て、気が重くなった。ゴブリンさえ思うように倒せない初心者。それが今の僕の現実だった。命は一つしかなく、いつどこで強力な奴が飛び出してくるか分からないのに、むやみに突撃することはできなかった。
これが最大の問題だ。ゲームでは、初心者狩り場と言えば、1~2レベルのモンスターが出てきて、主人公の成長を助けた。しかし、現実では?山に登れば、リスやシマリス、あるいは鹿も出てくるが、運が悪ければ熊や虎に会うこともあるのだった。「もしモンスターを倒す仕事を受けることになったら、人数を増やさなければならない。」ルワンダと二人きりでやるのは、あまりにもリスクが大きすぎた。
ひとまずはレナ。レナの実力はよく知っている。水属性の魔法使いで、かなり精巧な魔法の腕を持っていた。そして…レナ…レナ…クルーノ?知っている奴がいなかった。いや、知っている奴らはいるが、命が懸かった仕事に誰でも連れて行くわけにはいかなかった。少なくとも邪魔にはならない実力者。クルーノしか思い浮かばなかった。
剣士二人に魔法使い一人、そして大量殺戮魔法と剣術が使える僕。
そうして四人。
悪くない。
「よし。ひとまず考えておこう。」