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第八十三話 セレスティア劇場[序幕]

朝の空気がまだ澄んでいるうちに、城の大広間は既に静かな緊張感に包まれていた。高い天井に反響するのは、足音と衣擦れの音だけ。玉座を中心に、重鎮たちの姿が次々と揃いはじめていた。海軍部元帥サミエル将軍を筆頭に将官たち、陸軍部元帥 サマール将軍とその配下。第一騎士団からは厳格な面持ちのロマノフ団長と副団長エルザル、第二騎士団からはイグナス団長と副団長マイエル、第三騎士団からはシリウス団長とセレスティアの父であるカイゼル副団長が静かに列をなしている。さらには、魔道院総長ハロルドと各科責任者、貴族院の有力者たち、そして枢機卿や宮廷の側近までもが一堂に会し、まるでこの国の今を象徴するような錚々たる顔ぶれだった。


そんな中、ゆっくりと扉が開くと、そこに現れたのはセレスティアとレオナルド。二人は正装に身を包み、玉座の前まで進み出てから揃って深く頭を下げた。


「アルドレア陛下、並びに本日ご列席の皆様にご報告申し上げます。わたくし、セレスティア=サフィールと、レオナルド=ハルシュタインは、先日正式に婚約をいたしました。」


声を揃え、清らかにそう告げると、場に軽いざわめきが広がった。陛下はそれでも落ち着いた声で応えた。


「その報告はすでに受けておる。だが今日この場を設けたのには、もう一つの理由がある。先日、婚約の報告を受けた際に、セレスティア嬢から“皆に話をしたいことがある”と言われてな。加えて、レオナルドには軍から第一騎士団への転属を命じた。本人は異論なくこれを受け入れたが…その前に語るべきことがあると。セレスティア嬢よ、今ここで話すがよい。」


名を呼ばれると同時に、セレスティアはゆったりと一礼し、前へと進み出た。その姿はまるで舞台に立つ俳優のように堂々としていて、けれどその瞳には、怒りでも激情でもなく、むしろ静かで確かな意志の色が宿っていた。


「皆様、本日はお忙しい中、私のような若輩者の願いにお時間を頂き、誠にありがとうございます。本日、陛下にこのような場を設けていただいたのは、私から一つだけお願いがあったためです。」


そう前置きした後、彼女は少し間を置いてから、ゆっくりと会場を見渡した。


「まず最初に、これから私が口にする言葉や表現が、万が一にも不敬にあたるものであったとしても――どうか、それを理由にして罰したり、非難なさったりしないというお約束を頂戴できますでしょうか?年若く、経験の浅い小娘の話と一笑に付していただければと思っておりますが、こうしてこの場に立つだけでも、胸が苦しいほどの緊張と恐れを抱いております。私の口から飛び出す言葉が時に未熟で乱れることがあったとしても、どうか広いお心でお聞き届けいただけましたら幸いです。」


その謙虚な表現の裏に確かな覚悟を感じ取った者も多かったのだろう。場は一瞬、静寂に包まれた。


陛下はやや渋い顔で「…よい。不敬には問わぬ。だが、あくまで穏便にな」と言葉を添えたが、その表情には既に一抹の不安が滲んでいた。

セレスティアは深々と一礼し、柔らかな笑みで応えた。


「ありがとうございます。では、皆様にお話をさせていただきますわね。」


次の瞬間、その声に宿る雰囲気ががらりと変わった。凛とした芯のある響きに、空気が引き締まる。


「本日、私が話させていただきたいのは、“軍部と騎士団”、そして“貴族院”の皆様との間に、長きに渡って根を張ってしまっている“確執”についてです。後方支援局として、これまで幾度となく緊急事態に際して連携の困難さを痛感してまいりました。特に“確執”を理由に、支援要請が滞る事態が続いた場合、最も犠牲を被るのは――何の罪もない民なのです。」


ざわめきが走る中、セレスティアは言葉を続けた。


「本来であれば、この話は私個人のために使うべきではありませんでした。しかし、今回この確執により、レオナルド様は軍を離れ、騎士団に所属せねば婚姻が認められないという理不尽な状況に置かれました。ですから、ここでこの問題を個人の名のもとに公に問わせていただきます。」


そう言って一歩下がると、背後の幕がゆっくりと引かれ、白い布を掛けた映像装置が現れた。


「これより、ささやかな“切り札”をお見せ致します。どうか、驚かずにご覧くださいませ。」


同時に、結界が張られ、対人攻撃・対物破壊・毒物無効の魔法障壁が会場を包む。


「念のため、皆様の安全を確保しております。では…まずは第一騎士団、ロマノフ団長様に宛てた映像から参りましょうか。皆様、こちらの幕をご覧くださいませ。さあ――“劇場”の幕開けでございます。」


その瞬間、会場の空気は緊張に満ち、誰もがその“切り札”の内容に息を呑んだ。



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