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第六十六話 厄介な相手

再会というものは、記憶の中よりもずっと温かく、心に沁みるものだった。ナイラの姿を見つけた瞬間、懐かしさと安堵が胸いっぱいに広がった。思わず笑みがこぼれ、まるで時間が巻き戻ったかのように自然と言葉が弾んだ。クロードを紹介した後は、お互いの近況を語り合いながら、空白の時間を埋めるように話に花を咲かせていた。

その途中、セリーヌ侯爵がクロードに向かって、「ギラン帝国でお目にかかった際とは、また印象が違いますね」と話しかけた。その言葉に少し気になって、「あの…ギラン帝国では“氷の貴公子”と呼ばれていたとか。まさか、自国の外交官の前でもそんなふうに?」と、軽く冗談めかして尋ねたのだった。

ところが、それに割って入ってきたのは思いがけない人物だった。

「クロードは、学園時代に誰に対しても冷たかったから、そう呼ばれてたんだよ」と、場の空気に似つかわしくない軽い調子で口を挟んできたその声の主は、ギラン帝国の第一王子――ジークフリート殿下だった。まさかの登場に驚きを隠せないまま、クロードが眉をひそめて低く言い放つ。

「……なぜ、あなたがこの国に?」

その冷ややかな声音は、普段の彼からは想像もつかないほどだった。するとジークフリート殿下はどこ吹く風といった様子で、「いやね、お前が大切にしている従姉妹殿が、どんな娘か見ておきたくてな。わざわざ側近の任を断って帰国したほどだから、顔くらいは拝んでおきたくなるのが人情というものだろう?」と、軽口を叩いてみせた。

その言葉に、クロードは何とも言えない表情で口を引き結び、「もう顔は見ただろう。帰ってくれ」と、まるで塩でも撒くかのような拒絶ぶりで応じる。

しかしジークフリートは引き下がらない。「まだ紹介されていないようだからね。ギラン帝国第一王子、ジークフリートだ。お嬢さん方、お名前をうかがってもよろしいかな?」

この場の空気を壊さぬよう、ナイラが一歩前に出てカーテシーを一つ。「セリーヌ侯爵家の娘、ナイラと申します。お目にかかれて光栄です。」

私もそれに倣い、少し深めにスカートをつまんで会釈した。「サフィール伯爵家の娘、セレスティアでございます。光栄に存じます。」

するとジークフリートは、にやけた笑みを浮かべて、「うん、二人ともそれぞれ違った魅力があって可愛らしいね。で、クロードの大切な従姉妹殿――あなたはどうやってクロードを落としたのかな?」などと、まるで玩具を転がすような言い方をしてきた。

その軽率な物言いに、胸の奥がかっと熱くなる。だが、ここは冷静に切り返さなければ。

「恐れながら申し上げますが、“落とす”とはどういう意味でしょうか?わたくしはデビュタントのパートナーをお願いしただけで、それ以上の関係を貴殿が詮索なさる理由が分かりかねます。それとも、クロード様が恋しくて追いかけて来られたのでしたら、素直にそう仰ってはいかがでしょう。わたくしを巻き込むのはご遠慮願いたく思います。」

はっきりとした口調でそう述べると、ジークフリートはしばし目を見開いた後、やがて口元を吊り上げて、「さすがは十四歳にして、他国の名門学園を飛び級で卒業した才女だ。なるほど、クロードの好みはこういうタイプなのか」と、やや含みのある視線をこちらへ向けた。

その視線に思わずそっと壇上を伺うと、なんと陛下と目が合ってしまった。しかも、少しばかり苦味を含んだ表情をされている。ああ、しまった……。

私はナイラのドレスの裾をそっと引っ張り、囁くように言った。「……ちょっと気分が悪くなったみたい。」

ナイラはすぐに察して、「まぁ、それはいけませんわ。控え室でお休みになった方がよろしいですわ」と演技を合わせてくれる。

「クロード様、ゆっくりと再会をお楽しみ下さいませ。わたくしは少し休ませていただきますわ。殿下、ごきげんよう」

「クロード様、セレスティアのことはお任せ下さいませ。殿下、御前をお許し下さいまし」

二人で軽く頭を下げ、その場を離れた。広間の喧騒が遠ざかると、廊下に出た私たちは顔を見合わせて、ふっと笑いが漏れる。笑いながら控え室へと向かっていると、背後から呼び止める声が響いた。

「セレスティア様」

振り返れば、そこにはエリオットの姿があった。ナイラに紹介すると、彼も控え室まで護衛として同行するとのこと。異存はなく、三人で部屋へと入った。

予想では、エリオットはすぐに広間へ戻るのかと思っていたのだが、彼は控え室の中で立ったまま待機すると言う。仕方なく、皆で腰を下ろし、侍女に頼んでお茶を淹れてもらう。

湯気の立つ一杯を手に取り、口に含んだ瞬間、ようやく身体がふっと緩む。

「……なんだか疲れちゃったわ」

「本当に。帰りたくなってきたくらい」

そんな冗談を言っていると、侍女が小声で報せてきた。「ティアナ王女がお越しになられました」

ほどなくして、ティアナが控え室に現れた。「セレスティア、久しぶりね。ナイラは昨日ぶりかしら?」

「ご紹介しますね。こちら、後方支援局で私の補佐をして下さっているエリオット=デスペンダー様」

「そしてこちらは、学園時代の同級生であり、親しい友人のティアナ王女ですの」

互いに軽く礼を交わし、自然と話の輪が広がる。その最中、侍女がティアナにそっと耳打ちした内容に、私は顔をしかめた。

「セレスティア様の今宵のパートナー様と、ジークフリート殿下がお越しだそうです」

「……えぇっ」と露骨に嫌な顔をした私を見て、ティアナが愉快そうに笑う。

「無粋な殿方の登場ね。父上からも、あまり接触させないよう言われているの。『女子同士の楽しい話に男が加わるなんて、礼を欠くことですわ』って、そうお伝えして」

「パートナー様とはどうするの?」

「今は……クロード様と一緒にいるとまた絡まれそうだし、もう少し距離を置いておこうかと」

「そうね。今は女子の時間を楽しみましょう」

三人で再び笑い合いながら、たわいもない話に花を咲かせた。まるで、嵐のような訪問者など最初からいなかったかのように――。


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