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第六十話 報告の席にて

重たく静かな空気の中、私の声だけが王宮の会議殿に響いていた。


玉座の間には陛下をはじめ、第一から第三までの騎士団長、陸軍部・海軍部の将官たち、魔道院の総長や各科の責任者、それに枢機卿、宮廷側近たちの姿がずらりと並ぶ。中央には玉座があり、その階下の壇上に立つのが私――後方支援局局長としての初の公開報告の場だった。


「この度、後方支援局に第三騎士団副団長より緊急支援要請が入りました」


一礼し、報告の口火を切る。


「カーデナル領・タルス渓谷にて魔獣討伐中、予測を大きく超える規模の魔獣が出現。第三騎士団単独では対処が困難と判断され、第二騎士団および軍部への応援要請がありました。同時に、現地ではすでに多数の負傷者が発生し、治療班の魔力も尽きかけているという報告を受け、後方支援局として直ちに第二騎士団・陸軍部を転移装置にて現地へ派遣いたしました」


広間に小さなどよめきが走る。転移装置の初運用をこの規模で行ったことに対する驚きと評価だろう。


「転移装置の安全性、運用時の指揮体制構築のため、私自身も部下と共に現地へ同行。初動対応として、負傷者へのポーション支給、治癒士への魔力譲渡を行い、後は各部門に引き継ぎ、私は魔獣異常発生の要因調査に着手いたしました」


「調査の結果、魔力の“溜まり”が魔獣を引き寄せていたと判明。その中心には、隆起した魔石による異常魔力反応が確認されました。対処として、後方支援局の資材部より空の魔石を即座に補填転送。魔力を吸収させることで魔石は岩塊化し、魔力溜まりは沈静化。これにより魔獣の出現も収束いたしました」


私はそこで一息つき、視線を静かに巡らせる。


「なお、後日現地調査部による追加調査の結果、問題の魔石には“自ら動いた可能性”があるとの見解が示されております。これが何らかの意思を有するものであったかは現段階では断定できませんが、今後は魔道院を含む複数部門と協力し、詳細調査を進める所存です」


深く一礼し、言葉を締める。


「以上、後方支援局局長、セレスティア=サフィールよりの報告でございます」


静寂。だが、それは一瞬で破られた。


「魔獣が闊歩する中、どうやって調査を行ったというのか」


声音は低くも鋭く、広間の奥から響いた。陸軍部の元帥、サマール将軍である。厳格で知られる古参の軍人だ。


私は微笑みを忘れず、けれどきっぱりと答えた。


「申し訳ありませんが、その点は企業秘密でございます。すでに陛下より“他言無用”とのお墨付きを頂いておりますので」


サマール将軍の眉がわずかに上がったが、それ以上の追及はなかった。


「では、魔力譲渡の技術については?」


「はい。今回の対応で使用したのは、試験的に作成されたリストバンド型魔道具です。装着することで、譲渡時の魔力衝突や魔力酔いを防ぐ設計となっております。受け手の魔力量が限界の8割を下回らない限り起動しない仕様にしておりますので、犯罪的利用は困難です。魔道院からも正式に開発許可を頂いております」


魔道院の重鎮たちがうなずくのが見えた。


「ポーションに関しては?」と別の将官が問う。


「魔道院から支給される標準品と同じものを使用しております。ただし、当局には薬魔法と魔獣毒素に精通した者がおりますので、成分の調合割合に若干の調整を施しております。差異があるとすれば、その経験則に基づく微調整ゆえです」


的確な返答を重ねる中、やや異質な声が上がった。


「では、今回の件で創造魔法の存在が他国に知られる危険があったと思うが、対策はどうしているのかね?」


声の主は、魔道院総長・ハロルド=ヴァスティア。白髪混じりの長髪を丁寧に束ねた厳格な老魔導師で、いわば“知の番人”である。


「その件につきましては、すでに陛下のご協力のもと、各国境の通行許可所に“感謝状”を名目とした魔道具の設置が完了しております」


「……感謝状?」


「はい。国境の主要門の上に設置したその魔道具には、“創造魔法および国家機密事項の国外持ち出し禁止”という忘却魔法と消去魔法が込められております。結果、国境を越えた時点で該当記憶と関連文書は自動的に抹消されます」


「……文書も?」


「はい。文書にはあらかじめ“置き換え機構”を施してあります。削除された内容の代わりに、1000ページにも及ぶ淑女のマナー本から適切な文節を抽出・挿入する仕様です。不自然さはありません。むしろ一部では“礼儀作法に富んだ国”として評価が上がっております」


「……なぜ淑女のマナー本なのか」


「使用していなかった在庫が手元に多くございましたので……」


その場に、微妙な沈黙と数名の咳払いが重なる。


けれど、陛下が小さく笑みを浮かべると、その空気は自然と解けていった。


「他にも疑問点はあろうが、後方支援局への問いはここまでとする。他部署からの報告も控えている。第三騎士団団長、説明を」


アルドレア陛下の一声で場が動いた。まるで、これ以上話を深めれば国家機密が雪崩のように溢れ出すことを見越したかのように。


私は心の中で深く頭を下げた。


――ありがとうございます、陛下。


報告という名の綱渡りが終わった。けれど、これが“後方支援局の存在が公に刻まれた”瞬間でもあった。緊張と重責の、その余韻が背中にじっとりと残る――そんな一日だった。

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