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第五十六話 転移の門を越えて

転移装置の前に整列した第二騎士団の面々は、未だこの新たな技術に半信半疑の面持ちだった。だが一瞬の躊躇も許されない緊急時である。私は前に立ち、一人ひとりに目を向けながら声を発した。


「皆様、これよりタルス渓谷へ向け転移します。初の本格使用となりますが、安全はすでに確認済みです。第一陣は私と共に。第二陣、第三陣も続けて送りますので、動揺なく任務に集中して下さい。」


転移の部屋の扉を開け、奥に設けられた装置起動室からサミエルが「転移起動、準備完了」と告げる。私は短く頷き、周囲に言葉を投げた。


「転移、起動!」


次の瞬間、淡い光に包まれた室内は一瞬にして霧散し、視界が開けた時、私たちはもうタルス渓谷の第三騎士団駐屯地の一角に立っていた。驚きに固まる団員たちを押しのけて、「はいはい、ぼんやりしないで。次が控えていますから」と声をかけ、私とエリオットは真っ先に前線本部へと向かった。


天幕に入ると、第三騎士団の団長と副団長の父たちが険しい表情で地図と向き合っていた。私の姿を見た団長は目を見開き、「セレスティア嬢?…まさか、本当に来たのか。連絡してまだ間もないはずだが……」と声を詰まらせた。


「転移装置での対応です。後方支援局の手配により、第二騎士団の第一陣をお連れしました。この後、現地調査部、医療部隊が順次到着予定です。」


状況説明を終えるとすぐ、私は負傷者のもとへと向かった。父の無事な姿が確認出来ただけで今は良い。医療天幕の中は想像以上の混乱と緊迫が漂っていた。外にも手当を待つ者が溢れ、ポーションすら底を突きかけている様子だった。


私はすぐにミオナから預かった特製ポーションを配りながら、残る重傷者の状況を確認し、治療班の魔力量が限界に達していることを知る。


「代替策を使いましょう。魔力譲渡、私が行います。」


その言葉に、周囲は騒然とした。魔力譲渡は熟練の治療師でも容易に行えるものではない。下手をすれば、受け手が魔力酔いを起こしたり、魔力衝突による拒否反応を引き起こす。だが、私はリストバンド型の魔道具を装着し、一人ずつ、必要な分だけ正確に魔力を渡していった。


「大丈夫ですか?気分は?」


「はい…先ほどまで意識が朦朧としていたのに、今はすっかり回復しました…ありがとうございます…ですが、どうしてこんなに正確に…」


「この魔道具のおかげですよ。後でうちのスタッフが使い方を説明しますから、安心して下さい。」


治療班の目が一斉に私の手首に巻かれたリストバンドに注がれた。彼らはただ感謝の言葉を口にしながらも、明らかに希望の光を見出したような表情を浮かべていた。


その後、第二陣としてサマイエル率いる現地調査部が転移により到着し、地形・魔獣の痕跡分析に即座に取り掛かった。第三陣ではミオナと薬療部門の補助隊が到着し、本格的な現場支援体制が完成する。


今はまだ、戦いの只中。だが、確かに私たちは前線に支援の力を届けるために、歩み出したのだ。胸の奥でまだ震える不安を押し込めながら、私は自らの役目を忘れぬよう、空を仰いだ。


(お父様、どうかご無事で無理のないように――)


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