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第五十五話 はじめての緊急指揮

局長として正式に後方支援局に着任してからというもの、日々は慌ただしくも充実していた。各部門の動きも軌道に乗りつつあり、連携体制や情報共有の仕組みも整ってきたとはいえ、これはあくまで“平時”の話である。


それが“緊急時”となった瞬間、局内の空気は一変した。


「――第三騎士団から緊急連絡、局長宛です!」


慌ただしく駆け込んできたヒュレイの声に、私の心臓が跳ねた。第三騎士団。それは、父が所属している騎士団だ。思わず立ち上がり、通信機を受け取り耳にあてる。


「……セレスティアか。まだ着任して間もないところ、すまないな」


落ち着いた、けれど疲れをにじませる父の声。


「思っていた以上に魔獣の数が多い。いま、南部のカーデナル領――タルス渓谷で討伐中だが、手に負えない状況だ。応援を要請してくれ。第二、そして軍部へもだ。怪我人も出ている。治療班はすでに魔力切れを起こしつつある」


「……お父様、お怪我は!?」


「私は無事だ。……セレスティアが持たせてくれたあれらの魔道具のおかげかもな。だが、仲間は……いまのところ死者はいないが、このままでは分からん。すまんが、一刻を争う。頼んだぞ」


その言葉を最後に、通信は切れた。


胸がざわついた。心の中では“すぐ行きたい”と叫ぶ私がいる。けれど、私はいまや一局の責任者。局長として冷静に指揮を取らなければならない立場だ。


「大丈夫、大丈夫……お父様は大丈夫……」


そう自分に言い聞かせながら、拳を握り、そして自らの頬を軽く叩く。こんな時こそ、落ち着いて動くことが求められる。


すぐに会議室に緊急招集をかけ、各部門の責任者と実動部隊の要となる局員が続々と駆けつけてくる。


「皆さん。いま、第三騎士団副団長である私の父より、緊急の支援要請が入りました。場所はカーデナル領、タルス渓谷。魔獣が予想を超える規模で出現し、第三騎士団単独では対処が難しく、応援要請を第二騎士団および軍部に行いたいとのこと。また、現地ではすでに多数の負傷者が出ており、治療班の魔力も枯渇しかけているとの報告です」


言葉を選びながら、しかし迷いは見せず、的確に現状を伝える。


「私はこれより、王城へ向かい陛下に事態を報告し、正式な応援通達をお願いして参ります。その間、後方支援局は以下の通り動いてください――」


◇ ミオナはサミエルに連絡を。タルス渓谷への転移装置の調整を最優先で。

◇ エリオットは第二騎士団と軍部への情報伝達ルートを確保、必要であれば陛下からの通達文を携えて即時移動を。

◇ 各部門責任者は、即応班に連絡。準備が整い次第、局内待機とすること。

◇ 通信用魔道具(イヤホン・携帯型魔法端末)は全員常備。情報の一元化と記録はノアとダルトンが管理。


「これは、後方支援局として初の“実地出動”となります。全員、責任を持って行動をお願いします」


その言葉を最後に私は会議室を後にし、急ぎ王城の陛下のもとへ向かった。


陛下の執務室では、すでに側近と軍務担当の高官たちが顔を揃えており、私は今起きている事態を改めて報告した。


「……了解した。第二騎士団と軍部への応援通達はすぐに出す。だが、そなたが直接行くというのは――」


陛下は苦い表情で言葉を濁した。無理もない。私はまだ若く、また局長としても新任である。それでも、今回は譲れなかった。


「陛下、転移装置の初運用となるため、現場の把握と装置の安全確認、そして指揮系統の立ち上げのためにも、私自身が同行いたします。同行にはエリックとエリオットの二名を付け、危機管理体制も整えております」


しばし沈黙が流れたが、最終的に陛下は静かに頷かれた。


「……ならば、必ず戻れ。そなたの働きには大きな期待がかかっておるのだ」


その言葉を背に、私は再び局へ戻り、エリックとエリオットに同行の依頼を伝えた。二人とも即答で「当然」と言ってくれたことに、思わず胸が熱くなる。


荷物の最終確認をしながら、私は何度も何度も、心の中で父の無事を祈った。


――大丈夫。まだ誰も死んでいない。


でも、その“まだ”が“すでに”にならないように。


私がやれることはすべてやる。


今度は、私の番だ。

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