第四十八話 創造の夜と、受け入れの
ふたりの新たな仲間――ミオナとシオン――が加わり、ようやく後方支援局の初期メンバーが一通りそろった。
まだ正式な活動には至っていないが、既に水面下では忙しなく準備が進められていた。軍部や騎士団から寄せられた実情に基づく聞き取り調査の記録。それを三人――セレガル、アレクサ、タイラー――がきれいにまとめ上げ、分厚い資料として私の手元に届いたのが、昨日のこと。
資料を読み込むうち、頭の中にいくつもの「必要なもの」のイメージが浮かんできた。どこでも水が出せる道具。魔獣に対して反応する仕掛け。体温調節が出来る装備。人の手を煩わせない工夫。思いついたら止まらない。
明日、いやもう今日になるのか――魔道具職人に試作を依頼する予定だ。けれど、実物があった方が話は早い。ならば、作ってしまおう。魔道具の細工師としてではなく、“創造魔法”の持ち主として。
夜の静けさの中、自室の執務机でひとつひとつの構造を組み立て、素材を調整し、思い描いた形へと具現化していく。心の奥底から湧き上がる好奇心と使命感に突き動かされ、私は時間も忘れて没頭していた。
ふとカーテン越しに差し込む光に気付き、時計を見れば――明け方。
はぁ、と肩を落とす間もなく、腕と足が鉛のように重たくなっているのに気づいた。さすがに眠っていないと身体が言うことを聞かない。とはいえ、今は休んでいる暇もない。
軽く、回復魔法を身体にかける。疲労を一掃、とまではいかないが、ぼんやりしていた頭もクリアになり、足取りも軽くなる。まったく、便利な力だなと自分でも思いつつ、制服に着替え、通学カバンを肩に掛けて学園へと向かった。
授業はいつも通りだった。特に違ったことはない。クラスメートと笑い合い、ささやかな日常の会話を交わし、昼には談笑しながら食事を取り、放課後になると、一気に現実に戻されるような感覚が訪れた。
私は学園の会議室へと足を運んだ。
昨日と同じ部屋には、すでに複数の人が集まっていた。ミオナの姿もあり、その隣には、小柄で少し太めの男性が、緊張した面持ちで立っていた。彼が、噂の魔道具職人――サタール工房のサミエル氏なのだろう。
他にも、騎士団からはエリオット、エリック、サマイエル、レオナ、エリーナ。そしてハルシュタイン侯爵までもが今日も参加。セレガル、アレクサ、タイラー、そしてシオンも席についていた。
「お待たせ致しました」
私は一礼しながら、正面に立つ。
「そちらはミオナさんご紹介の魔道具職人、サタール工房のサミエル様でしょうか? わたくし、このたび後方支援局の局長に任命されました、王立学園高等部特別科一年、セレスティア=サフィールと申します。本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます」
礼をすると、サミエル氏は恐縮したように深々と頭を下げた。
「サ、サタール工房の魔道具職人、サミエルです。こちらこそお声がけ頂き、あの……場違いな気もしますが、どうぞよろしくお願い致します」
額には玉のような汗が浮かび、緊張で身体もこわばっている。だが、その瞳には確かな技術者としての誠実さが感じられた。
「早速ですが、先日まとめて頂いた資料をもとに、昨晩いくつかのデモ品を試作いたしました。ご確認いただき、製作可能かどうかご判断をお願いしたく存じます」
私は通学カバンの中から、ひとつの布製のポーチ――だが、これはただの入れ物ではない。“マジックバック”だ。
中から取り出すと、思わず皆の視線がそのバッグに集中する。
「皆さん、気にして欲しいのは中身です。こちらをどうぞ」
テーブルに並べられた試作群。
その瞬間、ハルシュタイン侯爵が目を丸くして言った。
「ちょっと待て。そのバッグ……なんだ? 一体、何を使ったんだ?」
「これはマジックバックです。容量はこの部屋程度、内部時間は停止しています。便利ですよ」
「そんな代物があるとは聞いておらん!」
「あとで詳しくご説明しますので、今はデモ品の確認をお願いできますか?」
そう前置きした上で、私は各試作品を紹介していった。
「左から――魔獣が侵入すると電流が流れる防犯ロープ。次に、侵入を検知して発動する信号花火。続いて、咄嗟の攻撃を防ぐ緊急用の防御シールド。野外活動時のために、水を無限に生成しつつ濾過する無限水筒。そして寒暖差に対応するマント。最後に、足元の蒸れを防ぐ通気靴。今のところ、これだけ試作してみましたが……いかがでしょう?」
皆が静かに、テーブルに目を向ける。
最初に沈黙を破ったのはサミエル氏だった。
彼は試作品をひとつ手に取り、じっと目を凝らした。
「これは……これは凄い……もしこれが実現できたら……いえ、どうやってこれを……あ、ここは魔石を小さく……で、接合はこうして……うわあ、これも……!」
感嘆と驚嘆の入り混じった声を上げながら、彼はデモ品に夢中になっていった。
私はその様子に胸をなで下ろす。ほっと息を吐きながら、ふと周囲を見ると――皆の顔が凍りついたように固まっていた。
……あ、そういえば創造魔法のこと、言ってなかった。
「皆さん、ごめんなさい。これまでお話してなかったのですが、わたくし、光・風・水の三属性持ちでして……加えて、“創造魔法”も使用できますの。こちらの世界とは別の、産まれる前の記憶も持っていて……今回の試作品は、“あったらいいな”を形にしただけなんです」
言葉にして初めて、自分がどれほど異質な存在かを再認識した。皆が引いたらどうしよう、そう思いながら、つとめて平静を装いながら続ける。
「ですから……こんな局長のもとで働くのが嫌だと思われたなら、遠慮なく仰ってくださいね」
少しだけ、声が震えてしまった。
その瞬間だった。
エリオットが突然、何も言わずに私を抱きしめた。
「……嫌になんかならない。びっくりしただけだ」
……えっ、なぜこの流れで抱きしめるのかは正直わからない。けれど、その温もりと、言葉の真っ直ぐさに、胸がぎゅっとなった。
次にエリックが、苦笑しながら言った。
「驚いたけど、納得もした。十三歳で陛下に目をつけられたのも、事情があるんだろうとは思ってたよ。けど予想外すぎて、頭が理解するのに時間がかかっただけだ。さすが我らが局長だ。誇りに思うよ」
それを皮切りに、皆が同じように温かい言葉をかけてくれた。
そして――
「おい、いつまで抱きしめておるつもりだ。もうよいだろう」
とハルシュタイン侯爵がエリオットを剥がしてくれた。
ありがたや……。
こうして、私たち後方支援局は、また一歩、絆を強くしたのだった。




