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第四十七話 人材の価値と選定

「では、次の方をお呼びください」

私がそう声をかけると、扉が再び開いた。入ってきたのは、先日の説明会で壇上に二番目に上がって自己紹介をしていた騎士科の男子生徒だった。

緊張している様子もなく、どこか軽い調子で名乗った。

「高等部騎士科三年、タジル=ディクエルです。僕は、騎士科の中でも順位は下の方ですが、やる気は誰よりもあります。是非後方支援局で働きたいです。お願いします。」

その言葉自体に問題がある訳ではない。だが、口調に緊張感がなく、まるで“受かれば儲けもの”くらいの軽さがあった。表情も曖昧で、真剣さが感じられない。

私はいつも通り、穏やかな笑みを浮かべながら質問を投げかけた。

「では、先日の説明会を聞き、自分ではどのような役割が出来るとお考えですか?具体的に教えていただけますか?」

タジルは、少し考えるような素振りを見せてから、あっさりとこう答えた。

「力仕事は任せてください。あとは、言語の習得は公用語はなんとかですが、卒業までには頑張って取得します。走るのも得意で、人と臆せず話せるところも、自分の魅力だと思ってます。」

……ふう、と内心でため息が漏れる。

「では、質問いたしますね」

私は語調を穏やかに保ちつつも、明確に問い返した。

「力仕事と仰いましたが、どの程度の重さが持てますか?馬で例えると、何頭分? 走るのが得意とのことですが、馬より速く走れるのですか? “人と臆せず話せる”ことが魅力と仰いましたが、それは誰の評価ですか? もし100人中100人がそう評価するなら、その署名を提出してください。そして、公用語はこの局で必須です。現時点で話せないのであれば、面接はここで終了です。お疲れ様でした。どうぞ、お帰りください」

はっきりと、だが冷静に言い切った私の言葉に、場の空気が凍る。

タジルは明らかに不満を募らせ、口を尖らせた。

「そんな、無理なことばかりを基準にされても困ります。ちゃんと僕自身を見て、評価してほしいです」

その言葉に、私は揺るぎなく、きっぱりと答えた。

「タジル様。評価とは、明確な土台と実績、そして論理の上に成り立つものです。“頑張ります”という曖昧な熱意では、後方支援局の活動においては通用しません。申し訳ありませんが、タジル様は今回は不適合と判断します。ご退室ください」

言い終わると、ちょうど遅れて到着したエリーナが扉の前に立っており、茫然自失となったタジルを静かに促して外へと連れ出してくれた。

室内に一瞬の沈黙が落ち、誰ともなく視線を交わしながら、ため息が漏れる。

その後も、タジルと似たような生徒が続き、熱意はあっても中身が伴わず、公用語を話せない、活動内容を理解していない、要点を掴めていないなど、判断に至るまで時間もかからなかった。形式的な面接の体は保ったものの、実質的には次々と不採用を伝える流れが続く。

ようやく、6人目で光が差し込む。

「高等部経営科二年、シオン=レジスターンと申します」

姿勢を正し、明確な声で名乗ったその少年は、今までの空気を一変させた。彼は続ける。

「現在、学園では領地経営や政治的制度、法律に関して学んでおります。並行して個人で商会の運営にも関わっており、主に経理と法務に力を入れています。説明会で後方支援局の業務を伺い、特に財務と申請、また法的書類の整備において、自分が力になれるのではと考え志望いたしました」

ここまで話すだけで、私は確信した。ようやく本物が現れた。

「ご自身で、経理面でどのように後方支援局を支えることができるとお考えですか?」

彼は即座に答える。

「まず、局の運営においては予算の厳格な管理が必要です。例えば、軍部や外交団が支援活動に派遣される際の予備金として、保険的な名目で一定額を先に徴収し、それを局内ではなく備蓄・緊急用資金として管理します。そうすることで、局の会計は平常運転を維持しつつ、想定外の支出にも迅速に対応できます。また、法的な分野においては、他国との支援協定や合意文書の草案作成など、条約や備忘録の整備に関してもお力添えができるかと思います」

なんというか……実務が見えている。

エリオットとサマイエルが無言で頷いた。後方支援局に足りない、明確な“数字と文章”を扱える人材が、まさにここにいる。

「魔法属性と魔力量についても教えて頂けますか?」

「はい。属性は土のみで、魔力量は低程度です。実用的な魔法使用はしておりません」

魔法が弱い? 構わない。この人材に求めているのは剣や魔法ではなく、“支える力”なのだから。

質問は以上となり、私は最後に穏やかに伝えた。

「他に質問がなければ、シオン様。成績表と推薦状をお出し頂き、返答は後日通達いたしますので、しばらくお待ちください。本日は、ありがとうございました。お気をつけてお帰りくださいね」

シオンは深々と頭を下げ、背筋を伸ばしたまま退室した。

再び静けさが戻る会議室。その沈黙を破ったのは、サマイエルだった。

「……是非、数字に強い人間は必要ですね。うちの隊のほとんど、予算の収支とか計算できないし」

「ほんとそれ」と、エリオットも苦笑しながら頷いた。

実際、騎士団は筋肉と忠義に満ちた連中ばかりで、帳簿を開くと眠気が襲ってくるというのはあるあるだ。

その後、面接者は2名続いたが、冒頭の受け答えだけで判断がついた。公用語すら満足に話せないようでは、業務どころではない。丁重に断りを告げ、面接を終えた。

全ての面接が終了した後、私たちは改めて顔を突き合わせて話し合いを行った。

最終的に、専門科三年のミオナ=バーク、そして経営科二年のシオン=レジスターンの二名を、後方支援局初期メンバーとして迎えることに決定した。

魔獣と薬の研究者、そして法と数字の支え手。

それぞれが異なる専門分野で、確かな力を持つ逸材だった。

こうして、後方支援局に新たな力が加わった。 静かに、だが確実に、理想へ向けた歩みが始まっていく。


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