第四十六話 選ばれる者たち
学園で行われた説明会が終わり、表向きは一段落したように見えたものの、事態は静かに、しかし確実に動き出していた。
説明会後、学園長から私のもとに連絡があった。どうやら学園側としても、今後の進路先として後方支援局を正式な選択肢として認定したいとの意向らしい。優秀な生徒たちにとって進路選択は重大事だし、それが後方支援局への道なら、こちらとしてもありがたい話だった。ただし、現段階ではまだ準備期間中の仮組織に過ぎず、正式な始動は私が飛び級を終えて学園を卒業してからとなる。その旨を丁寧に伝えた上で、学園側の意向も汲み、「準備期間中の初期メンバー」という扱いであること、高等部三年生以上の生徒から優先的に選出したいことを伝えた。
また、先日の説明会で壇上に上がった生徒たちの中から、数名が参加希望の意思を示してくれたとのことで、2日後の放課後、学園の会議室をお借りして、面接を行うこととなった。
私はすぐに、騎士団側の後方支援局メンバー5名――エリオット、エリック、サマイエル、レオナ、エリーナに連絡を入れた。生徒たちを迎えるにあたり、多角的な視点で適性を見極める必要があるため、彼らの参加は不可欠だった。
そして、面接当日。
予定された時間より少し早く、学園の会議室に入ると、既にエリオットとエリック、サマイエル、レオナの姿があった。皆、それぞれに資料に目を通しながら、真剣な面持ちで準備を進めている。エリーナは任務の関係で到着が遅れるとのことで、途中参加となる旨が伝えられていた。
そして、部屋の扉が開き、堂々とした足取りで入ってきたのは――何故か、ハルシュタイン侯爵だった。
「今日は見学だけのつもりだったのだがな。まあ、暇だからな。こういうのも面白いだろう?」と、いつもの飄々とした調子で笑いながら椅子に腰を下ろす。
……まぁ、来てしまったなら仕方ない。
私たちは面接官として横一列に席に着き、各自の手元には、評価表と記録用の用紙を用意していた。評価表は以下の項目で構成されている。
初見での印象(良・可・不可)
話し方の明瞭さ(良・可・不可)
話す内容の論理性と具体性(良・可・不可)
面接官の私見(自由記述)
適性あり(事務向き・現地調査向き・両方)/適性なし
評価はできるだけ主観と基準を分ける形式とし、フェアな判断が下せるよう工夫している。予備分も用意していたが、まさか侯爵に渡すことになるとは……予備ってやっぱり必要ね。
そして、最初の面接者が案内されてくる。
部屋の空気が一瞬、緊張に包まれた。
入ってきたのは、凛とした眼差しを持つ少女だった。細身の身体に丁寧に整えられた制服、肩までの栗色の髪を結い、真っ直ぐに私たちの前へと歩み出る。
「高等部専門科三年、ミオナ=バークと申します。魔法薬学と魔獣の研究を専攻しています。先日の説明会で後方支援局の役割の話を聞き、ぜひ、わたしも誰かのために、力になりたいと考えました。」
その声は、多少の緊張を含みながらも、芯のある静けさを湛えていた。
私は穏やかに微笑みながら頷き、問いかける。
「では、先日の説明会を聞き、自分ではどのような事が役割として出来るか、具体的に説明して頂いても良いかしら?」
ミオナは軽く頷き、一呼吸置いてから言葉を紡いだ。
「私は魔法薬と魔獣の研究をしております。この2つは私の領地で頻繁に魔獣が発生し、討伐の為の怪我人がたくさん出るため、その解決のために自分なりに学んできました。魔法薬は、現在、中程度の深さの傷であれば、ほとんど跡が残らない形での治療が可能です。魔獣の研究では、個体ごとの特性や種類、出現場所と範囲、対応すべき攻撃方法、弱点、討伐後の素材の活用方法など、多角的にまとめています。これらの知識が、後方支援局の活動――特に魔獣災害や討伐支援の分野で活用できるのではと考えております。」
彼女の話に、私だけでなくエリオットやサマイエルも静かに頷く。
「もし、魔獣の特性をさらに詳しく調査していただくようお願いした場合、現地調査にも出られますか?また、魔獣と直接対峙しての対処は可能でしょうか?」
「現地調査は、普段から研究の一環で出かけておりますので可能です。剣は扱えませんが、魔法による対処はすでに何度も経験しておりますので、一定の状況下での対応は可能です。」
その落ち着いた受け答えに、ハルシュタイン侯爵が興味深そうに身を乗り出した。
「わしからも質問だが……魔法属性と魔力量をお聞きしたい。」
「はい。魔法属性は光と火です。魔力量は、光は低程度、火は高程度となっており、全体的にはやや高程度よりの中程度の位置にあります。」
「ふむ。では、魔獣との対峙の際には、主に火属性を用いての対応だったということでよろしいか?」
「いいえ。相手となる魔獣の特性に応じて、使用する魔法を変えております。魔道具を作成する知人と共に、個体ごとの特性に合わせた装備を用意して対応しておりました。」
「……魔道具作成した人間の名前と、明日面会できるか聞いてほしい。」
「魔道具の作成は、城下にある『サタール工房』のサミエルです。明日の面会が可能であれば、どちらに伺えばよろしいでしょうか?」
「今日と同じ時間に、ここへと伝えてくれ。」
「分かりました。」
その後、特に大きな質問は出ず、私は静かにまとめに入った。
「他に質問がなければ……ミオナ様、成績表と推薦状をお出し頂き、返答は後日、正式に通達いたしますので、しばらくお待ちください。本日は、ありがとうございました。お気をつけてお帰りくださいね。」
ミオナが一礼して退出した後、沈黙を破ったのは、隣にいたハルシュタイン侯爵だった。
「――今日わしが参加して良かっただろう?」
満面のどや顔で、にやりと笑う侯爵に、私は小さくため息をつきながらも、どこか肩の力が抜けるような気がしていた。
面接は、まだ始まったばかり。 だが、着実に――未来の礎が、今、築かれていくのを感じていた。




