第四十四話 始動に向けての顔合わせ
春の気配がようやく学園の石畳をほのかに温め始めたある日、セレスティアは学園の許可を得て、後方支援局の初期メンバーとなる面々を自邸に招いた。格式ばった会議室ではなく、屋敷の応接間のひとつを使い、差し障りのない距離と親しみを持てる雰囲気を意図した準備だった。
参加者は、既に草案作成と書類整理を手伝ってくれている学園の三名――肩を傷めた騎士科三年のセレガル、そして普通科のアレクサとタイラー。それに、かつてセレスティアと共に騎士団の外交師団に同行した実務派の5人の騎士たちだ。
セレスティアは全員が揃ったのを確認すると、立ち上がり、軽く一礼した。
「皆さま、お忙しいところお集まりいただき、誠にありがとうございます。第一草案の提出を終え、本日より正式に“後方支援局”設立準備が始動いたします」
声は柔らかくも芯があり、少女の見た目とは裏腹に場をまとめる力強さが宿っていた。
「本日は、お集まりいただいた皆様の顔合わせと、現時点での役割分担、そして今後の流れについてご説明申し上げます」
騎士団の面々は慣れた軍人らしく姿勢を正し、学園の三名は緊張の面持ちで彼女の言葉に耳を傾けた。
セレスティアの背後に控えていたメイドが、手早く人数分の資料を配る。その書面には、局の目的、業務概要、初期の人員配置、そして各自の役割が整理されていた。貴族の家柄の娘でありながら、情報整理と分野分けがここまで丁寧に行われていることに、資料を手にした者たちは少なからず驚いた様子を見せた。
「現在、局の構成員は私を含めて9名となっております。内訳は、学園の生徒が3名、騎士団より5名、そして私が総括を務めます。現時点では“準備期間”としての活動となりますが、本格的な業務開始は、私が次年度に飛び級し、学園を卒業したのちとする予定です」
そう言いながら、セレスティアは視線を巡らせ、各人の表情を確かめる。皆、真剣だった。顔合わせだけでなく、士気を整える意味もこの会にはある。
「まずは、学園の皆さまの進路について。先生方には後方支援局への正式配属の意向をお伝え済みです。卒業後は局所属として活動いただく形で準備が進められております。アレクサさんとタイラーさんには、報告文の整理と記録物の作成、また各種挿絵や視覚資料の補助をお願いしたいと思います。セレガルさんについては、怪我の回復具合にもよりますが、学園の判断により所属学科を転科する可能性があるとのこと。いずれにしても、卒業後は当局に加わっていただく予定です」
三人の青年は、緊張の中にもわずかな誇らしさをにじませながら、小さく頷いた。
「次に、騎士団の皆さま。皆さまには、現地調査の先行部隊として、既にまとめられた地域資料の実地検分、ならびに支援が必要な地域のリストアップをお願いしております。もちろん、引き継ぎが済み次第の配属となりますが、その後は局の主軸としての働きを期待しております」
会議の後半では、セレスティアが丁寧に地図と統計資料を広げ、それぞれの役割がどこで、どのように機能するかを可視化して説明した。
また、外交師団に同行経験のある騎士たちは、各地の風土や文化、そして言語事情に詳しいことから、後方支援局が担う“調査と補給の橋渡し”において極めて重要な役目を負うことになる。彼らの観察眼と柔軟な対応力は、セレスティアの構想に欠かせなかった。
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【補足説明:後方支援局の概要】
後方支援局は、今後サダール王国が進める地域再編・補給活動・被災支援などにおいて、実務を担う専門部署として新設される予定である。
・主な活動内容:
1. 現地調査(被災地や支援対象地域の実情確認) 【改行】2. 資料整理・行政補助・記録作成
3. 物資輸送や緊急支援のコーディネート
4. 各国語に対応した交渉支援・通訳連携
・現時点の人員構成(準備期):
◼️学園側
- セレスティア(局総括/特別科1年)
- セレガル(騎士科3年/記録整理・戦術補助)
- タイラー(普通科3年/記録整理・文案作成)
- アレクサ(普通科3年/挿絵・視覚資料担当)
◼️騎士団所属の5名
- サマイエル(現地調査・軍事背景の整理)
- レオナ(現地調査・軍事背景の整理)
- エリオット(現地と王都との繋ぎ役・局長補佐)
- エリック(現地と王都との繋ぎ役・局長補佐)
- エリーナ(支援対象者の心理的サポート・現地住民との調整)
・今後の展望: セレスティアの卒業後、王命により正式部署として設置予定。各省庁との連携も視野に入れて準備が進められている。
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セレスティアは、会の締めくくりとしてこう付け加えた。
「この局は、ただの行政機関ではありません。支援とは、命を守り、暮らしを守る力です。私たちの役目は、それを支える“見えない盾”でありたいと思っています。小さな力でも、集まれば大きな流れになる。どうか、皆さまのお力を貸していただけますと幸いです」
静かに頷く者、真剣な眼差しで資料を握り締める者、それぞれが胸に小さな決意を宿した日だった。




