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第四十話 揺れる歯車と、わたしの在処

自由とは、何かを選ぶことだと思っていた。


けれど、今の私は――国という大きな歯車のひとつとして組み込まれようとしている。それが現実で、望んだ形ではなかったとしても、だからといって……諦める気は、ない。


創造魔法。私に与えられた唯一の“特異”。


せっかくのこの力なのだから、誰かのために使いたい。けれど、それは“他力本願”では意味がないと、私は思っている。


何もしないで、ただ助けてと言うばかりの人のために力を使うことに、私はどこか抵抗を感じてしまう。


自分で進もうとしている人、苦しい中でも足を前に出そうとする人――そういう人たちの支えでありたい。それぐらいの立ち位置が、私にはちょうど良いのかもしれない。


だから、後方支援局は“助けたいから助ける”のではなく、“共に進もうとする者を後ろから支える”場でありたい。そういう場所にしたいと、静かに願っている。



学園では、相変わらず授業が続いている。


だが、休み明け独特のぼんやりした空気はすっかり薄れ、次第に周囲の様子も変わってきていた。


後方支援局が設立されるという話は、どうやら学園の中でも静かに広まりつつあるらしい。


「局長にセレスティア嬢が就任するらしい」と噂され、その話題はごく自然に“将来の選択肢”として口にされるようになっていた。


中には、それとなく近づいてきて「構想の内容を少しだけでも」と訊いてくる者もいたが、私は微笑んでこう返した。


「そのうち正式な募集要綱が出ますので、それまでお待ちいただければと」


少しよそよそしい対応だと思われたかもしれない。でも、私が語るべきなのは“言葉”じゃなくて、“かたち”の方だ。今はまだ、土台すら固まっていないのだから。



学園の帰り道。久しぶりにナイラと会う約束をして、街角のカフェに立ち寄った。


気取った雰囲気はないけれど、焼き立てのパイと甘い紅茶の香りが店内に優しく広がっている、私たちのお気に入りの場所。


姿を見つけて手を振ると、ナイラはすぐに席を立ち、にこりと微笑んで手を振り返してくれた。その笑顔を見た瞬間、休暇中の慌ただしい日々から、ようやく解放された気がした。


手紙では一応伝えていたとはいえ、やっぱり直接顔を見て話したかった。


「進路、決めてしまったのかと思ったわ」と、ナイラは少しだけ寂しげに呟いた。


私は紅茶に砂糖を一匙入れてから、静かに口を開いた。


「うん……確かに、旅がきっかけだったのは否定しない。でもね、他国を回って思ったの。おじ様みたいに、外交で他国を回る立場って、本当に凄く重たい役目だと思うのよ」


ナイラは頷いた。


「言葉も文化も違う中で、国の代表として動くって……それだけで気が遠くなりそうで。でも、それでも尚、前に進もうとする。そういう人たちがいるの。だから、いつかナイラがその立場になったとき、私にできる形で支えられたらって。……それが、後方支援局っていう答えだったの」


ナイラは、言葉もなくしばらく私の顔を見つめていた。そして、突然ポロポロと涙を零した。


「セレスティアって、本当に……バカね」


「え?」


「だって、もっと自由に、気ままに、好きなことして生きたっていいのに……」


「……自由は、諦めてないわよ。国の中に閉じ込められてるみたいだけど、それでも私なりの自由は、ちゃんと掴んでいくつもりだから」


そう言った瞬間、二人しておかしくなって、泣き笑いのまま顔を見合わせて笑った。


こうして一緒に笑い合える時間こそが、きっと私たちの“自由”の証なのかもしれない。



その後は、甘いものをとにかくたくさん食べて、紅茶も何杯おかわりしたか分からない。お腹がはちきれそうになって家に戻ると、母と姉に開口一番「食べ過ぎ!」と叱られた。


けれど、目元の赤さに気づいたのか、姉はそれ以上は何も言わなかった。


食卓の後、母がふと聞いてきた。


「……支援局のこと、近しい方々からも問い合わせが来ているようよ。家の者として、何か答えておいたほうが良いかしら?」


私は首を横に振って微笑んだ。


「しばらくすれば正式な募集要綱が出るはずだから……それまでは“まだわかりません”って言っておいてほしいの」


母も姉も、それ以上深くは追及しなかった。ただ、「あんまり無理はしないこと」とだけ添えられた。


家族もまた、国という歯車のどこかに組み込まれている。そして私も、その中の一つ。


それでも、その歯車の中で、私は――私の意志で動く。


走りながら考えて、失敗して、また立ち上がって。


のんびりでもいい。ゆっくりでもいい。


“私らしくあること”を忘れないように。


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