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第二十九話 カイゼナル国へ

あまりにも芝居じみていて、もはや茶番というより、単なる不快な空気だけを残した“見せ物”だった。そんな後味の悪さを微かに引きずりながらも、私とナイラの旅路は、いよいよ終わりが見えてきていた。外交使節団の行程自体はまだ続くが、私たちは学園の新学期が始まる前に王都へ戻らなければならない。最後の訪問国、カイゼナルから港経由で帰国する手筈になっていた。

何事もなく穏やかに終わってくれれば――そう祈りながらのカイゼナル国への入国だったが、内心には微かな不安もあった。それでも、ナイラが隣にいるだけで心は軽い。ここまでの道中、辛いこともあったが、彼女と過ごす時間はいつも充実していたし、だからこそ今この瞬間を味わいたいと思った。未来を思い煩うよりも、今この旅の最後を大切にしよう。そんなふうに気持ちを切り替えて、馬車の窓の外を見やった。

ところが、国境を越えて間もなく、目に飛び込んできた光景はこれまでとは明らかに違っていた。どこか活気がなく、建物もくすんで見え、すれ違う人々の表情にも笑顔がない。物音すらもどこか乾いて響くようで、国そのものが沈黙しているような印象だった。最初は明るく浮き立っていた私たちの気分も、次第に言葉を失い、やがて沈黙のまま外を眺めるだけになっていた。

哀れみや同情ではない。目の前の現実を、ただ真っ直ぐに見て、心に刻みつけたかったのだ。この国の人々を救いたいと願うほど、私は傲慢ではない。救う責任があるのは、この国の王であり、政を担う者たちであるべきだ。ただ、明らかなことが一つある。国のかじ取りをする者の手一つで、民の暮らしはここまで変わるということ。もし、将来、私が国を動かす立場に立つことがあるのなら――こんな悲しい風景は決して許さない。そう、静かに誓うように拳を握りしめ、遠くに見えてきた王城を見つめた。

カイゼナル王との謁見は滞りなく済み、我々一行にはそれぞれ城内の部屋があてがわれた。治安の関係から、来賓が城下に出歩くことは禁じられており、外交団の主要人物たちは今夜、盛大な晩餐会に臨むというが、私とナイラ、そしてエリオットはそれぞれの部屋で食事を取ることになっていた。けれど、私はふと、あの町の寂れた光景と、この晩餐との間にある強烈な違和感を覚えずにはいられなかった。本当に、これほど豪奢な料理を出す余裕がこの国にあるのだろうか?

疑問をそのままに、給仕係に声をかけてみた。学生として訪れていることを伝え、この国の良いところや、おすすめの場所があれば知りたいと尋ねた。すると、返ってきたのは、どこかため息の交じったような言葉だった。

「今は……何も、ありません」

かつては観光地として名高かったレイケル湖があったという。だが、大規模な地殻変動の影響で湖は干上がり、今ではその痕跡すら残っていないそうだ。もともと生活は厳しかったが、唯一の憩いの場所すら失い、人々の心からも希望が消えたのだと。

そう聞いて、私は決意した。明日、この国の現状を自分の目で確かめに行こう。目を背けず、他国の出来事として距離を置かず、ひとつの現実として受け止めるために。

 

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