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第二十話 異国の地 サラディアータへ

今回の旅は、初めての本格的な「海越え」だった。目的地は、サラディアータ―、―真っ白な石造りの街並みが海岸線を彩る、南方の異国。サダールとはまるで空気の質すら違うような、眩しくて澄んだ空の下にある国だ。


聞けば、歴史の古い海洋国家でありながら、異文化との交流にも積極的で、王家の館にもさまざまな装飾や建築様式が取り入れられているという。

その国へ向けて、船旅は三日間。初日は――それはもう、はしゃいだ。風を受けてデッキに立ち、水平線を見つめながら「旅って素晴らしい……!」などと叫んでみたり、ナイラとはしゃぎながら甲板を走り回ったり。波の音さえ心地よく、潮の香りに胸を躍らせていたのに――


二日目の朝には、あっさりとノックダウンした。

完全に船酔いである。

どうにかごまかそうとしてみたものの、胃がきりきりとねじれてどうにもならず、とうとう自室でベッドに突っ伏した。


……こういう時、便利なものがあるのだ。さりげなく、ほんとうにさりげなく、枕の下に隠すようにして創造魔法で酔い止めを具現化。ひとくちで飲み干すと、数分後には胃のむかつきがすうっと引いていった。とはいえ、回復があまりにも早すぎれば怪しまれる。なので午後には少し落ち着いてきたふりをして、夕方には「もうずいぶん楽です」と言い張って甲板に戻り、夕陽を浴びて海風に吹かれながら旅の続きを満喫した。



ちなみにその間、エリオットはと言えば……完璧な“お目付け役”っぷりで、室内にぴったり貼りついていたのだけれど、「ゲロを吐く姿なんて、見せられるわけがない!」という乙女心から、早々に部屋から出てもらった。おかげで、魔法のことも酔い止めのこともばれずに済んだ。ふふふ……してやったり。


そうそう、今回の船には、使節団のほかにいくつかの商団も同乗していた。実は母が率いる商会の一団もその中に含まれていたらしく、どうやら母が私の旅に不安を抱いた結果、商団の渡航予定を調整し、使節団と同行させたようだった。「たまたまよ」とか言っていたけれど、たぶん違う。本当にたまたまだったとしても、それはそれで娘想いすぎる。

そんなこんなで、船旅は無事に終了。白い断崖が連なる港町に降り立った瞬間、私は目を輝かせてあたりを見回していた。サラディアータ――それは本当に、絵本の中から飛び出してきたような異国だった。街並みは石造りの建物が並び、軒先には鮮やかな花が咲き乱れ、道を行き交う人々の衣装もどこか華やか。肌を刺すような日差しでさえも、この国の一部として輝いて見えた。

あまりのまぶしさに目を細めつつ、迎えの馬車へと乗り込んだ。車内にはナイラの父上、そしてナイラ、エリオット、私の四人が座った。王城までは、ここから二日かかるらしい。途中、宿にも一泊するという。

窓の外を流れる異国の風景に心を奪われながらも、私とナイラはまるで遠足にでも来たかのようにキャッキャとはしゃいでいた。ナイラの父上は、そんな娘を眺めながら、時折とても優しげな眼差しを向けていた。その瞳に浮かぶ誇らしさと愛情が、眩しさに負けないくらいにきらきらと光っていたのが印象的だった。

一方で、エリオットはと言えば――相変わらずの無表情ぶりで、そこにいるのかいないのか分からないほど、静かに席に座っていた。まるで等身大のマネキンが一つ置かれているかのような……いや、もはや彫刻かもしれない。とにかく気にしないことにした。

道中の宿では、ナイラと同室となり、ふたりで夜更けまで語り合い、枕を抱えてパジャマパーティーのようなことまで始めてしまった。異国の宿で迎える夜。異文化の香りが漂う空間で、灯りを消してからも心が興奮して眠れず、ふたりで夢の話や恋の話を小声で囁きあった。

翌朝は、馬車に乗った瞬間に眠りこけてしまったのだけれど、それもまた、いい思い出になる。

そして――ついに、サラディアータ王国の王城に到着した。石造りの堂々たる門の向こうに広がるのは、白と金を基調とした威厳と優雅さが共存する空間だった。歓迎のセレモニーが粛々と行われ、私たちはそれぞれの部屋へと案内された。

偶然か、それとも誰かの配慮か。私の部屋はナイラの隣。嬉しくて、顔が自然と緩んだ。

……だが、そのさらに隣がエリオットの部屋だったことには、ほんの少しだけ、ため息が漏れた。


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