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第十九話 外交使節団への同行への道のり

中間試験が終わり、慌ただしかった日々もようやくいち段落した頃。学園内は、次に訪れる長期休暇へ向けて少しずつ浮き立つような空気に包まれていた。そんなある日、ナイラがぽつりと告げた。


「来週から、父の外交使節団に同行するの。王城から出発して、しばらく他国を回るわ」


教室の窓から外を眺めていた私は、その言葉に思わず反応してしまった。


「……いいなあ」


自分でも気づかぬほど小さく、憧れにも似た感情が漏れ出た。その一言を拾ったナイラが、口元をキュッと吊り上げるようにして、私のほうを見た。


「ねぇ、セレも一緒に来る?」


その瞬間、胸が跳ねた。顔をパッと上げると、彼女は得意げに続けた。


「お父様には“友人も同行可能か”って聞いて、許可をいただいてるの。あとは、セレのご家族の承諾だけよ」


「ナ、ナイラ……ありがとうっ……! 絶対に!絶対に許可、もぎ取ってみせるからっ!」


気づけば私は跳ねるように立ち上がり、興奮を隠しきれずに小さく飛び跳ねていた。ナイラはそんな私を見て、何も言わずに、ただ優しく微笑んでくれていた。


その晩、私は前のめりで家族に直談判した。もちろん、私の両親はある程度の懸念は示しながらも理解を示してくれた。けれど――問題はもう一人。


アルドレア陛下だった。


「国外に出れば、創造魔法の力を他国に知られる恐れもある。あるいは狙われることも……」


その懸念は当然だし、私だって軽んじるつもりはなかった。けれど、私は真正面から訴えた。ずっと閉ざされた空間の中だけで生きていくのではなく、自分の足で外を見て、知って、感じて生きたいと。ナイラとだからこそ行ってみたいのだと。


陛下はしばらく沈黙し、ついには大きくため息をついた。


「……分かった。ただし、国外での創造魔法の使用は禁止だ。それが条件だ」


ようやく、許可が下りた――!


私は喜びを隠しきれず、部屋の中を何度もぐるぐると回りながら、小さく歓声を上げていた。初めての国外。それも親友との旅。興奮が抑えられるわけがない。


そして、出発の日。王城の前庭には、外交使節団を見送るための小さな式典が用意されていた。緊張と興奮が入り混じった気持ちで馬車の列を眺めていると、見知らぬ男性が一人、こちらへと歩み寄ってきた。


パリッと整えられた軍服。硬そうな雰囲気。鋭い目元には、縁の太い眼鏡。……というより、その眼鏡の印象しか残らないほど、真面目そのものの佇まいだった。


「サフィール家ご息女、セレスティア嬢でいらっしゃいますね。本日付けで、アルドレア陛下の命により、外交使節団への同行を命じられました。お目付け役を務めます、エリオット=デスペンダーと申します。以後、よろしくお願いいたします」


……な、何かすごく堅い人が出てきた。


私は気圧されながらも、慣れた調子で返す。


「お初にお目にかかります。サフィール家の次女、王立学園高等部特別科一年、セレスティアと申します。お目付け役とのこと、ご苦労様です。どうぞよろしくお願いいたします」


けれど、気になったのは“お目付け役”という肩書きだった。護衛とは違うのだろうか。それとも、まさかもっと細かく行動を見張られる……?


「ところで……お目付け役って、どこまでが業務範囲なんです? お花摘みまで付き添う感じ? それとも護衛的な?」


そう尋ねると、彼は軽く咳払いをひとつ。


「すべてにおいて、同行させていただきます。護衛の役割も担っておりますので、ご安心ください」


……安心どころか、女子旅に真面目な監視役がつくなんて、全然楽しくないんだけど。


思わず口を尖らせ、ぼそぼそと文句が口をついて出る。


「なにそれ~……せっかくのナイラとの旅なのに、堅物一人くっついてくるの……」


そこへ、明るい声が近づいてきた。


「セレ~!おはよう。いよいよね、楽しみましょ!」


ナイラが笑顔を浮かべながら駆け寄ってきた……と思ったら、ふと私の背後に視線を向けて、ぴたりと立ち止まった。そして、ちらりと私の顔を見る。


私が返すのは、少し困った顔。すると、彼女はすぐに察してくれた。


「ナイラ嬢、セレスティア嬢のお目付け役を拝命しております、エリオット=デスペンダーと申します。外交使節団へ同行いたします。以後、お見知りおきを」


彼の丁寧な自己紹介に、ナイラはにこやかに、けれど少し鋭さを帯びた微笑を返す。


「お初にお目にかかります。セリーヌ家長女、王立学園高等部経営科一年、ナイラ=セリーヌです。セレスティアのお目付け役とのこと、旅の間は何卒、ご不遜な振る舞いのないようお願い申し上げます」


そう言ってピシッと釘を刺してくれるナイラに、私は心の中で大きくガッツポーズを取った。さすが我が友よ……!


ちょっと厄介な同行者が加わったけれど、それでもやっぱり心は高鳴るばかり。馬車の音、隊列を進める騎士たちの掛け声、そして澄み切った青空――。


旅の始まりを告げる鐘の音が、遠くで鳴った気がした。

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