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プロローグ この人生、ようやく私の番

「枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!」の外交使節団で来訪したサダール国のナイラ=セリーヌの学生時代の親友が主人公のお話です。


結婚も、子育ても、すべて終えたその先に。

私は、誰のものでもない――「私の人生」を始めます。

今度の人生くらい、わがままでもいいでしょう?

自由に生きるために自分の人生を掴みとろうとする

一人の女の子の人生です。最後までお読み頂けたら幸いです。

夕暮れの風が、少しだけ冷たかった。

仕事帰りの駅構内、いつも通りに改札口をくぐり

頭の奥がズキンと響いたかと思えば、視界の端がふらついた。


「……あれ?」


次の瞬間には、目の前がぐにゃりとゆがんで、何もかもが遠ざかっていた。


 

 



「――気がつかれましたか?」


ぼんやりと聞こえる女性の声に、まぶたが重たく開く。

見慣れない白い天井と、消毒液の匂い。隣には、医師と看護師が立っていた。


「ここは病院です。検査入院中でして、二日ほど意識が戻りませんでした」


……二日?

そんなに寝てたの? 私。


「ご家族の方は……一度来られましたが、様子を見て“起きたらまた来る”とのことでした」


その一言に、思わず小さく笑いが漏れた。乾いた、声のない笑いだった。


きっと――

「大げさなんだよ、倒れるほどのことか?」

「ご飯は? 洗濯は? どうすんの?」

そんな言葉が出たのか、あるいは心の中でそう思われただけなのか。


どちらにせよ、あぁやっぱり、って思った。


疲れたな。

ずっと、気を張ってたんだろうな。

家の中じゃ、何をしても「当たり前」。

ありがとうの代わりに、ため息や文句。

私は何のために生きてるんだろう。

召し使い? 無償の家政婦?

口答えもしない便利な存在?


そう思った瞬間、涙が一筋、こぼれ落ちた。

声にならないため息が、胸の奥から漏れる。


「……私の存在って、何?」


自分は、何の為に生きてるんだろう。

何の為に毎日頑張っているんだろう。

誰かの為にだけある人生って何なんだろ。

あぁ~疲れた。


静かに揺れるカーテンの隙間から、やわらかな陽射しが病室に差し込んでいた。

白い壁と天井が、春先の光を反射して淡くぼやけて見える。けれどそのまぶしさも、痛みも、もう遠いものになりかけていた。


病名は、まだ知らされていなかった。

検査の結果がもう少しかかるらしい。私はもう、その続きを迎えることなく、人生の終わりに足を踏み入れていた。


夫は仕事で来られないと言った。

娘は部活、長男は受験前でピリピリしていた。

末っ子は、携帯ゲームに夢中でこちらを見ようともしなかった。会話らしい会話もない毎日。

正社員でベンチャー企業に入職して企画担当を任され仕事と育児の両立でクタクタの毎日。


それでもいい。

家族の邪魔をしたくなかったから。

私は、いつだって「母」であり「妻」であることをなるべく優先してきた。

仕事にも、生き方にも誇りもあった。後悔がないと言えば、嘘になるけれど。


──ただ、一つだけ。


もっと自由に自分らしく生きたかった。


ただ、それだけ。

誰かのためじゃなく、自分のために。


あ~っ、友達と旅行行きたかったし、時間を気にせずに飲みたい。何にもしない1日が欲しい。

好きな本を読み、ゆっくりコーヒーが飲みたい。

いつか、いつか時間が出来たらと後回しにして、その「いつか」はもう来ない。


なんだったのかな…。



……気がつけば、私は再び光の中にいた。


だけどそれは、病室の白い天井じゃなかった。

目の前に広がっていたのは、まばゆい海と、白い砂浜。そして、潮風に揺れる草花の香り。

どこかで聞こえるカモメの鳴き声と、波の音。


目を開けると、私は見知らぬ場所にいた。

そして――幼い少女の姿になっていた。


「……え、ちょっと待って。なにこれ……どう言う事……?」


自分の手を見て、小さな声で呟いた。小さくて、すべすべしていて、まるで誰かの娘のような、小さな手。


いや、現に私は、娘だった。

サダール王国という国の、海に面した地方にある伯爵家の令嬢、セレスティア゠サフィール。

この世界では、私が“私”として、生まれ変わったということらしい。


最初は混乱した。いや、だいぶ混乱した。

でも、すぐに悟ったのだ。

「これはきっと、神様が与えてくれた――私へのチャンス」と。


今度こそ、私の人生は、私が主役。

誰かの母でも、誰かの妻でもなく、私という人間として生きていい。

夢を、叶えてもいい。恋をして、わがままになって、美味しいものを食べて、笑って泣いて――


悔いなく、生きていいのだ。


だから私は、決めた。

もう我慢しない。

誰よりも自由に、誰よりも美しく、この人生を、謳歌してみせると。



ようやく、あなたの番が来たんだから。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

人生の中で、一度は何の為に、誰の為にと考える事があるかと思います。そんなセレスティアの前世の密やかな願いが叶います様に。もう一度人生をやり直すなら~何を願いますか?

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