シスターのなくしもの
教会に一人のシスターが居る。
美しい女性だ。
穏やかな人だ。
誰に対しても優しくて、誰に対しても温かい。
男にも、女にも――子供にも、大人にも、老人にも。
裕福な人にも、貧しい人にも。
そんな彼女だからこそ人々は皆、慕っていた。
――そんな彼女だからこそ、皆が彼女の悩み事を解決しようとした。
「シスター?」
「はっ、はい?」
「何かあったのですか?」
「いっ、いいえ? なんのことやら――?」
ここ数日、ずっとこの調子だ。
心ここにあらずと言った様子で目が泳いでいる。
いつもなら物静かに祈りを捧げているはずなのに。
いつもなら村人に混じって畑を耕したり、動物の世話をしているはずなのに。
いつもなら子供達に手を焼きながらも楽しそうに読み書きを教えているはずなのに。
「シスター。何か力になれることがあったら教えてください」
「そうですよ、シスター」
「私達はあなたの力になりたいんです」
村人達の言葉にシスターは気まずそうに笑うばかりだった。
「ありがとうございます――ですが、本当になっ、なんでもないんです」
そう言われてはどうしようもない。
村人達は黙って引き下がる他なかった。
***
夜。
シスターは青い顔で自室の本棚を漁っていた。
「えっ、本当にどこいったの? ――もう! 本当に!」
普段なら絶対に見せない年相応の言葉遣い。
普段なら絶対にしない乱暴な物の避け方。
「あー! もう本当に! 私の馬鹿! どこにやっちゃったの!?」
頭を掻きむしりながら彼女は探し物を見つけられなかった。
――シスターの探し物『いつかぶん殴る奴リスト』が見つかるのは翌日のことだった。
幸いなことに見つかった場所は彼女のベッドの下だ。
少しずつ増えていく名前を夜中に一人ニヤニヤと眺めるというシスターの悪趣味な習慣。
これが露見せずに済んだのは彼女が心から神を愛しているためだろう。
多分。