死亡宣告
神様は言った。
「あなたには異世界に行ってもらいます。」
ここはどこだ…?俺は今まで病室にいた。
そして急にこの部屋に飛ばされた。何が起こったのかわからない。
そして目の前にいるこの人は誰なんだろう。人間でないことは明らかだった。だって猫耳が生えている。尻尾も生えている。
しかも美少女だった。
やばい完璧だ。俺はこの人知を軽く超える状況で内心興奮していたがそれを何とか抑えて質問した。
「……まず説明してもらえませんか?」
「私は神です。といっても大した神ではありませんが。
時々あなたのように異世界に転移する人を転送させる仕事を任されています。」
「はぁ……」
「何かご質問はありますか?」
「たくさんあります。
まずここはどこなんでしょうか?天国なんですか?」
「いいえ、違います。天国ではありません。
今あなたがいるのは地上と天国のはざまにある世界です。
ここは亡くなった人が天国に行けるか審判される際に、一時的に来る場所にすぎません。
そしてこの部屋は私の執務室です。」
「普通の和室に見えるんですが……」
「そこは気にされないでください。私は神としてはまだ若輩者ですので、一部屋しか割り当ててもらえないのです。
ですのでここは執務室兼私の部屋ということです。」
なるほど。つまりここで暮らしてるということか。だから執務室という割に生活感が強いのか。
確かに一応ちゃんと執務室らしく大きな机や書類が山積みになってるが本当にこれで執務室と言えるのかってくらい私物が多い。
部屋の中を見渡すとテレビや冷蔵庫に電子レンジ、パソコンまであった。
ちゃんと使えるんだろうか。電機や電波は通ってるのか。
地上と天国の狭間ということは少なくともあの世ではあるわけだし
「なるほど。とりあえずここがどこなのかはわかりました。
でも私はまだ死んでいないはずです。さっき医者がそう言っていました。」
「いいえ、あなたは今から2時間後亡くなります。そしてこの世界とは別の世界に転移してもらうことになっています。
それをあなたに伝えるためにここに来ていただきました。」
俺は思わず息をのんだ。
また体が震え始めていた。
たった今、神を名乗る猫耳美少女にはっきりと死亡宣告されたのだ、当然だ。
「それはもう確定事項なんですね……?」
「はい。残念ながらそうです。」
そうか確定事項なのか……。
神様がそう言ってるんだ、間違いはないだろう。
それにしても異世界転生か。いや転移といったか。
ならこの体のまま異世界にいくのか?
というかどこの世界に転移させられるんだ。
「俺はこの体ごと転移するんですか?」
「そうです。転生というパターンもありますがあなたの場合は転移です。」
「どこの世界に転移するんでしょうか?何か目的とかはあるんですか?」
「異世界ですよ。あなたのいた地球とは違う場所です。
ですが物理法則や基本的なルールは同じです。
基本的には自由に生活していただいて構いません。お好きなようにどうぞ」
なんか自由度の高いオープンワールドゲームみたいだな…。
じゃあなんで俺は今から異世界転移させられるんだろう、と思ったら神様はこう続けた。
「ただし、あなたにはやってもらいたいことがあるのです。」
来た。まぁそうだよな。
これから死ぬ人間をわざわざ転移させるくらいだ、目的があるにきまってる。
なんで俺が?という疑問はあるがそれも何か理由があるんだろう。
誰でもいいなら現地の人間を雇えばいいだけの話だ。この場合雇うという表現が合ってるかは分からないが。
「何をしたら良いのでしょうか?」
「それはまだ言えないのです。
貴方が転移する世界でしばらく暮らしてもらいます。
まずは新しい世界に慣れてください。
それからお伝えします。」
なるほどそう来たか。
まぁいきなりハードル高いこと言われてもできる気しねぇし、それはそれでいいと思う。
「なるほど。ではその時が来たら任務を与えると……。」
「はい」
「ではその前に何かやっておいた方がいいこととかってありますか?」
何か就活の面接めいてきたな
「そうですね…。とりあえずは現地での生活に慣れること、そして現地の本を読んで歴史などを学んでください。
言語については心配されないでください。学習しなくても理解できるように取り計らいます。
生活のレベルとしてはあなたのいた世界でいうところの中世ヨーロッパといったところです。
グーテンベルクが印刷技術を作った後のね。ですから本はたくさんあるんです。
そして大事なのは魔法。貴方は魔法に適性があります。特にサポート系のものを学んでください。
今後の任務で役に立つはずです。
あとは体力を上げること。それくらいでしょうか。
あなたが現地へ行っても私とは定期的に連絡できるので何かあればお伝えします。」
なんか当たり前のように言っていたが魔法があるのかよ。めちゃくちゃ楽しみなんだが。
きっと空も飛べるはず。攻撃魔法とかも使えるのかな。
あと定期的に連絡できるのうれしいな。
テレビ電話みたいに顔も見れたらうれしいけど神様の声好きだし声だけでもいいやとか考えていた
がふと神様のほうを見ると神様兼猫耳美少女は涙を流していた。かわいい
でも急にどうしたんだ、慰めなければ。
「どうして泣いているんですか?」
「それは……あなたのように若い方が亡くなるというのはつらいものです。これは何度経験したってなれることはありません。
私ももとは人でした……今からあなたの行く世界で18年生活していました。
でも事情があって神になったんです。まだやりたいことがありました。でも地上を離れざるを得なかったんです。
ですから若くして死ぬことの辛さをよく知っています。貴方には本当に申し訳ないと...」
そうか…。神様も人だったんだな。しかしそう考えると自分の世界にはなかったはずなのにPCやテレビを使うこの神様の順応性高いな。
というかこの子が生活してたってことは新しい世界では猫耳少女がたくさんいるということか...猫耳だけではなく狐耳、オオカミ少女もいたらいいなぁ...
「いや、もう大丈夫です。起きたことは仕方ないですし、それに今までとは違う世界ですがまた生きていけることができる...。十分です」
俺は自分に言い聞かせるように神様にそう言った。
「それに俺たちが死んだのは神様のせいではないでしょう?
トラックが突っ込んで俺たちは死んだんです。強いて言えばドライバーに文句を言いたい。
俺はともかくあの二人も死なせたことを俺は許せない。
でももうしょうがない。死んでしまうんだからそれもできません。
だからもういいんです。少なくとも神様が罪悪感を感じているのならそれは間違いです。
気にしないでください。ほら、笑って笑って!」
そういうと神様は微笑んだ。
励ましてやりたくなるような、笑った顔が見たくなるようなかわいい神様だ
ただ神様の顔をよく見ると何か言いた気だったがそれと同時に自分自身にブレーキをかけているのが表情をみて分かった。
何だろう、何か言いたいことがあるなら言って欲しい。ただなぜか聞いてはいけないような気もした。
それによく考えるとさっきの神様の言い方が気になった。
まるで自分たちに俺たちの死についての責があるような、そういう印象を受けた。
それについて聞きたかった。
が、口が開かない。
しばらくお互い思っていることを口に出そうか悩んでいた。
が、やめた
別に神様とはこれきりじゃない。言いたくなったら言ってもらえばいい。機会はたくさんあるはずだ
とりあえず花結となつめのことを聞くことにした。
「ちょっとお聞きしたいのですが…。」
「!…なんでしょう?」
「花結となつめという友人と一緒にいたことは神様もご存知なんですよね?彼女たちはどうなるんですか?」
神様はなんだそのことかと言わんばかりに顔を和らげた。ほっとしたようだ
「そうでした。ごめんなさい、伝えるのを忘れていました。
実は花結さんとなつめさんも同じ世界に転移していただきます。なつめさんとはすぐに合流できるでしょう。」
「そうですか…二人も...」
うれしかった。本当にうれしい。また二人に会えるのだ。
「ただ…花結さんとは会うのが少し難しくなるかもしれません」
喜んだ矢先にそう言われて頭が真っ白になった。
「どうしてですか?」
「お二人にもあなたと同じく任務をいずれやってもらおうと思っているのです。
なつめさんはあなたと同じものですが花結さんは少し違うものでして...
花結さんの転移先は距離的にも遠いので会うのが難しいかもしれません」
なるほど…
「でも、いずれ会えますよね?」
「保証はできません。ですが可能性はあるのです、どうかご理解ください。」
会えない可能性もあるってことだよな。少し失望した。だが神様に何か言うのも違うと思った。
彼女はあくまで上司の指示を受けて俺たちにそれを伝えているに過ぎないように見えた。
その状態で彼女に文句を言ってもただのクレーマーだ。
それにもう会えないと思っていたのだ。また再会できる可能性ができただけでも御の字というものだ。
「わかりました。いろいろ言いたい気持ちはありますが、一旦飲み込みます。
ではもうすぐにでも転移したいんですが」
「良いのですか?
転移する前に、会話はできませんがもう一度ご家族の顔を見に行かれませんか?
そのくらいのことはできますよ。」
そう言われてちょっと悩んだ。だがもういい
「いいんです。顔を見ても辛くなるだけだ。
家族のことは忘れませんがこれから会えなくなる家族を新しい世界で想い続けるのは本当につらいことだと思います。
それならもうできるだけ早く新しい世界に行って気持ちを切り替えたほうがいい。」
本心だ。さようならを言ったって余計辛くなる。
それが一方通行のものなら余計に虚しくなるだろう。
ならもう行った方がいい
「もうその新しい世界には行けますか?」
「可能です。実を言うと既にあなたの体は転移しています。ただし正確に言えばコピー&ペーストのようなものです。
生きていて健康だったころのあなたを完全にコピーし、新しい世界にペーストしました。
そして今私が話しているあなたの、いわゆる霊体はペーストした方の体と既につながっているんです。ですので今すぐ転移できます。」
なるほどそういうことか。あんだけ体にダメージを受けてまともに思考できてる理由が分かった。
やっぱ神様なんだな。人間の体をコピペだなんて神の御業に他ならない。
「ではお願いします」
「わかりました。」
そういうと何か小さく呟き始めた。しばらく呟いていたが言い終わると同時に突然大きなゲートのようなものが現れた
「これが入り口です。これを通ったら新しい世界です。
…あなたには言えないことがいくつかありました。ごめんなさい…。でもいつか必ず…!」
「わかっていますよ。
いつか教えてくれるのなら俺は待ちます。
その時俺は怒るかもしれないけど、それでもいいですか?」
神様は微笑んだ。屈託がなく恐ろしく完璧な微笑みだった。
俺はこの神様を好きになる前に急いでゲートを通った。