29までに独身だったら結婚しよう
はじめまして。初めて投稿します鍵村といいます。
秋が消えてしまったと思ったら急に冬が来た。
おかげで去年で限界を迎えたコートを使う羽目になってしまった。新しく冬着を買う前だったからだ。
「来週買いに行こうと思ってたのになぁ...」
そう憂鬱になる。憂鬱なのには訳がある。
もちろんこの限界コートで外を出るのも恥ずかしいがそれ以上にこれから会う人物にからかわれるのが目に見えているからだ。
花結菜乃花、21歳、同じ大学に通う友人だ。今日は互いに就職先が決まったのでお祝いに飲もうとよく行く飲み屋に行くことになった
俺は彼女のことが好きだ。
どこか男っぽいけど守ってあげたくなるような女の子だった。
眼鏡をかけていて白くて(これは比喩でなく本当に白い)長い髪を後ろで束ねている。背は高く俺より少し低いくらいの長身美人だ。おまけに空手を習っていたから強い。守ってあげたいとは言ったが守られている側だ。一度居酒屋で絡まれて空手で追い払ってくれたこともある。
初めて会ったのは高校二年の頃、あいつと席が隣になって話すようになった。お互い洋楽をよく聞いていたし互いによく本も読んだ。趣味が合うってやつだ。
話しているうちに家まで行くようになって一緒に飯も食うようになった。
気付いたら一緒にいるなぁと思ってたら大学まで同じところになった。
二人ともサークルには入っていないから当然一緒にいる時間も増える。授業以外はずっとふたりだったしもうこれ恋人だろとは思っていた。ただ向こうは俺を親友だと思っていそうだし、フラれるのも嫌だったので告白はしなかった。
というか人生で告白をしたことのないヘタレには無理だったし一緒にいる時間が心地よすぎたのだ。
あぁなんてよくある言い訳なんだろうと自分でも思うがなにはともわれあいつと俺は親友だ。
そろそろ時間だな...
駅前のコンビによって集合場所の飲み屋の前でしばらく待った。ほどなくしてやってきた。
「よう!」 彼女は言った
「よう」 俺は言った
「よっす!」 棗はいった
言ってなかったが今日は三人で会う約束だったのだ。
山崎棗、俺たちと同級生で大学二年の頃いつの間にか俺たちの間に入り込んでいた
最初、俺となつめが仲良くなった。そのあと花結とも仲良くなった。俺たちは三人で飯屋に行くようになった。だから今日も当然一緒だ。
なお内定はまだらしい。
「あなたまだそのコート使ってるの?みっともないから買い替えなさいって言ったじゃない」
「俺はこのコートが好きなの」
「どうやってもその汚れ落ちないんでしょ?本当に買い替えたほうがいいわよ」
「花結がそこまで言うなら考えとくよ...」
「ていうかあんた忘れてただけでしょ、花結あんだけ言ってたのに...」
「もういいわよ。寒いからもう入るわよ、ふたりとも。」
スマホを見たら予約の時間がもう来ていた。中に入ろう。
中に入るとこちらの窓際の席にどうぞ~と愛想のいいおじさんに誘導され俺たちは座った
「「「乾杯!」」」
「いやぁー二人ともおめでとう!わたしも早く決めないとねぇ!」
「まぁもう11月だしな...なつめ、そろそろ急いだほうがいいんj...」
「そういえば花結の就職先は何系だっけ?」
露骨に話を逸らすなつめさん。
「私は出版会社よ。大きくはないけど、好きに書かせてくれそうだから...」
「なるほどねぇ、花結らしいよ、一方おまえは...」
「商社だよ」
「らしくないな...」
「らしくないのは同感よ」
「らしくないってなんだよ二人して...」
俺らしいのはどこなのかまず教えてほしいところだ
「まずあんたそこまで優秀でもないでしょ?そしてコミュ力も高いわけじゃない、そんなあんたが商社...っていうか総合商社でしょあそこ、私でも知ってるわ」
「あなたが総合商社にいくとは思わなかった、あなたの気質としてそういう業界に向いてないとさえ思ってた」
「それわかる」
「どういうことだよ」
「つまりさぁ要領が悪いってことだよ。三年の時あんたがリーダーでハッカソンに出たことあったじゃん。あの時あんた自分からリーダーに立候補したからこういうまとめ役とかが得意なのかと思うじゃん?花結も反対しなかったし。見事に大失敗だったよね。」
「...もういいじゃないか、それは...」
「そうよなつめ、それにこんな人でもあの会社に内定をもらえるんだって勇気が出るわよ」
「あの...そこまでいわんでも...」
「いいや!花結のいう通りあんたは~」
こんな調子だ。いつも俺がいじられている。特になつめがこの輪に入ってからは特に。
それから時間は過ぎ飲み会はそろそろ終盤にさしかかってきた。そこでこいつが唐突にこんなことを言う。
「...私たち結局恋人出来なかったよね...」
「・・・」
空気が重くなるのを感じた。みんな思っているけど言えないことを本当にこいつは...
そこが頼れます。どうもありがとう
「私はこの三人で集まるのが好きなのよ?だから恋人も作らなかった。あえて」
あえての部分に力がこもっているな...
「俺もそうだよ。彼女作ったら絶対もうこのメンツで会えんしな。女二人に俺一人だぞ?俺だって逆なら彼女のこと怪しむわ」
「うわ、出たよ束縛」
「まぁわかるわ、私もちょっといやかも」
「というかそもそもお前ら好きなやつとかいるのか?」
また空気が重くなった。
「...いや、いないわよ」
「...私も」
なんでこんなに空気が重いのか。まぁいい、ずっと考えてたこと言おうと思う
「じゃあもし29歳までに独身同士だったら結婚しようぜ」
「「それ、どっちに言ってる?」」
なぜか睨みつけながら、鬼気迫る感じで二人は俺に言ってきた
「いや、二人にだけど...いやか?」
「嫌とは言ってn...」
なつめが勢いよくそう言いかけた瞬間何かが俺たちに向かって突進してきて窓ガラスが砕け散った。
トラックだ。
そうして俺たちはこの世を去った