指針
「ねぇ、あんた何であんなに強いの?」
ユニバが言った。
「それが……俺にもわからないんだ。気がつくと人より少し特殊だったんだ」
二人は、昨日の酒場に立ち寄っていた。二人でカウンターに座った。カウンター越しにユキジが言う。「ヒース君、早速仲間できてるじゃない。しかもこんなに美人の」
「ユキジさんのいった通りでした。世の中には変わった人がたくさんいるんですね。俺に着いてきたいなんて」とユニバをチラッと見た。
「何よ、私はちょっとあんたのその力を利用させてもらおうと思っただけ。これは同盟よ、同盟」
「ふふふっ。何だかんだで二人ならうまくやっていけそうじゃないっ」
「……」
ヒースとユニバは顔を見合わせた。
「それよりね、昨日変なお客さんが来ててね」
「あっ、大きい鎌の男ですか?」
ヒースが思い付いたように言う。
「大きい鎌? 私が言ってるのは、まだ十歳かそこらのおちびさんなんだけどね。カウンターに堂々と腰かけて、ウィスキーを注文してきたんだよ。ヒース君くらいならともかく、まだ十歳くらいにしか見えなかったもんだから、ダメだと言ったんだけどね。そのおちびさん、『私は22歳です。悪いやつに容姿を子供に変えられただけなんですよ』なんて言うんだよ。馬鹿みたいだろ? まぁ結局根負けしてウィスキー出したんだけどね」
「へぇー、そこまでして酒飲みたかったんですかねぇ」
ヒースが答える。それに被せるようにしてユニバが言う。
「でももしそれが本当なんだとしたらすごく面白いことですよね。この世のどっかに人の外見を司る者がいるなんて。しかもそういう人が実際にいたって不思議じゃない。世の中には神眼の力なんて物騒なものがあるくらいだから」
ユニバはちらっとヒースの方を見た。
「あんた神眼を知ってるの?」
ユキジが驚いたように尋ねた。
「それを知ってるのって不思議な事なんですか?」とヒースが口をはさむ。
「ん~、そんなにおかしい事ではないんだけどね、普通の人は神眼の力なんて知らなくて、単に神の子とかって風に呼ぶからね。何で知ってるんだろうと思ってさ」
「し、知り合いに聞いたんですよ。だからちょっと知ってるだけなんです」
ユニバがすかさず答えた。
「ところでさ、あんたこれからどこにいくつもりなの?」とユニバが話を変えるように言った。
「う~ん、正直何にもあてはないな」
ヒースが頭を抱える。するとユキジが奥の方から何か丸められた紙を持ってきた。そしてカウンターの台の上でそれを広げた。どうやら地図を持ってきたらしい。
「これをみて。今私達がいるのがこのレインベル大陸」
そう言って地図の左下にある大きいとも小さいとも言えない大陸を指差した。
「そして、こっちがアルコバレーノ。現段階で最もクラルテがある可能性が高いとされている大陸」
ユキジはそう言ってレインベルから指を斜め右上に動かし、小さな大陸の上で止めた。その大陸は地図上ではほぼ中心に位置していた。
「ここにクラルテが」
ヒースが息を呑む。
「でもどうして場所がわかってるのに誰も辿り着けないんですか?」
ユニバが不思議そうに言う。
「それがクラルテが大秘宝である所以なんだよ。『そこにいくだけじゃだめ。何か特別な条件が必要なんだ』かつてここを訪れたジャンキーは父さんにこう言って旅立っていったらしいんだよ」
「ふ~ん」
ユニバはあまりふにおちていないような顔をしている。
「ん~、じゃあ闇雲にそこを目指しても駄目って事だよなぁ。ユキジさん、カヌィの民の話以外に、何かクラルテの出現条件に関する情報はありませんか?」
「う~ん、そうだねぇ……あっ!」
「何かありましたか?」
ヒースが身を乗り出す。ユニバはといえば、隣の席に座る男にナンパされ、すでに話は聞いていない。
「前にここに来た客が酔っぱらった勢いで教えてくれた事があるんだ。『国富連邦は誰かがクラルテを見つけてしまうのを恐れている。だからやつらはカヌィの民を絶滅させる気だ』でもこれが本当かどうかは分からない。でも急いだ方がいいことは確かだね。そして連邦の人間とうまくコンタクトが取れれば何か情報を聞き出すことが出来るかもしれない」
「クラルテを恐れている? どういうことだろう。ねぇユキジさん、連邦の本拠地は何処なんですか?」
ヒースが尋ねた。
「ここよっ」とすかさず地図の左上にある大陸を指差した。ユキジではなくユニバだ。
「ここに行く用事できたんだ。じゃあ私途中下車しなくていんだねぇ」
ユニバが嬉しそうな声をあげた。
「じゃあ決まりねっ。次の目的地は連邦の総本山、エストラーダ大陸。そんでカヌィの民を一刻も早く見つけなきゃ」
ユキジが自分は行かない癖に場をしきるように言った。
「よし、そうと決まれば早速出発だ。」
ヒースが歓喜の声をあげた。