運命という列車へ
カーテンの隙間からの鋭い日の光で目を覚ました。そして同時に鋭い頭痛におそわれた。昨日は男のおごりとはいえ飲みすぎてしまったようだと苦い表情を浮かべた。痛む頭を抱えながら身支度をして、一階に降りた。チェックアウトを済ませ外に出る。近くの広場が騒がしく、人だかりができていた。ユニバは何だろうと広場の方に駆け寄った。
「がはは、ありがたく思え。この街はたった今から我々国富連邦の監視下におかれた。逆らうやつは厳重に処罰する。こいつのようになりたくなかったら、しっかり毎日税金を納めるように。がははっ」
二メートルはあろうかというばかでかい男が低い声で集まった民衆に詭弁を垂れていた。そしてその大男の足元には、踏みつけられるようにして一人の若者が倒れていた。大男の後ろには十人程度の取り巻きが陣取っていた。あれだけならいけるかもしれない。ユニバはカバンから短剣をとりだし息を飲む。そして飛び出そうとしたまさにその時。
「ぐふっ!!」
大男の悲鳴が上がる。大男の前に青年の姿。腹を抱えて大男が倒れ込む。どうやらその青年、己の拳一撃で、大男を撃破してしまったようだ。あんな細身の体のどこにそんな力が隠されているのかユニバは不思議でならなかった。大男の後ろの取り巻き達が一斉に青年に飛び掛かる。一瞬目の前が真っ白い光で見えなくなった。そして次の瞬間にはもう十人の手下は一人残らず地面に倒れ込んでいた。民衆は今、自分達の目の前で起こった光景を信じることができずにいる。
「あれは間違いなく神眼の力。そうとしか考えられない」
思わずユニバはそう呟いた。
「神の子だっ。こいつは神の子だーっ」
民衆の中の一人が歓喜の声を上げた。そしてそれを皮切りに大歓声が巻き起こった。ユニバははっとした。なぜなら今まさに大歓声の中心に立っているのが、昨日居酒屋に来たヤツだと気づいたからだ。
「あいつ、昨日の……」
しばらくして民衆が解散していくのを見守った後、ユニバは青年に近づいた。
「あなた、昨日酒場に来て、お金はないけど……とかって言って、店員さんに追い払われてたあのあなた?」
「あっ、そうそう。それ俺っ」
追い払われてたわけじゃないんだけどなと思ったがヒースはそれは置いておいた。
「やっぱり! 私、連邦のやつらがだいっ嫌いなんだ。だからすかっとした。ありがとね」
「連邦? 俺はただ傷つけられてる人を見てるのが辛かったんだよ」
「あなた国富連邦も知らないの。あいつらは世界の治安を守るという表の姿に身を隠して裏では悪いことをたくさんやってるの。あいつらが目指しているのは平和なんかじゃない、征服なんだよ」
ユニバの言葉に力がこもる。ヒースはその僅かな声の震えを聴き逃さなかった。
「君はここの人間じゃなさそうだね。一体どうして旅をしてるの?」
「私? そりゃー国富連邦を潰すために決まってるでしょ」
ユニバが当たり前のように言った。
「でも本当に国富連邦って悪い組織なの? 確かにさっきの男は悪いやつだと思うけど……」
「疑う余地なし。あいつらは悪者、それがせーかいっ」
「でも潰すって、君一人でかい?」
「なんとかなるわよ。私、勝気な女の子だから」
「勝気ってっ。勝気でどうにかなるなら、俺の目的も何とかなりそうだな……」
ヒースは苦笑いを浮かべた。
「あんたの目標?」
「クラルテを潰すことさ」
「クラルテを……潰す?」
ユニバは変わった物を見るように顔をしかめた。
「俺は世界を元通りにしたいんだ。創り直したい」
ユニバはもうほとんど何を言っているか耳に入れてない様子だった。
「簡単に言っちゃえばありがたーい大秘宝の所へ行って、それから世界を創り直すってことね。要するに大秘宝経由世界の始まり行きかぁ」
「……」わかっているようでまるで分かっていない。きっとそうに違いなかった。
「……ねぇねぇ、私もその列車乗っけてよ。私は途中の国富連邦で下車するけど。途中まで一緒にいっていい?」
ヒースはとんでもない事を言い出したと言わんばかりの顔で微妙に頷く。
「う、うん」
「はいっ決まり! さぁ早く出発よっ」
ヒースは嬉しかった。生まれて始めて自分と一緒に何かをしたいと言ってくれる人が今目の前にいる。国富連邦がどうというわけでもない、何よりも仲間ができたという単純な事実が彼を勇気づけていた。
ヒースは嬉しそうにユニバに飛びついた。ユニバがそれをさらりとかわして答える。
「はやくいくよっ、創るんでしょ! 世界をっ」
ユニバは赤い髪をかきあげて微笑んだ。