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受け継がれた意志

太陽が西の空を赤く染めている頃、 ヒースは隣街を目指して、見慣れた通りを歩いていた。通りには、家を失った子供や老人が 横たわっていた。親族が、クリスタルに魅せられて出ていき、一人ぼっちになってしまったのだろう。老人や子供が住んでいる家を占拠するのは容易い。マリの家もまた例外ではなかった。歩くヒースの前に、一人の男の子が立っている。ボロボロの服に汚れて真っ黒の顔。その顔の上には一際目立つ赤いニットの帽子。この帽子だけはやけに綺麗だった。ヒースが男の子の前まで近づくと、男の子が手を差し出してきた。

「兄ちゃん、何か食べるもんくれよ」

それはあまりにも強気で放たれたあまりにも弱い一言だった。

「わりぃ、兄ちゃん今食べるもん持ってないんだ。でもお金なら少しはある。これで好きなもん買って食べな」

そう言うと、ヒースはマリに貰った金貨の半分を男の子に与えた。男の子は「ありがとう」と涙を浮かべた。それを見ていた、他の浮浪者達がヒースにかけより、自分にもお金を恵んでくれと言った。ヒースは、ポケットに入っていた金貨を全て、彼らに与えた。一文無しになってしまったヒースは、それでも隣街を目指した。日が暮れる頃には隣街の宿屋の前に着いた。しかしお金を持っていないヒースは、すぐに宿屋を後にした。ヒースは町外れにある、酒場を目指していた。そこには様々な地から様々な人々が足を運んでくるという。なんでも、冒険家イーストン・ジャンキーがクラルテに辿り着く1年前にその酒場を訪れた事があったらしい。お金は無かったが、少しでもクラルテに繋がる手掛かりが欲しかったヒースは酒場に足を運んだ。店に入ると、老若男女様々な人がいた。まだ10歳にも満たないような少年が腰に刀をぶら下げてカウンターに座っていた。奥のテーブル席にはヒースより何歳か年上に見える赤い髪の女性がひょろひょろの色白の男と座っていた。他にも様々な人がいたが、そのなかで一際異彩を放つ男が一人。長い黒髪を後ろで束ねている。眼は鋭く、血が通っていないのではないかと疑いたくなるように肌が白い。そして何よりその隣の壁に立て掛けられたばかでかい鎌。とてもそれを使いこなせるような体格には見えない。

「いらっしゃい」

カウンターの向こう側に立っていた女が威勢のいい声で言った。

「あ、あの~、お金は持ってないんだけど……、クラルテに関する情報を知りたくて」

その瞬間周囲の視線が一斉にヒースに集まる。カウンターの向こうにいた女はヒースのほうに近寄り、何かまずいことを言ってしまったかと尻込みするヒースを連れて店の外の出た。

「あんたバカだねぇ。この中じゃ、そんなこと大声でいったら目つけられてすぐにあの世行きだよ。みんな、目を血眼にしてジャンキーの遺産にありつく手掛かりを狙ってるんだから」

「す、すみません。でも俺は誰よりも早くクラルテを手に入れたいんです」

「……!!まさかあんた……」女は何故か驚いた様子でヒースの目を見つめている。

「ど、どうしました?」

「ちょっとこっちに来て」

そう言うと女はヒースの腕を掴み店の裏口に案内した。裏口から入ると、そこは普通の民家と何ら変わらなかった。入り口のすぐ横に階段があった。それを登るように促されヒースは何もわらかず階段を登った。二階には居間のような所があり、そこに白髪混じりの男がいた。

「父さん、父さん、この子の瞳を見てよ」

女が言った。

「ん?瞳がどおしたってぇ」

男がヒースの目を覗き込んだ。

「こ、これはっ!青い神眼!!ユキジ、この若者は何処のどなたじゃ。彼は、紛れもなく神の申し子じゃよ。はーはっはっ」

「やっぱり!私もそう思ってここに連れてきたんだっ」

盛り上がる二人が何のことを言っているかさっぱりわからないヒースは、しばらく二人のやり取りを聞いていたが、我慢できなくなって尋ねた。

「一体、俺の目がどうしたって言うんですか?ゴミでも入ってますか?それに神の申し子って?そんな昔話のようなことを言われてもさっぱりわかりません。どうか俺にもわかるように教えてくれませんか」

二人は目を見合わせてくすりと笑った。

「本当に何も知らないんだねあんた」

ユキジが言った。

「その前に教えてくれないか。君は何処から来たんだね?」

「俺は隣の街から来ました。ヒース・クレリックといいます。俺の目的はクラルテを誰よりも先に見つけ出し、それを破壊する事です。あんなモノのせいでこれ以上世界が荒んでいくのを見るのはたくさんです」

「なるほど……、神々の意志は人を選ぶというのは本当のようだ。いい顔つきをしている。説明しよう。君は神の意志を受け継ぐという運命のもとにこの世に生を受けた、人々が言う『神の子』というやつじゃ。そしてその証拠が、君のその瞳だ。黒目の中に青いわっかが三重になっておる。それが青の神眼、つまり勇者の守り神『ルクラージュ』の意志を引き継ぎし者の証」

「ちょっと待ってください。『意志』ってなんですか。俺に何を引き継げと?」

「はっーはっはっ」

「何がおかしんですか?」

「君にはもう神の意志が宿っているんだよ。自分ではそれがわからないだけ。だから君はそれについて何にも考えなくていいんだ。君がやりたいようにやればいい。神の意志は後からついてくるさ。はっーはっはっ」

そう言うと男は奥の部屋に姿を消した。

「父さんはね、あの大冒険家ジャンキーの親友だったんだよ。親友っていっても父さんの方が二十以上年上なんだけどね。んで、ジャンキーもあんたと同じ神の申し子だったんだよ」

「だったらお父さんなら大秘宝のありかを知ってるんじゃ……」

「それがそうでもないんだよ。何しろジャンキーが大秘宝を見つけたのは、ここをでてから一年も後の話なんだ」

「そうですか。だったら何でもいいから知ってることがあったら教えてほしいんですが……」

「……いいよ。あんたにだったら教えてもいいかもしれないね。ここにはね、これまであんたみたいに大秘宝の情報が知りたくて数えきれないほどの人が訪れてきたんだよ。でも奴等は己の欲望に目が眩んじまって頭おかしくなってた。でもあんたは違う。単にあんたが神の申し子だからってわけじゃなくてね。あんたは多分、神の意志を引き継いでなくても、遅かれ早かれここを訪れたと思うんだよ」

「……」

「私達親子が知ってるのは大きくは二つだよ。まず一つ目、大秘宝は普段は目には見えない。何か特別な条件を満たさなければそれは姿を現さないということ。二つ目はそれに関連して、大秘宝に辿り着くにはカヌィの民の力が必要ということ」

「カヌィ?」

「カヌィっていうのは、この世で唯一神との交わりを許された、太古から繁栄してきた小さな部族のこと。彼らは生まれつき不思議な力が備わっていると聞いたことがあるけど、どこに住んでいるかは今でもはっきりとはわかっていないんだよ」

「そうですか……」

「それにしてもあんたこれから先も一人で旅を続けるつもりなの?仲間とかはいないのかい?」

「仲間? 俺今まで仲間と呼べる人に出会った事無いんです。だからきっとこの先も出会わないかもしれない」

「あんた馬鹿だねぇ。仲間はばったり出会うもんじゃない。自分から探しに行くもんなんだよ。この先、きっとあんたと同じ考えを持つ人、あんたについていきたいという人が待ってるはずさ。世界は広いんだよ、まだ誰も見た事のないようなこと、誰も知らない秘密は山のようにあるんだ。だからきっと仲間はできる」

「ありがとう、ユキジさん」

「今日はもう遅いから、うちに泊まっていきなよ」

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