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「婚約破棄する王太子ってどう思う?」と、婚約者である王太子から言われたのですが。

作者: ににょん



「婚約破棄する王太子ってどう思う?」



唐突に眼の前の人物からそんな事を告げられたものだから、私の顔は6歳の頃から鍛え上げたはずの完璧な淑女の面を保てなくなり、は??? という困惑な表情が姿を現してしまった。



なんせ、公爵令嬢である私の婚約者で、この国の王太子から「婚約破棄する王太子ってどう思う?」と聞かれたのである。



私、イヴァンジェリン・エマ・コンスタンシアは、そこそこ大きなこの王国で宰相を務めるコンスタンシア公爵の娘。

自分で言うのも何だが、茶色に近い暗い金髪ではあるものの、碧眼でそこそこ美しく、学園内でも上位には入る優秀さをもつ才色兼備なお嬢様だ。

そして、定期連絡会として王宮の庭園で開いている二人だけのお茶会で問題発言を放ったのは6歳の頃から私の婚約者であり、この国の第一王子にして王太子であるルーカス・テオドール・サガリヤ。

癪に障るが、プラチナブロンドにルビーのように真っ赤な瞳を持ったとてつもない美丈夫で、文武両道向かうところ敵無しと言っていい程完璧な王太子かつ、学園一の天才であり秀才。そして公務や政治手腕も確かである。王太子が学園を卒業したらさっさと王位を譲ろうかな……と国王が考えている程の人物なのだ。



そんな王太子は今、呆気に取られている私の前で優雅に紅茶を飲んでいる。

あんな発言をしたのにも関わらず。

こっちは何と聞き返していいものかと、固まっているのにだ。



「…………えっと……、どう……、と申しますのは??」



「どうもこうも、最近王太子が庶民やら男爵令嬢と結婚するために元々あった婚約を破棄する……、様な物語が流行ってるだろう? ……というか、いつものお嬢様口調に戻ってるぞ、イヴ」


私の敬語が気に入らないのか、王太子は二人だけの時は堅苦しい話し方はやめるって約束だろう?、と文句を言いながら嫌そうな顔をしている。


「いや……、だってさぁ……王太子殿下である貴方から、王太子の婚約破棄について聞かれたのよ!? そりゃあ焦って敬語ぐらい出てくるわよ」


「なんだ、俺が婚約破棄するとでも思ったのか?」


そんな事は寝耳に水だ、とも言いたげな驚いた顔で私を見てくる。私の方がその顔をしたい。


「じゃなきゃ何でこの話をするのよ」


「ほら、去年隣国の隣国で実際に王太子が舞踏会で婚約破棄して問題になったじゃないか」


「あー、あったわね。凄い小さい国だったし……国交もなかったから気にしていなかったけど」


私も風の噂位にしか聞いていなかったのだが、何処ぞの王太子が王太子の成人記念パーティーか何かで、自身の婚約者を大勢の眼の前で婚約破棄し、男爵だか子爵だか忘れたが、元平民の女性と結婚すると宣言した事件だと記憶していた。


「それまでは王太子と身分の低い女性が結ばれる『物語』として、婚約破棄云々の奴が下級貴族の間で流行っていたんだが……、あの事件を切っ掛けに……、実は…………」


王太子は生唾を飲み込みながら、重たい表情で口を開いた。




「"現実"でも流行りだしてきてしまって困っている…………」




「あぁ……………」



ものすごく疲れ果てている、とでも言いたげな王太子のどんよりとした表情に私は同情してしまった。



「男爵や子爵令嬢……少し裕福な平民の商家の令嬢まで、王太子妃の座を狙えるのではないかと色めき立ってしまってな……、各国の王太子は何処に行くにしてもいつもの倍、はたまたその倍以上のご令嬢に付き纏われて疲労困憊中だ……」


何処に行っても令嬢がいるんだ……おかしくないか? 君という婚約者がいるのに……、と死んだ魚の様な目で訴えられている。


「それは……、大変だぁ……」


「他の王太子と会う時はこの話をして慰め合うぐらい、様々な場所で流行りすぎていて、どこの国も()()()()()は許せない、と顰蹙を買っているよ……」


「まぁ、そうなるわよね…皆様幼少期から許嫁がいる方ばかりでしょう? 権力統制や国交等を考えた上での婚約者でしょうから何か大事でもなければ婚約破棄なんてしないだろうし……」


「そう!! そうなんだよ!!」


茶器が揺れて紅茶が溢れるかと思うぐらい大きく机に手を置きながら相槌を打たれたので、私は思わずギョッとした。


「国のため、自分の王家の安定を図るための結婚なのにそれを一時の恋心でぶち壊すだなんて、正気の沙汰じゃない……!! どう考えたって婚約破棄した王太子は馬鹿すぎるだろう!? 阿呆なのか!?」


「お、おう……、」


「百歩……、いや、一万歩譲って、婚約破棄した後に結婚する相手が公爵・侯爵家などの上位貴族のご令嬢ならまだ何とかなるだろうが……、男爵令嬢!?!? しかも、元平民!?!? 住む世界が違いすぎるだろう!?」


かなり鬱憤が溜まっていたのだろうか。王太子の文句は止まらない。


「王妃というのは国の母で、王がいない時は王の代理を務められるだけの素質がなければいけない人物じゃないか!、笑顔だけ振りまいていれば務まるようなモノじゃない。政治、経済、帝王学、貿易、他国との交流……様々な事に対して王を支えられるように一流でなければいけない人なんだぞ!? それを……、貴族としての教育をあまり受けていない娘ができるわけがないだろう!! 王太子として教育を受けていれば猿でもわかるぞ!? アイツと同じ王太子として見られるのが恥ずかしい位だ………っっ!!」


「……うん、大丈夫、大丈夫。貴方をあんな王太子と一緒にする人はいないから」


国を第一に考え、自分の色恋など考えず立場を全うしている人間だ。私を含めこの国の誰もがあんな奴と一緒だとは考えていないだろう。そんな意味を込めてフォローしようと話したのだが……、



「さっき一緒にしたくせにどの口が言うんだ!?」



「えぇ……??」


彼の逆鱗に触れたらしく、私にまで飛び火がかかった。



「私、そんなこと言った……?」


「言った!! 君は俺が婚約破棄すると思ったじゃないか!!」


私を指さして、まるで悪役に嘆く悲劇のヒロインのように訴えてくる。


「ああ……、そこかぁ……言ってはないじゃん、思っただけで」


「そんなことはどっちでもいい! 俺がイヴと婚約破棄するなんて、天と地が裂けてもあり得るわけ無いだろう!? 何でそんなこと思ったんだ!?」



「いやぁ……だって、私達恋愛感情がある婚約者同士じゃないし……、私はそこそこのご令嬢、でしょう?」


「は??」



王太子は口を開けたまま動かなくなってしまった。そこまで衝撃的な内容を言ったわけではない気がするのだが……、まぁ、理由を述べないわけにもいかないだろうと、私は口を開いた。


「6歳の頃からの王妃教育を受けつつ、貴方と一緒に帝王学とかを学んでいるから他のご令嬢に比べて、ちょっと学力はあるものの……私ぐらいの美人なんてそこら辺に転がってるし、もっと素敵なレディは沢山いるじゃない?」


「君並の美人が、そこら辺に転がって、いる……???」


私の言っていることが信じられない…とでも言いたげな顔で頭を抱えている王太子なんて見ずに、話を続けていく。


「貴方は学園のどの教科でも一番の成績で、眉目秀麗。宗教画の様なお顔立ちでカッコよくて優しい素敵な王太子殿下じゃない? 幼馴染の私の色眼鏡を抜いても抜群の殿方じゃん? ルーカス様は絶対お伽噺の白馬の王子様より素敵だと思う……、」


うん、保証できるレベルだわ……、誰がどう見ても最高の王太子だもん、と頷いた。


「だから、私より相応しい子は他にもいるんじゃないかと思ってたの。

王太子妃、そして将来の国王の妻になるに相応しい人が現れたら私なんてお役御免だろうな〜、って思ってたから、つい」


「ついって…………、あのなぁ……」


王太子は私に対してかなり大きなため息を吐いて、真剣な眼差しを私に向けた。


「……色々と訂正したい点はあるが、まずイヴは"そこそこのご令嬢"ではない」


「え、いやいや、そんなこと……」


「そんなことある!!」


「即答」


「まず、君は私が受けている王太子教育をほぼ全て一緒に受けてきただろう?」


「そりゃぁ、許嫁だし」


『国王不在の間は代理として働かねばならない身になるのだから、王太子教育も一緒に受けておきなさい』

と宰相である父の勧めもあり、婚約が決まってからというもの、ほぼ王城に住み込むような形で王太子と一緒に教育を受けている。まぁこれは王太子の婚約者であれば当たり前の事なのでそこまで重要なことではない。


……そう思って呑気に紅茶を飲んでいたのだが、あちら側はなんだか違うらしい。



「……普通、王太子妃になる女性だとしても()()()()()()()()()()んだそうだ」



「え゛っ……、」


一瞬驚いてお茶を吹き出すかと思った。


「俺も最近知ったんだが……母上は受けていなかったらしいし、他の王太子達に聞いても婚約者は王妃教育しか受けてない、って……」


「うそぉ……、じゃあ何で私受けてたの……?」


「宰相殿もやらせてみよう、位の軽い気持ちだったららしくてそのうち音を上げたらやめようね〜、って父上と言い合ってたらしい」


王太子と同等の学力を持った王太子妃ができれば万々歳だし、まぁ今後の王太子妃達の教育方針を決める実験として入れてみよう!、みたいな軽い気持ちだったとのこと。


「お父様ノリでやらせてたのか……」


「どうせ出来ないだろうけど、何処までやれるかな……と思って王妃教育と並行して受けさせていたら、結果、君は両立させてしまったというわけだ。ってか、何で両立できてるんだ…? 王太子教育普通にキツいのに……」


「うーん、両立出来てはいないと思うのだけど……。だって、私は乗馬と剣技の授業は出てないし、貴方より成績悪いじゃない?」


「君なぁ……、俺より成績が悪いって言っても5点とか10点の差じゃないか……! 俺は王妃教育ナシ、王太子教育一本で君より少し成績がいいだけだぞ!? 君は王妃教育を満点でこなしながら王太子教育も優秀点を取ってるんだぞ!? 大丈夫か!?」


こいつ頭おかしい…!とでも言いたげな勢いで迫ってきたので、ちょっと引いた。


「んなこと言われても……、王妃教育なんて社交界でのマナーと淑女としての立ち振る舞いと、ダンスと刺繍と楽器演奏と言語学と声楽と護身術と王族の歴史と淑女用馬術と……」


「多いっ!!」


「えぇ……たかが20個ぐらいよ?」


まだあと半分あったのに私の言葉は王太子によって遮られてしまった。


「20個は多いだろう!? 学園の学科より多いじゃないか! 頭の使いすぎで常識どっかに吹っ飛んでってないか!?」


「そんなことはないと思うんだけどなぁ……」


「とにかく! 王太子教育と王妃教育を両立させ、尚且つ学園内の成績も常に三位以内なんてご令嬢は君しかいないからな!?」


「いや、誰だってやればでき…」


「できてたまるかっ!!!」


さっきよりも勢いよく遮られた。王太子は肩を上下にゼー、ハー、と揺らしていて、少し息切れを起こしている。どうやら少し機嫌が悪くなってきたようだ。


「……いいか?普通はできない。これ以外の反論は認めない」


「いやでもルーカス様は…」


「俺も普通じゃないし、宰相も普通じゃない。というか君の側にいる人は異常な集団だと思ったほうがいい。君も含めて」


なんてことを言うんだ、

と思ったが、いいね?と睨んでくる王太子の目が凄まじかったので反論するのをぐっと堪え、文句を言いたげな顔にはなってしまったが、わかりましたと一応返答した。


納得はいかないが父も国王も目の前にいる王太子も確かに普通ではない天才である。……私を含めるのはおかしいとは思うのだが。





お互いに気持ちを落ち着かせるため、紅茶を一口飲んで一息ついたところで王太子が口を開いた。



「あと君の顔はそこら辺に転がってるような美人じゃなくて、もの凄い美人だし世界一可愛いことを自覚したほうがいい」


「は?? その顔で言う??」



花とキラキラが常時飛んでいるような幻覚が見える位の美青年に可愛いと言われると人間はどうもキレるようにできているようだ。というか私はキレた。

これに関しては納得できない。ちょっと表出ろや、あ゛ぁん゛? とか絶対淑女が言ってはいけない言葉が頭をよぎったし、言おうか迷ったが、私は淑女!! 淑女よ!! と心を落ち着かせて何とか言い留まった。



「……あのねぇ、貴方のような世界一美しい顔を持つ人から美しいやら、可愛いやら言われても全っっっっ然、説得力がないんだけど?? 喧嘩売ってるの?」


「俺から見たらイヴが世界一の美人だが??」


君、社交界の華と言われるぐらい、いろんな男性から狙われてるんだぞ? 知ってるのか? と小言を言っていた気がするが、そんなことより腹が立つほうが先だった。


「はぁっ!? 貴方のほうが頭大丈夫!? もう嫌がらせにしか聞こえないんだけど!!」


「嫌がらせなわけないだろう。好きな子に対して言ってるんだから」


「嫌がらせじゃ、ない……ということは公務や勉学のし過ぎで遂に目がおかしくなっちゃったのかしら……、……って、はい?? 好きな子??」


なんだか王太子が私の事を好きな子だと言った幻聴が聞こえた。私も疲れのせいか遂に幻聴が聴こえるようになってしまったのか……




「ん? 君は俺の好きな子だが。それが何か?」




「幻聴じゃなかった……」


幻聴じゃなかった。


この王太子、私のことが好きだと照れることもなくサラリと宣言してきた。

照れずに真っ直ぐ告白することってあるの!?

私がぽかんとした顔で呆けているものだから、王太子は少しムッとした表情を浮かべはじめた。


「幻聴って酷くないか? 俺が君を好きなのはわかってると思ってたんだが」


「いやいや、わかるわけが……」


ん、待てよ? 王太子は恋愛感情の好きだとは言っていない……、そうか!!!




「そっか! 友愛の方ね! そりゃそうよ!! 私だってルーカス様の事好きだもん。なんなら親友(マブダチ)として愛してるわ!」


「マブ……ダチ……、」




その可能性をすっかり忘れていた。

そりゃあ、友愛なら照れずに言えるもんね、と私はうんうんと頷いた。

王太子の方は親友と書いてマブダチ、と読む事を知らなかったのか、目を見開いて唖然としている。俗世的な言い方なので紳士で高貴な彼には聞き馴染みがなかったみたいだ。


私が勝手に友達だと思っていたので、王太子の方も友達として好きだと言ってくれるとは……、とっても嬉しいものである。なんなら少し照れてしまう。へへっ、って変な笑いすら出てしまった。


「6歳の頃から一緒に切磋琢磨して、この国のために頑張ってきたもんね!! 色々あったんだから恋愛はなくとも厚い友情で結ばれ……」


共に笑い、共に泣き、時には暴力沙汰のような派手な喧嘩もしたり切磋琢磨して一緒に育ってきたのだ。よくある親友同士の王道物語(セオリー)はやってきたと思う。あ、思い出したら目頭が熱くなってきた……。本当よくここまで二人でやってこれた……



「違う…………、違うんだ…………!!」


「えっ、」


一人で彼との友情人生を走馬灯のように振り返っていたら、物凄く思い悩んだ表情で否定されてしまった。

王太子はナニカ悪いものでも食べたのか? という位渋い顔をしている。この前の海鮮モノが今お腹にダイレクトアタックを仕掛けているのか……?

なんてことを考えてつつ、彼の様子を伺っていたら、苦しそうな顔でこちらを見つめて訴えてきた。




「恋愛感情の方で、好きなんだよ…………」




「おっとぉ……???」


ちょっと何を言っているか、わかんなくなってきた。

一旦整理するためにも私は深呼吸をして、頭に手をおいて考えた。


「えっと……、、つまり……?? ルーカス様は、私が、好きだと…………??」


「そうだな、好きだぞ。友愛だけでなく、恋愛感情の方で好きだ。」


「ライクじゃなく??」


「ラブだ、ラブ。ライクの方じゃなくて。お付き合いしたいとか、結婚したいとかの方の好きだな。ちゃんと言うなら求愛するほうの……」


「わかった!!、わかった!!」


これ以上王太子に喋られると私の頭がパンクしそうだったので、取り敢えず手で王太子の口を塞ぐように押さえた。

突然の告白に私の顔は真っ赤っ赤だ。王妃教育で鍛え上げてきた鉄の表情筋達は何処に行ってしまったんだ? と言いたいレベルである。



「……とりあえず、私のことを、恋愛感情の方で好きだ、って事はわかりました」


ため息をつきながら、王太子に認める旨を伝えつつ口から手を放す。




「でも、今までちっともそんな素振り見せてないでしょう?? 何でまた私を好きに??」


「え゛っっ、、」



そう、私の事が好きだなんて素振りを彼から見たことがない。


王太子教育の中や、今行ってる定期連絡会というお茶会では普通に幼馴染感覚で喋るものの、学園内ではあまり関わりがないのである。


王太子は衝撃が走ったような表情をしているが、私の考えの方があっている気がする。


「だって……、学園で同じクラスだけど会話は一日二つか三つあれば良い位しか喋らないでしょう? それに貴方から好きだって今の今まで聞いたことなかったし……」


「嘘だろ…………、君…………」




「俺からのアピールにまっっったく気が付いてなかったのか……??」




「へ?」


アピール?、何だそれは。初耳である。



「まず、イヴの7歳の誕生日に贈り物をしただろう? 覚えてるか?」


「ああ! 赤い薔薇の花束をくれたわね。初めて人から花束を貰って嬉しかったから覚えてるわ」


とっても綺麗に咲いていて、あんまりにも素敵だったので両親に頼んでドライフラワーにしてもらったのを覚えている。王太子には言っていないが、実は今でも部屋に飾ってある。


「……本数が何本だったかは覚えてる?」


「えっと……確か、10本よりは多かった気が……」


「11本だ」


「ああ! 11本! 確かそうだったわね。……それが何か?」


「何か?って……イヴ、君花言葉ぐらい知ってるだろう? 赤い薔薇が11本だとどんな意味?」


王妃教育で習った花言葉について、頭の中で辞書をめくるように赤い薔薇の花束の本数の意味を思い出した、のだが……

その意味のせいで赤みが引いてきた顔が、再度薔薇のように赤くなり、不整脈か? と言いたいほどに心臓がうるさくなった。

その意味については、


「……………『最愛』」


と、ぼそっと言うので精一杯だった。

私が恥ずかしがっているのを見て、王太子はなんだか嬉しそうに微笑んでいる。


「正解。つまりその頃から君の事が好きだった、という訳なんだが?」


「……なっ、7歳の私にわかるわけがないでしょ!! それに花束だったのはその年だけじゃない!! 後の10年は赤い薔薇が一本ずつと贈り物で………」


「そうだね、赤い薔薇が一本ずつ。いやぁ、7歳のときに何も言ってもらえなかったからコレ、わかってないんじゃないかと思って、8歳からは1本の『一目惚れ』、『あなたしかいない』に変えていったんだけど……」


「えっ、そうだったの?」


「気付かれていなかったようで……」


「だっていっつも『薔薇が綺麗に咲いてたから』って言ってくれてたから……、普通に何も意味がないと思ってたわ。」


「嘘だろ……、」


ここまで伝わっていなかったとは……、という言葉が出そうな位大きなため息をつき、彼は不貞腐れたように私に喋り始める。


「……ちなみに、9歳のときは8歳の時の薔薇と合わせると2本になるから『この世界は二人だけ』って意味も込めてて、10歳は3本になるから『愛している』、11歳は『死ぬまでこの気持ちは変わらない』、12歳は『あなたに出会えた事の心からの喜び』、13歳は……………」


「もういい!! もういいです!! お腹いっぱいですっ!!! 貴方ってロマンチストだったのね!?」


「君がここまでロマンチックな事に疎いとは思わなかったよ」


頭から煙が出そうな私に対して溜息をつきながら随分な言い草を言ってくれるものだ。




「それにさぁ、イヴが身につけているドレス、ネックレスにイヤリングに髪飾り……、全部俺が用意してるものだっての忘れてない?」


「うそ……全部なの?? 私の家からも出てるかと思ってた……、国費そんなに使ってたの……!?」


舞踏会等、王太子の婚約者として隣に立つ時のドレスや装飾品は王太子から贈られてきたものを使用していたが、通常の服装に関してはほぼ王城で暮らしているとはいえ、公爵家の方からお金を出して作ってもらっていると考えていた。

それが全部王太子から贈られていたと知り、国の金食い虫になっていたのではないかと、さっきまで赤かった顔からサーッと血の気が引いた。


「あ、国の予算じゃなくて俺のポケットマネーだからそこは気にしないで。あと、俺以外の人が贈ったモノを身に着けてるイヴが見たくないから宰相殿に贈らないでって命令してるだけ。イヴが身に纏ってるもの全部、俺からの贈り物にしておきたいし」


「えっ、ちょっと待って今変な言葉が聞こえた気が……」


「あと、俺が学園で君と会話しないのは、()()()()避けてるからだろう? 俺が喋ろうとするとササーッと逃げるのは君じゃないか」


「うっ、」


痛いところを突かれた。


「学園に入学した途端、君は学園内では話しかけてくれないし、昼食に誘おうとすると惨敗……。側近の友にまで、避けられてるね、可哀想(笑)って笑われてるんだぞ!?」


「わぁ……、」


側近の皆さんに笑われるのは流石に可哀想だなと思う。

その後、王太子は音が鳴り響く程大きく両腕でテーブルを叩き、



「それにっ……!! 俺のこと、()()()って呼んでくれなくなるなんて……!!!」




と嘆き始めた。

そこかよ……、と心のなかで突っ込んだ事は秘密だ。


「いっつもルーク、ルークって笑いかけてくれてたじゃないか!? なのに……学園に入った途端、学園じゃ喋れないし、喋ってくれるのはお互いの情報共有の為のこのお茶会だけ……。俺が嫌いになったのかなって落ち込んだ時期もあったんだぞ!? どうして避けるようになったんだ!!」


美人が台無しになるぐらいワンワンと嘆きながら私の肩を掴んで揺さぶってくる王太子。

揺らされすぎて脳震盪を起こしそうだったので、王太子の胸を両腕で押した。


「だっ、だって……、学園って他のご令嬢や御子息の方々の目もあるでしょう?、そんな中王太子殿下を愛称で呼ぶわけにはいかないし……」


「イヴは俺の婚約者なんだから呼んでいいにきまってる!! 俺が許す!」


「圧が強い。……あと、貴方、学園で沢山の女性に囲まれてたじゃん?」


そうこの王太子、美青年で高身長、才色兼備で文武両道非の打ち所が無い王太子殿下なので、モテる。モテまくる。

学園に入った当初から公爵・候爵・伯爵といった王太子妃を狙えそうな貴族令嬢達に群がられていたのだ。


「……貴方を狙う高位の貴族令嬢達の天敵って、婚約者(わたし)でしょ?、あの人たち敵に回すと怖いのよ……、」


女の嫉妬は怖い。特に野心のある女性ってもっと怖い。

婚約者を蹴落として自分が婚約者になろうと思ってる人間の近くに行きたいわけがない。

あの凄まじい眼力を思い出すだけで鳥肌が立つ。


「なので、愛のある婚約者同士じゃないから、どうぞお好きに群がって下さい!! 私は知りませんって白を切ってました」


「な……、、」


「しかも最近、高位貴族の方々じゃなくて、下級貴族の令嬢の方々からも言い寄られてたじゃない? そんな中、私が貴方に近づくとでも思った? 物語風に言ったら悪役令嬢とかにされちゃうのよ? 恐ろしい恐ろしい……」


下級の方々が何で群がってるんだろう……、と横目で見ていたのだが、王太子の話を聞く限り、この前の婚約破棄事件が切っ掛けだったようだ。まぁ、それはどうでもいい。

とにかく、悪者にされるのは真っ平ゴメンなのだ。


「そうか……、それで君が……」


「貴方を心配させてしまったのは謝るわ。貴方を嫌いになったわけではなくて…、その、別にお互い恋愛感情がないからいいかなって思ってただけで………」


()()()が私を慕ってくれていたのを知らなかったとはいえ、申し訳ないことをしてしまっ……




「よし!! わかった。これからは君が俺の愛する人だって皆に認めて貰うために学園内でも俺から君に求愛していこう!!」


「は??」




は??????


「……あの、話聞いてた??」


「勿論。君が貴族令嬢達から敵視されるのが嫌で、俺を避けていたって事だろう? だから、敵視出来ないぐらい俺が君を愛してるってことを解らせればいい」


「何故そうなった??」


「俺の方がイヴにぞっこんで、入る隙がないほどイチャイチャしてれば誰も邪魔も敵視もしないだろう! そしたら誰も婚約破棄出来ると思わなくなるだろうしな!!」


「えぇ……、」


どうしてそんな暴論を振りかざし始めた? とりあえず名案だ!って顔でガッツポーズを取るのをやめてほしい。




「そんな訳だから、イヴ」


王太子は椅子からすっと立ち上がると、私の眼の前まで来て立膝をついた。

急に真剣な表情で見つめられ、私は唾をごくんと飲んでしまう。

そして、私の右手を手に取り


「これからは君に全身全霊をかけてわかりやすく愛を伝えるから、覚悟してほしい。学園卒業までに君の心を俺のものにしてみせるよ、イヴ」


手の甲に唇で優しく触れてきた。


もう顔面が爆発しそう。

恋愛感情として好きでなかったとはいえ、人間的に好きで、大切な友人で、昔からカッコよくて優しい憧れの幼馴染に、こんな事をされたら自分の気持ちを勘違いしてしまいそうだ。


茹でダコのようになった私を見て、ルークは嬉しそうに微笑んだ。


「イヴはいつも可愛いけれど、俺のせいで真っ赤になってる今の君はもっと可愛い」


そう言って立ち上がり、私の頬にキスをする。


「なっ!? 何をっ!? ルっ、ルーカス様、やっ、やめて……」


「ルーク、って呼んでくれなきゃやめない」


慌てた私が面白かったのか、私がドキドキして喋れないことをいい事に頬やおでこ、鼻先にまでキスをしていく。


「ちょっ……!! わかった!! わかったからっ……、るっ、ルーク!! やめて!!」


「……やっと呼んでくれた」


ルークはにんまりと満足そうに笑い、私を抱き締めた。



「きゃーーーーーっ!!!!!」



キャパオーバーである。

王妃教育と王太子教育で精一杯で恋愛に疎い私は悲鳴を上げるしかない。

これから一年半、彼から愛を囁かれると思うとたまったもんじゃない。

……もう落ちそうなのに。



こんな状態で果たして、私はあと一年半の学園生活を穏便に過ごせるのだろうか。





その後、ルークの求愛にすぐ陥落し、学内きってのラブラブカップルとなり、卒業の一年後に入籍して婚約破棄事件よりも歴史に名を残すおしどり名君主夫妻となることを、今の私はまだ知らないのだった。












 


気が付いたら60000pv以上、更にたくさんのいいねやブックマークに感想まで本当ありがとうございます!

こんなに見てもらえると思っていなかったので、とっても嬉しいです。

感想は全て読ませていただいております。


最近書き溜めてた次作(?)のような世界線が同じ短篇ができました。

『「貴女が婚約破棄されたら、私と結婚してくださいませんか?」と、隣国の公爵令息からスカウトされました。』

という作品です。ルーカスもイヴァンジェリンも登場しますので2人のその後が気になる方は是非覗いてみてください!


小説の書き方を調べてちまちま直してますので

何回か修正をいれるかと思いますが、

小説初心者なので、暖かく見守ってくださると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
そのまま読んでも面白いんだけど ここまでお互い褒めあげておいて実は第三者から見るとあばたもえくぼな地味顔の二人だったりしても面白い
[一言] これが鈍感系◯◯(今回は鈍感系女子ですか)ですね‼️ 誉めてわからせる王太子様頑張ってと応援したくなります 怪我するほどの喧嘩って何があったのかも気になります 溺愛してるのに傷つけるなんて…
[一言] 新しいタイプの溺愛だなあと思い、とっても素敵にすれ違ってて面白かったです。 もうすこしすれ違っててもよいのにー(鬼畜w)、と思います(^^) 後日談をぜひ。もうすこしすれ違ってね(^^;
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