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第十章 密命再び 1

 二日後の朝である。


 蘭涼は再び輿上の人となって河津道を東へ進んでいた。


 後ろを来る簡素な輿に乗るのは従者役の崔芳淳(さいほうじゅん)だ。


 二基の輿を護衛するのは先日と同じくリュザンベール風の戎衣に身を包んだ二十名の洛東巡邏隊士だが、率いているのは月牙ではなく、葦毛馬に乗った中背の若い女だ。名を周桂花といって、例の柳花の遠縁の元・外宮妓官らしい。

 月牙は今月中日に予定されている大舞踏会に合わせてやってきたリュザンベール本国からの使節を護衛するために、京洛地方の南境を流れる蘭江渡河点の都城たる蘭陽に赴いているのだそうだ。



 

 外出もこの月二度目となれば、前のときほど心は昂ぶらなかった。

 前回と同じく柔らかな繭を思わせる白い帳に蔽われた輿のなかで、蘭涼は二日前に桃果殿で言いつかった密命の内容を反芻していた。



                 ◆



「――蘭渓道院さまの仰せの秘事が本当だったとして、私が知りたいのは、誰がどのように関わっているかということなのだ」

 王太后はそう言った。

「まず、今あの山にいるわが姪――(さき)の芙蓉殿たる李黛玉(りたいぎょく)は何か知っているのか、そこが最も気になる」

「畏れながら桃果殿さま」と、玉楊が不服そうに口を挟む。「黛玉はそもそもの初めから入道を望んでおりました。それならばと蘭渓道院に入るようお勧めなさったのは桃果殿さまご自身でございましょう?」

「分かっている玉楊。あくまでも念のためだ。もしあれが叛乱を企てる側に列なっているとしたら、私の生家である中書令李家も連なっている可能性が高いからの」

 王太后が全く言葉を濁さずに言うと、宝紗が顔をひきつらせた。

「玉璽を保管する中書令たる右宰相公が叛乱に列なるなど――ああ、先の宰相宮の叛乱以来ではございませんか」

「桃果殿さま、それはちと考えすぎでは?」と、金蝉も口を挟む。「光祀のころの宰相宮の叛乱がそれなりに形になったのは、往時の王宮兵衛の中枢に洛中杜氏が多くあって、これが一族がらみ抱き込まれていたためでございます。今そのような氏族はございません」

「わが父はそこまで愚かではないと、娘としては信じたいのだが」と、王太后は憫笑めいた笑いを浮かべた。「そろそろ長く生き過ぎて無為の生に飽き、今や飛ぶ鳥落とす勢いの尚書令慎家に一矢報いたいと思っている――やもしれん」

 蘭涼は話を聞きながら武者震いを感じた。

 何やら話が大きくなってきたようだ。

 全く蚊帳の外みたいな気分で聞いていたとき、

「そこでだ、斑竹房」と、王太后がいきなり呼んできた。

 蘭涼はびくりとした。

「な、なんでございましょう?」

「そなた、もう一度蘭渓道院へ行け。誰が何をどう知っているのか、できる限り探り出すのだ」



                 ◆



 ――探り出せと言われてもなあ、と輿のなかで蘭涼は密かなため息をついた。

 命じられたことがあまりに大雑把すぎる。


 媽祖(まそ)さまどうぞお助けを――と、ひたすら祈りを捧げているうちに、ようやくに輿が止って、外から桂花の声が聞こえた。


「斑竹房さま、蘭渓道院の南門でございます」



 前と同じく長い石段をどうにかこうにか上り切ると、門前には前と同じ供華衆が控えていた。

 蘭涼を見ると厳つい顔に人懐っこい笑みを浮かべる。

「これはこれは斑竹房さま。ようお会いいたしますなあ。今日のお供はあの可愛らしい百樹参りの小姐ではないので?」

「あの子は今日は留守番です。二人分の籠を頼みますよ」

「どうぞお任せください」

 答えながら蘭涼は内心ヒヤヒヤした。

 門衛というものは意外によく来訪者の顔を覚えているものらしい。


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