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第七章 掌中の珠 4

少々短めです

 室内にいたのは本当に思いがけない人物だった。


 昨日会ったばかりの蕎月牙である。

 昨日と同じ旧・外宮妓官の官服姿だが、箙と刀はなしで、背中に尺でもいれられたみたいな姿勢でピシッと腰掛に座っている。あのべらぼうに美しい貌が完全に無表情だった。どうやらものすごく緊張しているらしい。

 蘭涼は呆気にとられた。

「柘榴庭がなぜここに?」

「私が呼んだからよ」と、玉楊が得意そうに応える。「もうじきに雪衣も来るだろう」

 ちょうどそのとき、外から女嬬の声が響いた。

「大嬢、紅梅殿のお方がお見えです――」



「新内侍様、紅梅殿の判官、ただいま参上いたしました!」

 いつもどおりのきびきびした挨拶を述べながら入ってきた主計判官は、円卓で鯱張っている元・外宮妓官の頭領を目にするなり、密な睫に縁取られた真黒な目を零れんばかりに見張ってから、先ほどの蘭涼と同じ台詞を吐いた。

「――柘榴庭がなぜここに?」

「私が呼んだからよ! 他にいるゆえんがあるか?」

 玉楊がちょっと焦れたように繰り返す。「昨日東崗で何かあったか、雪衣、そなたも正確に知りたかろう?」

「それは無論」

「ならばまとめて報告させるのが早い」

「あ、いいですね!」

「大嬢、それはいけません!」

 雪衣と蘭涼の応えがかぶった。


 蘭涼はもともとなだらかな眉の形が許す限り吊り上げて雪衣を睨みつけた。

「紅梅殿の判官、良識を弁えよ。胡乱な秘事をお耳に入れて、大嬢の御身に危難が生じたらいかがいたす?」

「ほう。秘事があるのか」と、玉楊自身が面白そうに応じ、不意に表情を引き締めて、借りてきたユキヒョウみたいに肩をすぼめている月牙と、怒りと懸念に頬を上気させた蘭涼とを交互に見やってから告げた。

「両名とも、昨日東崗にて何を見聞きしたか、包み隠さずこの新内侍に告げよ。私は冠の飾り物になるつもりはないゆえの」

 玉楊は重々しく言い放った。

 小柄で骨細で繊細そうな、小鳥みたいに華奢な印象のうら若い佳人だというのに、千年を生きた人外の何かみたいに堂々としている。

 蘭涼は思わずひれ伏したくなってしまった。


 ――ああ、大嬢(ひめさま)はこういう御方だったんだ。


 こういう御方だからこそ、多くの才人から正后にふさわしい姫君だと思い慕われていたのだ。


「新内侍さま、流石でございますねえ」

 雪衣がほれぼれとした声音で讃嘆すると、玉楊はいかにも得意そうに笑った。

「であろう? この玉楊の威を借るならば蚊帳の外に置くことは許さん。まずは蘭涼、そなたからだ。私に告げたくなかった秘事とはなんだ?」

 玉楊の目が射貫くように見据えてきた。

 雪衣は好奇心を隠そうともせず、月牙のほうは無表情を装いつつ、こちらが口を切るのを待ち受けている。

 蘭涼は一瞬ためらってから、奇妙に心地よい敗北感とともに口を開いた。

「――新内侍さまは、蘭渓道院の首座導師さまの御出自について、何かご存じですか?」

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