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07 楽しくていい人達。



「あー、てかさ。このメンツでいいの? 七羽ちゃんも、一人くらい同性がいた方が楽じゃない?」

『別に悪いことはしないけどさ……遠出するなら、あと一人、女の子いるべきじゃね? 数斗のカノジョになるかどうかはさておき』


 参加者を見直して、真樹さんが気遣って提案してくれる。


「そうだね、その方がいいんじゃない? 誰か誘う?」

『でも、七羽ちゃん……友だちに悪口言われてたしなぁ……交友関係もそんなに広くないって、自分で言ってたし』


 数斗さんが、気遣いがちに覗き込む。


「誘う友だち、ですか……」

『ヤベ。おれ、またしくったな。友だちに悪口言われたばっかじゃん』

「んー、一番仲のいい子達には、カレシがいるので……二人増えたりしますね」


 誘えそうな子には、恋人がいるから、一人だけ参加させるということも出来ない。

 焦る真樹さんに、友だちならまだいますよーっとアピールもしておく。


「それだと別の車になっちゃうね。五人乗りなんだ、俺の車」


 苦笑を見せる数斗さんは、ポテトフライを一つ口に入れた。


「あっ。じゃあ、おれ達の方で、いい子紹介しようか!? めっちゃ気のいい女友だちがいるんだ。交友関係、広げてみる?」

『数斗と恋人になったら、今後会うと思うしね』


 真樹さんが閃いたと言わんばかりに、笑いかけた。


 ……それは、外堀が埋まりそう……。


「気のいい女友だちって……沢田ちゃんのこと?」

「そう! マナちゃん!」

『あー……確かにいい子だろうけど、なんとなく苦手な子なんだよなぁ……。別にいいけど』


 数斗さんがすぐ思い付いた人が、真樹さんが紹介したい子らしい。


 新一さんは、なんとなく苦手と認識するけど、いい子……?

 元々、異性には心を許さないみたいなクールさがあるから、気にしなくていいのかな……。


()()()()()()()って……さっき、話に出ましたよね?」

『『『マナちゃんさん』』』

「あ、うん。大丈夫! 坂田とは全然違うから! 半年付き合った彼氏と別れたって話が衝撃的すぎて、その隙にケイタイ取られたんだよぉ~。仲いいグループの一人で、美人で気の利く人気者だよ。おれもこれを機に、アプローチしてみようかな!?」

「真樹には無理じゃない?」

「ひっど! わかってるけど!」


 高嶺の花、って感じの人?

 新一さんにからかわれたけれど、真樹さんも本気では狙う気はないらしい。


『今は、数斗が優先だしね!』

『まぁ、数斗が優先なんだし、そっちのけにはしないか』


 真樹さんも新一さんも、数斗さんを応援する気満々。


 危うく飲み物が、気管に入って噎せるところだった……。


 二人とも、どうして乗り気で応援しているのだろうか……。


 私なら悪いようにしない、とか? まぁ、悪い人間ではないとは、自負しているけれども……。

 かといって、数斗さんと釣り合わないのは、一目瞭然なのに……!


「とりあえず、沢田ちゃんとメッセージのやり取りから始めてみない?」

『気が合うかもしれないから、いい友達になるかも』


 数斗さんも、お墨付きの女性。


『七羽ちゃんのお姉ちゃん枠になるかもね』

「おれが七羽ちゃんのいい子さを熱弁しておくから!」

「あはは、わかりました。ありがとうございます」

「んじゃあ、今度マナちゃんに言っておくから!」


 真樹さんも推すので、断ることなく、受け入れることにした。



「……本当に、いい人ですよね。三人は」



 しみじみ、と私は思わず呟いてしまう。


「そう? いやぁ、七羽ちゃんの見る目、ホントいいね!」

『あ~、でも、もしかして、七羽ちゃん、いい人達に恵まれてない? 幸薄い!?』

「おれ達なんて、フツーだと思うけど……古川の周りにはいないの?」

『うわっ! 新一、意地悪に訊くなよ!』


 ニヤッとする新一さんは、それだけ気を許してくれた証拠なのかもしれない。

 隣で真樹さんが、ギョッとしているけど。


「いえいえ! ちゃんといい人達もいます! ただ……三人の仲のよさがいいなぁと思って! 数斗さんから聞きましたけど、高校からの付き合いだそうですね」


 メッセージのやり取りで、聞いたことがある。


「おれだけ違う高校だけど、知り合ってね~。そこから、いつものメンバーってなった! 親友! 男の友情、羨ましい?」

「アホか」


 ぺしっと新一さんが真樹さんの頭を軽くひっぱたく。


 ふふっと、笑ってしまう。


 本当に羨ましいんだよなぁ。

 全然仲間同士で、黒い悪口なんてない。


 いい友情。本当に、いい人なんだ。


 だから、一緒にいて、心地がいい……。

 心の声を盗み聞きして申し訳ないけれど、安心が出来ちゃうんだもの。


『うわっ! 坂田のヤツ……おれ達のことを悪くツブヤキやがって! ちょっと、新一さーん!』


 飲み物を飲んでいた真樹さんが顔をしかめたかと思えば、新一さんにケイタイ画面を見せる。

 それを見た新一さんも、怒ったように顔を歪めた。


『ハンッ。バカめ。お前の評判は元から悪いんだよ。こっちが書き込めば、余裕で暴力ストーカー女だって知られるだけだ。ざまあ』

『七羽ちゃんの壊れたケイタイを撮っててよかったぁ~。証拠にあげてやろ~っと。ボロクソ書いて、ブロックしよ』


 どうやら、ツブヤキに、私達のことを悪く書き込まれたようだ。

 ただ、元から気性が荒い人だと認知されていたから、二人とも余裕で反撃している。


 わーあ。強いな、男の友情。


 数斗さんに暴力を振ったことに、いたくご立腹なのだろう。

 それなのに、こちらが悪く言われては、怒るのも無理ない。反撃されて、当然だ。


「どうかした? 七羽ちゃん」

「あ、いえっ。別に」


 しれっとした顔で書き込み続ける二人を、ポカンと見てしまったが、首を傾げて見てくる数斗さんに笑って誤魔化す。


「それで、平日のいつにします?」

「あ、ちょっと待って。よし。おれのシフトはぁ~」

「おれもそっちに合わせられるよ」

「じゃあ早い方がいいし! 来月の頭の月曜日で!」

「わかりました。ちゃんと休みが取れたら、連絡しますね」

「オッケ~♪」


 来月なんて、すぐだ。

 遊園地♪ 新作ジェットコースター♪


『足振ってる、可愛い』

『めちゃくちゃ楽しみにしてるじゃん』

『可愛いー、癒されるなー』


 ニマニマしている顔。バッチリ見られていた……。


 自分から尋ねるのは、ちょっと気が重いけれど。


「これから、どうします? 解散ですか?」


 午後は、何をするのか。


 予定通り、真樹さんと新一さんは理由をつけて帰ってしまうのだろうかな……。

 午後の計画は立ててないから、ハイ解散、でもいいけど。


『あ、そうだった……! 数斗の春、応援大作戦を忘れてた!』


 なんですか、真樹さん。その作戦名……。どこらへんが、大作戦なんですか……。


『んー、どうしようか。数斗は、どうしたいかな』


 新一さんも悩んで、数斗さんにじっと視線を送る。


「七羽ちゃんは、どうしたい? 何か買い物とか、する?」


 にこっと、数斗さんは笑いかけた。


『適当に店回って、七羽ちゃんの好きな物、把握したいなぁ……。警戒されるなら、二人にも居てもらおうか』


 んー……どうしようかな。

 遊園地に行く約束もしているし、もっと三人と交流しておきたい。

 ……楽しいものね。この人達といるの。


「私、特に用がなくても、友だちとプラッと店を回るの好きなんで、そうしたいのですけど……皆さんはどうですか?」


 男の人って、買い物に付き合うの、苦手だって聞いたことあるような……。


『友だちとプラッと店を回る! めちゃくちゃみんなを誘いたがってない!? これは……どうする!?』

『……ホント、おれ達に懐いたなぁ。可愛い』

「じゃあ、四人でプラッとしてみようか?」

「……いいんですか?」


 数斗さんの方から、快く四人で行くことを提案してくれた。二人きりじゃなくても、一緒にいてくれる、と。


『可愛い。笑顔、可愛すぎ』

『嬉しそうな笑顔、可愛すぎ』

『めちゃ喜んでる、可愛い。天真爛漫か』


 ……この人達に会ってから、可愛いを言われすぎている気がする……。

 心の声だけども。


 天真爛漫な子どもっぽくて、すみません!

 遊園地では、もっとはしゃぎますけどね!



 そういうわけで、雑貨店を回ることになった。


 可愛い化粧品コーナー。

 これは、男性陣も見ても面白くないだろうなー、とスルーしようと思ったけど。


「お〜可愛い。七羽ちゃんってナチュラルメイクだよね〜。やっぱ、勉強とかしたの? お洒落頑張ってるって言ってたもんね」


 意外なことに、真樹さんが足を止めて、一つ、品を手にした。

 前に話した愚痴を覚えててくれたんだ。


「……真樹さんは、本当はモテるのでは?」

「え!? 唐突!」

『ドキッとした!』

「……なんか、真樹にキュンとか、したの?」

『ひい! 数斗から不穏な空気が! 修羅場はおしまいにして!』


 数斗さんが、反対側に立ってしまった。

 でも、真樹さんが怖がるほどのことではない。

 単純に、理由が聞きたいだけみたいだ。


「ただ、前に話したお洒落の愚痴を覚えててくださいましたし、メイクを頑張ったとか、よく見てくれそうなんで、ポイント高いんじゃないかと個人的に思いまして」

「ポイント高い!? よし、どんどん褒めとこ! でも、まぁー……フツーに七羽ちゃんのナチュラルメイクが似合ってるって思っただけだよ。なっ? 数斗」

「うん。そうだね。元の可愛い顔がよくわかるから、いいなって思うよ」


 ナチュラルメイクが似合っている、か……。

 苦々しく乾いた笑いを溢してしまう。


「どしたの?」

「メイク、苦手で……アイラインを書くのも、プルプルしちゃうんですよ」

「プルプル!」

「友だちに教えてもらってたんですけど……ナチュラルが一番いいんじゃないかって」


 アイライナーを持って真樹さんを笑わせたあと、肩を落とす。


「その友だちって、まさか……」

『悪口を言ったとか言う……?』


 数斗さんが恐る恐ると確認するから、苦笑で頷く。


「その子と縁切った方がいいんじゃない?」

「はいそこ! もっとオブラートに包んで言いましょう! せめて!」


 商品棚の向こう側から、バッサリ言い放つ新一さんを、真樹さんが叱る。

 そんな二人を尻目に、数斗さんが会話を続けた。


「その子とは、付き合い長いの?」

「はい。中学の三年生からの付き合いですね。彼女が転校してきたのを機に一緒にいるようになりました。高校も一緒でしたので、いつも仲のいいメンバーとして遊んでます。もう一人、中学からの付き合いの子がいまして、その子の彼氏が二つ歳上なんで、先輩としてお酒をおごってもらったりするんですよねぇ。皆さんはどんな店でどんな風に飲み会するんですか?」


 私の交流関係から、お酒の話に持っていって、次の雑貨を見る。


 高校からの付き合いの三人は、初めてお酒を飲んだ店で、三人だけでずっと飲み続けたらしい。

 三人だけが集まる特別な店だとか。


 素敵ですねー、と素直に感想を漏らす。

 三人の友情の飲み会かぁ。


「なんなら、今日これからどっかで飲まない!?」

「ごめんなさい……仕事がわりと早いので、帰りが遅くなるのはちょっと」


 話の流れで飲む提案をされたけど、申し訳なく断る。

 家、離れているので、帰りも心配だ。


「俺、今日は車だから、遅くなる前に送れるよ?」


 なんて、数斗さんが言い出す。


『えっ。送り狼?』『送り狼になるのか?』

「それだと、数斗さんだけ飲めないじゃないですか。どうせなら、みんな一緒に飲める時にしません?」

『俺に気遣い……いい子』

『いい子すぎる。数斗、送り狼になるのは許さん! お父さんは許しませんよ!』

『まぁ、数斗が送り狼にはなるわけないか』


 数斗さんが送り狼になる疑惑を回避したら、真樹さんがお父さんぶったので、噴き出しそうになる。いきなり、お父さん化しないでほしい……ツボに入るかと思った。


『ん〜、一緒に飲める時かぁ。いつになるかなぁ』


 考え込んで数斗さんは、陳列がされたぬいぐるみを見つめる。

 あ、可愛いな。その猫のぬいぐるみ。淡いベージュ色で、眠たそうな顔をしたまん丸フォルムの猫。隣は、別の動物デザイン。


『おお。触り心地いいな、これ』


 おもむろに手を伸ばして掴んだ数斗さんが、感動したような心の声を響かせた。

 気になった私も、隣のぬいぐるみを掴んでみれば、かなりの触り心地で驚く。


「触り心地いいよね。ぬいぐるみ好き?」

「はい……実は、去年の遊園地で買った大きなぬいぐるみを抱き枕にして寝てます」

『何それ、見たい。写真、送って欲しい』

「あ、写真見ます?」

『マジで!? ……って、ぬいぐるみ単体かぁー。そうだよな……ぬいぐるみを抱き枕にしてる自撮りなんて、するタイプじゃないよねー』


 上げて落としてしまったけれど「可愛いね。その猫のキャラ、好きなの?」と気を取り直して、数斗さんは私の好みを聞き出した。



 あれこれ話していれば、あっという間に夕方。



「今日はとっても楽しかったです! ありがとうございます!」

「最初がアレだったけど、楽しめてよかったよな。次は遊園地で楽しもうぜ」

『毎回お礼を言って……律儀な子だ』

「確かに、ホントごめんね。遊園地は思う存分、はしゃごう!」

『楽しく過ごせてよかったぁ〜。次も楽しみ!』

「俺もすっごく楽しみ。気を付けて帰ってね。七羽ちゃん」

『車で送りたいなぁ……ダメだよなぁ……。寂しい』


 和気あいあいと解散。

 数斗さんだけ、内心でしょげてるけど、笑顔で手を振ってくれた。



 帰ってみれば、数斗さんから、無事帰ったかどうかの確認メッセージ。


 次の日には、ちゃんと有給で二連休を勝ち取れたので、仕事終わりにメッセージを送った。


 すると、数斗さんから、今電話をしていいか、と訊かれてしまった。

 有言実行。毎日電話をする気なのか。

 もしかしたら、直接遊園地に行く予定について話したいのかも。

 はい、と承諾のメッセージを送るなり、電話がかかってきた。


〔もしもし? お疲れ様、七羽ちゃん〕

「はいっ。数斗さんも、お疲れ様です」

〔休み取れてよかったね。思う存分、遊ぼう〕

「はい。もう楽しみです」

〔ふふっ、そっか。俺もだよ〕


 今、数斗さんは、はしゃぐ私の姿が楽しみだとか、思っただろうか。

 流石に、電話越しでは、心の声が聞こえない。


 それが普通だけど、もうすっかり数斗さんの思考回路を把握してしまったので、わかってしまっている……まだ二回しか会ってないのに、ね。


 次の日も、仕事終わりだと知ると、数斗さんが電話をかけてきた。


〔こんな時間に、徒歩で帰ってるの? 大丈夫?〕

「まだ明るいですよ。冬になると流石に暗いので、自転車でサーっと走り抜けます。それがとても寒くて寒くて。寒い方が苦手なんですよね。数斗さんは?」

〔俺? 俺は……どっちかな。寒い方が、苦手かもね〕


 また次の日も、数斗さんは仕事終わりに電話をしてくれる。


 誰かと話す帰り道は、楽しい。

 音楽を聴いて気を紛らわせるより、数斗さんの声に集中すればいいので、気も楽だ。


 真樹さん経由で紹介されたマナさんとも、メッセージのやり取りをして、いい感じ。

 名前で呼び合うことになった。

 本当に真樹さんは、私のことを熱弁していたそうで、笑い話としてその内容のメッセージを送ってくれたのだ。



 そんな感じに楽しい日々を送り、月が変わってすぐに、遊園地へ行く日を迎えた。



 ……のだが。


 待ちに待った日だというのに、泣きべそかいて、帰りたくなった。



 清楚な花柄ワンピースと、底が厚すぎないサンダルブーツのストレートヘアーのミルキーブラウンの美女さんことマナさんは、真樹さんの隣で微笑んで小さく手を振る。


『うっわ。マジで坂田が言った通りのちんちくりんじゃん。こんな子を、数斗が好きになって口説いてるとか……ないわ〜』

「会うの、初めましてだね! 七羽ちゃん! かっわい〜! 改めて、よろしくね!」

『ポッと出のクセに、出しゃばらないでよ。せっかく坂田が自滅したんだから。まぁ、いいけど。こんなチビに、勝てないわけないもん』


 笑みが引つからないように、必死に必死に、取り繕って、初対面のマナさんと握手をして「よろしくお願いします」と言葉を返す。



 まさかのッ……外面が完璧すぎる腹黒女子でしたッ!


 しかも、数斗さん狙い!



 二回目の修羅場の予感!!



 


修羅場、再び!


いいね、ポイント、ブクマ。よろしくお願いいたします!

2023・02・11

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