47 美しい恋人が愛らしく着飾った。(数斗視点)
数斗視点。
初デートの日。
期待で膨らむ興奮で、二日も寝ずにいても、デート中は睡魔にすら追い払えそうだ。
でも、新一と真樹に「寝とけ」と七羽ちゃんが心配すると言われたため、仮眠をとることにした。
シャワー上がりで身体が温まっていたこともあって、呆気なく寝落ちる。
アラームで目が覚めて、一緒に仮眠を取っていた二人とも起きた。
「なんか、他にアドバイスある?」
「んぅー? おれにアドバイス求めすぎじゃない? 役に立つなら、いいけどさ」
「本命童貞で緊張しまくってんだろ」
「……」
「否定しないんかい」
大欠伸をする新一に、否定は出来なかった。
いや、失敗したらと思えば、緊張は覚えるし、足りない準備があったらマズイ。
七羽ちゃんのためにも、不足のない初デートをエスコートしたい。
後ろ髪を引かれる思いで、ホテルをあとにした。
一度家に帰って服を着替えながら、今日の計画をおさらいしつつ、出勤。
……しまった。七羽ちゃんのワンピースを買う店はあたりを付けているけれど、ランジェリーショップはわからない。
仕事を終えたら、検索しておくか……?
仕事着に着替えて、更衣室を出れば、女性陣が数人集まっている姿を見付けた。
俺より年上の二十代の彼女達に聞いた方が、手っ取り早いかな。
「すみません。無礼を承知で尋ねるのですが……恋人に買ってあげたいので、近場のオススメのランジェリーショップを教えてくれませんか?」
普段は私的な話なんてしないし、避けてきた。
だから、話しかけてきたことに、小さな悲鳴さえ漏らして、驚かれる。
「えっ。こ、恋人さん、ですか?」
「はい。いきなり申し訳ないです」
苦笑でもう一度謝る。セクハラだと訴えられてもしょうがない質問だ。
「どんな人なんですか?」
「とっても可愛い人です」
恋人がいるって話しているのに、鼻にかかった声で上目遣いしてくるボブヘアーの女性従業員。
四人の内三人から、この近場にあるランジェリーショップの場所と名前を教えてくれた。
やけに熱く見つめてくるボブヘアーの女性従業員が、挙げた店名を口にする。わりと高級なブランド店らしい。目星をつけているワンピースの店のすぐそばにあるから、そこが一番いいな。
「どうもすみませんでした。教えてくださって、ありがとうございます」
「いえ、いいんですよぉ。竜ヶ崎さん」
変にまた、鼻にかかった声を出しては、熱い視線を向けてくるけれど、サッとその場を離れれば、残った彼女達は「竜ヶ崎さんの恋人なんて、羨ましいっ」とか「話しかけてくるなんて初めてだよねっ」と声を潜めても会話が聞こえた。
いつものことだし、気にしない。
俺の頭の中は、七羽ちゃんとの初デートのことでいっぱいだ。
大事な接客相手の対応をする。この手の客のせいで、今月は七羽ちゃんの休みに会えない。
……いや、まあ、前からこの予定はわかっていたんだ。
七羽ちゃんが好きって言ってくれたのに、諦めて離れようとするから、お試し期間を設けるってことで繋ぎ止めた。
同時に、恋人関係になれたから、俺は七羽ちゃんが手放せないくらい、好きになってもらって、そして愛してもらえるようにする。
そうすることで、七羽ちゃんは俺と愛し合える勇気を持ってくれるはずだから。
七羽ちゃんに愛を受け取ってもらえるだけで幸せだと、そう思った矢先に。
俺を愛し返したいと望むと知って――――。
――――七羽ちゃんの愛を欲しがって、俺の愛で絡め取って逃がさないことにした。
……失敗したのは、期限をたった一ヶ月だと決めたこと。逃がさないと決めても、七羽ちゃんがその一ヶ月後に答えをノーにしたら……みっともない姿を見せることになるだろう。
俺の延命のためにも、俺は君の愛を乞うから。
俺は君なしではもう生きていけそうにないのだ。
なんとかスケジュール調整して、七羽ちゃんの休みに会いに行って、同じ時間を過ごして愛を注がないと。
でも、先ずは今日に集中だ。
同じ想いを伝えられないと反省していた彼女のために、急遽、初デートを設けた。
俺は勢いで好きと言い返す七羽ちゃんから、ちゃんと想いを感じていた。ただ、好きって言葉は偽りじゃないとわかっているし、恥ずかしがっているだけだと思えば、より愛おしい。
まぁ、仮眠前に、彼女を部屋に送り届けた際に、”好きです”って見つめながら、ふわりと微笑んで穏やかに告げてくれるのも、いいと思った。俺の心臓が持つかはわからないけど、七羽ちゃんの想いは全部受け止めたい。
そういうことで、今日は伝える練習をしてもらおう。
頑張り屋な七羽ちゃんには、頑張りすぎないようにしてもらいたいけど……。
俺の心臓のために、徐々に……うん。
「あれぇ? もうお帰りですか? 竜ヶ崎さん」
「はい、お疲れ様です」
また鼻かかった声のボブヘアーの女性従業員と鉢合わせたが、急いでいるから、作り笑いの会釈で通りすぎた。
今朝、出勤したことを知らせたメッセージに、七羽ちゃんも起きたという返事をくれているのを一瞥して、車を動かして教えてもらった店へ。
入る前に、気が付く。
……七羽ちゃんのサイズ、まだ聞いてなかった…………。
焦りすぎだ、とちょっと一息ついてから、店の前で七羽ちゃんが電話が出れるかのメッセージを送って確認。
そこで、思いつく。……七羽ちゃんが素直に答えてくれるかな。しぶらないように、先にランジェリーショップに入ってしまおう。男一人でランジェリーショップに入っている現状を考えれば、七羽ちゃんも言わざるを得ない。
俺は本当にずるい男なんだよ、七羽ちゃん。
電話して、説明をしておく。セクハラだと訴えられないように気を付けて職場の女性陣に尋ねたことも話して、下着のサイズを問う。沈黙が長かったから焦ったけれど、七羽ちゃんは教えてくれた。
〔そ、の……C〕
「……C」
〔の、75で、す〕
頑張って絞り出して答えてくれたサイズ。
思わず、ゴクリと息を呑んだ。
小柄でウエストが細くて薄いのに、膨らみがあったから、あるとはわかっていた。
高校生時代に、男友だちが盛り上がって話していた内容を思い出した。
Cカップは肉まんくらいの大きさで、揉むにはちょうどいいサイズだ、と。
夜中に刺激されたせいで、治めるしかなかった下半身に、また熱が集まりそうだ。本人がすぐそばにいるっていうのに、自慰行為に及ぶ背徳感で、余計興奮してしまって、一回では済まなかった。……気持ちよすぎたし。
落ち着け落ち着け。そう言い聞かせて、捲くし立てるように他の着替えのためにもサイズを尋ねた。
七羽ちゃんも恥ずかしさで動揺しているだろうから、誤魔化すように質問に答えてくれる。
服のサイズは、SとMの狭間ってところか。店員から聞いてみれば、きっと助言をくれるはず。それでも怪しいようなら、大きい方のサイズを選べばいい。
七羽ちゃんが、デート中に買い直す、という俺の言葉に反応したから、シャワーは済ませたかどうかを確認して、40分後に会うことにしてサッと電話を切った。
どんな下着をつけてもらおう……。
また時間を短く設定してしまったな、と悔しがりながらも、店内を歩く。
つい、赤い下着が目に留まる。情熱的な赤い下着を身につけたセクシーな七羽ちゃん……アリだ。
いやでも、別に身につけているところを見れるわけじゃないから、今回はナシだ。
それに白いワンピースを着てもらいたいから、こんなハッキリしすぎた色は透ける心配もあるしね。
そういうことで、赤から視線を外した先に、白のベビードールが目に留まる。
胸の部分はしっかり隠されているが、そこから下の生地は、透け透けだ。
透け透け……。これを着たら、七羽ちゃんの細すぎるウエストがよく見えて、合わせたパンツも隠されることなく……って、紐パンだ、コレ。
だめだな。どれを見ても七羽ちゃんが身につける姿を想像してしまう。七羽ちゃんに着てもらうから、仕方ない想像だけど、刺激的すぎるのはダメだ。
隣は靴下専門店なので、隣でもストッキングを買わないと。時間はたった40分。
このベビードールは似合いそうだけど、いきなりこれを渡すなんて引かれる。断念だ。
……あ、そうか。白だ。七羽ちゃんにピッタリじゃないか。白の下着なら、白のワンピースでも透けて見えないだろうし、渡されてもいやらしさは感じないはず。
天使が代名詞になった七羽ちゃんに、白が似合わないはずがない。
……逆に、黒もアリだよな………………ランジェリーショップは、誘惑がすごいな?
一着では選べない。そもそも、どんな下着をつけているか、知られていては七羽ちゃんも恥ずかしがるかも。という言い訳も加えて、この際だから、複数買ってしまってプレゼントしようか。
だって、こんな正当な理由がないと、俺から下着をプレゼント出来ない。少なくとも、まだ。
この機会を逃しちゃだめだと、複数選ぶ。
真樹の買いすぎないように、というアドバイスは忘れていなかったので、三着に留める。
値札を外してもらい、包んでもらって紙袋で受け取った。
次は、隣の店でストッキングを。
普通に濃すぎない黒のストッキングを選ぼうとしたけれど、他の模様のストッキングが目についた。
……ガーターベルト! 見えるか、見えないかの位置にある模様。いいな、これ……。
つい、手が伸びた。ニーソを履いているような模様もあって、これは一番七羽ちゃんが選びそうだと思い、これも。あと、サイドに一本の縦線の物も加えて購入。
足早に進んで、お目当ての店に到着。
白のワンピース。店内の壁際に正面から見えるようにハンガーにかかったそれを目指していたけど、その前に横にも白いワンピースがあって、足を止めた。
襟が黒で、アクセントになっているワンピース。
自分の服装を見下ろす。
七羽ちゃんに白いワンピースを着てもらうから、俺は白のシャツと黒のジャケットに着替えておいた。この組み合わせなら、しっくり合うと思って。モノクロトーンのコーディネート。
このワンピースだと、かなり合わせているように思えて、これも買ってしまおうと手に取る。
なんだっけ、こういうの。ペアルックコーデ?
店員を呼びつけて、サイズの相談。
背が低くて、ウエストが細いけど、胸はあるってことを説明。胸元に余裕があるから、Sで大丈夫だろうって。
ついでに、とお目当ての白いワンピースのサイズも相談。
こっちは胸元がキツめだから、Mサイズが無難だとのこと。全体的に刺繍が施された白のワンピースは、ミニスカートなので、ガーターベルト模様のストッキングを履いたら、歩く度にチラチラ見えるかも……。……七羽ちゃんが、そのストッキングを選ぶかはわからないけど。
手早く包んでもらって、二つの紙袋を持って足早に駐車場に引き返す。ストッキングの袋は、ランジェリーの紙袋の中。
ピタ、と足を止める。
通り過ぎようとしたガラス越しに、マネキンが着ているワンピースを見つけた。袖が透けた刺繍レースの白のワンピース。
七羽ちゃんも気に入りそうだし、着てほしい。
それも購入して、走って車に戻り、ホテルへ到着。ギリギリセーフ。
ホッと息をついて、フロントに預けていた鍵を受け取りながら、七羽ちゃんに着いたと連絡した。
シャワー上がりの七羽ちゃんときたら……。
テレビ電話越しに、シャワー上がりの七羽ちゃんを見たことがあったけれど、それではわからなかった七羽ちゃんのすっぴんがよく見えた。
透明感のあるうるツヤの素肌。
女性の美の努力には、感服する。
七羽ちゃんは、元々顔立ちが整っているし、目元がパッチリしていて、すっぴんでも可愛いとは思っていた。
でもこの柔らかくて潤った透明感のある素肌は、努力の賜物。
磨き上げて、そして着飾る。
七羽ちゃんのお洒落の努力は、想像を超えた。
そんな七羽ちゃんに、タイミングを見計らっていたジュエリーボックスも渡す。
黒猫をモチーフにした白い小さな箱を、七羽ちゃんは目を輝かせて気に入ってくれた。
中にネックレスと指輪が入ってて驚いた彼女に、アメジストの指輪を右手の中指にはめる。ピッタリだ。
前に失くしたと言っていたし、ちょっとパワーストーン効果を調べて、お守りとして身につけてもらいたいと思った。
しかも、絆を深めて真実の愛を守り抜く強さもくれるって。
お試し期間中に、もっと好きになってもらいたい俺の願いも込めて、俺の誕生石を、彼女の指に。
ネックレスは、彼女の腕時計に合わせたピンクゴールドのハート型ネックレス。可愛くて似合うと思った。
交際記念の贈り物のピアスとともに買ったと気付いた七羽ちゃんに、着替えを急かす。
不服そうな顔をしながらも、ドアを閉じかけて、開くとまた顔を覗かせた。
服装が変わったことに気付いてくれて、かっこいいとも褒めてくれて嬉しくなる。
ドアを閉じたかと思えば、またすぐに開けて顔を出した七羽ちゃんは髪型の希望を聞いてくれた。
俺の中では、七羽ちゃんはふんわりとカールさせた髪型が定着しているから、それがいいと正直に答える。でも、ドライヤーはあっても、カールを作るコテは流石にホテルが部屋に備えているわけがない。
ブラシとドライヤーで、なんとか作れると言うから、感心した。七羽ちゃん……すごいな。昨日の真樹も、女の子のお洒落な変身の工夫はすごいと言っていたっけ。
七羽ちゃんが俺のために俺の好きな髪型にしてくれることに、また嬉しくなる。
今度こそ、着替えのために、七羽ちゃんは部屋に戻った。
七羽ちゃん、いつ頼むかな……。
部屋の前で待つ俺は、またドアが開くことを待つ。
偶然にも、三着のワンピースは、背中にファスナーがついている物となった。きっと閉められないと、頼みに来るはず。
ファスナー、上げて。というシチュエーション。
ワクワクしてしまった。
やがて来た七羽ちゃんが選んだのは、袖が刺繍レースで透けたワンピースだ。
まだ濡れた髪を退かして、背中を晒す。少しだけど、背中が見えて、それにうなじまで見れた。
わざとゆっくりとファスナーを上げて、まじまじと見る。
七羽ちゃんは、それを見抜いたのか、珍しくお礼の言葉を口にしなかった。
代わりに、すっかりむくれて、小さく「…………バカッ……!」と言っては、ドアを閉める。
か、わ、い、いッ!!!
精一杯の悪態が、可愛すぎる。
俺のカノジョ、世界一可愛い。好き。
ここからは、もう顔を出すことなく、変身に集中するだろうから、携帯電話を取り出して、暇を潰す。
ツブヤキを見れば。
オールナイトカラオケが楽しかったというツブヤキと、友だちを一人失くしたという七羽ちゃんのツブヤキが更新されていた。
最後。最新のもの。
恋人と初デートの予定というツブヤキ。
七羽ちゃんが、俺という恋人の存在を明かしてくれた……!
そのツブヤキには、七羽ちゃんの仲のいい友だちであろう二人からの祝福のコメントがあった。
もう仲のいい友だちに、恋人の存在を公表してくれたことが嬉しくて、ドキドキしながらも、心が浮き立つ。
真樹も新一も、デート楽しんで、のコメントを書き込んでいる。
七羽ちゃんもツブヤキに公表してくれたし、俺も下書き保存していた文を公開しようか。
……いや、新たに今考えてツブヤキしよう。
【交際を申し込んだ日から、遅くなったけれど、これから初デート。可愛すぎる恋人と楽しい午後を過ごすよ】
俺も薄々好きな人が出来たと匂わせる惚気のツブヤキを書き込んだけど、これで友人達に恋人がいると堂々と明かせた。
もうこのアカウントは、惚気しかツブヤキしないだろう。……今更かな。
今まで受け身で、好きになり切れずに破局したことを知る彼らには、ビッグニュースかもしれない。
土曜日だということもあって、いいねやコメントがすぐに集まった。
【今日は修羅場、起きないといいけどな。完璧にエスコートして、二人で楽しめよ】
新一の意地悪を込めたコメントに苦笑をする。
今朝、俺と二人で会った日はトラブルなんてなかったと言ったこと、根に持ってるのかな?
流石に、今日は俺のせいの修羅場なんて起きない。
知り合いが来そうにないショッピングモールでデートするからね。
誰にも邪魔されてたまるか。
【ちょっとだけ、意地悪したら、バカッて小さい声で怒られちゃった。可愛すぎる。好きすぎる】
そんな惚気のツブヤキを、次に書き込む。
【何してんの!? でも、それは確かに、どう足掻いても可愛すぎる気しかしない!】
そう真樹がコメントをくれた。
新一からは【惚気】の一言。
他の友人のコメントは、返せる内容の返事だけをしておく。
「お待たせしました」
そうやって、時間を潰している間に、準備を終えた七羽ちゃんが出てくる。
刺繍レースで袖が透けた白いワンピースを着て、黒のストッキングと、見慣れた白と黒のシックなブーティ。
セミロングの茶髪は、ふんわりと大きめなカールがついていて、七羽ちゃんの小顔を包んでいた。
耳たぶには、ハート型のペリドットのピアスが左耳に髪をかけているので、つけていると見えた。
ファンデをつけた顔は、控えめな赤色のアイシャドウを乗せた瞼と上向きの睫毛、頬にはうっすらと赤っぽいチークがつけられているとわかり、そしてオレンジ色寄りの赤い口紅で、控えめに、でも可愛く着飾った化粧。
胸元には、ピンクゴールドのハートのネックレス。
右手の中指にはアメジストの指輪。
ぽーと、愛しい恋人を見つめてしまう。
恥ずかしげに頬をほんのりと赤らめて、やや俯く七羽ちゃん。
「可愛い……とっても似合ってて、可愛い。……写真、撮ってもいい? ツブヤキ用に顔が映らないのと……あとツーショットを」
遊園地の日からの念願のツーショット。
可愛すぎる恋人のコーデだけでも、ツブヤキに自慢したい。
あと、顔も一緒に七羽ちゃんを写真に収めたい。
連写したいくらいには、しっかり残しておいたいと強く思う。
頭にも目にも、焼き付けておくけどね。
七羽ちゃんは、恥ずかしげに頬を赤らめたまま、コクコクと首を縦に振ってくれた。
甘いミックスベリー系のコロンをまとう七羽ちゃんの肩を抱き寄せて、寄り添って。
初めて愛する恋人との初デートの記念の写真を、カシャリと撮った。
(2023/10/08⭐︎)




