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34 再会して友だちを紹介。



 これから、真樹さんと新一さんと再会か。

 直接祝われるんだろうなー、って気恥ずかしさを身構えておくことにして、数斗さんに手を引かれて歩く。


「駐車場、いっぱいだね」

「金曜日ですから。どこも混んじゃいますよ。車、よく停められましたね。どこです?」

「こっち」


 我がスーパーは、かなり広々と駐車場スペースはある。

 金曜日の仕事帰りのお客さんがごった返し状態。


『七羽ちゃん、驚くだろうなー』


 数斗さんの心の声に、何か、サプライズがあるらしいと気付く。

 でも、詳細は心の声にしないから、わからない。


 交際記念のピアスのことかな?


「あれ……? 真樹さんと新一さんは?」


 数斗さんの車に近付くと、二人が乗っていないようで、首を捻る。


「どこかな」と、数斗さんからおかしがっている気配を感じ取った。


『もう少し!』と、真樹さんの心の声が後ろから響いたので、バッと振り返る。



   パンッ!



 弾ける音と飛び出すキラキラの長いテープに「きゃっ!」と驚いて声を上げてしまう。


「おめでとう! 七羽ちゃん!」

「おめでとう、ナナハネ。初カレ、ゲット」

「びっくりした?」


 ケラケラした真樹さんと新一さん。

 散らかさないタイプのクラッカーで、祝福してくれたのか。


「びっくりしましたよー……」


 心が読める能力者としては、こういうサプライズに驚かせられるのは、能力が使えてない証拠だろうなぁ。

 なんて変なことを思いながら、胸を撫で下ろす。


「お試し期間中はプラトニックって決めてるだろうけど、だからってまた無防備に隣で寝るなよ? なんかあれば、おれはナナハネの味方だからな」


 つん、と人差し指で、私の額を小突く新一さん。


『数斗なら大切にするだろうけど、ナナハネがあまりにも無防備だとすると、ベタ惚れな数斗の理性がどれほど保つか、怪しいからな。釘ささないと』


 め、面目ない……。


 新一さんの言う通りである。

 数斗さんは紳士であっても、一人の男。その点を忘れてはいけない。


「はい、気を付けます」と、気を引き締めたことを示す拳を握って見せる。


「まぁ、大丈夫だろうけど、油断禁物。てか、スーパーの中、回るんじゃなかった? 早くね?」

『不倫の下種副店長に牽制するんじゃ……』


 真樹さんも一応注意するけれど、それだけ。

 スーパー内でイケメンカレシを見せ付ける予定は、どうしたのかと首を捻った。


「済んだよ。ちょうどバックヤードを出ようとしてた七羽ちゃんを見付けたら、例の副店長といてね」

「なっ!? 一緒にいたの!?」

「出ようとしたら、職場内で持ちきりのイケメンカレシの写真を見せてくれって、引き留めてきたんです。数斗さんに気付いて、救われました」


 数斗さんの簡潔な説明に、目が飛び出しそうなくらいギョッとした真樹さんに、私が慌てて付け足す。大丈夫だったと。


「ナイスタイミングだったのか。ちゃんと牽制しといたか?」

『危なっかしいな……。肝心の牽制はどうなんだ? 直接会えたなら、大事に想ってるって、しっかり見せ付けたんだろうな?』

「仲良いアピールはしっかりしておいたよ」

『七羽ちゃんを狙うなと言わんばかりに、抱き寄せて頭にキスするとこ見せ付けたから、今はこれくらいが限界だな』


 新一さんと数斗さんは、見せ付けについて、目配せで伝え合った。


「それで、ルックス、どうだったの?」

「んー、若そうだったけれど……普通の人っぽいんじゃないかな。不倫男だと思うと、ヘドロにしか思えないけど」

「「ぷっ。ヘドロっ」」


 好奇心で問う真樹さんに、そう答えて数斗さんは二人を笑わせる。


「七羽ちゃん、今日は髪の毛、いつもよりくるっくるでいいね!」

「あ、俺も思った。可愛いね」

「仕事終わったところだよな? こういう仕事は厳しいはずだろ、格好」


 真樹さんが私の髪を褒め始めると、数斗さんは同意して頷き、でも新一さんが怪訝な顔をして首を傾げた。


「そうですよ。髪も明るいとダメでして。私はもうちょっと明るい方がいいなって思ってたんですけど……。髪はいつもまとめて白帽の中に全部入れて、女性はブラウスとスラックスで、上に白衣とエプロンとシューズです。ぶっちゃけ、ダサいですけど、作業着なんでしょうがないですよね。この髪はお団子にしてまとめたものをほどいただけして、コロンもついさっきかけただけで、あとカーディガンを着て化粧しただけです」

「女の子の変身! いいよね~、女の子がお洒落に変身する工夫! 感心しちゃう」


 グッと親指を立てて、軽く説明。

 真樹さんは面白がっては感心するから、お洒落頑張る子に言うとかなり高評価を得られるだろうなぁ、とか思ったり。

 数斗さんは「本当に可愛いね」と、肩に乗ったくるくるの髪に触れてくる。


「あ。言い忘れてた。お仕事、お疲れさん」

「お疲れ~」

「お疲れ様、七羽ちゃん」

「皆さんもお疲れ様です! それとお迎えをありがとうございます」

「いいよ~。運転したの、おれじゃないけど。おれら、ここら辺に来るの初めてだから、新鮮。あ、ハンバーガー買ったよ! 食べよ食べよ」


 新一さん達と仕事上がりをお疲れ様と言い合う。


 真樹さんは車の後部座席から、ドライブスルーで買ってくれた夕食のハンバーガーを取り出す。

 カラオケでオールナイトする前に、お腹に入れようってことで、ハンバーガーを夕食として食べておく。

 数斗さんの車を停めた後ろのガードレールに腰を寄りかからせて、ハンバーガーにかぶり。

 ずずーっとコーラを飲み干して、完食。



「七羽ちゃん。俺達の交際記念の贈り物」

「あっ、ありがとうございます」


 助手席に乗ると、運転席に座った数斗さんから、掌に乗るサイズのジュエリーボックスが差し出された。

 両手で受け取る。

 ピアスのはず。でも……なんか、買った店のロゴが入っている紙袋がないのは、ちょっと不安なのだけど……どこのブランドのものですか。


「もう見ても?」

「もちろん。すぐにでもつけてほしい」

『ペリドットのハート型のピアス、これからずっとつけてほしい』


 あ。ペリドットを選んだのか。

 このために、いつものピアスつけていなかった耳の穴につけるためにも、先ずは、中身を確認。


 パカッと開ければ、ハート型のピアス。オリーブグリーン色のハートカットされた宝石が、金で包まれたピアスになっている物。

 カット具合で、角度を変えれば、キラキラとした。


「わあ、可愛いですね! ペリドットにしてくれたんですね、私の誕生石の」

『『誕生石はペリドット』』


 後部座席の新一さんと真樹さんが、何故か覚える。


「うん。ほら、前向きになる太陽の石って言ったでしょ? 正式に付き合いたいって思ってもらえるように、前向きになる力になってもらおうと思って、ペリドットにしたんだ。他にも、七羽ちゃんの力になりますようにって願って、ハート型の前向きになれる太陽の石にした」

『毎日つけてもらうから、きっと前向きになる力になってくれる。色んなことに前向きに頑張ろうとする七羽ちゃんの力に』

「……ありがとう、ございます」


 ジン、と胸が熱くなった。

 真心と願いが込められたプレゼント。


 前向きな(ハート)にしてくれる太陽の石。


「なんだか……もう強い力をくれる気がします。つけますね」


 微笑んで冗談めいて言ってから、早速耳につけることにした。


『ペリドット、太陽の石……パワーストーン効果か。前向きか……ナナハネにぴったりじゃん』と、新一さんが検索して調べている心の声を聞く。


「太陽の石って何?」と、質問する真樹さんに、新一さんは口で教えながらも、検索結果が出た画面を見せた。


「なるほど~パワーストーンかぁ。七羽ちゃんって、今まではペリドット、身に着けてた?」

「はい。ネックレスにありますよ、指輪なんですけど。奮発して買ったので落とすのが怖くて、首にぶら下げてます」

『ん? ()()()()()? ()()?』

『? ()()()()()()()()()()()()()()()?』


 ……ん?

 真樹さんと新一さんが、心の中で疑問の声を零している。

 …………え? 何? ネックレスと指輪が、なんですか? まさか???


「うん、似合う。可愛い」


 つけ終えたところで、数斗さんがにこっと微笑んだ。

「見せて~」と真樹さんに言われたので、後ろを振り返って耳を見せた。


「似合うじゃん」

『数斗の独占した耳に、しっくりしてるんじゃないのか』

「可愛い! ハート、めっちゃ似合うじゃん!」

『これが毎日つけられるのかぁ。独占欲、お試し期間中から強すぎ』


 二人とも、数斗さんがここを独占することが、私の方の交際記念の贈り物だと聞いたようだ。

 数斗さんの独占欲に、ケラケラしているもよう。


 とにかく、似合うようでよかった。私は髪を両耳の後ろにかけて、ちゃんと見えるようにして整えておく。



『耳出した。見せびらかすくらいに気に入ってくれたのかな。んん~、耳に触りたいけど、新一達の前では避けたい。あとで二人きりになった時にさりげなく触ろう』



 なんか数斗さんが決意しているので、私も警戒をしようと決意しておいた。

 耳、ダメ、触っちゃ、ダメ。


 祥子達も現地集合済みだとメッセージで知らせてあったので、出発。

 私の地元にあって、通い慣れた大手のカラオケチェーン店へ。


「あ、いました」


 駐車場に入るなり、店の出入り口に三人の姿を見付けて、手を振る。


「マジか!? 高級車じゃん!」

「SUVですよね? いくらするんですか?」


 そう先輩と祥子が話しているのを、心の声から把握した。

 先輩は、車やバイクが好きで詳しい。


 ……数斗さんの車って、高級車だったの……?


 下りれば、先輩が近くで見たがって、三人揃ってそばまで来た。



「ショウ! アオ! 先輩! お疲れ様~! 久しぶり!」



 両腕を広げて、挨拶をしてから、葵にギュッと抱き付く。

 いつものことだから、葵はポンポンと背中を叩いて応える。


『七羽ちゃんが抱き付いた。デレ全開、可愛すぎ。あの子が葵ちゃんか』

『スキンシップ好きってマジだったのか』

『七羽ちゃんに抱き付かれるとか、羨ましい……。俺もいつか、そうやって出迎えてくれるかな。嬉しそうな七羽ちゃん、可愛い』


 おっと。三人の前では、ちょっと見せていなかったテンションだったか……。デレ全開ですみません。


「これ、高級車じゃん! すっげーな! この型は、高いでしょ! 持ち主? ローン?」


 先輩が興奮して、運転席から出てきた数斗さんに声をかけた。


「これは運転免許取ったあとに、遅れて大学合格祝いに父親が奮発して買ってくれた車です」

「マジか! 羨ましいな~」

『いや、奮発してって……ボンボンか!』


 笑顔で応える数斗さんは、奮発という言葉をあえて加えたけれど、それでもお金持ちだとわかるほどの金額らしくて、先輩にバレている。


「いくらなんですか?」


 ニッコニコと笑顔を貼り付けた祥子が、聞きそびれていた値段を問う。


 新一さんが正確な値段を頭の中に浮かべたものだから、内心震え上がる私。

 もっと慎重に乗り降りするべきだった……。


「それより、先に挨拶でしょ?」


 パンと手を軽く叩いて、私は遮っておく。


「えっと~、改めて自己紹介を」と、双方を見やる。

 この場合、どっちを先に紹介すべきかな……と刹那、右往左往してしまったが、私の友だちを紹介すべきだと判断した。


「じゃあ、ショウから」

「はぁい。村原祥子(むらはらしょうこ)です。ナナとタメの21歳で、さっき医務事務の仕事を終えてきました~。よろしくです。あ。あたしのカレシが不参加でごめんなさい」


 ひらっと手を上げて笑顔で自己紹介したのは、暗めのピンクベージュをパーマでゆるふわな髪型にして、バッチリメイクを決めた祥子。

 同じくブラウスで、薄手のロングカーディガンとスラックス姿。パンプスは、相変わらずヒールが高めだな。


『悪口言っていた子。七羽ちゃんに世話焼かれてたとは思えない大人びた子だな』

『ナナハネの悪友……』

『七羽ちゃんと付き合いが長いのに、悪口を言う子』


 だめだこりゃ。私の愚痴を聞いていた三人の祥子に対するイメージは、かなり悪い。

 新一さん、悪友ではないですよ。……多分。


柚木葵(ゆずきあおい)っす。同じくナナのタメで、フリーターです。こっちがカレシっす」


 葵もへらりと笑っては、手を振った。

 ベリーショートは金髪に染めていて、シルバーリングのピアスが目立つ。ブカッとしたパーカーは、ブランドの物で、ズボン姿。


「アオのカレシで、三人の二つ上の高校の先輩っす。フリーター。佐藤啓二(さとうけいじ)で、おれが一番最年長?」


 葵と同じパーカーをブカッと着て、腰パンみたいなズボンで全体的にだらしなさを感じる先輩もへらりと笑っては、自分の首の後ろをさする。


『葵ちゃんが好きすぎて、おまけとしてついてくることを許されているだけの先輩』

『確かに、なんか無害そうって言うか、特記することない感じのその辺の陽気なにーちゃんみたいだな』

『存在薄いおまけ先輩』


 んんん? 数斗さん、新一さん、真樹さん?

 なんで佐藤先輩の認識が、いつの間にそうなってるんです???

 ……否定出来ない! びっくりするくらい的を得てて、否定出来ないや! ごめんね、葵!


「じゃあ、俺から。竜ヶ崎数斗(りゅうがざきかずと)です。ホテル従業員でして、七羽ちゃんとは一個上ですね」


 明るいグレージュの色に染めていつものように右寄りにセンター分けにした清潔感ある短い髪型の数斗さんは、ブイネックの黒いシャツと上品さのあるスーツジャケット姿。

 わざわざ、副支配人とは言わない。


戸田真樹(とだまき)でーす! ただの営業サラリーマンです。数斗と新一とタメの親友です!」


 明るめの茶髪の真樹さんは、フードにチェック柄生地が見えるデニム素材のパーカーの袖をまくっている格好。 


田中新一(たなかしんいち)です。おれもサラリーマンで、数斗と真樹とタメです」


 黒髪を軽くワックスで遊ばせた髪型と、黒のシャツとカーディガン姿の新一さん。


 その順番で、自己紹介をしてくれた。


『ホント、エリートなイケメン。連れてくるとか、なんなの? マウント?』


 イラッとした心の声を出すのは、祥子だ。


 彼女なら、そういうことを思うくらい、想定済みなので、スルー。

 自慢とかじゃないから。友だちを紹介して、一緒に遊びたいだけなの。まったく。


「それで大卒なんでしょ? おれらみんな高卒だから、こうやって知り合うの、びっくり。ナナをナンパから助けたって聞いたけど、どこで?」

『大卒でまともな職に就いてて、やっぱ気後れするな~』

『七羽ちゃんを、ニックネームで呼んでる……モヤッとするなぁ』


 先輩も数斗さんも、笑顔の裏で、モヤッとしている。

 祥子と映画行く約束の日にドタキャンして出会ったことを悟られないように、数斗さんが気をつけながら答えてくれた。


 私が「行きましょー! オールでカラオケ!」と、葵と祥子の腕に軽く手を絡めて先導。


『友だちと仲良しアピール? 利用しないでほしいわー』


 祥子が、ご機嫌ナナメだ。


 利用って何? 普段と同じなのに……。

 これも、スルーしておこ。

 祥子の心の声は、不満が多い。辛辣な評価も悪口も、だけど。


 数斗さん達と出会うきっかけになった心の中の悪口だって、そのまま二人で映画を楽しめるわけもなく、いつもより傷付いただけ。

 今日は、数斗さん達と楽しむために来たので、多少は我慢。


『いいなぁ……七羽ちゃんにくっ付かれてるの』

『七羽ちゃん、はしゃいでる~。おれもー!』

「歌うぞー!」


 数斗さんがまたもや羨ましがっていて、真樹さんがテンションを合わせてくれる。


「予約しました、古川です」


 カウンターへ行って、ケイタイ画面の会員証を見せた。


「あ。ナナ。喫煙室にしてくれた?」

「えっ……ごめん。大きな部屋は、禁煙しかなくて」

「ええぇ~」


 覗き込んだ祥子が、不機嫌に眉間にシワを寄せる。

「喫煙室ってないんですか?」と、勝手に店員に尋ねて、タバコが吸える部屋にしようとした。

 こっちが、ええぇ~、なんだけど。


「ごめん。俺、タバコ苦手なんだ」

『ヘビースモーカーだとは聞いてたけど、やめてほしいな。七羽ちゃんが嫌いなのに』


 数斗さんがそばに立って、そうやんわりと祥子の希望に拒否を示す。


「おれも、タバコは無理。てか、喫煙オッケーのルームなんて、まだあるんだ? てっきり、最近はなくなったと思ってた」

『密室でタバコとか、マジ勘弁。いつもナナハネに我慢させて、自分はプカプカ吸ってたのか?』


 ケイタイをいじっていた新一さんも、挙手して便乗。


『なんか刺々しいな。今の、店へのクレーム?』と、店員さんが笑みを引きつらせかけている。


 近年、喫煙場所がどんどん減ってきたから、カラオケ店にまだ喫煙可能なルームがあることに、新一さんはチクリと嫌味を刺した。


「ごめーん、おれも無理~! 歌えない! えっと、祥子ちゃんだけが喫煙者? ごめん、我慢してもらっていい?」

『七羽ちゃんのトラウマを刺激するタバコは、絶対にダメ!』


 真樹さんも、両手を合わせて、ごめんと頼み込む。


 三人とも、私に気を遣いすぎ……とは思ったけれど、三人も喫煙者じゃないものね。吸わない人には、苦痛だもん。普通は吸わないでしょ。


「いや、先輩もですけど……」

「ん~。しかたねぇから、我慢すっか!」


 祥子が加勢を求めて視線を佐藤先輩に向けたけれど、ここまで嫌がる人がいれば、押し切るわけにもいかない。

 ヘビースモーカーな祥子の機嫌が悪くなるなと思いつつも、先輩は笑顔で諦めてくれた。


『はぁ~! ただでさえ、イライラするのに、タバコなしとか。来るんじゃなかった。なんでナナの逆ハーを見せつけられなきゃいけないの。ムカつく』


 祥子に「ごめん」と言っておいたけれど、貼り付けた笑顔で「わかった」と返しながらも、心の声は吐き捨てられる。


 逆ハー? まぁ、三人も異性を連れているとなると、そうも言いたくなるだろうけども。


 友だちだって言っても、異性を三人も連れて来るのは、面白くはないのは、しょうがないだろう。高学歴なイケメンなら、なおさらだろうな。


 やっかみで、そんなイライラしないでもらいたい。知ってて来ただろうに……。

 ちゃんと、私は予め言ったじゃん。しょうがない子だ。


 飲み放題を選んだのでドリンクバーで各々飲み物を選んでから、大人数のパーティー向けの部屋へ向かう。

 ポンと真ん中に置かれたテーブル。

 周りには余裕な間隔で、ソファーと腰かけがある。


「えっと……誰から歌う? トップバッターは?」


 葵の隣に腰を下ろしたけれど、一体誰が一番先に歌うかな、と首を捻った。


「主催者のナナハネだろ」

「え!? 仕切ってるのは私ですけど、主催者は真樹さんでは!?」

「おれだっけ!? あ、言い出したのはおれだったわ」

「いいから、ナナハネはこれ歌ってくれよ。前に約束したろ」


 向かい側に座る新一さんが意地悪に笑って、曲検索機のデンモクを差し出してきた。

 前にリクエストされた曲だ。


『新一が先なの……? 俺のは?』


 私の左隣に座ってきた数斗さんが、不貞腐れている。

 いや、新一さんの方が先ですもん……。


「前に約束したの?」

「あ、うん。雨の中ダッシュで帰ったら、見事に風邪引いちゃって、前の約束をドタキャンしちゃったんだよね。そしたら、真樹さんが今日のオールカラオケを提案してくれて」

「風邪でドタキャンって。最近、ナナってばドタキャンしすぎじゃない? 先月も映画観る約束したのに、あたし一人で観る羽目になったよ~」

「アハハッ、ごめんて」


 祥子の苦情に、軽く笑って謝っておく。


『お前が悪口言ったから逃げたんだよ。自業自得』

『七羽ちゃんの悪口言ったくせに、ぬけぬけと。まぁ、おかげで出会えたけど』

『七羽ちゃん……大変そうだなぁ』


 祥子。発言に気をつけよう。

 新一さん達にヘイト溜まるから。ただでさえ、印象悪いから。私のせいだけど。


 とりあえず、私から新一さんのリクエストの曲を歌い出して、オールナイトカラオケは始まった。


 内心不機嫌な祥子だけに気をつければいいとばかり思っていたけれど、それは甘い考えで、すぐに不穏を感じ取る。



 嫌だなぁ。頼むから、変なことは起きないでぇ。



 そう思っていれば、私の番が回ってきたところで、真樹さんがドリンクのおかわりを持ってくると、気を遣って立ち上がった。

 佐藤先輩も行くと言い出して、先輩と葵と祥子と真樹さんのおかわりを、二人で取りに行く。


 大丈夫かな……。気になってしまい、意識を二人に向ける。幸い、ドリンクバーは近い。

 でも意識を向けて心を読むとなると、そちらに集中するわけで、上手くは歌えなくて、見事に歌詞を間違えた。


『歌詞、違う』『あれ、間違えた?』『間違えてんじゃん』

『七羽ちゃん、何を気にしてるのかな?』


 数斗さんのために、練習しておいた曲なのに。

 でも、それどころじゃないから。


「間違えちゃいました! あとで歌い直しますね。ちょっとお手洗い行ってきます!」


 私はポチッと終了ボタンを押してから、慌てて部屋を飛び出した。



 

2023/09/11

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