30 傷だらけの天使が心配。(真樹視点)
ノリのいい優しいお兄ちゃんポジの
真樹視点!
ちぇー、と不貞腐れて唇を尖らせる。
新しく友だちになって、妹枠として愛でている天使みたいに可愛くていい子の七羽ちゃんと、初カラオケに行けないことが確定。
仲間外れ気分が嫌だけれど、仕事だもんな、しょうがない。
おれのせいで取りやめるのも悪いし、行っていいと言っておく。
でも夜は、七羽ちゃんの歌声が天使だったかどうかを聞くためにも、飲む約束を取り付けた。
残念ながら、妹ちゃん天使な本人は、翌日の出勤のために帰っちゃうあとだけど。しゃーない。
その日。珍しく、数斗の家で宅飲みに変更となったので、コンビニで好きな酒を購入。
おつまみ代わりのお菓子ならたくさんあると写真が送られたから、お菓子はいいっかとお酒だけにした。
……数斗がこんなお菓子を買い込んだなんて、珍しいな?
疑問に思いつつも、数斗のマンションへ。
新一がドアを開けてくれたから、早速今日のカラオケはどうだったのか、尋ねた。
「いや、カラオケは行ってない。ナナハネが風邪で寝込んだから」
「えっ!? 七羽ちゃん、風邪引いてドタキャンしたの!?」
「二日前の大雨の中を、傘なしで走って帰ったせいだってさ」
「あと、七連勤の疲れだと思うよ」
リビングに足を踏み入れれば、数斗はソファーでコントロールを持って、寂しげに笑って見せる。
「七連勤!? マジで!? 激務じゃん! あっ、マジだ……」
カウンターテーブルに袋を置かせてもらって、携帯電話で七羽ちゃんのツブヤキを確認すれば、今朝のツブヤキが最後。
【七連勤完遂~! でも、昨日の雨でずぶ濡れになったせいで、風邪ダウンッ……!!】
顔色の悪いやつとゲロ吐いているやつの絵文字を三つも並べている。
「えぇ~。七羽ちゃん、大丈夫なの?」
「昨夜は瀕死だったけど、今日はだいぶマシになってきたって。大丈夫だってメッセージが来たよ」
「アイツの大丈夫って、信用ないよな?」
「いや、女の子の”大丈夫”って大抵信用しちゃダメダメ」
数斗が肩を竦めて答えるけれど、隣に座った新一と一緒に、その大丈夫は鵜呑みにしない方がいいと言っておく。
そうは言っても、七羽ちゃんの家に突撃して看病するわけにはいかないよなぁ……。家族暮らしだし。
逆に、安静に寝てもらった方がいいか。
「……てか、数斗がこの部屋でゲームしてるとこ、初めて見た。しかも、ホラゲーやってんじゃん。あれ!? 新型ゲーム機じゃん! 数斗、買わないって言ったよね!?」
テレビに映っていたのは、見覚えのあるホラゲー。
学生の時にみんなでゲームしてたけど、ここでプレイしているところは初めて見るから、珍しーっと思えば、新型ゲーム機に替わっててビックリ。
おれも貯めてから買おうって思っていた新型ゲーム機! 新一はもう買ったけど、使わないからって数斗は買わないって言った!
「うん。七羽ちゃんが欲しがってたから、買っちゃった」
「七羽ちゃんが欲しがってたから買っちゃった!?」
まんま、オウム返ししちゃう。
今までの恋人には、物をねだられたら、うんざり顔していたのに!
そんな数斗がケロッと言い退けた! 絶対に七羽ちゃんが買って、と言ったわけじゃないはず! あの子がねだるわけないもんな!?
「今日は新一にデータとか移してもらったんだ」
「設置まで任されたし……まぁ、報酬にバーボン一本をもらったからいいけど」
「バーボン! 七羽ちゃんのお気に入りのお酒だったね! 美味い!?」
テーブルの上にあるボトルの一つは、バーボン。
七羽ちゃんがしぶいことに、バーボンをロックで飲んでいることがあると言っていた。
絶対その真似をしたんだろうな、って数斗のゾッコンぶりに苦笑いしてしまう。
「うん、美味しいよ。七羽ちゃんはチョコをおともにするって言ってたけど、合うね」
「おれもちょーだい!」
ロックでもらったけれど、思いの外強くて、ギョッとした。
これ、七羽ちゃんが飲むの!? あ、でも、チョコとゆっくり堪能すればいいね?
「で? 新型ゲーム機をそのホラゲーで試してんの? それ、古くね? そろそろ新作が発売するはずじゃあ……」
おれもソファーに座ろうとしたけど、その前に、数斗とひじ掛けの間にぬいぐるみがあることに気付く。
……数斗の家に、ぬいぐるみ???
首を捻って手を伸ばしたら、ぺしっと数斗に、はたかれた。
「だめ。あ、やられた」と触ることを拒否した数斗は、その隙にゲーム内でダメージを受けてしまう。
「なんで!? なんでぬいぐるみがあんの? この部屋に、恋人はまだ入れてなかったよね? 確か」
「七羽ちゃんだけだよ。これも、七羽ちゃんの抱き締める用ぬいぐるみ」
「七羽ちゃんの? ……一回来ただけで、七羽ちゃんの存在がありすぎない? あのジュエリーショップの紙袋は、やっぱ、七羽ちゃんへ?」
「うん……今日渡すつもりだったんだけど」
「いやいや。数斗。いきなり貢ぎすぎだって。加減しないと遠慮がちな七羽ちゃんに逃げられるよ?」
七羽ちゃんが、先週遊びに来たってことは知ってるけども……。
このぬいぐるみはともかく、最新型ゲーム機とジュエリーはやりすぎ。
カウントテーブルの上の隅っこのジュエリーショップの紙袋なんて、三つ並んでない?
「ゲーム機は、次七羽ちゃんが来た時に使うかもしれないから。あと、このホラゲーは、新作に備えての予習みたいなもの」
「予習?」
新作のホラゲーもやるため? 数斗って、そんなに、このホラゲー好きだったっけ?
「ナナハネが、新作の方のプレイを見せてくれって、おれに言ったんだよ。今日のカラオケでリクエスト曲を歌ってもらった見返りに」
「ちょっと待って? 七羽ちゃんにリクエストしていいの? リクエストに応えて歌ってくれるの!?」
「ん。ナナハネも知ってた曲だし、歌えそうだと思ったら、わりとあっさりと。見返りは、ホラーゲームのプレイ」
カランと、氷でグラスを鳴らして飲む新一が、しれっと答えた。
意外すぎる! 恥ずかしがりそうなのに、七羽ちゃん、リクエストに応えちゃうんだ!?
「いいな! おれは、あのアイドルグループの曲歌ってもらいたい! 絶対に七羽ちゃんが歌えば、可愛さ百倍だって!」
「そのアイドルグループの曲は知らないと思うよ? 遊園地に行く車の中で、真樹達が口ずさんだ時、七羽ちゃんは口閉じてたから」
「そんな!!」
ガーン、とショックを受ける。シクシク。
一応、ミュージックビデオを送り付けて、知ってもらって、歌ってもらおうかな……。
「とにかく。ナナハネはビビりで、自分でプレイ出来ないから、他人のプレイでホラゲーを楽しみたいんだってさ。今日のカラオケは中止したし、数斗のプレイでもいいんじゃないかってことで、今日は練習がてらプレイしてたわけ。今ラスボス」
「ゲーマーな休日かぁ。てか、そのラスボス怖っ」
社会人になって休みの日で、友だちとゲームをしてたとか……なんか、微笑ましい。学生時代に戻ったみたいでいいな。
「七羽ちゃん、ビビりなんだ~」
「ホラー映画も、初見は誰かと観ないと無理だって。多分、怖くなったらくっ付いてくれる」
「めちゃくちゃ下心! でも、いい作戦すぎる!」
怖がってくっ付いてくるって! いいじゃん! そりゃ数斗が練習することにも納得だ!
あんなにも可愛い好きな子が、観たがって、怖くなったらくっ付いてくれるとか、役得!
「このホラゲーの実写映画も好きなんだって。あー、確かこの映画で、ホラー映画にハマったみたいだよ?」
「ああ、あれか。懐かしいな。何年も前じゃん。多分、おれや真樹より映画通じゃないのか?」
「でも、ホラーアクションが限界だって。倒せないモンスター相手だと、恐怖が終わらないってことで、嫌らしいよ」
「なんだそりゃ。わかる気はするけど」
「うん。とにかく、可愛いな」
数斗から得た七羽ちゃんの情報に、おれも新一もけらりと笑ってしまう。
そこで、お見舞いのメッセージの返事が来た。
【大丈夫です! だいぶマシになりましたので! 心配ありがとうございます】
笑顔とキラキラの絵文字をつけた文面。
……その大丈夫を疑いたくなるなぁ~。無理して、わざと明るい絵文字とか使ってない?
「つか、七連勤ってつらすぎない? 七羽ちゃんの体力大丈夫なの? わりと体力仕事なんでしょ?」
「四日は半日出勤だけど、結構しんどそうだったよ。遊園地の次の日も、疲れちゃって、ここでうたた寝しちゃったし」
ラスボスを倒し終えた数斗は、コントローラーを置くと、自分の真横のひじ掛けを指差した。
「寝ちゃったの!? 数斗と二人きりだったのに!?」
「アイツ、警戒心どこやった!」
びっくり仰天して声を上げたら、新一が怒った声を出したので、ちょっと身を離す。
過保護お兄ちゃんモード! 怖ッ!
「俺といると落ち着くって、すっかり安心して寝落ちちゃったんだって。俺達に甘えすぎだって、申し訳なさそうに反省してたよ?」
微苦笑で数斗は、やんわりと宥めつつ答える。
「ほら、七羽ちゃんの昔の家庭問題。まともに話したことあるの、俺達だけなんだって」
「「えっ?」」
「リアルタイムで話す余裕もなかったって。一人の友だちには、リアクションに困ってたから、落ち着いたあとでも、話してもしょうがないなってことで話すこと諦めちゃって。ただ友だちとは、笑って楽しく過ごすだけになっちゃったみたい」
「ちょっと、おれ泣いていい? 傷だらけの天使の幸の薄さに涙出る」
あんな深手の過去の話を、今まで友だちにも話さなかったってマジ? それであんなに天真爛漫に笑ってるの?
涙ぐんでしまう。
新一の方は、イライラした顔だ。
「はぁあ? つらい時に、頼らなかったのかよ……周りに気遣いすぎだろ。ふざけんな、甘やかしてやる」
「新一、態度が怖い怖い。どうどう」
「イラッとすんじゃん。あんないい奴、なんで大切にしてされねーの? 理解出来ないだろ」
「うん、それな」
「俺も一回、七羽ちゃんの友だちに会わせてもらって、交友関係の見直しを勧めたい」
「そうするべきだな」
「いやいや待て待て! 落ち着けよ、二人とも!」
エンディングを見つめている真顔な数斗と新一に、待ったをかける。
だめだろ! おれ達が首突っ込んで交友関係を見直すとか! お兄ちゃんポジションでもやりすぎ!
「甘えすぎだって反省した七羽ちゃんには、なんて言ったの? 数斗」
「ん? もちろん、全然甘えていいって言ったよ。真樹も新一もお兄ちゃんポジションで可愛がりたがってるんだし、甘えて頼っていいし、また遊園地や映画館にもカラオケにも行って、楽しもうって。遠慮がちでも、ちゃんと頷いてくれたよ」
ホッとする。
ちゃんとおれ達には甘えてくれるし、友だちとしても笑って楽しい時間を過ごしてくれるんだ。
「遠慮がち? ちゃんとわかってるのか? もう一度言ってやるべきだな」
「新一の方は、遠慮を覚えた方がよくね?」
遠慮なさすぎる。元々、バッサリ言っちゃう容赦ないタイプだけども。
「俺達が遠慮しない方が、ちょうどいいかもしれないよ?」
なんて、数斗が言うから、首を傾げながら、バーボンを一口飲んだ。
「……七羽ちゃん。誕生日嫌いで、祝うことも断ってきたってさ」
静かに告げられた事実に、部屋がシンッと静まり返った。
「ごめん。号泣したい」
ツン、と鼻の奥が痛くなる。
家庭崩壊が自分のせいだって責めている節があったと言っていた七羽ちゃんは、自分が生まれてきたことにすら、罪悪感でも感じていて、誕生日嫌いになってしまったのか。
聞いているだけで、つらすぎる。
ヤベ。視界が潤んできた。
「今は反動で祝われたいって言ってた。誕生日だって言い触らしたりして」
「あっ! それ、ツブヤキ見た! 20歳の誕生日だって、はしゃいだツブヤキ!」
「20歳の誕生日のツブヤキって……お前、どんだけ昔のツブヤキを見てんだよ」
ハッとして、声を上げる。なんか二人して引き気味だ。
七羽ちゃんにゾッコンな数斗も、流石にそこまで遡ってツブヤキを見ていなかったらしい。
「いやだって! ちょっと躍起になって粗探しみたいなことやっちゃっただけ!」
「「粗探し?」」
「腹黒ツブヤキ見たあとに、天使のツブヤキを見たのは、めっちゃ癒されるけど、ちょっとは愚痴のツブヤキとかないかなって探しちゃったの! 逆に心配じゃない!? ツブヤキにも愚痴零してないとかさ!」
異常行動かもしれないけれど、理由があるんだよ!!
ボロクソ悪口言われたツブヤキのあとに、完璧な天使のツブヤキを見たのは、浄化される気分だったけども!
傷だらけの天使が、ツブヤキすら愚痴一つ零さないのは、心配すぎて!
「で? なんかあったのか?」
「うん。【八連勤とかコロす気か!】ってお怒りマークを並べたツブヤキあった」
「ブラックにもほどがあるだろ、おいそれ」
「七羽ちゃんも、ブラック気味って言ってたし、八時間勤務のあとは疲れた声だよ」
「なんで転職しないの?」
「慣れた作業を続けた方がいいって、転職は億劫なんだって」
めっちゃ七羽ちゃんの情報が数斗から出るなぁ、と感心してしまう。
数斗と七羽ちゃんが、どんどん知り合っている証拠だな。
「いや、普通に社畜化してんじゃんか。辞めさせろよ」
「いやいや、新一お兄ちゃん。遠慮なさすぎるってば」
「倒れてからじゃ遅いんだぞ」
「うっ! そ、それは…………そんなに激務!?」
仕事まで口出しするのはどうなのか、と宥めようとしたけれど、七羽ちゃんが倒れたらと思うと、めちゃくちゃ不安になってしまった。
我慢しちゃう子だもんね!? 大丈夫か!?
数斗に向かって、一番七羽ちゃんの仕事事情を知っているだろうから、質問を向けた。
「勤務時間内で、かなりの仕事のノルマを押し付けられるってうんざりはしてたね……。作業スペースが狭いせいで、人員も増やしても場所が出来ないから無理って。効率が悪すぎるって。でも、人員もギリギリで、欠勤する時は代わりを頼まないといけないってさ。代わりがいないと、その日の仕事の人達に迷惑かかるから、あと一人ぐらい人員が欲しいってこの前ぼやいてた」
「悪すぎる職場だろ……もうアイツの不幸な場所で耐えるの、やめさせた方がいいに決まってんじゃん」
「うん……おれ、マジ泣ける」
おれも高校にコンビニのバイトやってたけど、シフトを代わってもらう相手が必要なのはわかる……。代わりを補充してもらわないと、接客とか品出しとか、手が回らなくて困るもんなぁ。
七羽ちゃんも同僚を困らせたくなくて、色々我慢したりしたのかな。
「職場の人間関係も最悪なら、ナナハネ転職計画立てんぞ」
「目がマジだ」
「おれは、マジだ」
新一の目が据わってる。
他人の仕事に口出しするのはよくないと思うけど、ここまで心配になると、新一に加担もしたくなるよな……。
頼む! 人間関係だけには救いを! と祈る気持ちで、数斗を見る。
「人間関係の愚痴は聞かなかったね。パート仲間は、母親世代だから、ぺちゃくちゃお喋りしてるの聞いて笑ってたりするって。まぁ、実際、主婦ばっかりだとか。今の部門の副主任が、俺達とタメの女性正社員で、カラオケに誘われてたりするって、ついこの前に言ってた」
「フゥー! なるほど! パートのマダム達と和気あいあいしてんだ? 職場の空気はいいみたいじゃん」
その点は安堵出来ると、深く息を吐いて胸を撫で下ろす。
「あ。でも……」と、数斗が言う。
「昨日、風邪引いたからドタキャンするって、電話かけてくれた時……すれ違ったかなんだかはわからないけど、副店長と話してて挨拶をしてたんだけど、七羽ちゃん、フラつくくらい体調悪いから、送るって言ってたの断ってたんだ。つらそうな声だから、俺がやっぱり送ってもらった方がいいんじゃないかって言ったら、”絶対に嫌です”って声を上げたんだ」
「絶対に嫌? また遠慮?」
「んー、なんか拒絶感が強かったんだよね……。理由を訊こうとしたけど、声を上げたら、噎せちゃって聞きそびれた」
新一と数斗が怪訝な顔をしている間に、おれは引っかかりを覚えて、首を捻る。
「副店長? なんか、そんなツブヤキを見た気がする……」
「またツブヤキかよ」
そんな呆れられても……ここに情報があるんだから、しょうがなくない?
「あ、あった。四ヶ月くらい前」
「それも遡りすぎだろ」
「いやいや、見てよ。【副店長、早く異動してくれないかな】って、ゲロ吐いている顔文字」
「「…………」」
携帯電話を突き付ければ、しかめっ面で数斗と新一は顔を見合わせた。
この顔文字、斬新だよね。おれも使ってみたいや。でも、それよりも……。
「このゲロ吐いている顔文字から察するに……セクハラオヤジでは!?」
「声は若そうだったけど……セクハラ上司なら、説得して訴えさせないと」
んん!? 数斗から、冷え冷えする空気を感じる!?
「それを確かめて、同時進行でナナハネ転職計画立てるか」
新一も、冷気発してる? 寒くね!? この部屋!
「あっ! 七羽ちゃんって、イラストとか、その手の仕事には興味ないの? この前の遊園地の写真のスタンプのイラスト、可愛すぎね!? 頑張ったってはじけた顔の絵文字付きでメッセージ返ってきたけどさ。ここで描いたんっしょ?」
「うん、可愛いよね。ここで真剣に描いてたよ。集中してると、雰囲気変わって……大人びてたな。その日の服装も大人びてたんだけどね、クールさが際立ってた」
七羽ちゃんが遊園地で撮ったみんなの写真に映り込んだ腹黒を隠すために描いたイラスト。
数斗の部屋に遊びに来た時に、まったりしながらイラストをここで描いたらしい。
可愛い猫のキャラのイラストだった。なんか、猫好きで、猫のモチーフしたイラストが多いんだよな。
集中しているクールな雰囲気の七羽ちゃん、気になる……。
「あくまで趣味だし、仕事にすると義務になるから、その気はないんだって。でも、見ている限り、本格的だと思ったんだよね……素人目だけどさ。タブレットで専用のペンも使ってさ。こんなデザインですって、一度見せてくれて、完成かと思ったら、まだもふもふ感を出すって言って、工夫してたよ」
「もふもふ感!? あ! 確かに! なんかもふもふしてそうな感じする!」
改めて写真に貼られたイラストを凝視して見れば、立体的に色付けされていると気付く。
「確かに、塗り方、結構凝ってそうだよな。イラストもだけど、写真をあっちこっち模様を描いてるのも、センスあるんじゃないか?」
「あー! ハートとかね! めっちゃ可愛い感じに仕上げちゃって、すごいよな!」
「あの羽の生えた猫のキャラだって、オリキャラとして売り込めばいいと思うけど。趣味に描いて、ついでに金を稼ぐって、副業感覚で始めさせれば? 確か、何個か、オリジナルイラストを売れるサイトがあったはず。勧めようぜ。それを足掛かりに、そっちの仕事に転職させよう」
「新一ッ……恐ろしい子!」
新一ってすぐ計画を立てては、実行に移すからな! 怖いよ! 七羽ちゃんからしたら、恐ろしいわ!
こんな意地悪なのに過保護なお兄ちゃんが出来ちゃって……同情する! でも、七羽ちゃんのためだからね!
ノリのいい優しいお兄ちゃん枠のおれも、やりすぎないようにストッパーは努めるけど、七羽ちゃんの安寧のために!
次回も、真樹視点。
2023/07/16