25 幸せになる素敵な愛の形。(数斗視点)
数斗視点。お家デート。
七羽ちゃんの手を引いたまま、雑貨店を見回して、それからマグカップも必要じゃないかと思い至る。
「数斗さん。お昼になっちゃいますよ。飲み物やおやつを買うのでは?」
「あー、うん。あとマグカップを、一つ」
新一と真樹の分はあるけれど、七羽ちゃんが使う用に買っておこう。
先走りすぎるだろうから、七羽ちゃんの分だとは言わず、可愛い猫型のマグカップから選んでもらった。
ちょっと怪訝そうな顔だったけれど、そんな七羽ちゃんの手を握ったまま、取っ手が猫足の黒いマグカップを購入。
下の階のスーパーで、七羽ちゃんの言う通り、今日過ごすために必要な飲み物とおやつ。
七羽ちゃんの好みを聞きつつも、余分にカゴへ入れていく。
「そんなに必要ですか?」と、首を傾げる七羽ちゃんに「ちょっと多すぎても困らないでしょ」と答えておいた。
お菓子も、七羽ちゃんの好きなスナックを覚えておく。
残っても、そのうち真樹が食べるよ、と笑い退けた。
俺も、七羽ちゃんの好きなお菓子、食べてみたいしね。
買い物を済ませた。
車に乗ってから、袋から取り出した一つの猫のぬいぐるみは、値札を切り外して、七羽ちゃんに手渡す。
七羽ちゃんは自分のクッションを膝に乗せたまま、ギュッと両腕でそれを抱き締めた。
よかった。
……可愛い。
間もなく、俺が住んでいるマンションに到着。
オートロックマンションのため、エントランスで鍵を使って中に入る。
荷物を持つと言う七羽ちゃんには、ぬいぐるみとマグカップの入った軽い方の袋を持ってもらい、エレベーターで五階へ。
「真新しくて綺麗なマンションですね」
「そう? 適当に選んだんだ。確かに新しいって言ってたかな。新一達と集まりやすくて、職場からもそんなに遠くない範囲の中から決めたんだ。でも、もっといいところに引っ越そうかなって、ちょっと考えてる」
七羽ちゃんの家まで、車で一時間もかかるなら、もっと近くに引っ越したいな……。
七羽ちゃんが、気軽に遊びに来れる距離。あわよくば、入り浸ってほしいから。
「そうなんですか? あの駅ビルからもわりと近くて、いいところだと思いますけど」
「そうかな? まぁ、確かに、遊びに行きやすいとは思っているよ」
……七羽ちゃんが遊びに来てくれるなら、このままでもいいか。
出来れば、俺が迎えに行きたいけども。
503号室。
鍵でドアを開けて、七羽ちゃんを招き入れる。
ドキドキしつつも、先に靴を脱いで廊下を歩く。そうすれば、七羽ちゃんはブーティを脱ぐことに苦戦をした。
おっと。七羽ちゃんの手荷物をサッと持ってあげれば「ありがとうございます」と苦笑して、チャックを下げたブーティを脱いだ。
……靴下が、ボーダー柄。つま先に、猫の顔があるデザインだ。……ええぇ。可愛い……!
でも歩くと、チラリとスリットから黒のレース越しに素足が見えて、ドキリ。
キュートからのセクシー?
ギャップ萌えで、胸が貫かれる。
はぁああ……ホント、可愛い。
「スリッパ、なくてごめん。トイレはこっちね。さっき見せたリビングとキッチンで、あっちは寝室」
軽く部屋の案内をしてから、遠慮は要らないと、ソファーに座ってもらう。
「すぐにパスタ作るから、待ってて。あ、七羽ちゃん。そのゲーム機で見放題アプリを観れるようにしてくれないかな?」
「さっきもテレビ通話で見えましたが、数斗さんがゲーム機を持ってるのは意外ですね」
「学生時代の名残りで持ってきたんだ。新一と真樹とよく遊んでたからね。勧められて、いくつかゲームをクリアしたよ。動画配信も観れるし……でも、ここに越してから、ほとんど使ってないな」
「それなら、先ずはアップデートが必要かもしれませんね。ログインのパスワードを教えてください」
コントローラーを渡せば、すんなりと七羽ちゃんは引き受けてくれた。
ちょん、とソファーの隅っこに座る。遠慮がちな七羽ちゃんらしいと、密かに笑う。
メッセージから、ログイン情報を渡して、あとは任せた。
新一は新機種を買ったけど、俺はまだ古い機種のゲーム機。七羽ちゃんが使うなら、買い替えようかな……。
なんて、キッチンから七羽ちゃんの姿を、何度も確認する。
殺風景な部屋に、可愛い七羽ちゃんがいるってだけで、ふわふわした気分だ。
多分……これは、幸福感。
「終わりましたよ。何か、手伝います」
「お客様はゆっくりしてて。というか、もう完成したところ」
「いい匂い」
「カウンターで食べるかい?」
「はいっ」
カニクリームで茹でたパスタを絡めたあと、お皿に盛り付けた。二人分を、カウンターの上に置く。
ん? と、引っかかる。
さっきも、テレビ通話中に、気にしていたような……?
「あれ? それは……コーヒーメーカーですか?」
「うん、そうだよ。食事の前にたまに飲んで…………七羽ちゃんも、いるかい?」
「いいんですか?」
「もちろんだよ。何がいい? エプスレッソ? カプチーノ? カフェラテ? お好みは?」
「では、濃いめのカフェラテを一つ、お願いします」
「かしこまりました。濃いカフェラテを一つですね」
許可を得てから、カウンターそばの椅子に座ると、七羽ちゃんはルンルンした様子で待ってくれている。
こちらも、気分が上がってしまう。居心地は、よさそうだ。安堵する。
演技かかった風に、頼んでくれたから、それに快く応えた。
マグカップ、買っておいてよかったな。早速、使用。
「あ、大きなスプーンもいいですか?」
「スプーン? いいよ、どうぞ」
「パスタをスプーンで食べるのは、お子様だけって聞いたことありますが、この方が好きでして。ソースも飛ばさずに食べれますし」
七羽ちゃんは、カニクリームパスタを、スプーンに乗せて、フォークでクルクルと絡めて食べる。
「美味しいです」
顔を綻ばせる七羽ちゃんの口に合ってくれたようで、喜んでくれていた。
「よかった」と、心から喜ぶ。
俺の部屋で、七羽ちゃんが俺の作った料理を上機嫌に食べてくれているなんて。それだけで、味わえる幸福感。
淹れたカフェラテを啜って、七羽ちゃんはカウンターキッチンを観察するように見た。
「七羽ちゃん。カウンターキッチン、気に入った?」
「あ。バレましたか……。一人暮らしに憧れていた時に、検索している時に、こういうのがいいなって思ってたんです。数斗さんの部屋はイメージ通り、大人びていて綺麗ですね」
そうなんだ。
気に入ってくれるなんて、よかったな。
「ありがとう。でも、殺風景でしょ?」
「出来る男の大人びた部屋って感じで、ぴったりですよ? 確かに生活感がないとなると……そうなってもしょうがないと思います」
「うん、七羽ちゃんの言う通りだね。七羽ちゃんの理想の部屋って?」
「私の?」
「そう。一人と一匹暮らしする部屋は、どんな感じがいいと思ってたの?」
食べながら、俺の部屋を見回しつつも、その話題をした。
猫と暮らしたかった一人部屋について。
「ん〜……猫ちゃんのためのキャットタワーや、上に乗って遊べることも出来る本棚や、壁にもひょいひょい登れる階段を取り付けたり……それで、レイアウトを決めたいかと」
「猫ちゃんのための部屋になるじゃないか。猫、本当に好きなんだね」
七羽ちゃんは、猫を愛でるために暮らすのか。
……その猫になりたいな? 抱き癖のある七羽ちゃんに、ずっと抱えてもらえる?
どんな猫が好きかと尋ねれば、黒猫が一番好きだとは言うが、猫なら大抵、大歓迎だとか。
七羽ちゃんに飼われる猫になりたいなぁー、とずっと考えてる間に、食べ終えた。
七羽ちゃんが皿洗いをすると言うけれど、お客様だからいいと背中を押して、ソファーに座らせる。
手早く、食器を洗ってから、七羽ちゃんの隣に腰掛けた。
「七羽ちゃんが言ってた映画とドラマはどれ?」
「昨日話したのは確か……」
「あ。マイリストに入れてくれるかな? 七羽ちゃんが好きな映画もドラマも、全部」
「全部!?」
「うん。全部観たい」
ギョッとする七羽ちゃんに、またコントローラーを持たせて、任せる。
「本当に好きなもの、全部マイリストに入れますよ?」
「いいよ」
望むところだ。
ポチポチと、七羽ちゃんはボタンを押して作業をした。ちょっと悩んで、首を捻る。スルーしては、またポチポチ。
「んー……ホラーばかりになってしまいます……」
「ホラー映画、好きなんだね。しかも、洋画だけ」
「いやぁ……面白くて、つい。ホラーアクションなら、なお好きですね。ほら、あのホラーゲームの実写映画が、多分好きになった始まりです」
「あれね。怖くないの?」
「倒せるモンスターなら、なんとか。ちゃんと、ビビりますけどね」
「え? 倒せるか倒せないか、なの? ちゃんと怖いんだ?」
絶叫マシンは、俺達と同じく好きだし、結構怖いもの知らずかと思ったけれど。
「除霊が出来ないような幽霊は、特に……ひたすら恐怖が終わらないじゃないですか」
「それは……一理あるね。倒せたら終わりで、安心出来るから」
「そうです」
「……家でもお絵描きしながら、映画レンタルして観るって言ってたよね? 一人でホラー映画を観たりするの?」
「……初見のホラー映画の時は、母と妹に頼んで、一緒に観てもらってます。二人も好きなんで」
「……くっ付いて観るの?」
「……なるべく、そばにいてもらってます」
本当は、くっ付いて一緒に観てほしいのか。
今度、一緒に観たら、くっ付いてくれるかな……。
「あれ? それは?」
「これですか? 海外のベストセラー小説の実写映画でして、ヴァンパイアラブものです。イケメンヴァンパイアと美少女の純愛ストーリーです」
「へぇ、小説の? 見たことある気がするな……この女優さん」
「あぁー確か、一番稼いだ女優ってことで、ニュースになってましたよ。これ、大ヒットしたので」
「なるほど、それで見たかもね。ヴァンパイアラブものかぁ」
イケメンヴァンパイアと美少女か……ラブファンタジーだ。
「海外ではブームでしたよ。若い女の子が全米で熱狂したとか。別のドラマまで大ヒットしてましたもん。日本でも、ヴァンパイアラブのドラマがあったのですが……あれは、不況でした」
「詳しいね?」
「実は……物凄く、ハマってしまって。その映画もドラマも、母と妹も巻き込んで観ました。他にもヴァンパイアラブものがないかと、常にアンテナ張ってました」
かなり好きだってことがわかった。
全然知らなかったけれど、よほど七羽ちゃんの好みだったんだろう。照れ笑いして、答えてくれる。
「純愛だって?」
「はい。イケメンヴァンパイアは、百年の孤独から、愛で救われるというストーリーです。日本語翻訳の小説も、読んでました。授業中にも」
「えっ? 七羽ちゃん、授業中にそんなことを?」
「なんですか? そんな真面目ちゃんじゃないですよ? 机にラクガキも、しょっちゅうでしたもの」
意外だと笑ってしまったが、七羽ちゃんはケロッと言い退けた。
「そんなに夢中だったんだ? 気になるなぁ、今日はこれを観ていい?」
「あ。言いそびれてましたけど、長編映画ですよ? 全部で五本です」
「大作なんだ? いいよ。観る」
七羽ちゃんのマイリスト登録作業を一時中断してもらって、俺はその映画を観させてもらおうと、コントローラーを渡してもらう。
それで、再生ボタンを押した。
「じゃあ、私はイラストを描きますね。チラチラと観ながら」
「うん。寛いでね」
七羽ちゃんは、もうタブレットを取り出している。
専用のタッチペンも持っていて、本格的だと思った。
「……七羽ちゃん。すっごく漫画や小説、それから映画まで好きだよね? 自分でも創作するなら、その職業とか目指さなかったの?」
「はい? ええーと……小学生の時に、将来の夢として、漫画家になりたいとは言いましたが、ただの憧れですね。職業にするほど上手くないですよ? 技術も足りませんしね……趣味のままの方がいいと思います。仕事にすると、義務にもなりますから、自由気ままにやる創作活動がいいかと」
「そっか……そういう考えなんだね」
上手いと思うんだけどなぁ……。
七羽ちゃんのタブレット画面に、今まで描いたであろうイラストが見えたけれど、それは全部、趣味の範囲なのか……。
俺は創作活動を一切したことないから、そういうものかもしれない。
映画のオープニングが始まった。
でも、どうしても、七羽ちゃんを横目で観てしまう。
結局、持参したクッションを使って、膝を立てた姿勢で描いている。
猫のぬいぐるみは、真横に置いていた。
なんか、俺との間にあるから、壁にされている気がしたので、俺の膝の上に移動。
「……数斗さん。映画、観てます?」
「あ、うん。ごめん。イラストが気になって、つい……」
ついつい、七羽ちゃんの真剣な横顔を見つめたくなってしまうのだ。
視線に気付いている七羽ちゃんは、それでもペンを止めなかった。
「大丈夫、観てるよ? このイケメンヴァンパイア、ミステリアスだね。……俳優もイケメン。七羽ちゃんの好み?」
そういえば、七羽ちゃんのタイプって、どんな顔立ちだろうか。
人気者のイケメン同級生を、今まで好きになっていたとは聞いたけれど……。
七羽ちゃんの大きな瞳が、テレビ画面に向けられた。
「はい。かっこいいですよね」
……好みなんだ。この俳優の顔が、七羽ちゃんは好き……。
「……数斗さんは、考えを読む能力、どう思います?」
「え? ああ……このイケメンヴァンパイアが持っている特殊能力だっけ?」
じっと俳優の顔面を見つめてしまったけれど、七羽ちゃんに問われて、意識が逸れた。
他人の考えを読む能力……?
ヒットした長編映画だけあって、ヴァンパイアってだけじゃなくて、面白い設定が盛り込まれているんだなぁ。
「それって……欲しいとか? そういう意味の質問?」
「欲しいですか? 彼、かなり苦悩してますけど」
「んー、まぁ、そうだね。それで、さらに孤独感が増しているのかな……。ヒロインの考えだけ、が読めないのは、なんで?」
「あー、それはちゃんと設定がありまして……ネタバレになります」
「ん~、そうかぁ……。惹かれる相手だからこそ、考えが読みたいな」
七羽ちゃんの考えが、読めたらいいな。
欲しいものは全部与えるし、望むものも叶える。
深い傷を、癒せる言葉をかけたい。
「失望するかもしれませんよ? 全ての考えを読んでしまうと」
「丸ごと全部、愛したいと思える相手だからこそ、惹かれると思うよ?」
「……数斗さんって……失礼ですが、相手を美化しすぎかと」
呆れてしまったのか、ちょっぴり、七羽ちゃんは苦笑した。
それって……今想っている七羽ちゃんを、美化しすぎてるってこと?
考えを読んだら、心変わりするかもしれない……だなんて、思ってる?
「どうして? この映画って、純愛ストーリーなんだよね? 百年の孤独から救ってくれる愛の話なら、想いを貫くんでしょう? そういう話が好きなんじゃないの?」
この純愛ストーリーが好きなんだろう。
運命的な出会いによる愛。
自分には無縁だと思ったりするのだろうか。
七羽ちゃんこそ、そんな愛を受け取るべきだし、愛されるべきなのに。
「数斗さんったら。好みの恋愛ストーリーと現実の恋愛は、違うじゃないですか」
そう現実には、運命的な愛がないみたいに言うのに。
七羽ちゃんは、柔らかく微笑む。
綺麗な瞳を細めて、俺を見つめる。
おかしいって、笑っているのかな。
それとは、ちょっと違う。
穏やかだ。
「……現実に起きてほしくない?」
そういえば……自覚してなかったけれど。
今朝からの不安や期待によるハラハラやドキドキが、今はない。
七羽ちゃんと会ってから?
この部屋に七羽ちゃんがいることに、高揚を覚えていた。
でも、穏やかだ。
今は本当に、穏やかな気分。
七羽ちゃんが隣にいてくれると、落ち着く。
どうしてだろうか。安心しきっている。
「じゃあ、相手が自分の考えを読んだら、どうするのですか?」
「俺の考えを読んで、失望されたら……それまでかな。……いや、好きになってもらえるように最善を尽くすよ。俺の方がどれほど想っているか、包み隠さず、伝わるっていいと思う」
一瞬後ろ向きなことを言ったけれど、でも自分が運命の相手だと思うなら、そこで諦められないよな。
そう思って、前向きなことを答えた。
「ふふっ。数斗さんって……自信過剰だったんですか?」
「え? 今のでどうしてそう思うの?」
「自信家。まぁ、その魅力はお持ちですもんね」
七羽ちゃんが噴き出して笑うから、どうして、と苦笑して俺は、首を傾げた。
自信家? 魅力があるって言ってもらえるなら、それでいいけれども……。
皮肉に笑っているわけでもなく、愉快そうに笑っている。
そんな七羽ちゃんも、すっかりリラックスしているんじゃないかって気付いた。
俺と二人きり。リビングのソファーで並んで座っていても、緊張なんてすることなく、心を許してくれている。
「数斗さんに愛される人って、幸せになりますね」
七羽ちゃんのその言葉に、息を止めた。
失言したとばかりに、七羽ちゃんは目をまん丸に見開いたあと、サッと顔を伏せてしまう。
それって……俺が、今、七羽ちゃんを想ってるって、わかってて言ったよね?
俺の愛で、人を幸せに出来ると言った。ただただ、思ったことを零したみたいだ。本心を。
自分を完全除外した発言じゃなかったようで、七羽ちゃんは顔を赤らめていた。
――――いいの?
俺の愛を受け取ってくれるなら、君は幸せになれる?
踏み出していいのか。
歩み寄っていいのか。
俺に、君を――――愛させてくれる?
流石に、ドキドキと胸が高鳴る。
けれど、恍惚感すら覚えてしまう。
心地のいい、高鳴りが、幸福感を溢れさせるような――――。
「数斗さんっ。あのっ。カフェラテを、もう一杯いただけませんかっ!?」
グッと、ソファーの上を滑らせて、近付けていた手を握り締めて、引っ込めた。
七羽ちゃんからのストップ。
……だめだったっ……っ!
「う、うん……わかった。さっきの濃さでよかったかな?」
「はい……お願いします」
「待ってて。あ、一時停止して」
「はい」
ソファーから立ち上がって、頭をポンッと軽く叩いてあげる。
大丈夫……七羽ちゃんに合わせるし、今日はそんな下心はなしだ。
ただ、七羽ちゃんと楽しく、まったりと過ごす。
カフェラテを作りながら、ちょっと、さっきの幸福感に驚く。
……ヤバいな。
本当に、七羽ちゃんは一緒にいるだけで、俺を幸せにしてくれる。
今の一瞬ですら、恍惚な幸福感。
俺は――――愛を受け取ってもらえるだけで、幸せになれる。
俺に愛される人が幸せになるなら、七羽ちゃんは幸せになれる?
七羽ちゃんが俺の愛を受け取ってくれるなら、幸せになれるよ。
何それ。素敵な愛の形じゃないか?
もう。
君が俺の運命の相手だ、なんて。
今すぐにでも、告白してしまいたい気持ちを、堪え切った。
「……はい、どうぞ」
「ありがとうございます。……とても美味しいです」
まだ恥ずかしげな七羽ちゃんは、一口飲んで、はにかむ。
うん。今は、ただ。
これで、満足しよう。
友だち以上の想いを抱える恋人未満な関係。
今日は、七羽ちゃんに、安らぎを――――。
そう心掛けたおかげなのか。
七羽ちゃんは、ソファーのひじ掛けに頭を乗せて、うたた寝してしまった。
……寝てしまった。
俺はやはり、七羽ちゃんにもっと危機感を覚えるべきだと、諭すべきだろうか。
俺にこんなにも無防備になってくれていることに喜ぶべきか。
それとも、それほどまでに、疲れていたのに連れ出したことを反省すべきか。
…………。
……とりあえず、この寝顔を撮っておこう。
……寝顔も、天使みたいに可愛い。
どこまでも、俺を惹き付ける魅力がある天使の寝顔を、いつまでも眺めてしまいたかった。
某ヴァンパイアラブストーリーのイケメンヴァンパイアヒーローと同じ特殊能力を持ってしまった七羽ちゃん。
わりとバレないので、ついでに話題に出す。
心が読まれたなら、開き直って攻めるという考えの数斗は、嫌いじゃない。
次は、うっかりうたた寝した七羽ちゃん視点に戻ります!
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2023/02/28




