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24 愛しい君に祝福の贈り物を。(数斗視点)


数斗視点。





 登録した七羽ちゃんの家まで、カーナビを一応確認しながらも、車を走らせた。

 ハラハラドキドキとして、落ち着けない。

 七羽ちゃんの好きな曲を流して、口ずさみながら、気を紛らわせた。


 大きな公園を横切る。

 ここかな。七羽ちゃんが通勤に通り抜ける公園って。

 広々したグラウンドと、ウォーキングコースがチラッと見える。残りは、ツツジ庭園と公園の遊具スペースがあるらしい。庭園の横には、猫のたまり場があると教えてもらった。


 そこから少し進んで曲がれば、昨夜来たアパートが見えた。

 結構年季の入ったアパート。七羽ちゃんが中学の時から、ここに暮らしているらしい。


 そのアパートの前に立って待っているとばかり思ったのに、いない。

 あれ? と首を捻って、車を手前に寄せると、階段に腰かけた七羽ちゃんを見付けた。

 七羽ちゃんも気付いて、パッと立ち上がる。


 今日の七羽ちゃんは、セミロングの茶髪はストレートだ。いつも、ゆるふわなカールなのに……。


 胸下までの裾の丈の白のパーカー。ハイウエストのボトムスは、ワイドパンツで黒い。どっちもブカッとしているけれど、キュッと締まったウエストの細さが際立っている。


 ショッキングピンク色のクッションを抱えて、背負った大きめなバックを揺らして、車の前をとてとてっと歩いて助手席に来た七羽ちゃん。

 服装は大人びたシックなのに、クッションを抱えているし、バックを揺らすのも、可愛い。


 かと思えば、乗り込んだ際に、黒いボトムにスリットが入っていたから、ちらっと黒いレース越しであったけれど素足が見える。

 膝上から、ブーティを履いたくるぶしまで。


 レース越しだからこその色っぽさ。さらに、チラ見効果。

 ドキリ、とした。


 か、可愛い……のに、色っぽい。

 いや、ホント。なんなの、七羽ちゃんの魅力は……。


「こんにちは、数斗さん」

「あ、うん、こんにちは、七羽ちゃん。今日は……いつもより大人っぽいね」

「そうですか? ありがとうございます」

「髪、ストレートだね。初めて見た」

「はい。今日は、気分でそのままに」

「ん?」


 あれ……? 甘い香りがする?

 髪先を自分の指に絡めている七羽ちゃんが、間違いなく、この香りを車内に持ってきたはずだ。


「あっ! ご、ごめんなさいっ……コロン、つけすぎましたっ」


 スン、と自分のパーカーの袖を嗅ぐと、七羽ちゃんは慌てて窓を開けた。


「ううん、全然いいよ。いい香りだね」


 この甘さ。食べちゃいたい。


「なんの匂い?」

「ミックスベリー系です。あの、すぐ、消えますから」

「ああ、なるほど! イチゴかなって思ってたんだけど、ミックスベリーだったんだね。いい匂い」


 納得した俺は、七羽ちゃんのコロンの匂いを吸い込んだ。

 いや、ホント、食べちゃいたい香りだな。


 コロンだと、あまり残らない。匂いも消えやすい。

 だから、わざわざ窓を開けて匂いを流さなくてもいいのに。助手席の窓は、俺がボタン操作して閉めておく。

 七羽ちゃんの匂い。消さないで。


 そんな七羽ちゃんは、大きなバックを背にして、クッションを抱えたまま、シートベルトをしっかりつけて座っている。

 うん、可愛い。ホント、可愛い。


 七羽ちゃんが苦手な荒い運転にならないように心掛けて、車を走らせた。


「バック、初めて見たやつだね。タブレット入れてるから?」

「はい。携帯ゲーム機とか入れて、出掛ける用のバックですけど……あんまり使ってませんでした」

「どうして?」

「携帯ゲーム機を持って、友だちの家に転がり込むことがなくなっちゃったからです。家族を気にすると、家に招かないですから……」


 シュン、と肩を下げる七羽ちゃん。

 もしかして……。


「友だちの家に遊びにいくの、好きだったの?」

「はい、わりと好きでした。可能な限り、入り浸っていましたよ」


 抱えたクッションに顎を乗せて、こちらに笑って見せる七羽ちゃん。

 可愛いなぁ、と思いつつも、友だちの家に遊びにいく感覚で、来てくれるのか……と嬉しいような落胆したような、複雑な気持ちになる。


 ……友だち以上、恋人未満。


 いや、七羽ちゃんが友だちの家で遊べると喜んでくれているし、俺も七羽ちゃんが家に来てくれるなら嬉しいから、素直に喜んでおこう。


「……今日、ホント、大人っぽいね。どうしてかな? 髪型が違うせい?」

「違和感でもあります? 変ですか?」


 ちらちらと横目で確認する七羽ちゃんは、自分の髪を撫でて不安げな表情で小首を傾げた。


「あ。今日はクール系だからかもね、服装」


 色っぽくシック。


「似合いません?」

「似合うよ。でも、今まで見た七羽ちゃんの服装って、やっぱり可愛らしかったなぁーって。ほら、昨日も可愛い白のワンピースだったでしょ? 黒の革ジャンでクールさも取り入れてたけど、やっぱり可愛いから。今日は全体的にクールな感じ」


 あとチラ見せが、色っぽい。ウエストの細さも、ドキッとする。


「昨日のコーデは、今ある服の中で一番のお気に入りです」

「そうだったんだ? いいね」


 ……俺、昨日褒めたっけ? ……あまり、褒めてないな。

 七羽ちゃんが具合悪そうだって思ってたから、それに気を取られてて。

 ミニワンピの丈の短さと絶対領域ばかり、目が留まったくせに……。


「ちょっと、憧れだったんです。ああいう革ジャンを着こなすの」

「そうなんだ? どうして?」

「海外ドラマのヒロインが着こなしてて、いいなーって。あと、レースのワンピースと合わせて、クールとキュートを着こなすのが好みみたいです」

「ヒロインの真似なんだ? クールとキュートかぁ……いいね。俺も好きだよ」


 七羽ちゃんの可愛いだけじゃないクールさのある格好。

 あか抜けたい七羽ちゃんだから、大人びたデザインを着ておきたいとかじゃなく、単純に好みで着たいのか……。いいね。


「お洒落、頑張ってるって言ってたもんね。雑誌とかチェックしてるの?」

「いえ、ネットでトレンド調べたり、好みの服を漁ったりします。このズボンも、ネットショッピングサイトで一目惚れしまして」


 ンンッ!

 わざわざ摘み上げるから、横のスリットの透け透けレースの向こうの素足を見てしまった。


 安全運転で平常心平常心。

 昨日も俺のソフトクリームをかじった時と同じく、不意で胸を貫かないでほしいな……いや、大歓迎なんだけど。

 運転ミスりそう、気を付けよう。


「あとは、ショッピングモールで妹と店を回って、好みの新作を買うくらいです。妹の方が流行りに敏感なので、教わってる感じですね」


 そういえば、家族でショッピングモールに行くとか、言ってたな。


「あれ? そのショッピングモールって、どうやって行ってるの? お母さんが車を?」

「違いますよ。母の恋人さんが連れてってくれるんです」

「あ。お母さん、恋人がいるんだね。長いの?」


 離婚は随分前にしたらしいから、恋人がいてもおかしくないか。


「はい。かれこれ……八年の付き合い、ですね。私はもう、お父さん、と呼ばせてもらってます。事実婚ですが……婚姻届は出す気はないみたいで……」


 七羽ちゃんだけが、お父さん呼び。

 下の兄妹には、実の父親がいるからか。


「何か理由が?」

「前の結婚で、懲り懲りみたいです。妹が卒業したら、一緒に暮らすという話はしてましたね」


 まぁ……娘の七羽ちゃんを深く傷付けた元夫を思えば、結婚をすることに躊躇も理解が出来る。


「なるほどね。そうなると、七羽ちゃん達も引っ越すの?」

「どーでしょう……。私、一人暮らしに憧れてた時期がありましたから、一人暮らしをして猫ちゃんを飼おうかと」

「あはは、一人と一匹暮らし? 今もする気があるの?」

「それが……家事をこなす自信がないんですよ」


 不甲斐なさそうに苦笑をする横顔を見た。


「あれ? 料理は、たまにするって言ってたよね?」

「はい、たまになら。ホント、気分で、自分が食べたい物を。家族の分も、ついでに作っておく感じです。掃除は、まぁ、普通に出来ますが……洗濯、洗濯だけがかなり苦手、というか、嫌?」

「どうして?」

「洗濯機に服を分けて入れたり、洗剤を入れたり、あと干す作業が……妙に嫌いでして。それ以外ならやる、ってことで、仕事場もスーパーですし、買い物もします」


 首を捻っては、変でしょ、と笑う七羽ちゃん。

 ん? 買い物を担当って……大丈夫なのかな? 重そうだ……。と心配してしまう。

 だって七羽ちゃん、そのスーパーまで徒歩で通勤してるから。


「数斗さんの一人暮らしは、不便はないのですか?」

「ん? 俺は……特にはないね。ちゃんと家事もこなせてると自負してるよ。でも、まぁ……あんまり家にいないからね。殺風景で面白みはないよ」


 七羽ちゃんが友だちの家に遊びに来たがるなら、快適な部屋に変えたいなぁ……。


「そうだ。あの駅ビルでちょっとだけ、買い物をしていいかな? 飲み物もおやつも、ついでに」

「あ、はい。わかりました」


 昨日も七羽ちゃんのことをたくさん知れたけど、今日もたくさん知りたい。


「そういえば、真樹さんって今日は仕事ですか? 新一さんから、二日酔いは大丈夫だと返信はきたのですが……」

「真樹なら、昼休憩に返事してくれると思うよ。大丈夫。翌日に響くような飲み方じゃなかったから」


 二人の二日酔いを気にして、メッセージを送ったんだ。気遣い屋さん。


「そうでしたか、それならいいですけど……。何故か、新一さんに【おれはナナハネの味方だぞ】って来たんですが……なんのことでしょう? 尋ねても、グッドサインの絵文字しか返ってきませんでした……。昨日の沢田さんの件で、何かありました?」


 心配の眼差しで確認してくる七羽ちゃんを、不安にさせることを送らないでほしい。新一。

 部屋に招いたからって、七羽ちゃんに手を出すような節操なしじゃないんだから……。


「沢田の件なら、もう気にしないで大丈夫だよ。仲間内で炎上してるけど、本人は夜逃げしたかな」


 坂田も暴力ストーカー女だし、沢田は外面厚すぎな腹黒だと晒されて、仲間内で弾かれた。

 これで俺に変にちょっかいや言い寄るだなんて、バカなことをする異性の友人は、もういないはずだ。

 七羽ちゃんにも、もう迷惑はかからない。


「忘れていいよ」


 駅ビルの駐車場に、車を停めた。

 七羽ちゃんは、クッションを座席に残して、先に降りる。


「疲れは大丈夫? 歩いて平気?」

「はい。そこまで疲れが残っているわけじゃないですよ」

「そっか、無理しないでね」


 俺も車から降りて、駅ビル内に行こうと並んで歩き出すと、七羽ちゃんの方から手を繋いできたから、驚く。

 今までは、俺が勝手に、さりげない風に掴んで離さなかっただけだから。


 七羽ちゃんも、無意識だったのか、カアァッと頬を赤らめると、慌てた様子で手を引っ込めてしまった。


「す、すみませんっ! つい! ホ、ホント、すみませんっ」


 恥ずかしいと、両手で顔をガードして隠れる七羽ちゃん。


 ()()()()()……?


「七羽ちゃんって、スキンシップ嫌がらないけど……抵抗がないの? 友だちと、よくするの?」

「えっと……どちらかといえば、好き、です……」


 ! 好きなんだ!?

 どんどんスキンシップしていいってこと? で、いい!?


「スキンシップに抵抗のない友だちとは、腕を組んだりして、くっ付いたりします……」


 腕を組んで! くっ付く!


「妹とも、母とも、そうしますね……」

「……異性の友だちは?」


 話を聞く限り、親しい付き合いがあるのは、友だちの恋人である高校の先輩ぐらいだけど……他にいないわけじゃないだろうから、どこまでスキンシップをしているのだろうか。


「…………しません……」


 か細い声で、七羽ちゃんは俯いた顔を両手でガードして隠してしまう。


 …………俺だけってこと?


 無意識に俺と手を繋いじゃった?


 嬉しいんだけど……!


「数斗さんがスマートに手を引くからっ! それで、ついっ!」

「……うん、そっか。それがもう当たり前になるくらい、受け入れてくれたんだね」


 責任転嫁するみたいに言う七羽ちゃんに、嬉しくて微笑んで手を差し出す。

 手、繋ご。

 頬を赤らめたままの七羽ちゃんは、おずおずと手を伸ばして、重ねてくれた。


「そっか……スキンシップが好きなんだね。七羽ちゃんの男友だちとの距離感って、どの程度なの?」


 昨日は新一に頭撫でられたし、なんならほろ酔いの足取りを気にして肩まで貸そうとしてたな……。


「…………」

「え。わからないの?」


 眉を眉間に寄せて困ったように首を傾げた七羽ちゃん。


「ほら、過去の交友関係を思い出して」

「…………肩がくっ付く距離で並んで座った、くらい? 学生の時」

「そっか……。今一番親しい異性の友だちって、友だちと付き合ってるっていう先輩だよね? 彼との距離感は?」

「……今一番親しい異性の友だちは、数斗さん達です」


 顔を俯かせた七羽ちゃんは、呟くようにそう言ってくれた。


 俺達が、一番なんだ。嬉しいな。

 そんなに可愛く懐いてくれるから、俺達も可愛がるのは、必然なんだよ。


「友だちと付き合っている先輩は……いつも遊ぶ仲間ではありますが……その、私の中では……友だち枠ではないです」

「えっ? そうなのっ?」


 お酒をおごってくれる高校の先輩だった人。

 思い返せば、確かに、”友だちの恋人である先輩”、っていつも言ってたね?

 友だちと認めてなかった……? 待って? その人の勧めでラブホで一夜、初めてのお酒を飲み干したよね? やっぱり、下心があって、それを感じ取って、七羽ちゃんは警戒を!?


「彼には悪いですが……あくまで友だちの恋人さんという認識です。その友だちのことは好きなので……必然と、おまけでついてきちゃう人だと諦めてました」

「……嫌って、言わなかったの?」

「女友だち三人だけでいたい気持ちはありましたが……別に悪い人ではないですし、もう定着してしまったので」


 諦めちゃったんだ……。

 その人も、図太い神経しているな。女の子三人組に、ついてきちゃうなんて。


「いつだったか……高三の夏かな。誕生日を祝ってくれるとそのメンツで出掛けていて、女友だち二人が服の試着室に入ってしまって、その先輩と二人になっちゃった時に……直球で、”おれが嫌いだと思ってた”、と言われちゃいました」

「おお……よりにもよって、七羽ちゃんの誕生日に?」

「ええ、まぁ。なんとか、そんなことないですよ、って笑って誤魔化したのですが……ちゃんと笑えていたか、自信ないですねぇ」


 七羽ちゃんとしては、ちゃんと一線を引いて、距離を置いていたんだ?

 そうだよな。俺の時も恋人がいるからって、不誠実だって気にしちゃう子だ。友だちの恋人なら、なおさら距離は空けておくか。


「それで、正直なところ、彼のことは……嫌いなの?」


 友だちと認めてはいないなら、少なからず、嫌いなんだろうな……。


「淡白だとは思いますが……ぶっちゃけ、なんとも思ってないんです。好きでも嫌いでもない、普通」

「クッ!」


 噴き出して笑うことを堪えた。

 七羽ちゃんは困り顔ながら、真面目な風に答える。


 高校からの付き合いで、たまにお酒をおごってくれる友だちの恋人だとしても。

 好きでもない嫌いでもない、普通。中間。ど真ん中。

 むしろ、無関心にも思える。


「やっぱり、酷いですかね……?」

「んーん。そんな相手もいるよ」


 七羽ちゃんは別に悪くないし、そう思う交友相手がいてもおかしいことじゃないと、笑い退けた。


 まぁ。これで七羽ちゃんが、俺以外と手を繋いでいないことがわかって、安心。優越感までも覚えた。



「誕生日って、いつも祝ってもらってるの?」



 七羽ちゃんの誕生日は、八月。あと二ヶ月後だ。

 友だちや家族に祝ってもらってるのかな。

 今年は、新しい友だちになった俺達と誕生日会でもさせてもらいたい。


 少し、七羽ちゃんは驚いたように眉を上げると、ふいっと顔を背けるように、前を向きた。

 様子がおかしい、とすぐに気付く。


「……七羽ちゃん?」

「……本当は、誕生日、嫌いで……。高三の時も、ちょっと、憂鬱な気分でした。家族にも、誕生日ケーキが不味すぎるから要らないって断ってきましたし、理由をつけて一人で出掛けてます」


 誕生日が、嫌い。

 それは…………生まれたことすら、責めてしまっていたせいだったのだろうか。


 自分が生まれた日を…………七羽ちゃんは、どんな気持ちで過ごしていたんだ?

 独りぼっちで、一体、どこに……?



 七羽ちゃんは、儚く微笑む。何もかも諦めてしまったような、そんな力ない笑み。



 ひやりと冷たい焦りが突き刺さり、思わず、握る手の力を込めた。


「でも、その反動か、大人になったくせに、盛大に祝われたいだなんて思っちゃうんですよね!」


 パッと明るく笑って見せる七羽ちゃんを、目にして悟る。


 もう、七羽ちゃんはこの話をしないだろう、と。

 これ以上、吐露はしない。


 過去は過去だと、割り切って明るく笑うけれど。

 深い傷は残ったまま。


 誰かを悪く思わないように、誰かを傷付けようなんてしないし、自分の負の感情を与えようともしない。


 自分が嫌だから、他人にはそうしないし、自分だけが嫌なことを我慢をするのだろう。



 ……もっと早くに、出会いたかった。



「最近は祝ってーってなんて、自分から言っちゃったりして。子どもっぽいですよね」


 恥ずかしそうな七羽ちゃんは、それは本心で、それから恥ずかしくて笑っているのだ。



「じゃあ、俺達が祝うよ」



 絶対に、盛大に祝う。これから先も、ずっと。


 七羽ちゃんの生まれた日を、全力で誠心誠意を込めて祝う。



 七羽ちゃんは、ビクッと肩を震わせた。

 俺を見上げて、大きな目をパチクリさせる。


「……意志、強いですね」


 ふふっと、噴き出す七羽ちゃん。

 目を細めて笑う七羽ちゃんは、嬉しそうに見えた。繋いだ手を、軽く揺らす。


 今、俺は思いの外、大きな声を出してしまったらしい。

 それも、意志が強すぎるって、笑われてしまうほど。


「楽しみです」


 そう言って前を向く七羽ちゃんの陰りのない横顔を見て、俺は安堵した。

 それから、二ヶ月後の誕生日をどう祝おうか、と考える。


 先ずは、七羽ちゃんの好きなものを、全部知ろう。

 どんな祝い方が好きなのか。本人からも聞き出して、それから好きなもの尽くしにして、幸せな誕生日を過ごさせたい。



「よかった。まだあった」


 手始めに、これからだ。


「七羽ちゃん、これ、二つ選んでくれる?」

「……この前のぬいぐるみ?」


 七羽ちゃんも覚えていた肌触りのいいぬいぐるみは、淡いベージュ色で、見た目的にも柔らかい。


「四種類だね。猫と犬と、豚? と、熊? どれがいいかな?」

「……誰かにプレゼントですか?」


 七羽ちゃんはキョトンとした顔で首を傾げる。

 両手に持つのは、まるまる太ったフォルムで、眠たげな顔のデザインの猫のぬいぐるみ。

 うん。ある意味、プレゼントだ。


「殺風景だから、車と家に置こうと思って。七羽ちゃんは、どれがいい? 選んでほしいな」


 七羽ちゃんが抱き締めるために買って、置いておくから、七羽ちゃんへのプレゼントかな。



 誕生日じゃなくて、こんななんでもない日にだって、些細な贈り物をさせてほしい。



 もう君なしでは生きていけそうにない俺は――――。


 君が苦しんでいた間に、今まで会えなかったことを詫びるように、なんでも与えて償いたい。

 君が生まれてきて、出会ってくれて。

 心からの感謝を、伝えさせてほしい。


 真心を込めて――――。



「――――じゃあ、猫ちゃん……二つで」


 軽くぬいぐるみを抱き締めた七羽ちゃんは、どこか嬉しそうに頬を赤らめては口元を緩ませた。

 細めた眼差しが下がっているのは、照れているからだろうか。

 きっと七羽ちゃんのための購入だと、バレたんだ。



 猫のぬいぐるみを抱き締めて嬉しそうな微笑みを溢す七羽ちゃんが、可愛くて、愛おしくて。

 俺は、頭を優しく撫でた。



 



傷の深い天使は、強く大切に想ってくれている心の声に、微笑む。


次も、数斗視点です!

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2023/02/27

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