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【完結】心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫
お試しの居場所・前編

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23 うっかりお家デートにお誘い。(数斗視点)


数斗視点。





 落ち着け、と深呼吸。

 動揺を押し隠さないと、カッコ悪い。


「あ、いや、違うよ。俺がテレビ電話をかけたんだ。いきなりごめんね」


 真っ暗な画面からバタバタしている音が聞こえる。

 ウィンウィンと鳴っている小さな音が、マッサージ機かな。


〔えっと、おはようございますっ! その、えっと……どうしました?〕

「おはよう。ただ、顔を見たくて……」


 シャワー上がりの七羽ちゃんを見るチャンスだと思った。


 本当にテレビ通話が繋がるとは思わなかったけど……ラッキーだ。……ラッキーすけべってヤツか。


「もう顔、見せてくれないの?」

〔いや、でも……えっと……私は、すっぴんですし〕

「変わらず可愛かったよ?」

〔ううぅ……〕


 恥ずかしがって呻いているのかな。


「俺だけ映っているのはずるくない?」

〔いえ、画面伏せているので、私も数斗さんの顔は見えてません……〕

「テレビ通話の意味が……」


 苦笑を零してしまう。

 当たり前にスピーカー通話だから気付かなかったけれど、七羽ちゃんの方は携帯電話を伏せてしまっていたのか。


 しぶしぶといった様子で、携帯電話をひっくり返したようで、七羽ちゃんがまた映った。

 あ。パーカー着ている。柔らかそうな薄いパーカーを全部チャックを上げてしまって、胸元が隠されていた。……残念。


〔この新機種って……かなり綺麗に映すみたいですけど、どれほどに……?〕


 まだ恥ずかしそうで頭にかぶったタオルの端で口元を隠しながら、お揃いに替えた機種の携帯電話を覗き込む。

 まじまじと、画面越しに俺の顔を見ているんだろう。


「鮮明に見えるけど」と答えると、七羽ちゃんは顔を引いて遠ざかる。


「見られて困る要素なんてあるの?」


 わからなくて、つい尋ねた。

〔ありますよぉ……〕と、弱々しい声を絞り出す七羽ちゃん。


「可愛いしか見えないのに」

〔それは……どうも〕


 テーブルの上にでも携帯電話を置いたのか、あまり顔を近付けないようにして、七羽ちゃんはタオルで髪の毛を拭い始めた。


「お世辞だと思ってるの? 本当なのに。ねぇ、もしかして、つけまって……つけてない?」

〔え? ああ、はい。つけまは……つけると重すぎて〕


 わぁ。生まれつき、そんな睫毛の多さと長さなんだ?

 ……ありのままが、可愛すぎる。

 人差し指で、くりんとしているであろう自分の睫毛をいじる七羽ちゃん。大きな瞳のくっきり二重。

 可愛い系のすっぴん美人だな……。


「ホント、七羽ちゃんの元からの魅力を台無しにしないメイクをしているんだね」

〔そう、ですか?〕

「うん。昨日の写真を見てたけど、よくわかったよ」

〔う、うーん〕


 やっぱり、恥ずかしいようで、素直に褒め言葉を受け取れない様子の七羽ちゃんは、ゴシゴシと髪を包んでこねる。


〔そうでした。写真、交換するって話だったのに、すっかり忘れてましたね〕

「ああ、そうだったね。嫌な人も映り込んでいるから、気乗りしなかったんだよ、きっと」


 苦々しそうに笑う七羽ちゃんは、肩を竦める。


「残念だよ。楽しかったのに。記念の写真まで、邪魔して……でも消せないからね。スタンプ貼って隠したよ」

〔あれ? 綺麗に消すアプリって、ありませんでした?〕

「そうなの?」

〔はい。なんのアプリだったかな……。でも、貼って隠した方が、簡単でいいですよね。楽しかったことは、本物ですし〕


 消すアプリか。検索してみよう。

 スタンプを貼って隠して誤魔化すと、七羽ちゃんまでちょっと隠れてしまうから、邪魔な存在だけ消せるならそうしたい。


 楽しかったことは本物、か。

 そう思ってくれて、よかった。


 はにかんだ七羽ちゃんを見て、口元が緩んだ。


〔私はそのうち、形を合わせて、絵を描いて貼ろうかと〕

「え! 七羽ちゃんのイラスト? 俺も、その写真欲しい。くれる?」


 七羽ちゃんの可愛いイラストで、ヘドロが隠された思い出の写真になる! 欲しい!


〔えっと……いいですけど、いつ描くか、わかりませんよ?〕


 ポリポリ、と頬を指で掻く七羽ちゃんは、微苦笑な困り顔。


「絵は、いつ描くの?」

〔ん〜。気が向いた時ですよ。寝る前とか、映画を観ながら、休みの日にとか。夢中で描いてしまって、映画をちゃんと観なかったりも〕


 へらり、と笑う七羽ちゃん。


 そんな日もあるんだ……。映画や海外ドラマが好きだとは、聞いていたけれど…………まだまだ七羽ちゃんを知らないな……。

 家でゆっくりしている七羽ちゃん、か……。


「今日は俺の家で、そのイラスト描かない?」

〔……へっ?〕


 目をまん丸に見開いた七羽ちゃんを見て、ハッと我に返る。


 いきなり一人暮らしの男の家に誘われるなんて……びっくりするよな、普通。


「あの、ほら、えっと……七羽ちゃん、まだ疲れが残ってるから、出掛けるよりは、家にいた方がいいかなって」

〔あー、ええっと……〕

「昨日はストレスも多かったし、今日はまったりしてほしいなぁって。でも、俺も会いたいから、さ」

〔……まったり、ですか……〕

「うん。その……一番は、七羽ちゃんが安心してまったり、出来るかどうかだけども……」


 必死だ。

 言い出してしまったら、止まらない。

 ここに七羽ちゃんが来てくれるなら、大歓迎だ。

 いや、来てほしい。安心してゆっくりと寛いでくれると嬉しい、けど……。


 まだ恋人ではない俺の家に来るなんて……。


「あー……えっと、その、まぁ……七羽ちゃんさえ、よければ」


 しどろもどろ気味に、画面の向こうの七羽ちゃんに笑いかける。

 言葉に迷っている様子の七羽ちゃん。沈黙に落ち着けなくて、なんとか言葉を繋ぐ。


「あっ、カフェでもいいっか。あと、漫画喫茶店、とか? 一度、真樹に誘われて行ったことがあるんだけど。そうだった、七羽ちゃんがどこでも絵を描けるかどうか、知らなかったや。どうなのかな?」


 焦りまくりだな、と自覚しつつも、七羽ちゃんに引かれていないことを願いつつ、今日の予定を立てるためのヒントを求めた。


〔私は……テーブルや椅子があれば……タブレットで描けます〕


 くしゃくしゃとタオルで髪を拭く七羽ちゃんは、視線を落としている。


 そう言えば、どうして、ドライヤーで乾かさないのだろうか。

 なんて愚問が過った。


 いや、俺が電話しているから、七羽ちゃんはドライヤーを使わずに、タオルドライをしているんじゃないか……。


 俺との電話を優先してくれている七羽ちゃんに、淡い希望を抱きながら。



「七羽ちゃんは、どこで寛ぎたい?」



 そう尋ねる。


 俺の部屋を選択するなんて、希望は薄い。

 来たことないし。男の一人暮らしの家だし。その男は言い寄っているし。

 寛げる自信なんてないでしょ。


〔えーっと……〕

「もちろん、俺は手を出さないよ」


 なんて、気まずげに考え込む七羽ちゃんに向かって、余計な一言を言ってしまった。

 全然、信用出来ないであろう言葉を、わざわざと……。


〔へっ? あ、はい……わかってます〕

「……」


 意外そうに驚かれたかと思えば、頷かれる。


 ……わかってるの……?


「……七羽ちゃん、そこまで俺のこと、信用してくれるの?」


 そりゃ、無理強いなんてする気は、毛頭ない。

 でも、なんだろうか。このモヤモヤ。

 男だから、もっと警戒した方がいい。そう注意しておくべきだろうか。

 でもそうしたら、誘っている俺は、その見本じゃないか。



〔……数斗さんは、()()()……()()()()()()()……〕



 俺を信用してくれる理由。


 優しいから。

 七羽ちゃんには、優しいから。



 グッと嬉しさを噛み締めたくなるけれど、いやだから、優しいからってのこのこと家に行っちゃダメだよ、って言うべきだろうか。

 いや、でも、七羽ちゃんは他人の悪意に敏感だから、間違いなんて起こさないだろうし……。


〔数斗さんがいいなら……お部屋にお邪魔していいですか?〕

「……うん。もちろんだよ」


 注意すべきだという理性が、呆気なく歓喜に潰された。


 七羽ちゃんがっ! 家に来るっ! 来てくれるっ!


〔それでは……お昼すぎ?〕

「あぁー、どっかで食べる? あ、いや、俺の家で食べない?」


 まだお昼前だけど、一刻も早く七羽ちゃんに会いたいから、ついつい欲張って、家でも一緒に食べないかと提案した。


「カニクリーム、好きって言ってたよね? パスタの材料があるから、どうかな? カニクリームパスタ」

〔数斗さんが作ってくれるのですか?〕

「うん」

〔……女子力〕

「ちょっ、七羽ちゃんってば! 一人暮らしの普通の自炊レベルだよ?」

〔あ、そうでしたね……。いただきたいです〕


 食いつてくれた七羽ちゃんは、目を見開いて輝かせてくれる。

 よっしゃ、と画面の外でガッツポーズをした。

 女子力、だなんて悔し気に呟くから、噴き出して笑ってしまう。


 七羽ちゃんが、俺の手料理を食べてくれる……!

 ホント、大したものじゃないけど!

 今後、七羽ちゃんの好きな料理、覚えてレベル上げていこ。


「じゃあ……七羽ちゃんの家まで、迎えに行ってもいいかな?」


 昨日カーナビにちゃんと登録したし。なんなら、覚えた。


〔車だと、どのくらいになります?〕

「そうだなぁ……一時間ちょいになるね」


 新一の家からの距離を考えると、それくらいの時間がかかってしまう。


〔それだと……電車の方が早いのでは? 私が最寄り駅まで行って、そこで合流がいいかと〕

「うーん、そうだろうけれど……俺が迎えに行きたい。七羽ちゃんも、あまり負担にならないようにしようよ」

〔……それは……とても、ありがたいです〕


 タブレットの方で検索した七羽ちゃん情報で、車より電車の方が短時間で会えるそうだが、電車に乗せるより、車に乗ってもらった方が負担は軽いはずだ。本心で、俺が迎えに行きたい。

 七羽ちゃんも、ちょっとつらいみたいで、結構あっさりと頷いてくれた。


「よかった。じゃあ……どうかな? 今から、一時間十五分後で」

〔それなら準備が出来ますね。でも、そうだと、数斗さんは?〕

「俺はすぐに出かけられるよ」


 すぐにでも着替えて家を飛び出せる。と思ったが……軽く掃除しないと。

 別に散らかってはいないけれど、軽く掃除機をかけたい。


〔あの、数斗さん。家具ってどんなものがあります? 今、ソファーですよね?〕

「あ、うん。俺のリビングは……今、見せるよ」


 念のために肉眼で汚れていないかどうかを確認したあとに、後ろのカメラを切り替えて、リビングを移した。

 短い脚のテーブル。ソファー。テレビ。


〔わぁ、カウンターキッチンですか?〕

「うん、そうだよ。どして?」

〔とっても綺麗ですね。私のアパートとは大違い〕

「見せてくれないの?」

〔んー、だめです。ごちゃごちゃと散らかっているので。あの、クッションを持ってっていいですか?〕

「クッション?」

〔はい。タブレットと足の間に入れて描いたりするんです〕


 キッパリと、七羽ちゃんの妹と共有している部屋を見せることを拒んだ。……残念。


 ひょいっと、七羽ちゃんは顔の前にクッションを出した。

 シンプルなショッキングピンク色のクッション。


 それを聞いて、俺は昨日ぬいぐるみを買ってあげようと思ったことを思い出す。車に乗る時に抱き締める癖のある七羽ちゃんのために、抱き心地のいいぬいぐるみを買っておこうと。


「抱き心地いいの?」

〔いえ、普通です〕

「普通なんだ」


 きっぱりと言い退ける七羽ちゃん。


〔前に買ったソファーベッドについていたクッションです。使い古しているだけあって、しっくりはしますよ〕

「ふふ、そっか。いいよ。このソファーで描けそう? それともカウンター?」

〔テレビで、映画を観るんですよね?〕

「……うん。じゃあ、一緒にソファーで」


 コクコク、と頷く七羽ちゃんは、俺とこのソファーに並んで座ってくれるらしい。

 口元が緩む。……抱き心地のいいクッションかぬいぐるみは、絶対買う。……連れて来るついでに、買っておこうか。


「飲み物を買ったり、お菓子を買ったり……それくらいでいいかな?」

〔そうですね……はい。じゃあ、準備します〕

「うん。じゃあ、迎えに行くね」

〔お願いします〕

「あとでね、七羽ちゃん」


 名残惜しいままに、電話を切った。

 もう一度、ガッツポーズしたが、早く着替えて、手早く掃除をしないと。


 七羽ちゃんが来てくれる部屋を見回して、ドキドキと胸を高鳴らせた。



 【七羽ちゃんを家に呼んじゃった】


 初めて想い人を家に招く初めての恋煩いで本命童貞状態からのメッセージに、親友は。


 【手を出したら、絶交な。警察突き出すから】


 そう送ってきたから、苦笑を零す。

 次には。


 【頑張れよ】


 と、励ましのメッセージを送ってくれた。



 

2023/02/26

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