11 いい子は守らないと。(新一視点)
本日二話目更新。
新一視点。
短め。
うっかりと、数斗が想いを寄せている女子の頭を撫でてしまった。
妹枠として可愛がると宣言したものの、こうしてワケありな雰囲気で二人きりで話している時に、これはマズい。
本気で、古川を想っている数斗が、誤解で嫉妬したら面倒だ。
てか、ずっと視線が突き刺さってる気がするんだが。
どうして、古川まで数斗が怖いとか言ったのかは、わからないけど、マジでウケた。
いやだって。百人中百人の女子は、数斗を優しいって言うだろうから。
数斗、何かやらかしたのか?
心当たりがあるとすれば……あ、坂田の件か?
見てて怒ってる姿が、わりと怖いとか思われたとか?
お気の毒に、ぷくくっ。
「数斗、古川が……ちょっと」
笑みを引っ込めたおれは、真剣な雰囲気に変えて、通りの向こうの自動販売機の前に、ポツリと立つ古川を指差す。
「お前と話したいって」
「……わかった」
告白だとかという話ではないと、ぬか喜びさせないように、深刻な話だと雰囲気で伝えれば、不安げな表情の数斗はすぐに古川の元へ向かった。
「え。どしたの? 七羽ちゃん。てか、頭撫でたよな!? 何してんの!?」
「いや……可愛くて、つい」
「可愛くて、つい!? おれは我慢したのに! おれも撫でる!」
「数斗に殺されるぞ」
「なんでおれだけダメなの!? おれだって、妹ちゃんな七羽ちゃんを愛でたいんだけど!?」
騒がしい真樹の隣に、腰を落として飲み物を飲む。
「田中くんが、女の子を可愛いって言うの、初めて聞いた! でもわかるなぁ~。七羽ちゃんは愛でたいよねぇ!」
声を弾ませている沢田を、横目で見る。
悪意、か……。
そんなの、感じないんだけどなぁ。
気のいい女友だち枠で、沢田の悪い話なんて一切聞いたことがない。
おれは、苦手だけど……ホント、なんとなく。
別に、女子全般が苦手というか嫌だから、疑問には思ったことなかったな。
女の勘って、ヤツなのか。
自分に向けられる悪意は、わかるもんだよなぁ……。
一度、向き合って話をしている数斗と古川に、目を向ける。
真剣に聞いている様子の数斗。
どっちを信じるかな……。
沢田とは、二、三年の付き合い。
今日まで毎日電話とは言え、古川とは会うのは、これで三回目。
気のせいじゃないか、とか、そう言って宥めるかな?
古川が嘘を言っているとは、流石にアイツも思わないだろうけど……。
おれだって、そうだし……。
沢田を、また横目で盗み見れば。
タ、タ、タッ。
膝の上に置かれた手の人差し指が、イライラした様子で上下に動いていた。
は? 何コイツ。
めっちゃイラついてるじゃん。
そう気付いてしまったら、あとは一転した。
真樹と一緒に古川を褒める話をしても、薄っぺらい笑みにしか見えない。
古川だって釣り合わないような話をされたと、言っていたから。
「お似合いかも~」とか笑う声が、胡散臭く聞こえてならない。
だいたい、お前、さっき。兄妹みたいだとか、水差すこと言ってたじゃん。
真樹から数斗のゾッコンぶりを聞いていたはずなのに。
うっわー。
そうなると……コイツ、かなり外面の厚い腹黒ってこと?
ハッ! これだから、女は怖いんだよなぁ……チッ。
反吐が出るぜ。
こっちは何年も交流があったのに、気付かなかった……。
会った瞬間にわかった古川は、すげーなぁ。
複雑な家庭とか言ってたし……多分、再婚問題とか、か?
弟達と歳が離れてるって話に、サッと話題を変えてたしな……。
なんか経験して、人の顔色、かなり気にしてきたんだろう。
あんな純真無垢で天真爛漫に見えても……傷だらけかもな。
友だちの悪口を聞いて落ち込んでも、前向きになろうとしてた。
頑張ってんのに……いい子すぎて、損していく。
せっかく今日を楽しみにして来たっていうのに、朝からやせ我慢させられて、可哀想に。
心からはしゃいで笑ってても、沢田の悪意の気配のせいで、台無しにされてたんだろうな……。
……。
……数斗は、信じてやれるだろうか。
沢田はそんな奴じゃないって、そうアイツのことを庇ったら、きっと古川は信じてもらえなかったって傷付くはず。
紹介してくれた女友だちを悪く言うなんて、古川も相当勇気を振り絞ってくれたはずなんだから。
それなら、おれが守らないとな……――――。
古川の小さな頭を撫でた手を見てしまう。
それをギュッと握り締めて、かぶりを振る。
数斗なら、大丈夫だろう。
初めて。
本気で好きになった相手だ。
自分から手を伸ばしてんだから。
きっと、な。
お兄ちゃんな新一を、完全に味方につけた!
七羽視点、戻ります。