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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
シトラを取り返すために身なりを整える

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金貨五〇〇〇枚?

「ありがとう、とても助かるわ。ただでさえ少ない薬草なの。もってきてもらえるだけで、すごくありがたい」


 ミリアさんは板の上に小袋を置いて僕の前に出した。


 僕は小袋を手に取り、中身を確認する。

 金貨が九枚入っており、昨日の依頼は達成された。小袋を懐にしまい、武器をミリアさんに返した。

 そのまま潔くアイクさんの家に帰る。全速力でお店まで走り、到着した。


「た、ただ今帰りました。遅れてしまってもうしわけありません」


 僕はお店に入ってすぐ頭を下げる。


「キースか。そう思うのならさっさと仕事の準備をしろ。仕事の遅れは仕事でとり返せ」


 アイクさんは怒りの声をあげず、淡々とした口調で僕に言った。


「は、はい!」


「そのベタベタな体液はさっさと洗い流して来い。そのテカリ具合からしてスライムの体液だろ。あの体液は油分が多いからな、普通の水だけじゃ落ちにくい。だが、石鹸を使えば落ちるはずだ」


「わかりました。すぐ、戻ってきます」


 僕は脱衣所まで走っていき、汚れた服を洗濯籠に入れた後、お風呂場に入る。

 お湯は沸いていないが水で体を洗い流せるので、全身を石鹸で洗い、緑がかった黒卵さんも綺麗に洗う。

 髪の毛は元の白髪に戻るのか不安だったが、体と髪を洗い終えてお風呂を出た後、脱衣所で鏡を見たら白髪に戻っていた。


「よかった。これで僕だと気づいてもらえる。まさか人の印象が髪色であれだけ左右されると思ってもみなかったな。よく考えれば白髪だったら僕みたいなものだし、マゼンタとイエローの多い中、白髪だったら顔より髪色を覚えちゃうか」


 僕は白髪を弄り、何とも言えない気持ちになる。


「若いのに白髪なのは珍しいもんな。だからこそ、僕が髪色を変えたらほとんどの人がわからなくなるんだ。なんか擬態していた気分で楽しかったかも」


 僕はお店の服に着替えて昼食時に接客した。

 午後は仕事をいつも通りこなす。

 午前の仕事は遅れてしまったので、午後の仕事で巻き返すしかない。


 僕は五日間ほど寝ていないのだが、眠気が全く無く、常に働き続けていた。

 実際、恐ろしいと思っていたが、体が動くので仕事を休まずやり続けられると割り切り、寝ていない状態は仕事をして忘れた。


 その日はあっという間に時間が過ぎ、午後一〇時。

 ほとんどのお客さんが帰り、僕はお店の中を掃除していた。


「今日はまだ九時間しか働いていない。本当は午前に三時間とギルドの依頼を受けられたのに。完璧には程遠いな……」


 僕は少しだけ落ち込んでいた。

 アイクさんに仕事を褒めてもらい、初めて受けた冒険者の依頼も褒められた。

 そのせいで鼻が伸び切っていたのかもしれない。

 今回も、やれば出来ると思っていた自分から、ちょっと失敗する自分に降格した。

 元から自信などなかったが失敗すると深く考えて落ち込んでしまう。

 見方によれば失敗じゃないかもしれないが、完璧にこなせるようになると考えていた自分が恥ずかしくなった。


「キース、お前に落ち込んでいる時間はないだろ。冒険者になれば計算通りに行かないのはよくある話だ。前も言っただろ。その時その場に応じて適切な手段をとることが大事だってな」


 アイクさんは掃除している僕に優しい口調で言った。


「アイクさん……。そうですよね。今、僕は落ち込んでいる場合じゃないんでした。大切な相手を助ける為にお金を稼ぐ。それが僕の目標。一度の失敗でくじけていたら、何度も無駄な時間を過ごすところでした」


「そうだ。時間は有限。落ち込んでいたらそれだけで時間がどんどん過ぎていく。失敗を悔やむなとは言わない。一度悔やんだらそれ以上時間を使うな。失敗を糧にして前に進め。そうすれば、いつの間にか目的地に着いている」


「今回の原因は緊急時に問題にばかり目が行ってしまっていた僕の視野の狭さが引き起こした失敗。もう少し落ち着いて対処していれば、皆さんに心配をかけずに済んだはずです。以後気を付けます」


 僕は自分の失態を分析してからアイクさんに頭を下げる。


「よし。これで、キースは前に進んだ。もう、後ろを振り返って悩む時間はないぞ」


「はい!」


 僕は仕事を終え、温かいお風呂にはいって体を温める。

 体から疲れが抜けていくような感覚に陥り、気絶しそうなほど心地よかった。

 黒卵さんを抱きしめながら長風呂してしまい、熱った状態でお風呂場を出る。

 服を着替えて調理場に向うとミリアさんが大きな袋を持ってアイクさんと話していた。


「あ、キース君! あのスライムの体液。いろんな効果があって凄く使いやすいことがわかったの。副作用もなさそうだし、ポーションと使い分けられるといった話が出てきて、どういった状況だったのかを事細かく聞きたいんだけど、いいかな?」


 ミリアさんが僕の肩に手を置いて、眼を血眼にして聞いてくる。


「昼頃話したあれで全部ですよ」


「そうなんだけど……。もう少し情報が欲しいの。何かまだ話していないことはない?」


「え……。そんないきなり言われても、思い出せません」


「そう……。残念ね。ギルドで商品化するしかなさそう」


 ミリアさんは暗くなり、全身が重くなったようで肩を下ろし、背中を丸めていた。


「えっと、普通のポーションと何が違うんですか?」


「ポーションは飲めば全身を回復できる。スライムの体液は飲めない代わりに、部分に直接塗って回復できるの。ポーションも液体を部分に掛ければ、回復するけどスライムの体液よりは効果が薄かったみたい」


「そんな違いがあったんですね」


「あと、液体のポーションは損傷が大きな傷に使えば効果を発揮しやすい。スライムの体液は小さな切り傷や刺し傷に少量でも効果を示したの」


「あ、他にも違いがあるんですね」


「毎度の傷で回復のポーションを飲んでいたらお金がいくらあっても足りない。でも、キース君の持ってきた軟膏性の回復薬なら少しずつ使えて費用を抑えられる。用途の違いで使い分けられるみたいなの。冒険者の死亡要因を少なくできるって見解よ」


「へぇ……。そんな利点があったんですね。それで、その袋は何ですか?」


 僕は食台に置いてある袋を指さした。


「ああ、これは……、キース君が持ってきたスライムの粘液をお金に換えた時の総額の一部よ」


 ミリアさんは袋を手に取り、僕に押し付けてきた。


「僕、お金が貰えるんですか?」


「もちろんよ。ポーションの瓶一本で金貨五枚。一〇〇〇本あったから全部で五〇〇〇枚の金貨が支払われる予定になっている。今回はキース君の欲しがっている紳士服が買える値段の金貨二〇〇枚を持ってきたの」


「金貨五〇〇〇枚……。あの、絶対にいりません」


 僕は全く想像できない金額に怖気づき、断った。

 というのも、僕はお金目当てで体液を集めたわけではない。

 回復草がもったいないと思って集めていただけなのだ。

 実際、回復草五本で金貨一枚と同じ価値がある。だが、昨日失われた回復草の本数は計り知れない。

 冒険者が採取してもいい回復草の本数は一日五本までだ。

 はっきり言って僕の行動は違反とほぼ同義。

 そんなことしてお金を貰う訳にはいかなかった。


「ちょっ! 何で。実際のポーションは一本金貨一〇枚程する高価な薬品なの。それと同じくらい貴重な品なんだから、貰っておかないと損よ」


「いえ、そう言うわけじゃなくて……、僕は特に何もしてません。緑色になったスライムの体液を持ち帰っただけです。行動と対価が一致していないので貰えません。というか、回復草は一日一人五本しか取ってはいけない規約ですよね」


「そ、そうだけど……」


「な、だから言っただろ。キースにそんな大金を渡す必要はない。実際、ただでさえ金欠なルフスギルドに金貨五〇〇〇枚も準備出来るのか? それが疑問だ」


 アイクさんは、金貨を食台に置き、僕の肩を揺すっているミリアさんを止める。


「そ、それは……、分割払いって契約しようとおもって……」


「相当金欠なんだな。どうせ、フレイによる損害賠償やら修繕費がかさんでいる感じか。ほんと、馬鹿らしい。領の名誉のために勇者を野放しにして、領民を守る壁の一つである冒険者ギルドが落ちぶれていく。金がなかったら補助具(アイテム)も買えない、冒険者に満足のいく援助も出来ないだろ」


 アイクさんはミリアさんにきつい口調で言葉を投げかけた。

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