緑髪になったせいで気づいてもらえない
「皆さん。僕に気づいてませんでしたよね。今、取ってつけたように誤魔化してますけど、僕、こんなに近くにいたのに気づいてもらえなかったんですね。そうか……皆さんにとって僕は白髪しか印象がないんですね……」
僕は、かくれんぼで見つけられなかった子供のようにしょげる。
「そ、そうじゃないよ。だって、ほら、その、ねぇ……」
トーチさんは何かを言おうとしていたが、言葉が詰まって出てこない。
「そ、それより、キース君! 何で昨日は帰らなかったの! ミリアさんが凄い心配していたよ!」
トーチさんは言い訳するのを止めて逆切れしてきた。
なぜ帰らなかったのかを聞かれ、僕の方も返答に困る。だが、言わないと心配させてしまったのは事実なのだ。
加えて、僕のことを真剣に探そうとしてくれたのも結構嬉しかった。
「仕事に夢中になってたらいつの間にか夜になってまして……。夜の間に森を動くと遭難すると思ったんです。冒険者の手引きに夜はその場で待機しましょうと書いてあったので、その通りにしました」
「仕事に集中しすぎて夜になった。まぁ、キース君ならあり得そうだけれども。とりあえず帰らないとギルド職員の人たちみんな心配してたよ。アイクさんは心配する必要ないと一点張りだったけど、結果的に無事だったからよかったよ」
「心配かけてしまってすみません。ミリアさんにも謝らないといけませんね。僕、早く帰って報告しないといけないので『赤光のルベウス』さん達は依頼を頑張ってください」
僕は木箱を一〇箱頭上に掲げて走り出した。
「ちょっと! その箱、何! 赤の森から門まで走って帰る気なの!」
トーチさんは大声で僕に質問してきた。
「また今度話しますね!」
早く帰らないと怒られると思い、僕は全速力で帰った。
久しぶりに気絶するかと思うほど疲れた気がする。
重い物を持って運ぶのは凄い体力がいるのだと今さらになってやっとわかった。
僕はルフス領の門に到着し、ギルドカード(仮)を見せてすぐに通過する。そのままルフスギルドに向って走り、目的地に着いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。まさか、ここまで来るのに二時間かかるとは。喉乾いた、お腹も減った」
午前一〇時三〇分ごろ。ルフスギルドに到着。
「す、すみません……。遅れました……」
僕は受付にいるミリアさんに話しかけた。
「え、誰ですか?」
「ミリアさんまで……。僕ですよ。キースです」
「え、キース君! 嘘、髪の毛が緑になっている! 何で!」
僕の白髪が緑髪になったのが相当僕の印象を変えているようで、ミリアさんにも気づかれず、結構悲しかった。
もし、シトラに緑髪で合って『誰ですか?』と言われたら立ち直れないかもしれない。
ミリアさんは僕の緑髪を触って気づいた。
「このねとねと感、スライムの体液……?」
「ミリアさん、その通りです。白髪がスライムの体液に染まってしまったんですよ」
「なるほど……。でも、スライムの体液は透明のはずだけど何で緑色に染まっているの?」
「事の経緯を話します。この話をすれば僕がどうして遅れてしまったのか分かると思うので、ちゃんと聞いてください」
「わ、わかった」
僕は昨日の大雨でスライムが大量発生し、回復草の群生地に生えていた回復草を食い散らかしていたという話をミリアさんに事細かに説明した。
「回復草が食い散らかされていたなんて……。ただでさえ量が少ないのに、これ以上減らされたら、大きな痛手になる……」
ミリアさんは顎に手を置いて深刻そうな顔をしていた。
「ですよね。僕もそう思ったので即座に駆除したんですけど……」
「半数以上、回復草がスライムに食われていたと」
「はい」
「回復草を食べたスライムの体が緑色で、倒したスライムの体液が回復薬のような効果を持っていた。ここまでは合っているわよね?」
「はい。あっています」
「緑色の体液を集めていたらいつの間にか夜になっていて、気づいたら帰れなくなっていたと……」
「その通りです」
「キース君……、あなたが集中しすぎるのは何となくわかるけど、もっと周りを見ないとだめよ。もし、魔物に襲われてたらどうする気だったの? ただでさえパーティーメンバーがいないのに素材採取に夢中になるのは、危険すぎるよ」
「すみません。十分に反省しております」
僕は自分でも危険だとわかっていたので、ミリアさんに頭を下る。
「キース君を知っている冒険者パーティーに当たって、探してもらうようお願いするくらい心配したんだから。本当に無事でよかった……」
ミリアさんは少々泣きそうな表情になっている。
「僕の顔を間近で見てもわからなかったのに……」
「そ、それとこれとは話が違う。あと、キース君の雰囲気がちょっと変わっているのよ。だから、わからなかったの!」
ミリアさんはあたふたとしたあと、きっぱりと言った。
「まぁ、それなら仕方ありませんね」
僕は自分の方も悪いので、これ以上ミリアさんをからかうのをやめた。
「それで、どれくらいのスライムがいたの? 倒した個体数が分かるようになっている魔道具を持っていったでしょ。見せてくれる」
「僕、途中から剣で倒していたので実際の個体数よりも格段に少ないですよ」
「そうなの? じゃあ、とりあえず、キース君の依頼が達成されているか見るわね」
「わかりました」
僕は腰に着けてあったナイフを外し、ミリアさんに渡す。
ミリアさんはナイフを受け取ると、柄部分に魔力を流した。
ナイフの刃の部分にうっすらと数字が浮かび上がってくる。
「八八八匹……。え? 壊れてる?」
「あ、僕はそのナイフでそんなに倒してたんですね。後半は剣をずっと使っていたのでそれ以上の個体数が大量に発生していました」
「何その状況、異常事態じゃない。こんな数が赤の森にいたなんて。報告する必要があるわね」
ミリアさんは紙を取り出し、何かをつらつらと書き始めた。
「ミリアさん、ポーション用の瓶の中に入っている体液を見てもらいたいんですけど、いいですか?」
「そうね、どれほどの効果があるのか見せてくれる」
僕は木箱の蓋を開けて、瓶を取り出し、受付台に置く。
「キース君の髪色と同じね。淡い緑色。キース君、どこか怪我している部分はないの?」
「ナイフで指先を切ります。それが治れば治癒効果があると証明できますよね」
「そうね。でも、わざわざ自分の指を傷付ける必要は……」
「え?」
僕はミリアさんの言葉が聞こえておらず、指の先を既に切っていた。
指の先端から血が流れる。
すかさず瓶を開けて体液を指先に着けた。
すると、みるみるうちに傷が治っていく。
「どうですか?」
「本当に治っているわね……。これならポーションとしてギリギリ売り出せるかもしれないわ。きちんと検査して色々と準備が大変かもしれないけど、回復草が失われた多少の埋め合わせは出来たかもしれない。ありがとうキース君。助かったわ」
「いえ、僕がもっと早く駆除できていれば被害はそこまで広がらなかったと思います」
「キース君がいたから、回復草が全て食べられずに済んだのよ。だから、凄いお手柄だったと思う。キース君はもっと誇ってもいいのよ」
「いや……、僕はそんな誇れるほどの人間じゃありません。回復草の群生地に行ったらスライムが大量発生していただけですよ。あ、そうだ。これ、昨日の依頼です。薬草を四種採取してきました」
僕は四種類の薬草をミリアさんに渡す。




