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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
シトラを取り返すために身なりを整える

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夢中になり過ぎて夜になった

「スライムの体液が水を弾いてそこまで濃度がそこまで薄れていない。あまり焦る必要はなさそうだ」


 僕は少し安心し、瓶が割れないように木箱をゆっくりと引き上げて行った。

 木箱を全て引き上げた後、縄を解き、木箱の蓋を開けて僕は中身を見る。

 すると瓶がびっしりと詰まっていた。ガラス瓶を一本取り出し、ガラスの蓋を取る。


「この中にスライムの粘液を入れれば、飲み薬には出来ないけど塗り薬にできる。体液がさらっとしているから、ポーション用の瓶に入っていても使いやすそうだ」


 僕は緑色の体液を瓶の中に入れていく。


 地面に着いた粘液は汚いので上澄みの方だけを救っていった。

 それでも十分すぎるほどの体液が残っており、一〇〇〇本の瓶がすぐにいっぱいになってしまいそうだった。


 僕は夢中になってスライムの体液を集めていると、いつの間にか周りが暗くなっているのに気がつく。


「あれ……。今、何時くらいだろう。こんな真っ暗になるまでやるつもりじゃなかったのに……」


 瓶をスライムの体液でいっぱいにしたころには森が真っ暗になっていた。

 僕はこのままだと危険だと思い、火を起こそうにも雨が降っているため不可能だった。


「ここから赤の森入口までざっと四〇キロメートル。走り切れない距離じゃないけど、暗いせいで足下が見えないんだよな。明かりもなしに走るのは危険すぎる。夜目が効くわけでもないし、移動するのは危険か……。うん、こんな時こそ手引きだ」


 僕はウェストポーチから手引きを取り出し、月明かりに照らして見た。


「なになに……」


『森の中で日が沈み、辺りが暗くなったら潔く野宿しましょう。無駄に動くと遭難する恐れがあります。どんなに動き慣れている森でも油断は禁物です。暗い森と明るい森は別物だと考えましょう。魔物の被害は暗い森でよく発生します。焚火を絶やさず、パーティーメンバーで交代しながら見張り、朝になるのを待ちましょう』


「って……。僕、パーティーメンバーいないし。雨降っているから焚火出来ない。見張りなら眠たくない今の僕にうってつけか。ここは高い位置にある。無理に登ろうとする魔物はいないはずだ。空にいる魔物にさえ気を付ければ大丈夫。恐れず騒がず、臨機応変に対応するんだ」


 僕は剣を構えながら夜中、警戒し続けた。


「あぁ、帰ったらアイクさんになんて説明しよう。瓶に体液を入れてたら時間が経つのを忘れていたって言えばいいのかな……。皆、心配しているかな。しているよな。凄い怒られるかも」


 その夜、僕はずっと剣を振り続け、運動し続けた。そうしないと暇だったのだ。

 瞑想しようにも外で瞑想するのはあまりにも危険なので黒卵さんを背負いながらずっと剣を振り続けていた。


 僕は数日前に見たリークさんの動きを再現する。

 脚運びやアイクさんの斧を使っていた時の基礎の動きを思い出しながら真似する。

 基本に忠実に行うため、自分の動きに癖を着けたくなかったのだ。

 出来る限り地盤を固めておきたかったので、基礎の基礎をガチガチに固める。


 暇な時間を剣の鍛錬の時間に当てて一晩を過ごした。

 その間に魔物は襲ってこず、夜の間に雨はやみ、雲が晴れていく。

 日の出を特等席で見た。言葉に出来ない景色だった……。


「はぁ~、やっと帰れる。九月の日の出は午前六時くらいかな。思いっきり走れば午前八時にはアイクさんのお店に帰れそうだ。よし、急ごう。遅れれば遅れるだけ怒られる可能性が高くなる」


 僕は木箱を縄で縛り、崖におろしていった。

 引き上げた時よりも格段に重くなっている。

 僕の方が引っ張られそうになるが、ギリギリ踏みとどまりながらゆっくりとおろしていく。

 縄が切れそうになりながらも、無事真下におろせたので僕は矢の階段を抜きながら下りていく。


「よし、木箱を担いで帰るぞ」


 僕はスライムの体液を詰めた瓶いっぱいの木箱を一〇箱持ち上げて走る。


 九月二七日、回復草の群生地を出発。

 二時間ほどたった後……。赤の森入口到着。


「はぁ、はぁ、はぁ。お、重い……。でも、何とか入口にまで到着したぞ。あとは普通の道を走るだけだ」


 僕は森のでこぼこ道を何とか走りきり、だいぶ長い時間を掛けて到着した。

 以前の目標だった午前八時は既に超えてしまっており、自分の未熟さを痛感する。


 ――何で僕、こんなに重たい物を持って早く走れると思っていたんだろう。あの時の僕はどうかしてた。綺麗な日の出を見て、気を良くしていたんだろうな。


 僕は赤の森からルフス領の門に向おうとしていた。

 だが、周りの様子がどうもおかしい。


「すみません。白髪の青年を見ませんでしたか!」

「赤の森の中で白髪の青年を見た人は教えてもらえませんか!」

「黒い服を着ているっす! 白髪の青年を見たら教えてほしいっす!」

「白髪の青年の生死が分かる方いませんか!」


 赤の森入口付近で見覚えのある四人が大声で叫んでいた。


 ――『赤光のルベウス』さん達、何であんな必死に人を探しているんだ。白髪。あ、僕か。でも、一日帰るのが遅れてしまっただけなんだけど。

 どうしよう。出て行かないと。僕はここにいるのに、何で誰も僕に気が付かないんだ?


 僕は『赤光のルベウス』さん達でも目に入る位置にいる。


 それにも拘わらず彼女らは一向に気づく気配がない。


 ――もしかして、僕の顔、忘れられた。そんなに特徴のない顏なのかな。四人の誰も僕に気づいてくれないなんて……。ちょっと悲しいかも。


「あ、あの。緑髪の方。今、赤の森から出てきましたよね。えっと、帰ってくる途中で白髪の青年を見ませんでしたか?」


「え? 緑髪……」


 僕はこっちに走ってきたトーチさんに話しかけられた。


 一言目が緑髪と言われ、僕は困惑する。


 僕は持っている木箱を地面におろし、顔が反射する銀色の剣身で僕の髪を見てみた。


「うわ、緑になっている。いつの間に染まったんだろう。そうか、昨日スライムの体液塗れになって雨で流れると思ってたけど、水をよく弾いていたから髪についた体液が落ちなかったのか」


「あ、あの、それで白髪の男性を見かけませんでしたか?」


「えっと……、僕なんですけど、分かりませんか?」


「え……」


 トーチさんは目を細め、僕の眼を覗き見てきた。


「ああああ! この瞳はキース君だ!」


「「「え!」」」


 他の人に声をかけていた三人が僕の方に寄ってくる。


「髪の毛が緑色で分からなかったけど、よく見たら背丈がキース君ですね」

「ほんとっす。よく見たら綺麗な筋肉を付けたキース君っす!」

「よ、よく見たらキース君の雰囲気を放っていたキース君だよ……」


 マイアさん、フランさん、ロミアさんはとても焦っていた。

 こんなに近くにいたのに気づけなかったと焦っているのかもしれない。

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