スライムだらけの群生地
正午、花園。
「雨の日の花園ってなんかしんみりするなぁ……。でも、たまにはいいかも。今日は雨だから木陰で食事をとろう」
僕は大きな木の下に座り、雨を凌ぎながら、アイクさんが作ってくれたサンドイッチを頬張る。
アイクさんの料理はいつ食べても美味しい。
腰につけているギルドから貸してもらったナイフの記録を見てみようと思ったのだが……。
「あれ、どうやって見ればいいんだ。あ、これ魔力を流さないと見られないのかも。途中から数えるのを止めたから今何匹倒しているかわからないぞ」
僕はナイフをいじくり回すも、討伐数は見られなかった。
「もう、スライムは一〇〇匹くらい倒したかな。数が分からなかったらいつ辞めたらいいかわからないぞ。まぁ、薬草を採取し終えたら、また五〇匹くらい倒せばいいか」
僕はナイフをしまい、革製の水筒をウェストポーチから取り出して水を飲む。
「はぁ~。水が美味しい。さてと、薬草でまだ採取していない回復草を取って赤の森をでよう。その後はアイクさんのお店に戻ってゆっくり休もうかな」
僕は一瞬休もうと思ってしまった。
「いや、出来るだけ多くのスライムを討伐した方が魔物の被害を防げるんだよな。なら、出来る範囲で討伐しまくるのもいいかも」
僕は近くに現れたスライムにナイフを投げて倒す。
「スライムはあまり攻撃してこないし、殺傷能力も低い。僕が役に立てるまたとない機会だ。他の冒険者さんが忙しい中、依頼をこなしやすいようにスライムの討伐を頑張るのも悪くない」
昼食を終えた僕は立ち上がり、投げたダガーナイフを回収して花園を這っているスライム達を討伐していった。
「はっ! せいっ! やっ!」
僕は三匹同時にスライムの核を破壊した。
すると、スライムが爆発し、辺りに体液が飛び散る。
「勢いが強すぎたせいか核が破裂しちゃった。これでもちゃんと倒した回数は増えるのかな。まぁ、良いか。残りの回復草を取りに行こう」
僕はいつも通り、回復草の群生地に向った。だが、いつもと様子が違う。
「な! なんだ、これ……。スライム……何匹いるんだ」
僕がいつも回復草を取っている場所がスライムで埋め尽くされていた。
加えて、スライムが回復草を食い散らかしている。
スライムは偽草を綺麗にさけており、回復草だけを食べていた。
「やばいやばい! このまま行くと回復草が全部食い尽くされる!」
僕はナイフをすぐさま手に取り、スライム達を倒していく。
数えている暇はない。広大な群生地にあり得ないほどのスライムが大量に発生しているのだ。
一〇〇匹など優に超えている。
もしこの場所の回復草がなくなったら、回復草が取れる群生地がなくなってしまう。
そう思い、何としてでも駆除しなければならないと悟った。
「はっ! せいっ! おらっ!」
僕はスライムの核を的確に狙い、ナイフで破壊していく。
スライムは一匹ずつしか倒せないのがもどかしいくらいに発生している。
そのため、僕はどうにかして討伐の効率を上げられないか考えるも、地面に生えている回復草を散らしてしまいそうで手荒な真似は出来ない。
「くそ……。一匹ずつ倒してたら時間が掛かる。ナイフが短いから一辺に倒しきれない。もう一〇〇匹倒したよな。だったら、ナイフで倒す必要もないか」
僕はナイフをしまい、剣を引き抜く。
「はあっ!」
剣を薙ぎ払うと、スライムを三匹一辺に倒せた。
「これで効率が三倍になった。まだまだいるからさらに倒していこう」
僕はスライムを倒し続けた。
どれだけ時間が経ったか空が雲で覆いつくされているため、わからない。
だが、スライムの体液塗れになった僕は地面に座っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。何とか、全部倒せたぞ……。これで、回復草は守れたかな……」
実際回復草は半分以上スライム達に食べられてしまった。
「あぁ……。スライム達が食べ散らかしたせいで、回復草の群生地がめちゃくちゃになっている。これは痛いな。ここの回復草はもう取れないかも。成長するのに時間が掛かる、生えそろうまで待つか」
不幸中の幸いにも回復草の根までは食べられていなかった。
スライム達は回復草だけを消化していたらしい。
そのせいで、地面に根だけが残り、回復草が刈り取られた状態に近かった。
「根が残っているのならまだ生えるはずだ。と言うか、この粘液……、普通のスライムと違う。緑がかっているよな。もしかしたら……」
僕はアイクさんが貸してくれたナイフを左腕から引き抜き、指先を少しだけ切る。
「く……。僕の考えが正しいなら」
僕はスライムの体液を指に塗ってみた。
すると、傷口がみるみるうちに回復していく。
「す、すごい。回復薬になっている。でもこれだと軟膏か。これだけ大量にスライムの体液がまき散らされているんだ。回復薬だらけになっているのか」
僕はあたりを見渡す。すると緑色の体液が群生地に広がっていた。
「体液が雨で流されるのはさすがにもったいない。何とかして集めないと、回復草がタダ食べられただけになってしまう」
僕は革製の水筒の中身を飲みきって空にしてからスライムの体液を入れる。
他にも何か入れ物が欲しいと思い、赤の森の入り口に向った。
「すみません! 何か、液体を入れられる物ありませんか!」
僕は赤の森の入り口にいるギルド職員の男性に話しかける。
「え、キースさん。凄いスライム塗れになっていますけど、大丈夫ですか?」
「今はそんなのどうでもいいんです。早くしないと効果が薄まりますから、何か液体を入れる物ありませんか!」
「え、えっと……。使い終わったポーションの空き瓶が洗って大量に置いてありますけど……」
「それ貸してもらってもいいですか!」
僕は凄い剣幕で叫ぶ。
「は、はい。どうぞ……」
僕はギルド職員に案内され、空き瓶が保管された木箱が置いてある場所まで向かった。
木箱は一〇箱以上あり、一箱に空き瓶が一〇〇本入っているらしい。
つまり一〇箱で一〇〇〇本それだけあれば、足りると思い、僕は一〇箱を全て担ぎあげた。
「え、え! か、空とは言え橙色魔法を使わずに楽々持ち上げた……」
ギルド職員は口をあんぐりと開け、驚いていた。
「では、借りていきます!」
僕は落としてガラス瓶を割るといけないと思い、縄で一〇箱を縛り、ぐらつかないようにした。
前が見えなくなると危険なので、頭上に掲げながら走る。
回復草の群生地まで崖を上るところまで移動した。
一〇箱を地面に一度置く。
僕は矢の階段がこの重さだと耐えきれないと思い、自分だけ上って木箱を縄で引き上げることにした。
余っている縄を持ちながら、矢の階段を上り、回復草の群生地に到着した。




