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勇者と対話

 赤髪の勇者は全身から赤色の魔力をじわりじわりと浮かび上がらせ、歩くだけで地面を焦がしながら僕の方へと近づいてくる。


 ――どうする、どうする、どうする、どうする。このままじゃ僕が勇者と戦わないといけなくなる。赤色の勇者と無力の僕じゃ、どう考えても結果が見えてる。


「なぁ黒髪……。黒髪の伝説は知っているか」


 赤髪の勇者は顎を上げ、魔力の放出によって軽く浮いている前髪を右手で掻き上げながら僕に語り掛けてくる。


「く、黒髪の伝説。プルウィウス王国が作られた時の話か……」


「ああ、そうだ。黒髪の王が七色に輝くドラゴンを撃ちとる話。あの中に出てくる赤色の勇者は雑魚だ。

 雑魚すぎて俺は嫌いだった。だが、そいつはビビらなければ黒髪をもしのぐ力を持っていた。

 それを知った時……俺なら黒髪を殺して、王の座を奪ってやると何度も思った。なぁ、黒髪の強さを俺に見せてくれよ。もし黒髪が雑魚なら、俺がお前をぶっ殺す」


「な、何を言っているんだ……。あの話は七色の勇者がいたから勝てたんだ。決して黒髪の王だけの力じゃない。赤色の勇者だって活躍していたじゃな……」


 ――いや、ほとんど活躍していないな。昔にお母さんが絵本で読んでくれたけど、赤髪の勇者はずっと逃げ回っていただけの印象しかない。最後の最後だけ頑張っていたな。


「ほぼすべての戦いで逃げ出していた臆病者と俺を一緒にするなよ。俺は本の中にいる赤色の勇者より強い男だ。もちろんどの色にも負けはしない。黒にもな……」


「ぼ、僕は、黒髪なんかじゃ……」


 先ほど、手で頭を触った時、手が真っ黒になった。もしかすると真っ黒な煤で白い髪が赤髪の勇者から黒く見えているのかもしれないと察する。


「どう見ても黒髪だろうが。何だ、俺にビビってんのか。黒髪なんて奇跡でも起こらねえと生まれねえだろ。だが、何でそこまで成長しているのに噂になってねえんだ。普通黒髪が産まれた時点で新聞や魔報(発信者の原文を魔力で送り、先方で再現して受信者に配達する通信)で国中へ情報が回るはずだろ……」


 赤髪の勇者は燃えている地面を、熱さを感じていないのか悠々と歩き、温められた空気が上に昇っていく影響で気流が生まれた。彼の強さを表す、ほぼ真っ赤……それこそ本当の松明、焼けた鉄、流れる血のように深紅で、風も吹いていないのに髪が逆立ってい見える。

 彼の体に水をかけても燃え盛る心を止められそうにない。


「黒髪はどの魔力が一番得意なんだ。俺は言わずもがな赤色魔法だ。炎系統の魔法が大得意だぜ。俺は自分の情報を曝した、次は黒髪の番だ」


 赤髪の勇者は、僕と戦う気しかないのか眼は血走り、赤い瞳孔が燃えているように見える。

 彼を見ているとまるで陽光を直視しているように瞳の奥がいたくなってくる。あまりに鋭い眼光で、睨まれるだけで身が焼けそうだ。


 ――僕は絶対に怖気づけない。ビビったら無力だと一瞬で気づかれてしまう。そうなったら、僕は殺されて終わりだ。くそ……プラータちゃんだけでも逃がすべきだった。


「ぼ、僕の得意魔法は、こ、黒色魔法だ……。三原色の魔力全てを使い、他の七色の魔法とは違う効果を持つ」


「ほう……、いったいどんな効果があるのか教えてもらいたいところだが、それは戦いの中で見せてもらうとするか」


 フレイは握りしめていた赤色の剣を大きく横に振るい、辺りに熱波を放つ。

 燃えている雑草の火が掻き消され、地面は黒く染まっていた。


 ――僕と赤色の勇者までの距離は約一〇メートル。フレイの攻撃範囲から考えて僕は即死、すぐ隣にいるプラータちゃんまで焼け死んでしまう。

 僕だけならまだしも、何の罪もない人が死ぬのは耐えられない。それに頭に巻いてある包帯のおかげか、列車に轢かれて死んでいるはずのプラータちゃんに気づいてないみたいだ。それなら……。


「ま……待て! ここは人が多いから別の場所に移動しよう。こんな所で戦ったら、僕の魔法が周りの人を巻き込んでしまう。せめて、人気のない場所で戦おう」


「あ?」


 フレイは周りを一度大きく見渡し、身を震わして動けない者達を凝視する。舌打ちを一度すると、僕の顔を再度見た。


「こんな雑魚どもほっとけよ。叫び声の声援があった方が燃えるだろ」


「ぼ、僕の条件を飲んでくれないのなら、戦わない。お前は黒髪を倒したいんだろ。なら、僕の条件を飲め」


「…………ちっ、わかった。黒髪の条件を飲んでやる。その代り、ぬるい戦いしやがったら、ただじゃおかねえ。ここら一帯を炎の海に変えてやるよ」


「わ、わかった。期待に応えられるよう努力する」


 僕は黒卵の入った布製の袋を抱き、人気のない所へと歩いて行こうとする。


「き……キースさん」


 草原に伏せていたプラータちゃんは僕のズボンを握ってしまった。


「あ……、何だこのガキ。俺たちの戦いを邪魔する気か? あぁ、面倒だ、殺すか……」


「ちょ! ちょっと待って。すぐすむから!」


 僕はプラータちゃんの前に立ち、両手を広げて壁になる。

 赤色の勇者は剣を頭上に持ち上げて今にも振りかぶらんとしていた。


「ちっ! いい子ぶりやがって。ガキなんて何人死んでも一緒だろうが」


「わ、わかった。そうだね……。とりあえずその剣を下げてくれ」


 赤色の勇者は何度も舌打ちしながら剣を鞘に納める。舌打ちするたびにイライラを溜めているかもしれない……。


 ――よし、今のところはいい感じだ。このままプラータちゃんを説得して、僕は出来るだけ遠くに移動する。足が竦んで動けなくなるから、その後は考えないようにしよう。


「プラータちゃん。僕はあの人と戦わなければいけないみたいなんだ。できるだけ遠くに移動してほしい。他の人も連れて行けるのなら一緒に、わかったかな」


「で……でも。キースさんに魔法なんて……」


 僕はプラータちゃんの口に人差し指を置き、後の言葉を塞き止める。


「大丈夫。えっと、ここでお別れかもしれないけど楽しかったよ。妹がいたらこんな感じかなって思ってた」


 僕はズボンを掴んでいるプラータちゃんの手を握り、ゆっくりと離させる。


「ちょ……、キースさん。待って……」


「さ……、赤色の勇者さん、人気のない所に行こう。赤色の勇者さんは待つのが苦手みたいだから」


 たった数十秒しか経っていないのだが、既にフレイの体からは赤色の魔力が沸き上がっていた。


「ああ……、長すぎて刺し殺すところだった。あと、赤色の勇者なんて長いだろ、フレイでいい。お前の名前は強者なら聞いてやる。弱者に興味はねえからな」


「はは……、ふ、フレイに名乗れるよう、頑張らないと……。それじゃあ、プラータちゃんまたね……」


「き……キースさん」


 ☆☆☆☆


 僕は怪我している少女を放っておき、大量殺人勇者と共に人気のない場所まで歩いていく。

 背中からは異様な威圧感を常に感じ、いつ刺殺されてもおかしくない状況だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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毎日更新できるように頑張っていきます。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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